第205話 みんなで作戦会議
卑弥呼さんのお宅で一泊して次の日。
昼に居間へ行き、全員集まっての作戦会議が始まった。
「結論から言います。アーマードールの工場が発見されました。帝国の内部に存在し、公には隠された区画で量産しています」
「それってやっていいのか?」
「ダメよ。そもそも管理機関はオルインに来ちゃいけないの。ましてや工場なんて論外よ」
「機関に報告というか、問い詰めたりする?」
「どうせそんな施設があることは知らなかったって言うわよ。最悪逃げられる」
「またどこかに工場が作られるだけじゃな」
「よってこっそり帝国ごと包囲し、首謀者を殲滅することにした」
ついに神々が重い腰を上げたらしい。重すぎるわ。
「流石に今回の騒動は目に余る。私と卑弥呼の家を壊そうとしたことも含めてね」
ラーさん激おこである。神様の信頼できる連中を集め、奇襲をかける作戦らしい。
「やっぱりボスは謎ね。ただし、機関の過激派を統括している神はわかったわ」
「おおー、アルヴィトさん凄い!」
「まあそれほどでもって感じね。その神の名はアヌビス。神界で指名手配となり、消息不明の逃亡生活。まさか人間界で暗躍しているとは思わなかったわ」
「我々はアヌビス討伐作戦を実行に移す。ヒメノ一派の協力もとりつけている。準備ができ次第、進行開始予定だ」
ヒメノは卑弥呼さんと友達らしいからな。
そりゃここまでやられりゃ怒るわ。
「恥を忍んでお願いします。どうか、あなたの力をお貸しください」
「全世界が決戦に備えて作り上げた、伝説の鎧。その適合者の協力があれば、制圧など容易いこと。どうか……我らに、お力添えを……代わりと言っては何だが、リリアとの交際を認めよう。報酬も山ほど出す」
二人に頭を下げられる。まあ行くことは決めているんだよ。
野放しにしていると、リリアたちを危険な目に合わせそうだしな。
「要相談なんですが、ちょいと条件つけてもいいですか?」
「条件……ですか?」
「相手の正体が完全に見えていない。だからこいつらに護衛を付けたい。それと、アヌビスを追っているやつがいまして。そいつら三人を突撃メンバーに入れたいんですよ」
「生半可な人間では死ぬだけだ。帝国を秘密裏に包囲するものと、潜入し、アヌビスを討伐する少数精鋭では危険度が違う。後者であれば死ににいくようなものだ」
「それを承知で後者に入れて欲しいんですよ。こっそり行ったらうるさそうですし。ここらで恩でも売ってやろうかと。一回会ってくれません?」
「会うって……そんな時間は」
「呼びに行ってもらっています。やた子」
どうせこことヒメノの家は繋がっている。
なので今朝、やた子に頼んで探してもらっておいた。
「はいはーい。うちが来たっすよ!」
「探してくれたか?」
「バッチリいたっす! 事情も説明したっすよ」
「上出来だ」
そして入ってくる、ヴァン・ソニア・クラリスの三人。
「お邪魔するぜ」
「お久しぶりね~元気だったかしら~」
「今回の件、こちらも同行させてもらうわ。嫌とは言わせないわよ、ラー」
「イシス。ネフティス。なぜ君達がここに……それにそちらの青年は?」
ソニアがイシスで、クラリスがネフティスだった気がする。多分。
うろ覚えですよ。だってよくわからんし。
「覚醒実験の生き残りって言えば通じるかい、神様?」
「君が……そうか、それは……」
「同情はいらない。ただアヌビスを殺す権利をくれ」
なんか込み入った事情があるっぽい。まあスルー安定だな。
「ラーが止めても行くわよ。それくらいわかっているでしょ?」
「ラーさんと知り合いなのか」
「簡単に言えば~同郷の神なのよ~」
神様率高いなここ。こんなぽんぽん出てくるもんかね。
「まあこいつらを連れて行くのと、リリア、シルフィ、イロハには護衛を付けてください。俺一人でカバーできるかわかりませんし」
「認めてもいいんじゃないかしら、ラー」
「卑弥呼? いやだが……これ以上人間を巻き込むのか」
「巻き込むって言うなら、アヌビスにもう巻き込まれた後なんだよ。頼むぜラーさん。オレの復讐は必ずやり遂げたい。ダメだって言われても帝国に行く」
少しばかりの沈黙の後、ラーさんは口を開いた。
「いいだろう。ただし、イシスとネフティスから離れないでくれ」
「わかった」
「心配しなくても~ヴァンから離れたりなんてしないわ~」
「そうね。一人で勝手に突っ走るもの。私たちがついてないとダメよ」
「うっせ、オレはガキか」
