昼食と重大発表

 パン食い棒倒しも大詰め。破壊音と色とりどりの魔法が乱舞する。

 絶対あそこには行きたくない。


「結構やれるもんだな」


 シルフィもイロハも大怪我はしていない。

 全力での殺し合いじゃないってのもでかいな。


「読めた!」


 シルフィとカムイの戦いは、シルフィが有利。

 どうやら水と風による防御は長年染み付いたものらしい。

 一瞬だが攻撃の瞬間、その動きを時間ごと止める。


「くっ、また止まった!?」


 そうすると防御機能に合わせて動いているため、ガードが間に合わないのだ。

 自分の防御がいつ使えなくなるのかわからない。

 それは戦闘においてかなりのストレスだ。


「修行不足か。帝王とは国民の誰よりも強く賢くあるべし。守れていないとは歯がゆいね」


「シルフィはちょっと特別だもの。仕方がないわ」


「興味あるね。大将、どんな修行つけた?」


「自主性に任せた! 学園で成長したのさ! かつての我々のようにな!!」


 学園は特殊だからな。天才にとっては無限に伸びる場所なんだろう。


「そういうもんかねえ。大将は大雑把でいけねえ」


「申し訳ありません。まだまだ実力不足でした」


「いいさ。それも勉強だ。今日は特別に、達人同士の戦いってやつを見せてやる。よく学びな」


 ザトーさんから冷気が吹き出す。なにかやる気だ。


「面白い。サクラ、シルフィ、離れていなさい」


「アイスオブヘブン」


 そこら中に氷山が並び立つ。

 いつそうなったかわからないくらい一瞬でだ。


「柱も残り少ない。早いとこやろうか、大将」


「久しぶりに血が騒ぐわ」


 氷山のひとつから巨大な氷の腕が伸びる。


「ぬうん!!」


 当然メイスで砕かれるが、ザトーさんの姿がない。


「さあ、始めようか」


 氷山に氷でできたザトーさんの顔が浮き上がる。

 そして猛攻が始まった。


「よいっしょおぉぉ!!」


「相も変わらず厄介な!!」


 そこかしこから腕や剣や冷気の渦が飛びかかっていく。

 これ全氷山がザトーさんなんだ。


「マジか。無茶するなあ」


 なんちゅう力技だ。

 膨大な魔力と精密なコントロールの上で成り立っている。

 氷という物質だからこそという気もする。


「場を凍らせて、自身のストックにしておるのじゃ。いくら砕かれようとも、場の氷結がそれより早ければ、無尽蔵に肉体と攻撃手段を補充できるじゃろ」


「皇帝って大変なんだな」


 ジェクトさんの剣が凍りついていく。

 それはザトーさんの一部であるかもしれないという、結構危険な状況だ。

 一度凍ってしまえば放置しておいて、ストックにできる氷ならではの恐怖だな。


「ヌウン!!」


 ジェクトさんの生み出す光によって、周囲の氷が溶け始める。


「わかっているはずだ。これでは決着がつかんと」


「そりゃ昔の話でしょ大将。光だって凍らせちまえばいいさ」


 照射される光が凍る。意味わからんけど事実そうなっている。

 魔法というのは様々な法則ガン無視でごり押せる力だな。


「まとめて叩き割るのみ!」


「そいつは凄い。もっと凍らせないとねえ」


 二人の戦闘で柱が壊れ、そこからそーっと箱を回収しているカムイ。

 抜け目のないやつ。


「こっちはいただきます!」


 だがシルフィも反応して箱を奪っていく。


「おや、同じ行動に移るとは。珍しいこともあるものです」


「うちのギルドはこういう発想が得意なんです!」


 俺の言動から、シルフィに悪影響が出ている気がする。

 でも応用力つくのは悪くないよな。うむ、プラスになっているんだ。


「変なこと考えとるじゃろ」


「言動に気をつけようと思った」


「ほどほどにがんばるのじゃ」


 普通に励まされると、どうしていいかわからんね。


「いくぜ大将!」


「来い!」


『はいしゅーりょー!! ここですべてのパンが取られたため、集計に入ります!!』


 今いいところだったのに。

 お互いに攻撃モーションに入ったまま止まっている。


「……しょうがねえルールはルールだ。またな大将」


