ランダムパーティーの試練

 部屋に現れたグリフォンを倒して休憩しよう。


「クエエエェェェ!!」


「サンダースマッシャー!」


 まず顔に向けて攻撃魔法。怯んだ隙に影が羽を貫いて機動力を削ぐ。


「今よ!」


「雷光一閃!」


 こいつら想定より遥かに弱い。カトラスでスロット二個使えば切断可能。


「これで最後ね」


 つまりイロハがいればほぼ負けないということだ。


「おつかれ。どうやら準備運動させたいだけだな」


『到着組はもう魔物倒しちまってんな。優秀なやつ多くね? ご褒美に全回復させてやるぜ! 触れる椅子とか出るだろ? 座っとけ座っとけ』


 部屋に回復魔法か何かが充満する。

 身も心も疲れが取れて、少し頭がすっきりする。

 やはり疲れは溜まるもんだな。


「座っとこう。くっつくなよ? 多分見られている」


「わかっているわ」


 座ってアイテムスロットから水筒を出す。

 これでも審判は何も言ってこない。


「剣も鍵も水も問題なしか」


「おおらかな大会なのね」


「だといいが、あまり乱用するもんでもない。鎧は伏せるぞ」


「私がなんとかするわ」


『はい全員塔に入ったな? シャッフルスタート!!』


「シャッフル?」


 中央に魔法陣が現れ、知らんやつとマオリが出てきた。


「む……ここは……?」


「真っ白ねえ。ここでなにするの?」


「ファーレンスか。まさか戦うのかこれ」


 こちらに気づいて寄ってきた。片方完全に初対面だ。

 オレンジのポニーテールで、赤く長いリボンだ。

 武器は太い刃の……なんだろう刀みたいな感じ。二刀流だな。

 ブーツが妙にゴツくて金属的なのは何だろう。


「フウマ殿にサカガミ殿、久しぶりではないか」


「お久しぶり。腕を上げたようね」


 そう言えば槍がちょっと豪華になっているし、左腕のクロスボウが小型でギミック増えている感じ。


「あんたら知り合いなの?」


「一応顔と名前くらいはな」


「これでも期末試験でともに過ごした仲ではないか」


「ふーん。あたしはラン。よろしく」


 そこから軽く自己紹介。勇者科は本当に知らないやつ多いな。

 しかも素質が見つかれば増えるし。把握できんぞ。


『顔見せ終わったなお前ら! じゃあ第一関門スタートだ!』


 ドラゴンを人型にして二足歩行させたような敵が複数出た。

 剣と丸い盾を持っている。十匹……十五匹くらい出たな。


『四人で協力してぶっ飛ばせ! それなりに強いタイプの魔獣だ。完全に瘴気で作られた敵で、生態とかはなし。元々生物じゃねえんだぜ』


「つまり生き物をひたすら殺しに来るタイプだろこれ」


「大正解。あたし前戦ったことあるわ。知能はそこまでないけど」


「死ぬまで戦いをやめぬ手合いだ。注意めされよ」


『そんじゃレディーゴー!!』


 全員武器を構える。これはどう立ち回るかね。

 全部任せるわけにもいかんし、初対面のやつに動きを合わせるのもしんどい。


「あたし接近戦だけ!」


 ランがそんな事を言う。戦闘スタイルの確認か。


「遠距離攻撃魔法。剣は保険程度」


「どっちもいけるけれどサポート主体よ」


「接近戦が得意だ。多少の射撃はできる」


「決まりね」


 マオリとランが前衛。俺とイロハが後衛だな。


「案外バランスいいな。サンダースマッシャー!」


 一番近いやつに魔法ぶっ放す。

 かなり怯む。一撃死はしないが、十分にやれる相手っぽい。

 椅子が壁際にあったことで、全方位囲まれることがないのもグッド。


「雷? 珍しいもん使うわね」


「だから魔法を覚えるのが楽しいわけだ」


「火遁、炎刃琉舞!」


 炎の群れが刃を成して敵を切り刻む。

 盾に大きな傷をつけるが両断できていない。


「サンダースラッシュ!」


 試しに俺もやってみる。

 やはり傷がつくだけ。妙に硬い素材だな。


「せええぇぇぇい!!」


 マオリは槍で盾ごと胴体を貫いている。

 防御の合間を縫って矢を当てることも忘れない。


「これなら、どうよ!!」


 でかい刀で切り合っていたランは、ブーツを装具に変形させ、そこに刀をはめて使っている。


「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!」


 蹴り技メインで怒涛の攻めだ。

 うまいこと斬撃と打撃を使い分けている。


「スピンドリルキーック!!」


 盾だろうが剣だろうが巻き込んで削り取っていく。


「やるもんだな。サンダードライブ!」


 着地に隙があるので、邪魔にならいよう地面に電撃を這わせて敵を痺れさせる。


「あんたもいい勘してるわ!」


「アジュ、そっちに行ったわ。接近戦も試してみたらどう?」


