激突する王族

 どうなることかと思ったが、なかなかに順調に進んでいるラグナロク。


『次は家族で協力パン食い棒倒しです!』


「混ぜやがったな」


「出番か。いくぞシルフィ」


「さて、こちらも行くぞイロハ」


 どうやらコジロウさん・イロハ組と、ジェクトさん・シルフィ・サクラさん組らしい。


「結局出ることにしたのか」


「たまにはいいかなって」


「頑張れよ」


「行ってきます!」


 学園で暮らしていると、あんまり両親と会えないからな。

 なにか交流イベントがあれば、参加させてやるのもいいんじゃないかと思った。

 そして魔法陣に乗り、続々とリングに上がる知らない人々。


『参加者が多いから三チームに分けたぜ! 赤・白・青のチームだから腕章を間違えんなよ!』


『効果的な、組分けですね』


『ルールは簡単。相手チームの柱をぶっ壊すとパンの箱が出てくるから、中のパン食え! パンを攻撃魔法とかで傷つけんのはNGだ! 食い物をそういうことするとうっせえやつが出るぞ!』


 舞台には無数の柱が立っている。

 赤・白・青に分かれているな。

 シンプルでわかりやすい。けどなんで競技混ぜた。


『これ神・人間・魔王混ざってっから、舞台まるごとぶっ壊したりすんの禁止な。ルール守れよお前ら。きっちりルール内で決着付けやがれ』


『なるほどお』


『選手紹介してえけど、ぶっちゃけ長くなるからしょうがねえ! 各チーム三十組くらいいるもんでな! 始まったら実況するわ!!』


『試合終わったらでよくね?』


『意味ねえだろ! 試合開始い!!』


 全員一斉に動き出した。

 敵チームを攻撃するもの、柱を守るもの、積極的に柱を壊しに行くもの。

 やることに人柄が出るな。


「おぬしならどうする?」


「敵に軽く妨害入れつつ、壊せそうな柱を探すかな」


 正面戦闘はできない。厄介すぎるからな。能力もわからん連中と戦いたくない。


「ぬおおおりゃああ!!」


 ジェクトさんが大剣とメイスをぶん回して柱を壊している。


「いいとこ見せるのよシルフィ」


「やってみる!」


 シルフィとサクラさんも加勢しているが、それでも一本折るのに数分かかるみたいだ。

 かったいな柱。どんな素材使ってんだよ。


『まず大国フルムーンから、剛力武闘派国王ジェクト・フルムーンと、サクラ&シルフィが柱に迫るぞ!!』


 客席から歓声があがる。やはりこっちでも有名なんだなフルムーン。


「手加減は無用か」


「フェンリル! 一点突破よ!」


 フウマはフェンリルの力で柱を壊し、敵の柱を盾にして逃げ回る。


『友好国にして忍者の始祖フウマから、コジロウ・イロハコンビ!!』


 コタロウさんは隠しておく。いざという時の秘密兵器だ。

 シルフィとイロハは赤組らしい。

 そんな感じで紹介は続く。


『まだまだいくぞオラ! ここで出てくるのは、ヤマトのサイガ・ゲンジ・シリウス親子! なんか兄弟いたらしいぞおい!!』


「我々親子の愛を見せつけるのだ!」


「これぞラブサイクロンネオ!!」


「……勢いがあるのは認めるが……いまひとつ馴染めんな」


「ヒカル? あいつ来ていたのか」


 シリウスもいる。そして愛のノリに困惑しているっぽい。頑張れ。


『そしてサンダユウ・モモチとエリザ・モモチ! 忍者対決を見せてくれ! そのために別チームにしたんだぞオラア!!』


「私情入りまくりかこいつら」


 ヒカルとももっちは白チームだな。

 それ以外にもなんか見た顔がいるけど、あれは見なかったことにしよう。


「神ほど勝手な連中もいないということさ」


 そらもう身にしみているともさ。いやあしんどいよね。


『まだまだいくぞ青チーム! アテナ・アルテミス姉妹!!』


 自然と会話を中断し、視線をやる。

 ついに出てきたか。


「アルテミスってのは?」


「このハンサムと同郷だ。アテナとは姉妹。どうやら共犯と見ていいようだな」


 ふわふわした金色のショートがアルテミスか。

 アテナと似たデザインの服だな。ギリシャ風かね。


「どう思います?」


「競技中に殺しは狙わないでしょう。あの状況では、参加しているもの全員が敵になります。強者の実力を測りに来ているのでは?」


 アルテミスの武器は弓か。アテナは盾で殴ったり投げたりだ。

