俺に前衛をやらせるな

 四人とも後衛向きだ。これどうすりゃいいのかね。


「俺とリリアでやるしかないか? アルラフトは確実に後衛だろ?」


「すみません、絶対無理です……」


「大丈夫だよ! ミリーちゃんは魔法が得意なんだから、そっちで頑張ろう!」


「遠距離が強いんだからそれでいいさ」


「もうちょい言い方考えるのじゃ。とりあえずわしとアジュが前衛。ミリーが後衛」


「わたしが中距離から援護だね!」


 そんな感じで決まる。というかこれしかない。


『各チーム相談は終わったかい? こっから試練が始まるぜ! 苦手な連中を叩き潰せ! 敵が出なくなったらおしまいさ!』


 今度は一転して、足場の悪い砂漠のような場所が投影される。

 そこにクリスタルでできた人間がいる。マネキンか銅像みたいな感じ。

 しかも結構な数がいる。


『近距離苦手なやつは魔法が効きにくいクリスタル兵。遠距離苦手チームには物理が効きにくい泥の兵だ! 大怪我しねえように全力出せよ! やっちまいなあ!!』


「間違いであって欲しいが……」


「魔法が効きにくいと言うておったのう」


「サンダースマッシャー!」


 はいちょっと揺れたくらいで砕けない。

 一部を軽く壊すくらいはできた。


「めんどくっさ!」


「どどどどどうしましょう!?」


「えいっ!」


 カグラがムチで敵の群れを叩く。

 ちょっぴりヒビが入っているようにも見えるな。


「ほいっと。うむ、普通に攻撃すればいけるのう」


 リリアの回し蹴りで砕け散っている。

 仕方がない。近づいてくる敵に斬りかかるとしよう。


「こいつ結構速いぞ」


 横に回避しつつ腹を斬ってみる。

 元がクリスタルだからか、そこそこ硬い。

 しかも右手を槍のように尖らせて殴りかかってくる。

 当たらないように動くのは一苦労だ。


「それでも切れないほどじゃないか」


 だが完全な切断はできなかった。

 妙に硬い素材だ。


「一撃離脱と相性が悪いのう」


 リリアの扇子と同時攻撃。

 三分割してやると姿が消える。


「ある程度ダメージ与えりゃいいのかね」


「物理ならなんでもいいみたいだよ。ほらほら」


 小型クロスボウの連射で消えている。

 もっと試してみよう。


「サンダーフロウ!」


 剣に電撃を流して切る。

 威力が上がったんだか上がっていないんだか。


「パワーオブガイア!」


 ミリーの魔力が俺たちに浸透していく。

 迫る敵に蹴りを入れると、俺でも大破させることに成功。


「強化魔法か」


「パワーオブウインド!」


 体が軽い。強化魔法重ねがけってことか。

 試しに近くの敵を切りながら駆け抜ける。

 いける。体への負担が恐ろしいほどに少ない。


「いい仕事じゃミリー」


「このままいっちゃおー!」


 俺とリリアが近づいてくる奴らを破壊。

 カグラがクロスボウで援護。


「おおっとそこだよアジュくん!」


 ムチで背後から向かってくるやつを足止めしてくれる。


「ナイスだ」


 止まった敵の腹を蹴り砕き、さらにミリーへ迫るやつから順に切る。

 その間ずっとミリーは付与魔法と回復担当。

 リリアが遊撃。好き放題させた方がいい。


「ええい!」


 強化された体でミリーが杖を振る。

 敵に当たるけれど、やはり倒せない。

 俺より苦手っぽいな。守りながらいこう。


「こうして、こうだー!」


 予想外にカグラのスペックが高い。

 ムチで敵を絡め取り、別の敵にぶつけて壊す。

 動きに無駄がないというか、サポートに特化した訓練を受けているな。


「あの娘、神の力が混ざっておる」


「マジか。やっぱ勇者科だからか?」


「うむ、しかしあれは……妙じゃな。器に対して神の力が少なすぎる……」


「詮索はやめておけ。俺たちも調べられると面倒だ」


「それもそうじゃな」


 疲れはするが、誰も怪我することなく戦いは続く。


「これで終わりか?」


「なんか出てきたよー!」


 2メートルほどのクリスタルでできた……なんだあれ。

 背中にトゲクリスタルをはやしたゴリラみたいなやつが出た。


「ボスキャラじゃな」


「さっさとクリアしちまうぞ」


「がんばります!」


 ゴリラもどきは丸まって高速回転しながら突っ込んでくる。


「危ない!」


 こいつかなり速い。音速超えはしちゃいないが、気を抜くと当たっちまう。


「ちっ、最後に面倒なのを!」


 引きつけて横から切るも、回転で起動がそれる。

