第206話 帝国到着

 準備完了して早朝。帝国首都の隣町へ転移し、列車で移動。

 直接首都に飛ぶと怪しまれるからな。そして無事到着。


「……本当に寒いのな」


 寒い。夏なのにちょっと雪降ってやがる。

 冬よりましだけど、やっぱり寒い的な。

 上着着ててよかった。制服だけじゃしんどいかも。


「さーみいな。オレももっと厚着してくりゃよかったぜ」


「太陽神には好ましくないね」


 俺とヴァンとラーさんが街の視察。

 ヒメノとフリストにやた子が城付近の偵察。

 それ以外は宿で待機。あまり大人数で動いてもバレるからな。

 全員同じ宿だから、なにかあっても撃退できる戦力はあるはずだ。


「猛吹雪って感じじゃないのが救いだな」


 雪がぱらぱら降るだけ。今日は積もるほどの大雪じゃない。

 頑丈な石造りの家が並ぶ街を、三人で歩く。

 石畳の街がより気温を下げている気がしてくる。


「町の人間も活気があるわけでもないし、寂れているわけでもない。いまいち読み取れないね」


「軍事国家ってそういうものなのか?」


「それこそ国によるさ」


「なんか暖かいもんでもつまみながら行こうぜ」


「晩飯食えなくなるぞ」


「ちょっとだけさ。貝の串焼きとかどうだ?」


 暖かそうな串焼き屋がある。寒いからか繁盛しているようだ。


「どうせなら名産品食うぞ。視察が目的だから、店に入らなきゃ食えない鍋物はパスで、量があるものもやめとこう」


「そうだね、兵士の巡回模様なんかも見ておきたい」


「そいつらが敵だと面倒だな」


「確かにめんどくっせえ。事情を知らねえ人間は殺したくねえからな」


「敵に慈悲を与えるタイプか」


 ちょっと意外だ。なんでも殺すバトルジャンキーじゃないらしい。


「ホイホイなんでも殺すのはよくねえぜ」


「俺は敵以外は殺さない。手を出さないさ。ちょっと喧嘩売られた程度じゃ乗らないし。多少バカにされても我慢する」


「でもリリアたちに危害を加えるようなら?」


「皆殺しです。一族郎党例外なく。女子供も積極的に殺して見せしめにします」


 他愛のない話をしながら街を見て回る。

 貝の串焼きは結局買った。タレにちょっぴり生姜入っているのか、体が温まる。

 なんだよ美味いじゃないか。こりゃ晩飯も期待しておこう。


「兵士が普通に買い物しているな」


「治安維持のためには、悪い手段ではないね」


 厚手の軍服を着た連中が、規則正しく歩いている。

 暖かいコーヒーか何かを飲んでいる場面も見た。


「物語だと、兵士がでかい顔して、女に乱暴したり」


「ただで店のもん奪ったりすんだよな」


「ここの兵士はもっと規律を重んじているみたいだけれどね」


 軍服と同じマークの鎧を着込んだ連中がいる。

 黒い鎧で、重鎧よりは軽そうで、軽鎧よりは隠れる部分が多い。


「一緒に行動しているわけじゃないみたいだ。別働隊なのか?」


「あれは……あの禍々しい魔力は……アヌビスの不死兵団だ」


 ラーさんの声のトーンが落ちる。そこには怒りが込められている気がした。


「御大層な名前つけてやがんな」


「どういう連中なんです?」


「アヌビスは死を司る。そして、未来を予知するんだ。死の瞬間をね」


「不死兵団なのに死ぬのか?」


「正確に言えば不死身にしているんだ。たとえば五年先で死ぬ未来を予知する。そうしたら、アヌビスの神力により死の運命が確定する。つまり……五年後まで、絶対に死なない兵士が誕生するんだ」


