第208話 愉快な敵のみなさま

 探索は順調といえば順調だった。次の部屋でも敵は出たけど。


「我らはアヌビス様によって蘇りしファラオ」


 エジプト風の衣装に豪華な貴金属を付けた、なんか偉そうな二人組。

 どっちも筋肉のあるタイプだ。金角の右腕には、包帯がびっしり巻かれている。


「おぉ、そういやこういうやつもいるんだよな」


「機械ばかりで忘れておったのう」


「本来アヌビスは~こういう系よね~」


 そうそう、最初はスフィンクスとか出たっけな。なんか懐かしいわ。


「我が名は銀角!」


「我は金角!」


「ファラオにつける名前じゃねえだろ」


 ネーミングセンスどうなってんだよ。誰のセンスだ。


「ぬかせ、ゴールデンアーム!」


 金角の右腕が膨れ上がり、包帯を破いて金ピカの腕が現れる。

 腕だけで本人の倍くらいあるんだけれど、どうやってんのそれ。


「おぉ……なんと趣味の悪い金ピカじゃ」


「この黄金の腕は山をも砕く!」


「ほー、マジで金でできてやがる。贅沢だねえファラオってのは」


 興味が湧いたので、光速移動してもぎ取ってみた。

 重いな。鎧の知識で調べると純金らしい。贅沢ものめ。


「な……腕が!? 腕がああああぁぁぁ!?」


「兄者ああぁぁ!!」


 兄弟なんかい。知りたくもない知識が増えたぜ。


「ロケットお前のパーンチ」


 もぎ取った右腕に魔力を込めて、金角めがけてぶん投げる。


「ぬばあふ!?」


 膝から上をごっそりふっ飛ばされて無事死亡。硬いのは腕だけだったようだ。


「自分の拳に殺されるとは、哀れなやつだ。どうよ、今のはなかなか独創性のある攻撃だったろ?」


「うむ、結構面白かったのじゃ」


「駄目よリリア。この調子だと、どんどん敵で遊び始めるわよ」


「そうだねー。もうちょっとさくっと倒していいんじゃない?」


「教育方針の違いじゃな」


 なにやら俺の教育方針とやらで会議が始まりそう。アホなのか。


「一応奇襲かけてるからな。オレたちが長居しちゃいけないんだぜ?」


 銀角はヴァンとソニアが処理しました。敵がいまだかつて無いほど弱いぞ。


「あーそうか、時間かけ過ぎは目的から外れるな」


「私たちはアヌビスを討伐するのよ」


「そうね~急ぎましょうか~」


 そうやって次の部屋へ。なんとなくわかってきた。

 この施設、単なる工場じゃない。

 蛇の姉妹とか、金角銀角みたいなアヌビスの仲間の隠れ家なんだ。


「仲間を隔離して、戦力の充実を図るのだね」


「侵入者が現れると、ガードマンの役割も果たす。便利ね」


「にしちゃあ弱すぎる。なんかの罠かもな」


 次の部屋には男が一人。スーツ着てる。ヒゲもある。白髪だ。執事かな。


「ようこそ、そしてそこの鎧のお前、よくも我らの同胞を殺したな」


「そういう意識はあるんだな」


「蛇の化物相手に仲間なんて意識があるとは、驚きでござるなあ」


「巨大な狼と結婚したご先祖様が言うことではない気がします」


「はっはっは、これは一本取られたでござる」


 人間形態になれるとはいえ、神話クラスの狼と結婚できるコタロウさんは凄い。

 懐が広すぎるだろう。いや、広いのは守備範囲かも。


「人間形態が物凄く美しかったので、それが決め手にも近いでござるよ。獣と交わる趣味はないでござる」


「なんの話をしているか知らんが、ここまでの敵を殺した貴様らの負けだ! まんまと罠にかかりおって!」


「あ、やっぱり罠だったみたいだよ。どうしよっか?」


「ステンノや金角はこの施設でも上位だ。それを殺してくるということは、相当消耗しているだろう? そこで、もし生き返ったらどうなるか!」


「上位だったんかい」


 だだっ広い部屋に、金角やステンノが現れる。

 そこにはなんかヴェルダンディもいた。


「え、なんでヴェルいんの?」


「質問に答えてやろう。親切心でな! 貴様の殺した相手を、我が能力で実体化させているのだ!」


「つまり偽物だろ」


