ヤルダバオトの人生相談

 なにやら二人きりで戦闘を挑まれています。

 神殿のような内装だし、塔の最上階だし、こいつは神の力を溢れさせているしでもうラスボス感が半端ないね。


「今日はもう疲れたんですが……」


「いいじゃないか。久しぶりに本気で戦えそうな相手なんだ。神界と学園長の許可もある」


「強引に取ってないでしょうね……」


「……君に対してちょっと強引過ぎたかな。普通にお願いしたよ。敵対したいわけじゃないんだ」


 ちょっと申し訳無さそうな顔だ。

 なんだろう善人とも悪人ともつかないというか。

 紳士っぽいんだけど、どこか子供っぽさもあるな。

 完全にイケメン好青年な見た目なのに。


「僕も本気を出す。ストレス発散といこう。君も慣れない生活を続け、慣れない土地で疲れもするだろう」


「ええまあ……なんとかやれていますよ、あいつらのおかげで」


「それはなにより。こっちはシャルが意外と自由奔放で天然だからね。苦労が耐えないのさ」


 なんか色々あるらしい。

 言っていたらヤルダバオトの髪がどんどん伸び、瞳が紅い輝きを放つ。


「さあ、始めようか!」


『ヒーロー!』


 鎧を装着した瞬間、無数の拳がはっきり見えた。


「加減をしろ加減を!」


 かわし、反らし、いなし、はたき落として距離を取る。

 一撃一撃が星を破壊できる威力だ。

 塔ぶっ壊れちゃいました。

 外は完全なる草原。外まで再現する気がなかったのね。


「まあこの程度はできるよね」


「できなかったらどうするつもりですか」


「ちゃんと見極めている。アマテラスと戦えるのだろう? 最上級神を倒せる力だ。どうとでもなるさ」


「ヒメ……あいつ有名なんですか?」


「ああ、その勝手気ままな性格も手伝ってね」


 すげえ迷惑かけてそうだな。

 できれば関わりたくないといった表情だ。


「なんか無駄に好かれているのですが、心当たりとかあります? 俺を何かに利用するつもりとか」


「さあ? 男に執着しているところを見たことはないね。一応警戒だけしておくことをおすすめするよ」


「わかりました」


 会話しながら光速を突破。

 多分光速の五十倍くらいかな。

 格闘戦ができるタイプらしく、これで打ち合っても死なない。

 もうちょい本気出すか。


「剣も試してみようか」


 金色の髪がやつの右腕に絡みつき、一本の剣へと変わっていく。

 そういうこともできるのか。便利だな。


『ソード』


 リクエストにお答えして斬っていこう。

 腕は無視して、髪の剣だけをカットしていく。


「やるね。神格のある剣だというのに」


 やはり無限に生えてくるもんらしい。

 しばし剣で戯れる。


「神って格というか……魔力なんだけど別種? っぽい妙なもんありますよね」


「あるけど気にしなくていいよ。神が魔力を使うとこうとか、そんな認識でいい。魔力を極めた結果だったり、細分化するとややこしくて面倒だ。君は感じたままに使うといい」


「下手に定義すると種類が増えて、管理もめんどいわけですね」


「その通り。さて、さらに本気でいってみようか」


 ここで光速の八千倍に到達。

 一撃で銀河がぶっ飛ぶ衝撃を、一瞬で億から兆くらいぶつけ合う。

 頑丈だなこの人。いや人じゃないだろ。


「神様ですよね?」


「一応ね。ついでだ、敬語もいらないよ。君を気に入った」


「はあ……どうも」


 外見上二個か三個くらい年上っぽかったけれど、神ってことは相当上なんだろうなあ。急に無しでって言われても困るわ。


「ではここから敬語禁止で話しながら戦おう」