「できるもんかねえ。雷光一閃!」


 一匹だけ俺に来たのでやってみよう。

 横薙ぎに斬撃を入れるも、敵の剣と盾を砕いただけ。

 それを確認しながら距離を取る。

 俺はあくまで一撃離脱型。


「ほいっと」


 それでも迫る敵の口にクナイを投げ込む。

 もちろん小細工つき。


「サンダーシード!」


 しっかり敵の頭で雷球が弾け、首から上をふっ飛ばす。


「前より動きに無駄がない。接近戦もできるようになったのだな」


「やりたかないさ。鍔迫り合いとかできんし」


「経験は必要よ」


 イロハが敵の背後に周り、さくさく首を落としていく。

 忍者っぽい動きだ。暗殺者ムーブするとかっこよく見えるな。


「ローリングバーストキーック!」


 ランのブーツが回転しながら飛んでいく。

 敵を切り裂いてしっかり足へと戻った。

 ロケットパンチみたいな使い方してやがる。ちょい欲しい。


「心配するほどの敵でもないようだな」


「実力が把握できたところで終わりにしましょう。影縫い!!」


 手裏剣により敵の影を縫い止めて停止させる。

 毎度思うが便利な忍術だな。


「火炎激流槍!!」


「ライトニングフラッシュ!!」


 雷の波と炎の渦で敵を飲み込んで終わり。

 こりゃ案外簡単な試験かもな。


「おつかれ」


「おつかれさま! なによあんたら強いじゃない!」


「それなりにな」


 健闘なんぞ称え合うと、また解説が入る。


『クリアした連中は全員魔法陣に乗れ! 二個あんだろ? 乗れんのは二人までだぜ。先に来て戦ってた奴らはボーナスでちょっと上のエリアに行けるからな!』


『こんなにいい人材が揃っているとは思わなかった』


「エリアね……ただ上に飛ぶんじゃないっぽいな」


「どういうこと?」


「一階からスタートじゃなかっただろ。これ移動しつつ規定回数クリアで最上階に転移じゃないか?」


「…………妙な勘が働く男だな」


「どのみちクリアしなきゃいけないんだ。無意味な想像だよ」


 想像以上に戦闘をこなす必要があるのかも。

 装備は温存することも考慮しよう。


「左右どっちに誰が入る?」


「フウマ殿とサカガミ殿は同じギルドだろう? ならば二人で入る方が勝率は上がるはずだ」


「そういうことならあたしとマオリでいいわ。あたしらが右でいい? そっちも気をつけてね」


「ああ、それでいい。そっちも気をつけてな」


「健闘を祈っているわ」


 そして魔法陣に入ると、そこは南国です。いやあ意味わかりませんわ。

 ヤシの木とか砂浜とか海がありまっせ。


「えぇ……そうだイロハ? イロハどこいった!」


「あ、サカガミさん。フウマさんですか?」


 この眼鏡と機械的なフォルムの杖は、ミリー・アルラフトだ。

 思い出せた俺を誰か褒めて欲しい。


「アルラフト? 俺はイロハと一緒に入ったんだ」


「私もももっちちゃんと入ったんですが……」


 どうやら全員離れちまったようだ。そう来るかちくしょう。


『一緒に入れば同じ場所に行けると思ったら大間違いだぜ! 今度も四人チームだ! 死ぬんじゃねえぞ!』


「そうきたか……」


「あはは……」


「神というのは面倒じゃろ」


 リリアが転送されてきた。

 どこも怪我はない。まあ怪我するようなら他のやつがクリアできんだろう。


「よしよし、知ってるやつ来た」


「うむ、さっきまでシルフィとホノリがおったぞ」


「知り合いと一緒になるもんなのか?」


「そこまで計算しているか微妙じゃのう」


 そして最後の一人が転送されてきた。


「おおっと、遅れちゃったかな? わたしカグラ。よろしくね!」


 金色の長髪と青い瞳。のほほんとした空気だ。

 俺たちも自己紹介を済ませる。


「わたしの武器はナイフとか、ボウガンや銃。あとこのムチ! がんばっちゃうよ!」


「一緒に切り抜けましょう」


 笑顔の二人。だがこれちょっと待て。これはあれか。ピンチか。


「……待て待て待て、これ前衛いないだろ」


「……あっ」


「サカガミくんは剣士じゃないの?」


「俺は遠距離攻撃魔法タイプだ」


「わしも魔法主体じゃな」


 うーわめんどいぞこれ。俺必然的に前衛じゃないか。


『超バランス悪いパーティーできてるだろお前ら。それわざとだから。今回の試練は苦手克服がテーマさ! 四人いりゃ克服できる! それが勇者だ! 多分な』


『効果的な、試練ですよ』


 効果的すぎてクリティカルだよ。どうすんのこれ。


「やるだけやるしかないか」


 せめて難易度低い試練だといいなあ。鎧はまだ使いたくないぞ。

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