ラグナロク編
ラグナロク開幕
ここ数日平和だ。とてつもなく平和だ。
午前の授業に出て、先輩の店で昼飯食って、あとはギルメンと遊ぶか魔法の研究をして過ごす。
本を読む時間もあるし、結構のんびりしていた。
「理想のゆったり空間だな」
今日も朝飯まで家で本を読む。
横にイロハがいるが、静かに横にいるだけ。邪魔はしてこない。
「ごはんもうすぐできるよー」
食事当番はシルフィとリリアだ。
こういう普通の時間を過ごしていけたらいいんだが。
「アジュ様! ラグナロクのお時間ですわ!!」
ヒメノが来た。朝からそのテンションはやめて欲しい。
「まだ時間あるだろ」
「もちろんですわ。なのでわたくしも朝ごはんをいただきます」
「ねえよ。お前の分はねえよ」
「ある前提なのはなぜなの?」
「正妻の権利ですわ!」
「今ので権利無くなったぞ」
凄くうざい。でもラグナロクのことは聞いておきたい。
五人分の飯が用意されたテーブルで、ゆっくり説明させよう。
「俺たちはどうなるんだ?」
「全員一緒のゲスト席ですわ。特に目立つ紹介もなし。格好は正装でも戦闘服でも自由。わたくしの隣で観戦できますわ」
「知らない神の中に放り出されるよりはマシか」
「ジェクト王もコジロウさんも来ますわよ。ラーや卑弥呼ちゃんも」
マジでフルメンバーか。安全は確保されるな。
「純粋に観戦して帰るかね」
「楽しみだね」
「シルフィたちは行ったこと無いのか?」
「何回かあるわ。規模や種目から出場者までいろいろ変わるし、私も幼い頃は遠出できなかったの」
「毎年必ずやらなければならない、というものでもないのじゃ」
「各国の事情や、神々の都合で臨機応変に変わりますのよ」
やはり適当というか雑だな。神ってのは一年の間隔が短いんだろう。
だからふわっとしていくとか聞いたような。
「よし、とりあえず準備はしてある。行くか」
「お待ちを」
「どうした?」
「まだわたくしのおかわりが来ておりませんわ」
「そんなものはない」
食いすぎているヒメノを引っ張って神界へ。
あらかじめ学園に設置されたゲートに入ると、巨大なスタジアムがあった。
周囲には花が咲き、空は雲ひとつ無い。
程よい気温で、周囲には似たようなゲートと、出てくる人々がいる。
「受付済ませて中へ入るのじゃ」
入り口でチケットを見せる。
魔力登録と名簿記入。妙なバッジと腕章もらった。
どっちか付けときゃいいらしい。
「さあ、こちらですわ!」
「おや、お早い到着ですな旦那」
「フリストも来ていたか」
「うちもいるっすよー」
VIP用の専用スペースにやた子とフリスト登場。
豪華な設備で、普通の客席からさらに上だ。
王族とかがいる専用個室っぽいあれ。
ただし広さが尋常じゃない。
「どうせならまとめてしまった方が安全だと思ってね」
「一応保険としてね。普通に楽しんで帰ってくれればいいわ」
「リリアと仲良くしていますか? たまには遊びに来てくださいね」
ラーさん卑弥呼さんアルヴィト登場。
「お久しぶりです。まとめてっていうことは」
「我々も一緒さ」
「今日は楽しみましょうね」
「シルフィとうまくいってるかしら?」
ジェクトさんレイナさんサクラさん登場。
本当に多いな今回。同じような質問もされるし。
「よかった……アジュとリリアが来てくれたか」
なんかやつれているホノリ発見。
横にヘファイさんとポセイドンがいる。
「どうしたんじゃ」
「ここ王族と神様しかいなくて落ち着かないんだよ……親父は売店に逃げやがったし……」
「そんな時はハンサムフェイスを眺めるのだ。心が落ち着くだろう?」
「ノーコメントで」
「無論拙者もいるでござる」
コタロウさんコジロウさんもいるな。うわあ大人数だ。
俺の苦手なパターンだぞう。
「ここの隣に騎士団や上忍の部屋がござる。そちらにはお父上の同僚や子孫もいるでござるよ、リウス殿」
「かたじけない! そちらに行ってきます!」
ダッシュで逃げていくホノリ。扉一枚隔てて隣がまた知り合いのいる場所か。
「一緒に観戦すりゃいいのに」
「何人かそうすすめたでござるが、騎士団は同席などできぬと申されましてな」
「真面目そうじゃのう」
都合や規律とかあるんだろう。これは仕方がないかもな。
俺たちが気にすることでもない。
「ゆっくり見るとするか」
見やすい位置に席がある。いつものようにギルメンが横に座るわけだが。
「なるほど、ちょい後悔するなこれ」
ギルメンの家族いるのどうなんかね。