 特別に強いとは思わないが、隠し玉でもあるのか。


「アテナばかり見ておらんで、シルフィやイロハも見るのじゃよ」


「敵は拙者らが見張っているでござるよ」


「わかりました」


 応援でもしているか。

 早速忍者大戦始まっているし。


「フウマよ、ここらで腕くらべといこうか」


「胸を借りるとしよう」


 サンダユウさんは髪も長い髭も白髪の初老の人。

 なのにスピードでコジロウさんに張り合っている。


「加減はするんだよフウマちゃん。死にたくないからね!」


 ももっちの分身が大量に迫っている。


「そうね。楽しみましょう」


 だが影の兵隊により大半が消え、残ったものは陽炎のように揺れるだけ。


「がんばるのじゃー!」


「見ているぞイロハー!」


 俺たちに今できるのは応援のみである。


「幻術? 既存の忍術とは違うわね」


「これぞイガ流、虚実幻惑の術。合わせろエリザ」


「おまかせ!」


 幻術は分身だけじゃない。遁術や手裏剣も虚実合わせて飛ぶ。


「本物も偽物も取り込むだけよ」


 床を影で満たし、大きな狼の口が現れる。

 だが閉じる頃には、別の柱の上にモモチ親子がいた。


「本体と幻術を入れ替えているのね」


「サンダユウ殿は幻術や妖術のエキスパートだ」


「そう、なら柱を砕いて帰るわ」


 そのまま影の狼は柱を砕いて箱を取る。


「あーずるいぞ!!」


「……あんぱん……里以外で見るのは珍しいわね」


 あんぱんもぐもぐ食っているイロハ。

 あんこってあるんだな。フウマ製かな。


『いいぞもっと忍者見せてみろ!!』


「ほら解説の人も言ってんじゃん! 火遁フレイムウォール!!」


 炎の壁で囲い、逃さないつもりだろう。


「やれやれ……ならばもっと火力を上げてやるか。火遁、烈火龍炎舞!!」


 巨大な炎の龍が舞い踊る。強そうなのに、柱を完全には破壊できない。

 むしろ牽制の意味合いが強いな。


「やりおるわ」


 炎の中で切り結ぶコジロウさんとサンダユウさん。

 サンダユウさんの武器は短い二刀流。

 どうも幻影を一瞬実体化させてリーチを伸ばしているくさい。


「やってられないわ。ここまでにしましょう」


「逃さないよ!」


「これはチーム戦。意識を集中させてはいかんぞ、イガの娘よ」


 忍者勝負を邪魔するように、別の場所から氷や水が降り注ぐ。

 全ての炎が飲み込まれ、舞台の一部が水蒸気で視界が悪くなる。


「お前らあっちいわ阿呆ぅが!!」


 他の選手からクレームが来ている。

 そらそうだ。もうすぐ冬とはいえ熱すぎて勝負にならん。

 フウマ親子は、もう影と入れ替わって範囲外だ。

 ちゃっかりパンもゲットしている。


「さようなら」


「むがー! エンターテイメントを何だと心得るかフウマちゃん!」


「忍者は影に隠れるべし。さらばモモチ殿」


「勝負はお預けかのう」


 そんな忍術による一幕とは離れた位置で、ごく普通の戦いも繰り広げられている。

 舞台が相当広いため、忍者大戦は三割程度の範囲だった。


「嬉しいねえジェクトの大将。学生時代、ついにあんたに勝ち越せなかった。ここで勝たせてもおうかい」


「はっ、ぬかしおるわ! まだまだ衰えてはおらんぞ!!」


『大国同士のぶつかり合いだ! 皇帝ザトー! 正面からいったぁぁ!!』


 右腕が巨大な氷の塊となってジェクトさんを襲う。

 五メートルくらいのでっかいやつだが。


「ぬうぅん!!」


 真正面からメイスでぶっ壊した。

 あの人らやばいな。


「フルムーンと同じ大国の皇帝じゃな。昔はライバルだったらしいのじゃ」


「ほー……」


 思いっきりイケメンだ。二十代で通用するだろう。アイドルみたいな雰囲気だ。


「どうした? 昔よりキレが落ちとらんか?」


「大将が耄碌してくれりゃあ、当たるんだがねえ」


 さっきから両足を氷に変えて、吊り天井みたいに落としたりしている。

 腹から氷の槍が出てきたり、地面から氷の拳が無数に出たり。


「俺と同じタイプの魔法?」


「じゃな。氷人間じゃ」


「おー、初めて見た」


 氷ってのは物質で、電撃とは使い方が少し違うらしい。

 だがとても参考になる。こればかりは同種の魔法を見ないと学べないからな。


「こりゃ面白い。来てよかったな」