「いい……けどさ」


 この人っていうか神様強いな。

 俺の攻撃を的確に捌くし、戦闘スタイルを変えるとすぐ適応してくる。

 単純に、純粋に強い。神様としては珍しい気がするぞ。


「素晴らしい力だ。この力を何のために使いたい?」


「自分と、あいつらのためだな」


「他に夢や希望、野望なんかがあれば聞くよ」


 光速の三十万倍くらいまで速くなり、もう宇宙とか消滅するレベルの殴り合いなのに、お互い平然と会話している。

 なんか人生相談始まりそうですよ。


「特に何も。四人でのんびり生きて、危ない時にでも使えばいいかなと」


「無欲……という感じでもないね」


「俺自身の平穏に、あいつらが混ざる感じかな。それ以上はまあ……この世界が面白いし、暮らしていけば楽しいだろ」


 他のやつは勝手に生きて勝手に死ね。

 俺には関係ない。邪魔さえしなけりゃいいよ。


「その圧倒的な力があれば、世界から悪人を消していけると思わないかい?」


「邪魔してくるやつは消しているよ」


「そうじゃない。そこまで強いんだ。戦い続け、悪を消し、人間の在り方をより良くできるかも知れない。人が変わるためのきっかけかも、とね」


「人間は変わらんさ。変わらなきゃいけない理由もわからん」


 こいつも神だ。なんか崇高な目的や使命とかあんのかもな。


「この世界は異世界の中でも格段に平和だろう。だがそれでも平和を乱す悪がいる。管理機関という害悪がいれば、加担する邪神もいる。悪人はゼロにはならない」


「知らんよ。ならそれが人間の本質さ。ごく少数が善人になる。あとは凡人か悪人が大半だよ。善人ってのは、何かしら強い力があるやつしかなれないからな」


「人類に対する諦念。善でも悪でもなく、どちらにも興味を示さない。ただ自分と周囲の平穏だけを望み、他人への執着も関心もなし。なるほど、葛ノ葉の一存で通るものか疑問だったが、条件としては悪くないのか」


 なんかわけわからんこと言い出しましたよ。

 話聞かないし、勝手に納得するしでよくわからんなもう。


「よーわからん。生きていくには便利だし、鎧と剣には感謝しているさ」


「だがその力は異常だ。僕はこれでも破壊と創造を司る、古くて上級な神でね。人間が雑談しながら戦える存在ではないんだよ」


「なんとなーくわかるよ」


 実際強いし、破壊と創造を言われれば納得もする。

 殴っても即座に再生……じゃないな。なんか新しい肉体になってるような。

 不思議なやつだ。普通に戦えば厄介だろう。


「概念だろうと神だろうと、破壊の力で押し潰し」


 破壊という現象そのものが俺を襲う。

 鎧から魔力を放出し、目の前に迫る破壊を破壊してやる。

 こんなもん殴れば消せる。


「新たな力や体を創造できる」


 ダメージがないんじゃない。ダメージを受けるという結果を破壊し、それでも傷ついた部分を創造で新しく作っている。

 それを光速を超えた戦闘でやり続けているんだ。

 正しく化物だな。神の力であると身にしみる。


「そんな僕を追い込みつつある。最上級神に数えられるかも知れない気がする僕をだ」


 拳をぶつけ合う。俺が殴り壊した部分が更に強化されて復活。

 さらに破壊の神格を上げてきやがる。

 どんな能力も破壊されるし、相手と同じ力を創造できるのだろう。

 鎧と剣が特別だからコピーできないだけだな。


「本当に意味わからん力だな鎧」


「ああ、神の僕にも複製できないし、鎧の力を破壊できない。最早君に害をなす能力など、どんな異世界にも存在しないだろう。そこまで強くなってしまった人間は、もう人の輪には戻れないよ?」