 どこか人形のような、不安定な顔だ。しかもうめき声を上げていてキモい。


「我が意のままに動く。そして一定時間ごとに増え、殺した相手への罪悪感が増す。その罪悪感により、こいつらはどこまでも強くなる!」


「なんという全くもって意味のない能力じゃ」


「なに生き返ってんだよキモいな。うざいからもう一回死んどけ」


 拳の風圧で、やっかいなヴェルから破裂させる。

 必然能力は俺じゃないとうざいだろう。

 このへんの気配りが人気の秘訣へと……繋がらないのが俺という男だ。


「あれ? なんかしょぼいぞ。ヴェルはもうちょい強かったし、必然とか使ってこないし、おい超弱いぞ」


「バカな……なぜあっさり倒せる! 貴様が殺した相手だぞ! それが呻きながら襲ってくるのだ! 恐怖や罪悪感で胸を痛めるのが人間であろう!」


「卑屈と外道をミキサーで混ぜ、片栗粉でとろみと粘着質をつけたこやつに、罪悪感などあるはずないじゃろ」


「かつてないほどボロクソ言ってません?」


「例え人間の女子供でも、自分に襲い掛かってきた、難癖をつけてきた敵に慈悲はない。悪人である。それが彼の理屈よ。罪悪感や良心など湧くはずがないわ」


「ぬうぅ、想定外だ。だが消耗していることは事実だろう! このまま数で……」


「うっさい死ね」


 手刀で全員細切れにしてやる。切ってわかった。こいつら単なる幻影だ。

 だからヴェルまでしか出てこない。自分の仲間を映していただけ。


「そんな……我が幻影ストレス殺法が……ぬふう」


「名前ダサいな」


 ここまで雑魚しかいない。こそこそ隠れているから、大物が集まらないんだろう。


「次が実際にアーマードールを作っている場所だ。気合い入れていくよ」


「工場見学ってさ、そこの作ってるもんくれたりするんだろ?」


「アーマードール欲しいのじゃな」


 ロボはロマンがある。一機くらいくれてもいい気がしますよ。


「気合を入れろと言われたでしょう」


「入れるから持ち帰ってもいい? 黒く塗ってさ」


「黒が好きか」


「夜に目立たないだろ。ヴァンならどうする?」


「オレなら赤く塗るな」


 緊張感がない。でもそれは敵が弱いから。敵が悪い。

 だってヴェルクラスがごろごろいると思うじゃないか。


「よく来たな。我は正義を執行するもの。ジャスティスフィンクス」


 ベルトコンベアーとかある超広い、ザ・工場! ってな具合の場所に、不釣り合いな獣。前に見たスフィンクスの倍以上デカいな。


「我らが王、アヌビス様の計画を邪魔する悪しき俗物よ。人の身で我が王を討つなど、忌々しい」


「知るかよ。オレはあいつを殺すためにここにいる」


「私怨か。復讐にかられ、己を見失ったものに加担する貴様らも同罪だ」


「悪の権化がなんか言っておるのじゃ」


「鎧の男よ」


「ん? 俺か?」


 なんかご指名された。偉そうにしやがって。

 ハスキーボイスが、偉そう度五割増しにしてやがる。


「その圧倒的な力、見事である。ともにアヌビス様に仕える気はないか? あのお方のため、その力を正しきことに使うのだ」


「いや、正しさとかどうでもいいんでパスで。俺はこいつの付き添いだよ」


「ご迷惑をおかけして申し訳ないねえ」


「いやはやまったく。肉くらい奢って欲しいもんだよ」


 成り行きと、その場のテンションで参加しちゃっただけだし。

 あとで肉でも奢ってもらおう。


「アヌビスは非人道的な研究をして、神界で指名手配されているのよ」


「それがどうした。あの方こそ絶対的な正義だ」


「洗脳されてんのか?」


「そういう生物だよ。そう作られている」


 便利な手足として使えるな。部下ってこういうヤツの方が楽そう。


「別にお前が正しくても知った事か。なんか気に入らない。邪魔だし」


「一番危険なの、アジュくんなんじゃ……」


「それを考えると危険な領域にいくからやめるのじゃ」


 誰かの下につくとめんどい。適当にだらだらとスローライフでお願いしたい。


