第207話 突撃秘密工場

 視察が終わって作戦会議も終わり、次の日。

 朝飯食って工業地帯へ。そこはもう工場だけといっていい場所であった。


「朝早いのはしんどいなやっぱ……」


「ちゃんと起こしてあげたじゃろ。いまさら寝るでない」


「へいへい」


 俺が起きてこないことを見越して、ギルメン四人は同じ部屋だった。


「ささ、こっちでござるよ」


 偵察していたコタロウさんに案内されて、安全なルートを進む。

 昨日のうちに偵察してくれていた。


「これだけ人が増えると見つかるんじゃねえの?」


 最初のメンバーは、ギルメン四人とヴァンチームにコタロウさん。

 ラーさんと卑弥呼さんだ。ヒメノ一派は遊撃隊であり、別働隊でもある。


「そこは俺とリリアが魔法で消している」


 俺たちは、仲間は見えるが、他人からは全員消えている。

 ステルスキーという便利な鍵があったのよこれが。

 あとはリリアにコントロール補助をしてもらい、精度を増す。


「では手順を確認するよ。工場そのものを取り囲むように結界が張られている。建物の中に入ったら、その結界を神の檻へと変換する術式を使う」


「ですが、それだけでは逃げ道があるかもしれません。なので、奥へ進むに連れて、神々で術式を繋げ、外界から隔離して特殊な空間へと変換していきます」


「普通の兵士を中に入れない工夫だな」


 不死兵団はともかく、一般兵は邪魔なだけだ。殺さずスルーできるなら楽でいい。


「今回に限り、ヴァンに特別に通信機を渡します。終わったら返してください。オーパーツなので」


 簡単に連絡が取れるだけの簡易通信機だ。

 これをヴァンとヒメノに渡してある。

 通信以外の機能はない小型のやつ。


「了解。壊さねえように気をつけるぜ」


「魔力探知が可能なため、全員召喚機の通信機能はオンにしておくのじゃ」


『これでいつでもアジュ様を身近に感じられますわ!』


「切っていいか?」


「気持ちはわかるがダメじゃ」


 ヒメノにも通信機を持たせたのは失敗の可能性が出てきたな。

 出来る限り静かにしていて欲しい。


「ではここで奥の工場の地図を頭に入れておいてください」


 完全に鉱山をくり抜いて作られているらしい。採掘場も兼ねているのか。

 中は広く、なぜかまっすぐに、できるだけシンプルにするように作られている。

 普通下に行くか、分岐するものだろう。途中に分岐もあるが広い。


「広いな」


「アーマードールで暴れることを想定しているような作りね」


「なんで迷路にしないのかな?」


「必要ないのでしょう。侵入者はほぼおらず、即排除できて、アヌビスの息がかかったものしか入らない。ならば、正面から迎え撃って殲滅したほうが早いのです」


 このレベルになると、トラップなど意味はないということか。

 ならば広い通路で存分に戦う方が生存率も上がるのだろう。


「一番奥の巨大な門が、施設への入り口です」


 巨大な門を幾つかそっと透過して素通りさせてもらった。

 山岳地帯を切り開き、大きな工場が作られている。

 その奥に秘密の施設があるらしい。


「いかにもなにかありそうだな。地下施設とかは?」


「なし。あの工場自体、採掘量の減少を言い訳に、最近はあまり使われなくなったものでござる」


「隠れ蓑にするにはちょうどよいわけじゃな」


 コタロウさんの仕事は早くて正確だ。

 忍者って凄い。もう全部それでいこう。


「人の姿がない。警備の兵すらいないぞ」


「警備兵はここまで来ないのじゃ。兵士と不死兵団の、ちょうど中間にできた空洞じゃな」


 今までよりも厳重で大きな門だ。鉄製で、十メートルはある高さ。

 この先は何が出てこようとも敵。アヌビスを倒さなければ終わらない。


「アヌビスと不死兵団は、既に奥へ入っていったでござる。この大きなゲートの先はもう、完全な敵地でござるよ」


「万が一の場合を考慮して、昼頃には学園から通達が行き、この施設を出る頃には、私たちは無罪放免。なんの会議にもかけられず、そっと逃してもらえます」


「っていうかアヌビス殺して逃げればいいんだろ?」


「ええ、全て工場での事故として扱われ、学園関係者により徹底した調査が行われます」


「無論、こちら側の関係者じゃ」


 あくまで目的はアヌビスの殺害。そのために学園も全面協力だ。

 このチャンスをものにしよう。必ず終わらせる。


「準備はいいね?」


「いつでもいけるぜ」


「ああ、オレはこの日を待っていた」


 そしてゲートの中へ。中は整備され、ちゃんと照明もあるし、通路が存在する。


「こういう場所は初めてだな」


「俺もだ。工場見学とか行った記憶もない」