「入っていた記憶が無いな」


「えぇ……」


 その輪っていうのは俺とは無関係に存在するものだ。

 人の中に混ざろうと思ったこともない。興味もない。


「俺は四人でいられれば満足だ。そのためだけに使えば、徹底的に望む暮らしができるだろう?」


「小さな目的のために、莫大な力をすべて使う。確かに強固な幸福となるだろう。世界の目的もいくつかは達成できる」


「目的?」


「リーディア・ブレイブソウルに言われなかったかい? 達人、できれば勇者科の女性と子をなし、さらに世界に達人を増やす。まあ君が考えているよりもずっと世界は複雑だ」


 リリアと学園長にも言われたな。

 案内人は俺のために作られた制度じゃない。

 それはヤルダバオトがいる時点で確定している。


「そいつは今すぐ叶えなきゃいけないもんかい?」


「いいや、ゆっくりでいいよ。何の素質にも目覚めず、ろくすっぽ強くもない女性と子作りされても困る。どっちにしろ鎧はもう君に馴染みきっている。奪うこともできないし、仮に体を入れ替える魔法を使っても、精神にくっついていくだろう」


「もらっちまっていいなら使っていくさ」


「いいんじゃないかな。本来その鎧と剣は、鍵の束とは無関係だからね」


 なんとなく気づいていた。

 案内人であるリリアが俺を選んだこと。

 剣と鎧が作られたこと。

 腕輪についた宝石と鍵の束。

 これらは全部別の案件が複雑に絡み合っている。


「詳しく聞いておく必要があるか」


「今僕の口から告げるのは簡単だ。けれど、君がリリア君と話す機会を失ってしまう。だからゆっくり知っていけばいい。気が向いたら協力してくれると助かるよ」


「わかった。そんじゃぼちぼち終わらせるか」


『シャイニングブラスター!!』


 距離をとって必殺技発動。

 右手に集まる膨大な魔力を制御し、一直線に突っ込ませる。


「お相手しよう」


 白と黒の力が混ざり、無色の事象だけが渦となって迫る。

 まともに撃ち合い、中央でぶつかった力は、ちょいと本気にさせてくれる威力だ。


「波動のぶつかり合いって、なーんかかっこいいよな」


「ああ、ロマンがあるね。だがそのロマン、打ち砕く!」


 終わらない破壊と創造の螺旋。

 その力がさらに跳ね上がり、わずかだが俺が押し戻された。


「んじゃそれを打ち砕く! オラアァァ!!」


 結構高めに魔力を圧縮し、両手から発射。

 待機が震え、世界が揺れ続け、徐々にヤルダバオトへと押していく。


「お見事。これからDランクとして頑張ってくれたまえ」


 ヤルダバオトを飲み込み、本日一番の大爆発が巻き起こる。

 そこで世界にヒビが入り、ぱきっという音とともに崩れ始めた。


「うーわやっちまった」


「ちょっと熱中しすぎてしまったか。まあどの道消す世界だ。さっさと帰ろう」


 ヤルダバオトにささっと世界を破壊してもらい、三人が待つ本物のオルインへ帰還。

 いつの間にかシャルロット先生もいる。


「お疲れ様。そして合格おめでとう。みんなDランクよ」


「ここは僕に任せてくれって言ったじゃないか」


「そう言ってやりすぎるでしょうが……だから迎えに来たのよ」


 やりすぎていましたね。しっかし強かったな。

 余力があるのは理解できたし、上級神ってこんなのばっかりかよ。


「それじゃあ失礼するよ。ギルドメンバーと仲良くね」


「ああ、おつかれ。なんとかやっていくよ」


 そして転移魔法で家まで送ってもらった。

 戦い続けてもう夕方である。今週はもう戦闘とかしたくないです。


「腹減ったな……」


「ミナさんが合格祝いを用意してくれているわよ」


「おかえりなさいませ。お疲れでしょう。すぐお食事になさいます?」


「お願いします」


 そんなこんなで豪勢な飯を食う。

 最初はどうなることかと思ったが、無事全員合格。

 これで一安心だ。


「はいじゃあみんな合格おめでとうー!」


「おう、みんなおつかれ」


 今日くらい素直に喜んでおこう。

 これからのことは、あとでリリアにでも聞けばいい。

 今は飯食って、合格を祝うだけさ。

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