勇者科期末試験開始

 飯食ってラーさんたちの元へ戻った。

 コンディションも整えたし、準備万端だが。


『はーいそれじゃあ午後の部始めるわよ!』


 不安しかない。本当に不安しかない。絶対にろくでもない。


『伝えた通り勇者科の期末試験だ。まず一斉にスタートし、あっちの塔の最上階へ行ってもらう。好きな入り口を選んでいい。そこには試練が待っている。最上階まで行ったら、さらに次のコースへご案内だ』


『詳しくは超次元大型ビジョンで追っていくわ。VIP席には三個設置されているから、見たい場所を選んでね』


 会場の空中にでっかいモニターがいくつもある。

 この部屋にもあるな。


『じゃあ集合! 魔法陣から来てちょうだい』


「行くしかないか」


「ここで応援しているよ」


「死なない程度にがんばるでござる」


「精一杯やってきなさい」


 王族や神様に応援されて会場へ。

 続々と転移してくる知らない人々。

 中にはヴァンやホノリもいた。


『準備はいい? あの遠くにある塔を目指すのよ』


 先生が指差す塔はどう見ても点にしか見えない。

 なるほど、これは感覚がおかしくなる。

 空間がいじられていることを初めて実感した。


『観客席から見るより遠いでしょ? 試練の内容はどんどん追加されるけど、何位までが合格ってことじゃないとは言っておくわ。あと殺しは禁止』


『トラップも大量にある。無理をせず慎重に進んでもいいよ。見ている神・魔王は参加チャンスがあるから、面白そうなら出てみるといい』


 ほほう、それは帰りたいな。これ大丈夫なのかね。


『じゃ、実況はヘイムダルに戻すわね。がんばって』


『そんじゃスタートだオラア!!』


 空高く花火が一発あがり、生徒が走り出す。


「どうする?」


「様子見だな。後ろの方でいい」


「困難は先頭に任せるのじゃ」


「そうね。トラップの処理をさせましょう」


 そんなわけで最後尾よりちょっと前にいる。

 これが俺たちのやり方だ。


『第一のトラップ! 余っちゃった地雷!!』


『効果的な、リサイクルですね』


 先頭集団が爆発している。

 巧みに避けるやつもいれば、平然と爆発しながら直進するやつもいるな。


「こりゃ先を行くやつが損だな」


『なお地雷は移動します』


 残った足跡をそのまま踏んでいたやつが爆発している。

 それでも結界張っているみたいだが。

 これは手間だな。


「飛ぶか。鍵使っていいのかこれ?」


「どうじゃろ。特に指定なかったのう」


「一直線に道の時間を止めるよ。走って」


 シルフィのアシストで無事抜ける。

 こういうものに強いな。


「おぬしならどう抜けた?」


「鍵がダメなら……簡単なのは雷になって飛ぶ。じゃなきゃ足めっちゃ長くして、爆発しても平気な感じにするとか」


「よい選択じゃ。魔力消費でかそうじゃが」


「その時は後ろにライトニングフラッシュですっ飛ぶ」


 手段は多いが、自由に空を飛ぶというのは難しい。

 そっち系の魔法はエリアルキーでやっていたが、今度覚えたいな。


『どうやら全員突破できたようだな。そんじゃあ次の試練は……』


 会場に何かが落ちてくる。

 何かわからないがでかい。鉄の塊のように見えなくもないが、全容がわからん。


『はい巨大ロボットオオオオォォォ! 全長20メートル。二足歩行だよ!』


「出しちゃダメなやつ来た!?」


『この世界の技術とまあ神のそういう感じをこう……うまいことやって、それをああしてから、天才的な閃きによってアレを混ぜるといいって聞いたんでやったら作れたんだ』


「ふわっふわしてんな!?」


『早速、ビームでも見せてよ』


 二足歩行で鉄っぽい材質。四角い部分の多い無骨なタイプだな。

 重装甲で敵のモブとかが乗るやつっぽい雰囲気。


『すぐ見せてやるよ! 発射あ!!』


 目からも手からも口からもビーム出てやがる。

 両手が生徒を掴もうと動くし、まず歩くとずしんずしんうるさい。


「横を抜けるか」


『ロボは複数いるぜ!』


 全部で四体か。邪魔くさいな。


「どうするの? 誰かが倒してくれるのを待つ?」


「いや逆だな。全員がどれに立ち向かうか調べて、誰もいないやつを最速で潰して、他が戦闘中に抜ける」