そんなわけでヴァンチーム加入。本格的な会議に入った。そしてまとめると。
・神とその仲間が帝国に潜入する。
・首都工業地帯の奥に秘密工場があるらしい。
・皇帝が関わっている可能性があるため、ヒメノ組が城を見張る。
・俺とヴァン達は工場へ突入組。
「正直お姫様に無茶させたくないんだよなあ」
「そのための護衛じゃろ?」
「ああ、コタロウさんに依頼しようかと」
コタロウさんは人間のレベルを超えているので戦力になるだろう。
そのへんのツテを総動員である。
「アスモさんとキアスもつける。とにかく生還第一だ。親玉は倒してくれるやつがいる。無茶する必要はない」
「その通り。きっちりはっきりカタをつけるぜ」
「ならば、アヌビスが工場に来る時を狙い、大規模な結界で覆う」
「その心は?」
「転送魔法で逃げられぬようにです。ラーと私も出ます。リリアと協力して、光の結界で隔離します」
「その間の護衛と、抵抗する管理機関がいた場合の排除をお願いする」
「そして中核にオレらが突っ込むっと」
なーるほどねえ。とにかくアヌビスを逃がさないように戦うわけか。
首謀者は必ず潰さないとな。ついでに機関も潰せりゃいいんだがね。
「帝国の関与具合によっては、国そのものが敵になるが」
「大丈夫ですよ。国ごときじゃ俺たちと対等に戦えません。数分の手間がかかるかどうかです」
たかが国だ。もう国家程度がどう頑張っても、戦力としてカウントはされない。
そんなしょぼい領域ではないのだ。神々の戦いは数ではない。質だ。
「なら細かい作戦はこちらで決めておく。好きにしていてくれ」
「準備もあるでしょう。なにか欲しいものはありますか?」
「欲しいものっていうか……呼び方統一しません?」
「呼び方?」
「ヒメノとソニアとクラリス。どっちで呼べばいいかわからんのですよ」
ほいほい偽名使いやがって。神にも都合があるんだろうけれど、めんどい。
「そうね、ソニアでいいわ」
「わたしもクラリスでいいわよ~統一しておきましょう~」
そんなわけで、ヒメノ、ソニア、クラリスで統一。
お前ら全員めんどくさいよ。
「では必要なものがあれば言ってください。防寒対策はしておきましょう。一応あっちも暖かいとはいえ、雪国ですから」
「はーい」
準備って言われても、防寒具以外は特になし。
鎧と鍵があればなんでもできるからな。必然、暇になるわけだ。
なんとなく家をウロウロし、適当な縁側でだらけている。
「こんなところでなにをしているの?」
「ソニアか。別に。だらだらしているだけだ」
「準備とかしないでいいの?」
「正確に言うとできん。帝国とかこっちの装備とか知らんから、俺を一番知っているリリアに任せた」
「そう、ならいいわ。ヴァンについて、話しておきたいことがあるの」
雰囲気から深刻な話だとわかる。声のトーンが沈みっぱなしだ。
「それはヴァンが話せと言ったのか?」
「いいえ。でも、アヌビスと戦うのなら知ることになるわ。だから……ヴァンの過去と、本当の名前を……」
「なら聞かねえ」
「でも……戦っているうちに知ることになるわよ」
「過去がどうだか知らんよ。別に俺達に関係しているとか、腐れ外道のクソ野郎じゃないんだろ?」
「違うわよ~ヴァンはずっと苦労してきたの~」
クラリスがいた。お前らは足音と気配を消すブームでもきてんのかよ。
「聞かなくてもいいの~? ヴァンはアジュくんを、お友達だと思っているみたいよ~?」
「あいにく、俺が知っているのは今のヴァン・マイウェイだけだ。だから偶然共闘することがあっても、俺と並ぶのは……俺の知っているヴァンだけだよ」
「そう~でも話を聞いて~ヴァンに変な同情や気を遣われると~ギクシャクするじゃな~い?」
「あいつ以外からは聞く気がない。俺は俺の敵を潰す。それでいい。その程度で俺たちは負けないさ。なんとなく事件に巻き込まれて、神様ぶっ殺すのもいつものことだ」
「いつもそんなことを……?」
「どうも妙な縁があるらしくてな。ま、そんなわけだ。心配ならお前らがヴァンから離れなければいい。そう言われてんだろ」
そろそろ準備も終わるだろうし、特殊装備でもあるといけない。
リリアに聞きに行って、さっさと寝ちまおうかな。
「わかったわ。そっちも気をつけて」
「みんなで生きて帰りましょうね~」
「あいよ。任せな」
帝国に行ったらどうなるかわからんし、今のうちに平和を満喫しましょうかね。
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