第一種目 障害物競走

 ラグナロクが開始された。適当に観戦していよう。


「チーム分けとかないのか?」


「事前申告で出たいものに出るのさ。自信があれば大量に出てもいい」


「神は我が強いので、チーム分けで揉めるのですよ」


 面倒を省いた祭りなのね。楽しければいいという、なんともアバウトな神らしい。


『第一種目は王道の障害物競走だああぁぁぁ!』


「普通だな」


「にゅっふっふ。そう思えるのも今のうちじゃ」


「怖いな」


 部屋の中心に魔法陣ができた。なんか転移タイプっぽいが。


「では行ってきますわアジュ様」


「行ってくるっす!」


 ヒメノとやた子が魔法陣に乗って消えた。

 中央に続々と転移してくる連中がいるし、そういうシステムなんだろう。


「さて、アジュくん。よく見ておいてくれ。あれがアテナの軍だ」


「アテナ?」


 ラーさんの視線の先には、知らない男女がいる。

 かなり離れているが、望遠魔法をかけてくれたので、なんとか顔まで見えた。

 長い髪で白い鎧の女だ。かなり視線が鋭い。


「あの白い鎧の女がアテナで、横の黒い服の男がスルトだ。周囲には配下のヴァルキリーがいる」


「悪そうな顔じゃな」


「あの人が、今までの事件の首謀者なの?」


「そうとも言い切れないわ。けれど警戒しておきましょう」


「これ以上固定するとバレそうだね。今の顔を覚えておいて欲しい」


 魔法を解除し、ヒメノの応援に入るふり。


「大会出場のためと言い訳していたから、出ない訳にはいかないんだろう」


「学園と各国には警戒を呼びかけてある」


「フルムーンもフウマも厳重に警戒させてあるので、何かあればすぐ報告が来るでござるよ」


 ならしばらくはアテナを警戒するか。


『それではスタート!!』


「そもそも神って光速移動できるだろ。成立するのか?」


「ちゃんと空間を操作して、見た目より広いよ。そして特殊ルールだ。これは光速禁止」


『さあまずは無重力地帯だ!!』


 そりゃ普通にはやらんか。純粋に楽しみでもあるし、ゆっくり見よう。


『このレースは神の進行を阻むものを、パートナーが取り除いて進みます! 絆が鍵です!』


『つらそう』


『見りゃわかるわ!』


 無重力の中を平然と走るみなさま。

 そこに隕石やら攻撃魔法が降り注ぐ。

 全員こんなもんで脱落するほど弱くもないか。


「ずいぶん派手にやるのね」


「やた子ちゃんがんばれー」


「うちはやればできる子っす!」


 障害物を切り伏せ、ヒメノが通れるスペースだけ確保していく。

 だが近くを走るやつも同じペースだ。


「相変わらず部下だけはしっかりしているな。アマテラス」


「女媧? 嫌な顔に会いましたわ……」


「お久しぶりです。アマテラスちゃん、女媧ちゃん」


『ここでアマテラス、女媧、ヘスティアが抜けてきたああぁ!!』


 中華っぽい服装に、最低限の装甲がついた鎧の女だ。

 もう片方はヴェールを被った清楚で動きやすそうな服の女。

 また対極的だな。


「またわたくしの出番を邪魔しますのね」


「仲良く行きましょう。せっかくまた会えたんですもの」


「馴れ合うつもりはない。お前のペースにははまらんぞ」


 因縁でもあるのだろうか。他の選手がみんな後方に避難している気さえする。


「行くぞ祝融。こいつらに負けるは神の恥」


「あいよ。まあそんなわけでさ、悪いねやた子ちゃん」


「いいっすよ、そっちも大変っすね」


「まったくさ」


「おしゃべりは程々にな」


「はいさー」


 なにやら炎を撒き散らしている女がいる。

 あれが女媧のパートナーらしい。


「ここからはさらに危険です。気を引き締めてください」


「大丈夫よ。イリスちゃんが強いことは、私が一番知っているわ」


「そうではなくてですね……」


 虹色の衣を着た女だ。どうも上司には苦労するタイプっぽいな。

 やた子とフリストを見ていたからわかるぞ。


『めんどくっせえやつらが先頭のまま、ここで地獄のルーレット大回転だ!!』


 スタジアムの中央に巨大なルーレットマシーンが現れ、回転を始めた。

 光が移動し、止まるとそこで確定らしい。


『はいアースガルズゾーン!!』


 進行方向に巨大な棺が降ってくる。

 変なトラップだなと思えば、中からごっつい筋肉の男たちが出てきた。


『中から登場するはトールとマグニの親子! 此処から先は電流金網デスマッチゾーンだ!!』


 足場以外に張り巡らされた金網に電流が走っている。

 発生源はあの二人だろう。桁違いの雷が降り注ぎ、最早安全地帯がない。

 っていうか眩しいわこれ。


『会場にはもれなくグラサンが配布されています。VIP席の方々は、お近くのテーブルの引き出しをどうぞ』


 本当に入っている。用意がいいなおい。

 みんなでつけて観戦再開。


「なるほど魔力が無限だからできる荒業だな」


「雷の使い方を見ておくのじゃ」


「参考になる」


 雷をあえてぶつけ合わせて放電と衝撃を練っているっぽい。

 虚無の構成と似ている。これは興味深いな。