「お疲れ様でした。失礼します」


「またやろう。楽しかったぞ!」


「ありがとうございました」


「いい勝負だったわ」


 それぞれ健闘をたたえて戻ってくる。

 大怪我もないようでなにより。


「おつかれ。がんばったな」


「疲れたよおおぉ……」


「神の戦いというのは、ついていくのも一苦労ね」


 疲労の色がにじみ出ている。飲み物を持ってきてやるか。


「ほら一回落ち着け」


「ありがとー。疲れるねラグナロク……」


「ゆっくり休んでおけよ」


『はい勝ったのは赤チーム! めでてえなおい! 賞品は各国に送りつけるからなおい!!』


「そういや何貰えるんだ?」


「今回は希少な鉱物とか武具だった気がする」


 競技ごとに違うらしい。

 興味はあるが、俺が出られるレベルじゃないな。


『さーてこっから食事休憩だ! パンは完全に魔力回復だけして、腹にたまらない神の加護でできている。普通に飯食えるから安心しな!!』


「そういえば満腹にならんな」


「100%体内に魔力として取り込まれるんじゃよ」


「一応怪しくないかチェックしておいてくれ」


 飯に仕掛けられると対策が後手に回るからな。

 警戒だけしておこう。


「うむ」


「そうだね。卑弥呼、手伝ってくれ」


「はい。それではみなさん失礼します」


 軽く診断して問題なし。腹減ったし何か食うか。


「どこか食える場所にでも行きますか」


「注文すればここに運んできてくれるよ。外に食べに行ってもいいけれど」


「失礼しま~す」


 誰か入ってきた。王族まみれの場所に普通に来るのか。どんな度胸だ。


「ラーいる? 昼食がてらリスト確認に来たわ」


 ソニアとクラリスだ。後ろにヴァンもいる。


「よっ、久しぶり。来てたんだな」


「ああ、たまにはギルメンと外に出るのもいいさ」


 ずいぶんと久しぶりな気がする。

 基本的にギルメン以外と行動しないから、ほぼ久しぶりになるけども。


「それじゃあ確認とパトロールに行こうか」


 二神は用事があって来たらしい。

 警備やら危険な神やらと言っている。


「姿を見せている神と、ラグナロク関係者や危険なやつのリストらしいぜ」


「アテナとスルトにアルテミスは確定しているからね。今回は会場の警備とは別に、神にこっそり警備の依頼が来ている」


「というわけでヴァン、アジュくんたちとご飯行ってきなさい」


「へいへい。飯まだだろ? 行っていいか? そっちの邪魔はしないし、いちゃつくんならそっぽ向いてるぜ」


「そこまで気を遣わんでいい。何かあったら頼むよ」


 ギルメンにも確認取ったが問題なし。

 ヴァンは恋人がいるので、変な真似もしない。

 そして強い。つまり俺の代わりに戦ってくれる人材なのだ。


「何かあったらここにいる誰かを頼ってくれ。これは神界の不始末でもある。ちゃんと協力するよ」


「ハンサムに任せるがいい!!」


 そんなわけで出店が立ち並ぶフロアへやってきた。


「めっちゃあるな……」


「おや、隊長!」


「お久しぶりですわ」


 パイモンとナスターシャだ。こんな場でもゴスロリなのはぶれないな。


「久しぶりじゃな」


「お前らも飯か?」


「ですです。ご飯です」


「あじゅにゃんはっけーん!」


「はしゃぐなって。悪いね、あとシルフィとイロハはお疲れ様」


 ももっちとホノリ加入。大所帯になってきたな。


「またメンバー増えたなおい」


「どうしようか……全員でお昼行ける?」


「空いているスペースはあるだろうが……こうも人が多いと全員は……」


「よろしければこちらへどうぞ」


 はいベルさん追加。その先で座っているヒカルとシリウス。


「席なら確保しておいたぞ!」


「あの時以来だな。元気にしていたか?」


「なんとかな。そっちも馴染めてきたようだな」


 とりあえず全員でテーブル席へ。

 フードコートみたいなもんだし、大人数で座れていいな。


「まだまだ愛についてはわからんが、ゆっくり受け入れてもらえているよ。君のおかげだ」


