第209話 正義の番犬 ジャスティスフィンクス
正義の番犬、ジャスティスフィンクスを倒そう。
「正義ってなんだろうな」
「おぬしには無縁のものじゃよ」
「そりゃよかった」
「さあゆけ、不死兵団よ」
黒い鎧の集団が乱入。そういやいましたねそんなやつ。
「いや……言っちゃ何だがよ……いまさら兵士なんぞでオレたちの相手は務まらねえだろ」
「どうかな? やれ!」
そこそこの脚力で迫る兵士さん一同。
いやいや、音速行動すらできないくせに、なんで戦力に加えたんだよ。
完全に足手まといだろこいつら。
「恨むなよ。全力斬り……軽め!」
ヴァンに斬撃により、鎧ごと両断される兵士さん。全身よりで顔も見えず、うめき声すら無い。本当に人間かこいつら。
「全力なのに軽めって、意味わからんぞヴァン」
「いいんだよ軽い感じなんだから」
軽めだったのがいけないのか、両断された上半身から砂が吹き出ている。
そして下半身とゆっくり融合してくっつく。
「えぇ……もう人間じゃなくね? 中の人どうなってんのさ?」
「なにをしようと死なぬ兵だぞ? それはどんな生物実験にも耐え、砂や機械と融合させても成功するということ。違うかね?」
「ほほう、えげつないでござるな」
「ただ死んでいないだけの兵ということですか。人の命を何だと思っているのです」
ただ斬り殺すだけじゃ死なない。それは知っていたが、そこまで無茶するか。
完全に狂っている。やはりアヌビスはここで殺しておかなきゃいけない。
「命は貴重だ。だから死なぬ兵とし、アヌビス様の私兵という、最大の栄誉をくれてやっているのだ」
「もう正義どこいったんだよ」
「正義の使者とは、己の身を捧げ、世界のために尽くすもの。ならば、アヌビス様という絶対正義に身を捧げるのは当然だ。光栄に思うのだな」
「気に入らないね。私たちは……神々は人とともにある。だが、人がどう生きるか、それを決めるのは人だ」
「正しき道へと導いてやるのも神の役目であろう?」
「人を導くものは人でなければならない。神はただ、それを見守り、ともにあるだけだ!」
ラーさんが声を張り上げる。神の在り方というのもそれぞれなのだろう。
こっち側の神は、人間を見守るか、身分を隠して共存の道を歩む。
人それぞれ。神もそれぞれだな。
「くっちゃべってる余裕があんのか? 全員に勝てる自信はどっから来る?」
「不死の兵。そして我が力は今も上がり続けている。既に加護により神の領域だ」
やつの身体から、何本も大きな機械式の腕が飛び出ている。
先端にチェーンソーとかレーザー砲がついていますね。
うわあスフィンクスの外見と合わねえ。
「残念だが、俺らは不死なんぞどうとでもなるのさ」
適当なやつを見つけてぶん殴る。鎧も中身も粉々に破裂し、二度と戻らない。
「ま、こんな感じだよ。不老不死程度でどうにかなる領域はとっくに終わっている」
「ならば数で上回り続けるのみ」
「典型的な雑魚の台詞じゃな」
「そうね~神の戦いは~数じゃなくて個の質よ~」
全員で不死兵団とアーマードールを蹴散らしていく。
個が弱いともうどうにもならない。
数で勝てるのは、しょぼい人間の戦争まで。
「一気にいくぜ、来い! ソニア!」
「任せなさい!」
ヴァンとソニアが融合し、ヴァニアの完成であった。
黒マントと赤の鎧に金の装飾。なんかグレードアップしている気がする。
今回は抱きつくだけで変身。人目を気にするタイプだからな。
「神化融合……そうか、貴様が逃げ出した唯一の成功例」
「事情を知っているみてえだな」
「我もアヌビス様とともに、貴様の家系で行われた研究に参加していた」
やはり何かの実験に巻き込まれていたらしい。
ヴァンから吹き出す魔力が、怒りに包まれている。
「てめえもか……なら、ここでぶっ殺す!!」
恨みの全てをぶつけるように、スフィンクスへ肉薄し、黄金の剣が色を変える。
赤い炎が凝縮され、真紅に染まった大剣は、スフィンクスから伸びた巨大なアームを切断した。
「ぬうぅ……なぜここまでの力を……神の器として覚醒したというのか」
「くたばれオラア!!」
鬼気迫る勢いで殴打を繰り返すヴァン。