 迂闊に近づくとトゲにささるし、どうするんだこれ。


「サンダースマッシャー!」


「風よ、我が敵を冥府へと誘う刃となれ。ウインドスラッシャー!」


 当然だが魔法も効かない。これはめんどいよマジで。


「ガアアアァァ!!」


 敵が初めて声を出した。

 それと同時に背中のクリスタルを矢のように撃ち出してくる。


「避けろ!」


「こっちじゃ!」


 リリアの作った結界まで走る。


「あうっ!?」


「ミリーちゃん!」


 ミリーが避けきれずに転んでしまう。

 その先にはカグラ。仕方ない。


「リリア! 柱!!」


「了解じゃ!」


 左腕の鉤縄を射出。俺が撃ち出した位置に理想的な氷の木ができる。

 これだけで俺のやりたいことを理解してくれるのはありがたい。


「捕まれ!」


 一気に鉤縄を巻いて木へと飛ぶ。

 途中でミリーを掴むが速度は落ちない。


「カグラちゃん!」


「ありがと!」


 ミリーが手を伸ばし、カグラも捕まって三人で移動。

 飛んでくるクリスタルの杭はリリアに撃ち落としてもらう。

 なんとか結界内に無事着地。ひとまず安心だ。


「あっぶねえ……」


「いい判断じゃ。やるのう」


「ありがとアジュくん!!」


「助かりました……本当にありがとうございます! 凄いですサカガミさん!」


 さーてこっからノープランだぞ。

 いつまでも結界に隠れているわけにもいかん。


「あれどう倒せばいいのかな? 魔法は効かないよね?」


「結界から出られませんし、こっちに殴りかかってきたら危ないですよ」


「集中攻撃……しようにも前衛は俺だけだな」


「そろそろ本気だすのじゃよ。おぬしは腹をくくれば強いのじゃ」


「それっきゃないかね……」


 どう考えてもこれっきゃない。

 鎧を使わず、リリアに九尾の力も使わせない。

 となればこれしかないわけだよ。


「三人は結界から出るな。ミリー、俺に強化と回復かけ続けてくれ。カグラは結界内から敵の動きを止めたり、杭を打ち消すんだ」


「わしは攻撃魔法で援護しつつ結界を張る。じゃな」


「本当はもっと安全にいきたいんだが……」


「あの装備は目立つからのう」


 極端なフィールド効果のある魔法や、鎧の使用は控えよう。

 つまりあれだよ、やるっきゃないってことだ。


「性に合わんけどまあ……ここで落ちるわけにもいかん。リベリオントリガー!」


 よし、完全に体が慣れた。もう痛みも不自然な箇所もない。


「アジュくんきれーい!」


 とりあえずの高速移動。水晶ゴリラの真横へ移動して、顔に蹴りを放つ。


「ちぇえりゃあ!!」


 ガードしてきた右腕を粉々に砕く。

 いける。わりかし俺優勢っぽい。

 残った左腕で殴りかかってきたので受け止めてみる。


「現状こんなもんかね」


 手に衝撃は来たが、痛みが続くレベルじゃない。

 実力を調べるためにも、少し打ち合ってみるか。


「ゥオラア!」


 足を砕いても頭を割っても死なないなこいつ。

 だが体積がどんどん小さくなっている。


「そういうことか」


 復元できないレベルまで殴れってか。こりゃしんどい。

 スタミナないんだよこっちは。


「ミリー、回復追加じゃ」


「はい!」


 回復魔法の援護で一気に押し切る。

 接近戦は得意じゃないが、常に回り込んで撹乱しつつ乱打戦で動きを封じよう。


「こっちはまだまだ試験が残っているもんでな、ゴリアの相手なんぞいつまでもしていられんのさ。リリア!」


「うむ、今しかないのう」


 リリアの冷気により敵の背中と足が凍りつく。

 動きが一瞬封じられればいい。


「ここしかない! 雷光一閃!!」


 スロット全部使っての全力攻撃だ。


「いい加減散りな!」


 全魔力を開放し、剣を胸に突き立てて爆発させる。

 陶器の割れるような音が鳴り、粉微塵に吹き飛んだ。


「はあ……疲れる……二度と前衛はごめんだ」


 魔法を解除して座り込む。

 どうやらもう敵は出ないみたいだ。


「お疲れ様です!」


「最後すごかったねー!」


「アホほど疲れたぞ」


「真面目にやれば強いことが実感できたじゃろ。そのままかっこいいアジュでいるのじゃ」


「しばらく真面目にはやらん。半年くらいは」


 とりあえず休憩だ。疲れと魔力を回復させる。

 なにやら褒めてくれているが、正直眠い。

 すぐに次の試験が来ないことを祈るのみだった。

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