「五年限定不死身の兵士ってか? イカレてやがるな。対策は?」


 ヴァンに完全同意。頭おかしいわ。頭のネジ外れるどころか、ネジの部分を米粒でくっつけてやがる。


「同じ神の力か、膨大な魔力で捻じ曲げる。もしくはアジュくんのような、運命を殺せる人が必要だ」


「俺が殺すって未来は予知できないのですか?」


「正確なビジョンじゃなく、何年の何日に死ぬというざっくりしたものなんだ。そして、鎧はそんなものすら無効にする。神の力で決められた運命すら、強引に書き換えるのさ」


「俺はそれでいいとして」


「私は太陽神だ。運命など光で覆す。ヴァンくんは……」


「ソニアと協力して、死の運命に生を与えるか。クラリスと協力して、より強い死を与えるかだな」


「正解。戦闘慣れしているみたいだね」


 まあ今回の潜入メンバーなら問題ないだろう。まず負けないし、いちいち相手をするのも……まてよ。死の運命しかわかってないんなら、殺さなきゃいいのでは。


「ん……? 殺さずに無力化すれば問題なかったりします?」


「……それもそうだね」


「なんつーか、オレら脳筋に近づいてんな」


「殺すのやめよう。俺たちは頭脳派だ。常識人なんだし」


「そうだね、策を巡らそうじゃないか」


「お、おう。知恵使っていこうぜ」


 作戦を変更。頭を使っていこう。人間の強さは知恵が回ることにある。


「不死兵団を普通に運用しているとは……一般人には兵士の一種とでもしているのかな? 異質な連中だと思うけれど」


「兵士にゃ普通でも、不死連中にゃちょいとビクついてる気がするぜ」


「扱いが違うのか。どう違うのか知りたいとこだが」


「ここは観察に止めよう。こちらが帝国に来ていることを、察知できないように動くんだ」


 隠密行動。いい響きだ。かっこいいじゃないか。

 そこで普通の兵士さんに声をかけられる。


「そこの君達」


 思わず三人とも止まってしまう。さてどう切り抜けるか。

 相手は五人。しかも町中。困ったもんだね。


「串焼きは美味しいが、ここは滑るぞ。歩きながら食べると危険だ」


「あ、どうも。気をつけます」


「オレら観光できたもんで、あんまその辺の常識がわかってないっつうか……帝国軍の人ですよね。お疲れ様です」


 なんかヴァンが話し始めた。よくわからん流れなので任せる。


「む、観光客か。夏の暑さに耐えきれなくなったかな」


「まあ、そのようなものです。海産物も美味しいと聞くので、つい貝の串焼きを」


 ラーさんも会話モード突入。俺は流れに身を任せるか。


「あちらの鎧の方々も軍の方ですか?」


「ああ、知らないのか。皇帝と宮廷魔術師のヌビスという男が作った部隊だよ」


「ヌビスさんですか」


 わっかりやすい偽名だこと。まあそれに反応したら危険人物と判断できる。

 その点じゃあ優れているのかも。


「日焼けした肌と、黒い髪の男だぜ」


「なんかやたらイケメンだけど、あの連中共々、ちょっと怖いんだよな」


「あんまり気軽に声かけねえほうがいいぞ。おれら帝国軍でも怖いんだからよ」


「滅多なこと言うもんじゃないぞお前ら。あの部隊が危険なことをすべて引き受けてくれるから、我らは安心して首都の見回りができるのだ」


「それ以外の仕事なんて、回ってこなくなりましたがね。しかも工場地帯はあいつらが警備してやがる」


 ほう、気になるじゃないのさ。詳しく聞いちゃおうぜ。


「以前は違ったんですか?」


「ああ、巡回ルートから外されたのさ。あいつらが大量にいる時は、ヌビスさんも視察に来る日だぜ」


「今までのパターンからして明日あたりだろうな。ま、一般兵士にゃ関係ねえ話さ」


「そして観光客に話すことでもないか。すまないな、愚痴聞かせて」


「いえいえ、いいんですよ」


「観光楽しんでな。おら巡回戻んぞ」


 兵士さんの評判はこんなもんか。

 こりゃ皇帝が関わっている可能性が高くなってきたな。


「ありがとうございました。皆様もお体にはお気をつけて」


「どうもありがとうございました」


「じゃ、オレたちゃ失礼します」


「気をつけてな」


 そそくさと退散。長話しているとボロが出るからな。


「そろそろ宿に戻りますか」


「そうだね。不死兵団も確認できたし、対策を練ろう」


「こりゃ面倒なことになってきたぜ」


「ああ、早けりゃ明日が決戦だな」


 もう今回の戦いでアヌビスとは決着をつけよう。

 こいつらのせいで俺の夏休みが持っていかれるのは阻止したい。

 邪魔な機関と神様ぶっ殺して、ヴァンの復讐を遂げさせる。

 まあなんとかなるだろ。いざとなれば、リリアたち三人だけでも守って敵殺そう。

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