なぜか遊びに行くことになりました

 ラウル先生の依頼を受けた翌日。なんとなくイロハと二人で行動している。

 共通の依頼ってのはなんか一緒にいるもんだな。


「こうして二人でのんびりすんの珍しい気がする」


 クエストを受けている以上、他の依頼はできない。

 昼までの授業を終えたらやることがないのだ。

 だから学園をふらふらしているわけだが。


「リリアもシルフィも自分の科があるもの。今回は特別よ」


「大変だなあいつらも」


「好きでやっていることよ」


 適当なテーブルと椅子を見つけ、途中で買った菓子の箱を開ける。

 今日は陽が温かい。ゆっくり外でくつろぐにはいい日だ。


「ほう、さくさく……チョコ菓子っぽい味だが、むしろスナック菓子に近いな」


 ふわふわしているのに、噛むとさくさく。味もしつこくなくてよい。

 ほどよい甘みである。


「俺が食えるくらいには甘さ控えめだ」


「美味しいわ。みんなにも買って帰りましょうか」


「お、あじゅにゃんだー!」


 元気な声がする。ももっちだ。俺をあじゅにゃんと呼ぶのはあいつだけ。


「ももっちか」


「そのとーりさー! 久しぶり! フウマちゃんはちょくちょく見るね!」


「忍者科ですもの。顔も見るわ」


 忍者ってこんな騒がしくていいのだろうか。

 試験中の腕は確かだったし、案外任務では無口なのかね。


「アジュにゃんもクエスト受けたんでしょ?」


「なんのことだ?」


「箱。持ってるんでしょ?」


「なんだ、お前も食いたいのか?」


 チョコの箱を見せてやる。まだ半分以上残っているぞ。


「ノータイムでそれ出すかー。妙に隙がないねー」


「意味がわからん」


 俺のすっとぼけスキルは上がり続けているのだ。

 この程度の誘導には引っかからんよ。


「ちなみに、私の箱はこれだー!」


 普通に出しやがった。持っているやつらの管理がばがばじゃねえか。


「ふーん」


「リアクションが薄い……」


「アジュはそういう人よ」


「そういえばそうだったね」


 いかん食いすぎた。もうなくなりそう。

 飲み物もなくなりそうだし、どこかへ移動するか。


「ごめんちょっとだけ興味持ってあじゅにゃん」


「なんだよ、そもそもどうして俺の所に来た?」


「一緒のクエ受けたからさ!」


「受けたって言ってねえよ」


「そこはこう……忍者だし!」


 目的がまったくわからん。敵対することはないだろう。

 こいつは引き際とか危険を察知する能力に長けている。

 まず俺たちと敵対はしない。


「イガは今回の件ノータッチです!」


「フウマもそうよ」


「よかったな」


 いかん眠い。でもここで寝たら風邪引くな。

 家に帰るか。飯の時間まで寝てもいい。


「うえー……今日のあじゅにゃんはノリが悪いぜい」


「よかった時期とかあるのか?」


「なければ作るのさ! 今からがんばればいいんだよ」


「来年の俺ががんばるんじゃね?」


「遠いって!」


 別に邪険にしたいわけじゃない。警戒しているんだ。

 こいつが箱を狙っている側じゃないとは思う。

 けれど可能性はゼロじゃない。よってできれば話し込みたくない。

 じゃなきゃここまで失礼な態度とらんよ。


「ちゃんと警戒するのはいいことよ」


「そうなんだよねえ。真面目にお仕事してるのはわかっちゃうから、余計どうしようもないよねえ」


「俺とどうこうしたいか?」


 こいつは好奇心とかそういうもので近づいてくるが、異性としての好意はないだろう。ホノリとかやた子と同じ。付き合いやすくはある。


「うーん……ハーレム入りはやんわりお断りしておきたいです!」


「安心しろ。入れるつもりも、ハーレム作っているつもりもないから」


「そこはもう認めてしまいましょう。認めれば楽になるわよ」


「認めちゃうやつってやばいだろ」


「それ以外が尋常じゃなくやばいからいいんじゃないかな?」


 つまり問題しかないわけだ。

 問題行動は控えているつもりだぞ。


「俺はごく普通の一般人だよ。特別な才能もないし、特別な生まれ方もしていない」


「普通かなー?」


「正直そこは疑問ね。少なくとも魔法のセンスと、作戦や小細工の素質はあるわよ」


「それだってもっと凄い連中は存在するだろ」


 これは本心だ。素の俺は絶対にイロハやももっちに勝てん。