「ふざける余裕があるか。正義のヒーロー気取りかと思えば、それすらも感じられん」


「はっ、そんなもんと一緒にすんな。俺は俺だけの味方だ」


「アヌビス様の実験を知り、義憤にかられたわけではないと? 助けられる存在を、どこかで苦しむ誰かを助けられぬことに、迷い悩むのが人の道であろう?」


 なんか気持ち悪いこと言い出したよ。こいつ発言ブレてないかな。


「なんで助けたり、助けなかったりで悩むんだよ。んなもん気分でいいだろ」


「お前の倫理観がわかんねえ」


「他人に同意を求めていないしな。説明もだるい。話すようなことか?」


 別に俺は殺人鬼じゃない。戦闘も嫌いだし、争いごとに自分から介入しようとも思わない。無闇に一般人を殺そうとしているわけでもないし。

 単純に敵を潰しているだけだ。シンプルでわかりやすいだろうに。


「俺は無関係なやつを助けない。俺を助けてくれるヒーローはいなかった。それなのに俺によって助けられる誰かがいるなんて不公平だろ? そいつだけは願えば助けてもらえるなんて虫が良すぎる」


「そんなんでギルメンを助けた理由が聞きたいねえ?」


 いかんな。この流れはいかんですよ。話題を変えなきゃ、話さないとダメになる。


「聞きたいです!」


「そうね、そこは大切だから聞きましょう」


「うむ、大切じゃな」


「ほらもう興味持たれちゃったじゃん。どうすんのさ」


 なぜこの場で話さねばならん。どんな羞恥プレイよ。


「もう全部お前のせいだぞ犬」


「その行いに正義はないと判断する。有罪だ。消えよ」


 スフィンクスの身体から機械の腕が飛びだし、体積が増えていく。

 生身の体を強引に機械で引き伸ばしているようで、血しぶきも飛ぶ。グロい。

 驚くほどのデカさだ。二百メートル以上ある部屋が狭く感じるよ。


「自身を機械化したのか……狂った研究だ。その力、制御できていないね?」


「うえぇ……気持ち悪いし痛そう」


「制御など必要ない。痛みも感じぬ。貴様らを排除するまで止まらんぞ」


 これはチャンスだ。言わなくてもすみそう。よくやったぞ犬。

 アーマードールが山ほど出てきたし、これは戦闘が始まるな。


「よし、気合い入れていくぞ。戦闘だ。切り替えていこう」


「露骨にごまかしてるね」


「ご先祖様として、アジュくんの答えが聞きかったんだけれどね」


「では、戦いながら聞きましょうか。せめてリリアを守っている理由だけでも、お願いしますね」


 蒸し返されました。卑弥呼さんが目を輝かせている。

 だが今日の俺は一味違うぜ。アーマードールをわしづかみにし、左右に引き裂く。

 当然爆発するので、そのスキに言ってしまえばいい。


「リリアは俺に力をくれた。ずっと昔に約束もした。俺とこいつらのためなら、どんな敵が来てもぶっ飛ばすし、邪魔するやつは国だろうが神だろうがヒーローだろうが潰す。俺の原点はそこだ。それだけ」


 爆発を連鎖させながら喋ったので、聞こえていない。でも言ったから作戦だ。 


「はい、言った。聞き取れないのはそっちの責任だからな」


 一番大きな爆発の途中に言ったので俺の勝ちだ。

 ふっふっふ、俺の小賢しさを甘く見たのが運の尽きよ。


「あーなんというかのう……まあおぬしらしい、か」


「リリアだけ理由を言ってもらうのはずるいと思います!」


「そうね、ちゃんと私たちについても説明して欲しいわ」


「……なぜ聞き取れる?」


「甘いのう……もうそういう次元ではないのじゃよ」


 聞こうと思えば、魔法でも影の通話でもやりようはあるらしい。

 戦いに集中させてから言うべきだったか。


「とりあえず……全部犬が悪い! くたばれボケ!」


「ぬがっはあっ!?」


 顔に蹴りを入れて、部屋の端まで追い詰めた。

 ようし八つ当たりしてやる。なにがジャスティスフィンクスだ。

 躾のなっていない犬には、お仕置きが必要だな。

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