 ここに来てからかなり参考になっている。

 帰ったら試そうかな。


「そんじゃまあ昔の再現といこうじゃないの、大将」


「つまりこちらの勝ちで終わるってことだなあ!!」


『手数とテクニックのザトーに対し、豪放豪胆に破砕を続けるジェクト! こいつは見どころたっぷりだ!!』


「わかってないねえ。オレはパワーもあるんだぜ」


「ならばそのパワーも超えるまでよ!!」


 一切近づきたくない破壊音と衝撃が響く。

 興味が湧いたのか、他の参加者も二人に攻撃はせず、遠くの柱を攻撃している。


「あれは参加したくないね。こちらはこちらで手合わせ願います」


 ザトーをさらに若くしたような男だ。右手に薄く緑色の入った風。左手に水。

 どうも魔法っぽいがなんだろう。


「お願いします!」


「二対一でもいいかしら?」


『サクラ・シルフィコンビにカムイ王子が登場! こっちも見ていこう!』


「あれだろ。息子なんだろ」


「うむ、わかりやすいじゃろ」


 カムイの方は人体を変換できないらしい。

 魔法の連射や付与をしながらの格闘戦主体かな。


「ポイントは体の近くを高速で回転しておる水と風じゃ。あれが攻撃をコマの回転のように弾く」


 防御を魔法の流れに任せつつ距離を詰めるタイプだ。

 シルフィの剣も槍も鎖鎌も受け流し、時間停止中の攻撃も風で加速して避けつつ軽減しているっぽい。


「驚いた……フルムーンはこれほど強いのですね。とても強く美しい。見習いたいものです」


「ありがとう。けど口説いてもダメよ。シルフィは予約済みなの」


「そんなつもりはありません。お気にさわったのでしたら失礼。そしておめでとうございます。心よりお祝い申し上げます」


「あ、ありがとうございます。きっと喜びます……?」


 ちらっと俺を見るのはやめて欲しい。バレるだろうが。

 ていうか普通に祝福しおったなカムイさん。

 貴族の社交辞令というやつかね。


「ちなみに私もよ。まだまだ独身でいるつもりだから」


「サクラ様に私では釣り合いませんよ。もう自国に仲のよい者もおりますので、これ以上は妬かれるかも……参ったな」


 ちょっと困り顔だ。特定の相手がいるっぽいね。

 だから口説くつもりもないんだろう。


「手早くパンだけ食べようかな。風水によれば、このあたりか」


 いつも見る魔法陣とはまったく系統の違うものを展開している王子。

 なんだあれ。なんかで見たような。


「太極図じゃな。それにアレンジ加えておる」


「あぁ、そうかそれだ」


 似ている。白と黒が中央にあって、そこから魔法陣が派生している感じ。


「はっ!!」


 風と水の連打で柱が崩れていく。

 中にあったメロンパンを食いながら攻撃魔法を避ける王子。

 お行儀悪いぞ。そういうルールだけどな。


「弱点だけを的確に突いておるのう」


「興味深い戦闘スタイルだ」


 自軍の柱を風と水で取り囲んで防御している。


「この力は防御にも使える。能力は術者次第と教わっています」


 機転のきくタイプか。戦うならちょい厄介かもな。


「ほれ応援とかしてやるのじゃ。シルフィー!」


「頑張れシルフィー!」


「ふふーん、なら期待に応えちゃうよ!!」


 シルフィの手に何本も透明な宝石のような剣。

 忘れもしない。前に見たあれは。


「クロノス・トゥルーエンゲージ!!」


 剣はそのまま三本の青い柱に刺さり、竜巻と一緒にその姿を消す。

 柱が存在するという未来を消したな。


「いただくわね」


 サクラさんが箱をキャッチ。

 姉妹で食うんだろうが、一個ザトーにかすめ取られる。


「オレは白組なんでね。ごちそうになるぜ」


「あっちゃー、取られちゃった」


「勝負がまだ終わっとらんだろうが!」


 ジェクトさんも登場。しっかりパン食ってんな。

 抜け目ない人だ。


「勝負ってのは白組が勝つことさ。昔っから力にこだわり過ぎなんだよ」


「ええい負けんぞサクラ、シルフィ! フルムーンは負けん!」


「それが違うんだっつーの」


「父上、勝ち目が薄そうですよ。見たこともない特別な力でした」


「それじゃちょっかいかけるだけかけて逃げちまうか」


 そんな感じで進んでいくのであった。

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