しかし、スフィンクスだけに目が行っているのか、上から迫る兵士に気付いていない。
なんか背中にジェット噴射装置積んでるんだけど……すげえマヌケっぽい。
「頭に血が上りすぎってやつだな」
まとめて蹴り飛ばす。粉々にしたが、砂が出たり血が出たり、なんか水? が出ているものまで多種多様。実験って一個じゃないのな。
「すまねえ」
「気にすんな。あっちもそろそろ終わる」
周囲を浄化しながらも、ラーさんと卑弥呼さんは強い。
細い光が敵に触れた瞬間焼き尽くす。これはまあ太陽神だしわかる。
卑弥呼さんが軽く指を振ると、敵が何十体も浄化されて消えるのだ。
「なるほど、あいつのご先祖様だけある。規格外だ」
曖昧魔法は、卑弥呼さんの時代でほぼ完成していたんだそうな。
マジで魔力量が頭おかしい。極大量の超精密操作を一瞬で行っている。
視線に気づいたのか、二人が軽く手を振ってきた。にこやかだな。戦闘中なのに。
「ほれほれ、ぼーっとしてないでそっちを倒すのじゃ」
「悪い悪い」
心配ないな。あっちはあっちでやれるだろう。
「色々事情があるみたいだがな。こっちも夏休みを消費してんだよ。さっさとヴァンに負けちまえ」
「事情か……貴様、知りたくはないか? この男がどんな実験に使われたのかを。その悲惨な末路を!」
「別に」
「流石に即答されるとは思わなかったぜ。スフィンクス固まっちまったぞ」
こちらを見つめるスフィンクスさん。お口が空いていますよ。餌の時間かな。
「二人だけの秘密とか、誰にも言ってはいけない話とかってさ。聞いていないのと同じだろ?」
「どういうことだ?」
「誰にも話せない。しかもうっかり喋らないように、気をつけて生活しなきゃいけない。なら聞いていないのと同じ。むしろ聞かないほうが楽できるだろ」
「個性あふれる理由だな」
「アジュはそういうやつじゃよ。絶対に本人以外から聞かぬ」
「友人に起きたことを、本人が話さぬからと無視して過ごすと?」
「おう。それで離れていくなら、離れりゃいいさ」
めんどい。俺はリリアたち三人で手一杯だよ。
他のやつは他のやつで勝手に解決しろ。
「どうしてもってんなら依頼形式にしてくれ。そうすりゃ受け付ける。俺の邪魔なら解決もする。それだけ」
「いいね。シンプルでいい。別に同情がほしいわけじゃねえしな」
「そんなわけで、お喋りで躾のなっていないワンちゃんは」
俺とヴァンの拳に魔力が集まる。無駄な問答に時間をかけるの嫌い。
ここで完全に消えてもらおう。
「とっととあの世に行きやがれっ!!」
「させん! せめて貴様だけでも道連れにぶぼげ!?」
二人の拳で、自称正義の番犬は破裂し、奥の壁もろとも消滅した。
工場自体が激しく揺れている。ちょっと加減間違ったかな。
「番犬が死んでも機械と兵士は動くのか」
「アヌビスの野郎だな」
「やれやれじゃな。ここはわしらに任せるのじゃ」
俺とヴァンを先に、正確にはソニアと融合しているので、三人を行かせる作戦だ。
「行ってくる」
「頑張ってねアジュ!」
「こちらは任せて」
通信機持ちもいるし、なにかあっても俺なら即駆けつける。問題はない。
「ここを浄化したら追った方がいいのかい?」
「……通信だけ繋いでおいてくれ。できれば、決着はオレがつけたいんだ」
「わかった。君にはその権利がある。そして、すまなかった。我々はアヌビスを止められず、君のような人間を増やしてしまった」
「悪いのはあの犬野郎だ。そこだけははっきりさせとくぜ。サンキュー神様」
「んじゃ行くか」
未だ増え続ける敵を振り払い、二人で奥の通路へと走る。
「通路が無駄に長いな」
「無駄ついでに無駄話なんかどうだい?」
「話せることないぞ」
「オレの過去の話、とかな。聞かせたくなった」
「好きにしろ」
どうせ走るのは一緒だ。なら少しペースを緩めて、無駄話でもなんでもしてやろう。
復讐をきっちり終わらせるため、心の中をすっきりしたいんだろうし。
きっつい話なら忘れてやればいい。それだけだ。
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