精神的に別の意味でしんどい。ホノリの気持ちがちょっと理解できたぞ。
「がんばってアジュ」
「なんの応援だそれ」
「ここで仲がいい所を見せていきましょう」
「絶対に断る」
俺たち四人の席に、一定の距離を保ちながら近づいてこない親族の皆様。
テーブルにすっと飲み物が並べられた。
「ごゆっくりでござる」
俺の飲み物にストローが二本ついていた。
「やりませんからね」
言っている間にイロハが片方咥えている。
「仕方がないわね。これは仕方がないわよ」
「絶対にやらんからな」
飲み物はイロハに渡して、普通の方を飲む。
「お菓子もあるわよ」
「どうもすみません」
サクラさんがお菓子を持って来てくれた。
そしてシルフィを椅子ごと俺に近づけて去っていく。
普通にお菓子を食い始めよう。気にすると負けだ。
「おいしいね」
「そうだな。もう少し離れてもいいんだぞ」
「はい、これもどうぞ」
卑弥呼さんが棒状のクッキーをリリアに咥えさせ、顔を俺の方に向けてくる。
「絶対にマジでやりませんからね」
指でクッキーをリリアに押し込んで食わせておこう。
「むうぅ……手強いのじゃ」
「次は私の番だな」
きりっとした顔でジェクトさんが二人用のカップルパフェを持っている。
あなた大国の王ですよね。その状況に疑問とかないんですか。
「いやアルヴィトに行かせよう。身内が行くより、多少他人であった方がアジュくんも気楽なはずだ」
アホ丸出しの相談が行われている。
おいなんだこのアウェー感は。
「あたしはヴァルキリー、使命に殉じます」
「よくわからん決意を固めるな!」
パフェを真剣な顔で見つめて決意している。お前そういうキャラだったっけ。
「さ、さあパフェがありますよー。おいしいパフェなんですー」
完全な作り笑顔だ。なんかもう不憫なんですが。
「ノンだアルヴィト。もっと優雅にハンサムに」
「よくわかりません」
俺もだ。かわいそうだから受け取ってやろう。
「アジュくんが受け取ったぞ」
「流石は太陽神。流石の洞察力よ」
ざわつくな外野。
「味は悪くないな」
「そこで食べさせるんじゃよ」
お願いだからやってくれというアルヴィトの視線を感じる。
「はあ……しょうがないか」
「ではまずわたくしからですわね」
いつの間にかヒメノがいた。
「口を開けろ」
「えっ、いいんですの!?」
「アホじゃな」
外野ざわつく。リリアは呆れている。
「どういうことかしら?」
「わかんないけど、あの顔は悪いこと考えてる時のアジュだ」
シルフィとイロハは成り行きを見守る感じ。
スプーンではなくパフェそのものを持ち、そのままヒメノの口にねじ込んでやる。
「こんなリラックスできない空間があるかボケエエエェェ!!」
「むぐぐぐぐううううぅぅぅ!?」
「飲み込め。食い物を無駄にするなよ」
上級神だからか、すするように全部食い尽くしやがった。
化物だな。もちろん俺の好感度は下がっているぞ。
「なんだこの空間は!」
「気にするでない」
「するわ! お前こんなんラグナロク終わるまでもたないからな!!」
「ちょっと急ぎすぎたね」
「自主性を大切にするべきだったわね」
「そろそろ始まりますわ!」
笛の音が会場を満たし、全員が静かになる。
『それでは皆様大変長らくお待たせいたしました! ただいまよりラグナロクを開催致しまあああああああああぁぁすう!!』
上空に立体映像とモニターが出現。
中央の特設リングに現れた男による宣誓が始まった。
『知力体力時の運。神力魔力主人公補正まで全部使って楽しんでいってください!! 各部門ごとに各国から豪華賞品もたーくさん! おおいに盛り上がっていくぞー!』
「オオオオォォォォォ!!」
歓声で会場が揺れる。何発も花火が打ち上がり、盛大に幕を開けた。
『実況解説は私、ヘイムダルが』
白いスーツのイケメンだ。二十代くらいの見た目だけれど神なのだろう。
でっかい角笛持っているし、あの人が吹いたのかな。
『コメンテーターはメジェドでお送りします』
白い布を頭から足首までかぶった変なのがいる。
大きな二つの目が出ているが、なんだあの不審者は。
「ふっふっふ、相変わらずこういう場では不審者だねメジェド」
「ラーさんの知り合いですか」
「同郷の神だよ」
『ついに始まりましたね。どうですかメジェドさん』
『足がすーすーするわ』
『靴はいとけや!』
そんなこんなでスタートした。
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