 小細工使ってもヤルダバオトには傷をつけることもできなかった。

 あの人っていうか神はガチれる存在すら少ないわけだが、まあ弱い方だよ俺は。


「お前らもめっちゃ強い血筋だろうが」


「そりゃそうだけどさ。あじゅにゃん妙に自己評価低いよねー」


「そうね。過信と満身はいけないけれど、自信を持つことは大切よ」


「つってもなあ……俺は男女の自然生殖で生まれているから……」


「おぉ! 昨日ぶりだねぇ! 今日も仲良く恋人ムードかい?」


 バスクードだ。今日はおともがいない。

 格好の派手さは相変わらず。


「ばっくん!」


「よぅももっち! 元気してるかい!」


「ばっちりさー!」


 知り合いらしい。ばっくんて。お前変なあだ名つけすぎだろ。


「なんだいなんだい知り合いかい? 世間様ってえのは狭いもんだねぇ!」


「学園は広いと思っていたが、案外本当に狭いのかもな」


「学園だから出会っているのかもしれないわよ」


「そりゃもう哲学の域だな」


 中身ゼロの話が続いております。

 日常会話とか中身いらんよね。それが苦手なんだけれども。


「ばっくんも箱クエでしょ?」


「おうよ!」


 二人して箱を見せびらかしておる。

 これは奪われないという自信の現れなのだろうか。


「まあがんばってくれ」


「ご期待通りにやってみせるよ!」


「つうわけで敵の出る場所行かねえか?」


「意味がわからないわ」


 こいつらに脈絡というものはないのか。

 フリーダム過ぎて引くわ。


「敵は箱を狙ってくる。なら暴れられる場所に行きてえだろ?」


「戦うの前提かよ」


「一網打尽だ!」


「無策で戦うのは賛成出来ないわ」


 こいつ実はめっちゃ強いとかそういうことなのか。

 ちょいと無謀じゃないかね。


「修行にもなる! おれが華麗に戦えば、それだけ皆の視線も集まる! 笑顔もだ!」


「そうか。がんばれよ」


 別に行かなくてもいいことに気がついた。

 このままのんびりしていましょう。


「友好を深めようじゃねえか。その恋の花、咲かせるのに協力するぜ」


「俺は戦闘タイプじゃない。戦いたければ別のやつを誘え」


「どうせ二人ともヒマでしょ? 恋の花咲かせちゃえばいいのさ。フラワー迷路行こう!」


「…………戦闘向きじゃないわよ?」


 どうやら迷路とやらについて知っているご様子。

 よくわからんがヒマなのは事実だ。


「お花がたくさんある場所で、迷路になっているのさ!」


「…………本当に戦闘関係なさそうだな」


「行きたきゃ戦闘向け大迷路とかあるぜ。植物系の敵も出る。おれはそっちも大歓迎だ!」


「そこは拒否。まあ安全ならいいのか……?」


「軽いお出かけと思えばいい場所よ」


 イロハさんから行きたいオーラが出ています。

 たまには遊んでやるのもいいか。


「おれらは誓ってデートの邪魔はしねえ。いい雰囲気になったら距離を取る。ももっちもいいな?」


「おうさ!」


「そういうのはやめろ。普通に遊べばいいんだよ」


「行く気になったなら、すぐに行きましょう。気が変わらないうちに」


 でもってやってきましたフラワーラビリンス。

 外観からして花の看板やらがお出迎え。建物もそうだ。

 どうやらデートにも植物好きにも迷路好きにも楽しめるスポットらしい。


「こういう場所なら、きっと箱を持っているやつがいてもばれないぜ」


「そうか。その帽子とメガネは何だ?」


 よくわからん変装をしている。

 テンガロンハットとメガネで、少しだけ服も地味。

 本当に少しだけな。


「目立たないようにさ。プライベートだからな」


「いまさらだが、敵が出てくる場所に行くってのはどうなったんだ?」


「いやがるやつを連れて行ったりはしねえ。楽しめりゃそれでいいぜ」


「そら助かるよ」


 悪いやつではないっぽいんだよなあ。

 怒ることも恨むこともできん。気にせず遊んでおくのが一番か。


「それじゃあ行きましょう」


「よーしみんなで遊ぶぞー!」


「何事もなきゃいいんだけどな……」


 実はちょっと楽しみだったりする。

 このまま平和に終われ。そうしたらなぜか腕を組んでくるイロハも不問としよう。

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