 ちょっと元気になっているシリウス。

 目に光があるし、真面目にやっているっぽい。

 ならもう言うことはないか。

 こいつも被害者だったんだし、そもそも俺の直接の敵じゃない。


「あじゅにゃんは王族貴族しか知り合いにならない縛りでもしてるの?」


「そんなつもりはない。そもそも知り合いを増やす気がないぞ」


「それはダメだろう」


「さっさと取ってこないと、食べる時間がなくなるぞ」


「マコ。お前も来ていたか」


「当然だ。父も来ているぞ」


 しれっと自分の料理持ってマコ登場。

 ラーメンととうもろこしとたこ焼きだ。

 なんでもあるなここ。神が主催しているだけのことはある。


「んじゃ何か取ってくるとするかね」


「一緒に行くよ!」


「うむ、急ぐのじゃ」


「んじゃオレらは別方向だな」


「四人にしてやるべきか」


「それも愛だ!」


 それぞれ飯を取ってくることに。

 出店が山ほどあるわけだが。値段表記がないな。


「これ金どうなるんだ?」


「ただじゃ。好きなもん取るがよい」


「また豪勢だなおい」


「アジュの好きそうなものがあるわよ」


 中心にオムライス。カレーとハヤシライスが左右にかかっているやつ発見。

 ハイパーうまそうなので確保。最近こういうのはまっているのだ。

 サイズが普通よりも小さいな。いろいろ食えるようにという配慮だろうか。


「ふっふっふ、わかるぜ。これすげえクオリティ高い。下手すると先輩の店より高いだろ」


 完全に達人が作っている。もう香りからして完全に違う。


「素晴らしいのう」


「いい匂いね」


 リリアは五種類が一皿に盛られたパスタ。イロハがざるそば確保。


「トッピングは隣でどうぞ」


 隣は唐揚げハムカツ磯辺揚げまで、多種多様な惣菜がある。


「チーズハンバーグだと……」


「アジュ本当にそういうの好きだねー」


 チーズ乗ってて、中にも入っている小さいハンバーグ二個乗っける。

 これだけでテンション上がる俺はおかしいのだろうか。


「じゃあ取ったら戻るよ。足りなければ足そうね」


 シルフィもトッピングがっつりラーメンと焼き魚定食をゲットしている。

 食う量に関してはノーコメント。運動するとあんな感じだし。


「そうめんあるし取っていこう。熱いものだけじゃしんどい。飲み物も冷たいやつで」


 飲み物確保して席に戻り、大所帯で食う。

 よくわからんなこういうの。滅多にない。


「うめえ……こういう雰囲気の場で出るもんじゃないな」


 なぜこうも全料理が一部の隙もなく上質なのだ。


「これ目当てで来る連中もいるぜ」


「収穫のある日だな」


「たまにはお外に出るべきですよー」


「それはわしらも言っておる」


「これでも理由を見つけて外出させているわ」


 適当に雑談しながら飯を食う。俺はほぼ飯に集中している。

 それを知りつつ勝手に話してくれるから、別に気を遣わなくていい。

 今飲んでいる炭酸ジュースがなんなのかだけちゃんと調べておこう。

 これ帰っても飲みたい。


『はーい見えるかしら? これもう映ってる?』


 シャルロット先生がでっかいモニターに写っている。

 あの人も来ていたか。学園から結構な数来ているなこれ。


『勇者科担当、シャルロット・ヴァインクライドです』


『保護者のヤルダバオトだ』


『保護者って何よ!?』


『いいから発表するぞ。昼食が終わったら、ブレイブソウル学園勇者科高等部一年は全員コンディションを整えておくこと』


『期末試験ここでやっちゃうわよー!!』


『それじゃあしっかり食べておくんだよ』


 賑やかだった食堂が沈黙に包まれる。


「………………えぇ……マジかよ」


「どんだけ自由だよ学園」


「あはは……なんか変なことになっちゃったね」


「どうするのよこれ」


 困惑しかない。ということは勇者科全員いるのかここ。

 とりあえず考えるのは後回し。今は飯に集中するとしようかね。

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