「それはなぜ?」


「他のやつが楽をするのが気に入らない。俺たちの手柄は俺たちだけでいただく」


「先頭を地雷の餌にしておいてこの台詞じゃよ」


 そんなわけで観察。最短距離を狙い、目の前のロボに向かうやつが多数。

 そっと抜けようとして阻まれ、戦うはめになっているやつが少し。

 一番左のロボが手薄か。


「左だね」


「わかるか」


「いつも一緒だもの。それくらいは読めるわ」


「んじゃ作戦もいらんな」


「当然じゃ」


 ついでに鍵の使用についても試すか。


『リフレクション』


 ビームを反射させる鏡を生成。

 ロボの腹に当ててやると、表面が少し溶ける。

 いやいやくらったら死ぬだろこれ。


「ここだね!」


 ロボがこちらを踏み潰そうとするので、片足をあげた瞬間にロボの時間を止める。


「そういうこと」


『ソード』


 何でも切れる剣により、ロボの軸足が切断される。

 どれだけ固くても問題ないってのはいいね。


「ほいほいっと」


 解けた腹にリリアの魔法が炸裂。そこで時間停止を解除。

 急なことに対応できず、そのままバランスを崩して倒れていく。


「後は支えて、口をふさげばいいのね」


 影がこちらに倒れないよう支え、ついでにビームが出る箇所をぴっちり塞ぐ。

 これにも対処できず、ビームが内側でつっかかって大爆発。

 爆風と破片がこっちに来ないよう、リリアが結界を張ってくれている。


「よくやった。このまま抜けるぞ」


『おおっともう突破した連中がいるぞ! 今年の一年もやべえやつがいるな!!』


『塔の入り口は四個の魔法陣だ!』


「同じとこ行く?」


「それで潰し合わされる可能性もあるな」


 神の手の内が読めない。

 別の魔法陣から来るやつとと戦わされるのか、難易度が違うのか。

 同じだと最悪通過できるのが一人という可能性もある。


「リリア、解析できるか?」


「どうやら塔の内部に飛ばすものじゃな」


「協力するのか、戦うことになるのかで変わるわね」


 最終的にはそこになるな。

 中にどんな罠があるかわからん。全員バラバラは避けよう。

 だが戦いになると面倒だ。


「オーケイ、なら確実に二人で入ろう。リリアとシルフィ。俺とイロハで別の魔法陣だ。真面目に聞け」


 組み合わせに異論がありそうだが、そこは言い聞かせる。


「魔法陣やトラップに強いリリアと前衛役のシルフィが組む。こっちはジョーカーの俺と影筆のイロハでそっちに対応する。いつでも応援に行く方法があるし、そっちがどこにいても指輪で探知できる」


「なるほど。いい感じなのかな?」


「わしとシルフィがいれば大抵はなんとかなる。不測の事態を解説で、そちらはパワーでゴリ押しじゃな」


「それでなんとかなるだろ。あともうひとつ、やつらが乱入した場合だ。もう試験とか関係ない。塔ぶっ壊して合流する。実況と試験官がどう言おうがだ。ラーさんたちに許可は取ってある」


「わかったわ。お互い気をつけましょう」


 一番やばいのがアテナ連中の乱入である。

 これが起きたら全力で潰す。いつものように鎧で潰す。


「じゃあがんばれよ。お互い合格できるようにな」


「みんなで合格しようね!」


「うむ、むしろアジュが心配じゃ」


「なんとかフォローしてみるわ」


「それじゃ行くか」


 リリア組は青いやつ。俺たちは黒いやつへ、それぞれ魔法陣に乗った。


「イロハいるな?」


「ここにいるわ。同じ場所に飛ばされたわね」


 真っ白で遮蔽物の一切ない部屋だ。ここもかなり広いな。

 窓から外を見ると思ったより高い。

 観客席の位置から判断して五階くらいだろう。


「妙な材質ね。土のような踏み心地よ」


「これもう始まってんのか?」


『お前らが入っているのはホログラム祭り会場だ! まずは全員肩慣らし。二人で幻影を打ち砕け! 倒せば次の階への魔方陣が出てくるぜ。絆を深めな!』


 陽炎のようなゆらぎが現れ、グリフォンが数匹出てきた。


「幻影ね。どうせ質量とかつけたんだろ」


「早く倒して絆を深めましょう」


 それじゃあ本格的に戦闘開始だ。

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