 電撃に何かを含ませるのか。


「あばばばば!?」


「うげえええええ!!」


 何人か電流の嵐にのまれている。

 あれ大丈夫なのかね。


『おおっと、ここで脱落者が出始めた! 超電流には為す術なしか!』


『これはきついですよ』


『ですが問題ありません。神は頑丈です! 死ぬ気ゼロです!』


『電圧ぬるくね?』


『もう8ボルトくらい上げてください!』


 雑だな。実況が雑だよ。

 ハンマーからさらに電流が流れ出た。


「先に行かせてもらうぞ。せいぜい私の作った道を来るがいい」


「あなたにだけは負けませんわ! ペースを上げますわよ」


「いやあ結構きついっすよ」


「辛くなったらこっちに来ていいからね、やた子ちゃん」


「ちょっと検討させていただくっす」


「やた子が反抗期ですわ……」


 あいつらどういう関係なんだか。談笑しながら走っている。


「ヘスティア様、こちらに道を作りました」


 イリスと呼ばれた女が、虹でトンネルを作っている。

 ご丁寧に動く床っぽい。


「ありがとうイリスちゃん」


「では一緒に行きましょうヘスティアちゃん。わたくしはお友達ですもの」


 うーわ、あいつきったねえ。自然に乗ってやがる。


「軟弱だな。それでは永久に我らは追い越せんぞ!」


 女媧・祝融組は普通に、っていうか無差別に全部ふっとばしながら進んでいる。


「うおぉぉ! 女媧てめえ!!」


「ちょっと周り見なさいよあんた!」


 そら文句も出ますわな。


「ふははははは!! 弱者はただ落ちるのみよ!」


「イリスちゃん、全速力ですわ!!」


「これ以上はお味方に被害が出ます」


「レインボーロード全開ですわ!」


「ふふっ、女媧ちゃんもアマテラスちゃんも元気ね」


「元気すぎないっすかね」


 虹のトンネルがでかく広くなり、他の連中を避けていたのが一本道になる。

 まあ当然だが跳ね飛ばされるやつも出てくるわけで。


『他の走者ドン引きです! お前らマジでめんどくせえな!! さっさとルーレット回して落とすぞ!!』


 ルーレットは『攻守交代』と出た。

 ほほう、嫌な予感がするね。


『最悪です! パートナーと攻守交代! よりによってか! 結界を強化しましょう!』


『すぐ壊れますよ』


『フィールドはコキュートス! 極寒地獄です!』


 氷山が立ち並ぶ吹雪の中を、氷山切り飛ばして進む女媧。

 あいつかなり強いな。

 馬鹿力じゃない。極限まで磨き上げた剣技だ。


「女媧は上級神じゃな。ヒメノとは妙な縁がある。まあ悪友じゃよ」


「ヘスティアはハンサムと同郷の神だ。神には珍しく、優しく穏やかで包容力のある者でな。何を間違ったか、ヒメノと女媧と腐れ縁なのだ」


「よりによってあいつらが揃うか。ハンサムはしばらく奥で身を潜めよう」


「アジュくんもあまり関わりすぎると危ないね」


 でしょうね。完全に厄介者の扱いだ。


「今回は私の勝ちだアマテラス!!」


「ひれ伏すのはそちらですわ! やた子、降りて全力ダッシュですわ!!」


 虹から離脱し、猛スピードで女媧を追いかけるヒメノ。

 張り合ってんなあ。そんなに負けたくない相手なのか。


「私たちも急ぎましょう。みんなで仲良くゴールするの。私の力を虹に乗せます」


「ちょっと、そんなことをしたら……」


 ここからでもわかるほどの魔力を、手加減せず虹にぶち込んでいる。

 そんなことをすれば、先行している女媧とヒメノに迫り。


「ヘスティア貴様っ!? おい待たんか!!」


 二人を思いっきりぶっ飛ばしていく。


「あら、二人とも大丈夫?」


「ああもおおぉぉ! ヘスティアちゃんが絡むといつもこうですわああぁぁ!!」


『ここでヘスティアがトップに躍り出た! ゴールはもうすぐだ!』


『ゴール前は地雷原だけどな』


「あ……あら? イリスちゃん、これどうやって止めるの?」


「止まりません。ヘスティア様の力が強すぎて、もう制御できません」


 話しているうちに地雷原へ突入。

 盛大に爆発を起こし、上空へとすっ飛ぶヘスティア。


「あーれー!」


「どうしていつもこうなるのですか……」


 そして先に上空へ打ち上げられていたヒメノたちと激突。

 仲良くゴールへと落ちていった。


「あうっ!?」


「おあっ!? どこまで邪魔をするんだ貴様らああぁぁ!!」


「落ちるうううぅぅぅ!!」


 真上からゴール地点へ落下し、土煙の中から倒れている三人と、そのあとに落ちてくるパートナー三人が見えた。


「正直、嫌な予感はしていたっす」


「あたしもさね」


「転職……考えようかしら」


 パートナー組はもうぐったりしていた。

 もの凄く同情してしまう。これはきっついわな。


『えー同着一位はアマテラス・女媧・ヘスティアということでいいんじゃないでしょうか』


『効果的な、判断ですね』


 そんなわけで第一種目が終わった。

 やた子が帰ってきたらねぎらってやろうと、俺たちは心に決めたのであった。

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