「いるわ。間違いなくいる。ここまで近ければわかる」


「同郷の神がこれだけいるものね~。わたしにもわかるわ~」


 ソニアとクラリスには感じ取れるらしい。便利だなお前ら。

 建物内は天井も高いし、人が通れるスペースもある。

 手入れがされているのは、アヌビスが通るからか。やけに清潔だ。


「では、次の大広間を拠点にしましょう」


 しばし歩き、硬い鉄製の壁で覆われた広い部屋へとたどり着く。


「卑弥呼さん。ラーさん結界頼みます」


「任された」


「そちらも気をつけて」


 ステルスは解除。どのみち結界張って暴れれば気付かれるからな。

 なにより、道を固めるアーマードールをぶっ壊す必要がある。


「さて、いくよ卑弥呼」


「はい、参りましょう」


 結界の性質を変え、強固なシェルターから、脱獄不可能な神の檻へ。

 形を変えずに魔力を変換する。神と葛ノ葉の合作だからこそ、その速度と精度は優れたものになる。


「よし、これで……」


 施設内にサイレンが響く。通路の奥から山盛りアーマードールさん登場。


「この施設を清め続ける。戦闘は任せるよ」


「ほいほい、行きますよー」


「やーっと暴れられんのか。こそこそすんのは性に合わねえぜ!」


 敵の銃撃を合図に全員散開。目につくやつから破壊する。


「オラァ!」


「うおるあぁ!」


 俺たちに銃弾など通用しない。鎧は装着済みだ。

 適当に攻撃すれば破壊できる。


「わたしたちもいくよ!」


「そうね、いいところを見せないと」


「影に隠れて終わりそうじゃからのう」


 ギルメンも怪我ひとつ無い。よしよし、このままいこう。


「アジュくん~わたしたちは研究データと、量産される機体も潰したいから~」


「わかった。そいつも壊そう」


「既にここのデータはヒメノ一派が奪取に向かっている。合流も考えていてくれ」


 そんな雰囲気で最深部を目指す。長い通路と広い部屋の連続だ。

 どの部屋も大小の差はあれど、基本的に作りは同じ。


「来たか。マヌケな侵入者さん」


 なんか髪の毛が蛇の女がいる。キモい。殺していいよな。

 下半身も蛇だし。全身紫の蛇でコーディネイトされている。

 まず三メートルくらいあって引く。キモい。


「敵だよな?」


「それをこれからお話し合いで決めようと思いまして。なぜこんな場所に不法侵入など、と疑問で仕方がないのですよ」


「侵入者の身ゆえ名乗れ無いが、そちらの名を聞いても?」


「おや、これはなんとも愉快で無礼な客人だ」


 緑のやつが来ました。こっちは翼が生えている。なんなん色違いとか。

 ゲームの水増しキャラじゃないんだぞ。


「エウリュアレ。なぜここに?」


「ステンノ姉様を手伝えと、アヌビスより」


「いるんだな? アヌビスの野郎が。悪いが通してもらうぜ!」


「そうもいかぬ。ここに入ったからには、死んでもらう」


 蛇姉妹の目が光り、周囲が石へと変わっていく。


「ん? なんだこりゃ?」


「石化っぽいね」


「じゃな。ゴルゴン姉妹か。妙なもん飼っとるのう」


「まあ有効なんじゃないか?」


「そうね~普通の人なら~ちょ~っと厳しいかもしれないわ~」


 全員無事である。この程度の能力なら、ぶっちゃけ弱い。


「石化が効かぬか。人間にしては……人間か? 人間のほうが少なくないか?」


「そこに気付いたか。まんざら雑魚じゃないってことかね」


「舐めるな!!」


 髪の毛代わりの蛇が、一斉に襲ってきた。

 だが、その前に鈴は鳴っている。


「こんな感じでぶった斬ればよいのでござるな?」


 迫る無数の蛇が、全て切り刻まれて床に落ちる。

 コタロウさんのトップスピードは、蛇の化物を凌駕していた。


「…………オレも強くなったつもりだったが……太刀筋が見えなかったぜ」


「やるわね、助っ人さん」


「いやはやお館様に比べれば、お遊びのようなものでござるよ」


 そう言いつつも声が嬉しそうですよ。

 なんかのほほんとした空気になってきた。ここ敵地ですよね。


「この程度でいい気になるな!」


「もういい。面倒なやつは」


「とりあえずぶった斬る!!」


 ヴァンの黄金剣と俺の拳が、蛇姉妹を断末魔すら許さず消し飛ばす。


「気色わりいやつらだったぜ」


「俺こういうの嫌い。めんどいし、まず気持ち悪いだろ」


「うむ、ちゃっちゃと次に行くのじゃ」


 こうして最深部まで浄化しながら進む。

 なんだか面倒な連中が多そうだな。手早く倒したいところだ。

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