新しい武器について考えよう

 トーナメントが終わって次の日の昼。

 アンジェラ先輩の店で飯食いながら、剣について考える。


「どうしたもんかね」


 ギルメンとももっちがいるので、なんとかなりそうなもんだが。


「素直に持って行って、直してもらえばよいじゃろ」


「魔法と鍵で直らんかね」


「そういう横着をしてはいかんのじゃ。似たようなことがあればまた折れる」


「っていうか直せるなら私のだけ直してよあじゅにゃん」


「国宝戻したら無駄に噂になるからやだ」


 まだ鍵は使っていないものや、未知のものがある。

 だから直るかもしれんし、リバイブで蘇生可能かもしれない。

 けどどうせなら専門職に任せる。もしくは学園を探索する。


「ちゃんと直る保証もないぞ。やめとけ」


「学園探索でもして、外に出るのじゃ」


「結構やっているはずだ」


 学園はアホほど広いから、適当に歩き回るだけで楽しいのだ。

 なんとか俺を外出させたいんだろうが、実はふらふらしている時間も多い。


「作ってくれたのはホノリだし、ホノリに聞くか?」


「ほのちゃんならなんとかしてくれる!」


「あんまり無茶させるでないぞ。同じ一年じゃ。万能ではないからのう」


「わかっているさ。ホノリってどこにいる?」


「今は他の子たちとチームで動いてるよ」


 課題のためのチームらしい。そういうのあるのか。

 完全に個人で動くタイプじゃないから、まあ納得。


「鍛冶科の女の子チームでなんかやってるんだって」


「いーやー……行きたくない。女の多いとこ嫌い」


「今も変わらんじゃろ」


「これで限界だよ。これ以上増えないでくれ」


 俺の女嫌いは治らない。折れた剣より直らない。

 仕方ないね。諦めてくれ。


「どうするの? 克服のために連れて行く?」


「あんまり女の子が増えると大変だよ?」


 話の焦点が俺を連れて行くかどうかになっている。

 正直行きたくないが、鍛冶関係の知り合いがホノリしかいない。


「あっ、ほのちゃんはっけーん!」


 ホノリと他三名の女が店に入ってきた。


「偶然にしてもおかしいだろ」


「最近ここ評判だからねー。料理バトルで劇的勝利を飾ったお店って」


 あれ集客に繋がってんのか。どうりで俺らに毎日昼飯食わせても嫌な顔もしないわけだ。いや正当な報酬なんだけどねこれ。

 ちなみにももっちだけ自腹である。


「ほーのちゃーん」


「呼ぶな呼ぶなアホ」


 これ以上女を増やすな。俺のストレスやばいぞ今。


「おっ、ももっちとアジュ一派か」


 はいバレました。でも慌てず騒がず適当に会釈。

 こっちはこっちで飯食っているんだ。

 あっちはあっちで勝手に行動するだろ。


「ももっちじゃーん」


「やっほー元気してるー?」


「元気に決まっとるぜーい!」


 知り合いかよ……おいこっち来るな。頼むから来るな。

 にこやかに歩いてくるんじゃねえよ。


「お友達?」


「おうさー!」


 やめろ俺を巻き込むな知り合い程度だよ。


「どうすんだよこれ」


 小声で隣のリリアに聞いてみる。


「別に普通にしておればよい」


 それができりゃ苦労はしないんだよ。


「ほのちゃーん、助けてー!」


「急になんだよ。悪い、先にテーブル行ってて」


 ホノリの仲間は笑いながら先に行こうとする。いいぞいいぞ、どっか行ってくれ。


「カモンほのちゃん!」


「呼ぶなバカ野郎」


「行っていいよホノリ。ゆっくりご飯食べてるからさ」


 あっちの仲間が俺たちに気を遣っている。

 そりゃそうだろ。初対面だし、俺人見知りだし。

 全員がこっちに来なけりゃいいや。最悪相席になるかもと思ったからな。


「悪いね、じゃああっちの席に行ってくる」


「お邪魔します」


 通路を挟んで、向かいにあっちチームが座る。

 軽く会釈して、そのまま食事続行。


「ほのちゃん、妖刀直せる?」


「突然意味わかんないこと言わないで」


「すまん、カトラスぶっ壊れた」


 困惑しているとこ悪いが畳み掛ける。

 だが別段怒った様子はないな。


「ありゃ、壊れちゃったか。結構頑丈に作ったんだけど、何やったんだい?」


「私の家宝の妖刀とガチってたら壊れちゃったんだよ」


「がっつり壊れてな。直せるホノリを探そうかと相談していたんだ」


「そういうことか……カトラスは材料があれば、刃を取り替えればいいと思う。さらに強度を上げる必要があるかもしれないけどね」


 なるほど。もう一度作って刃だけ変えりゃいいのか。

 材料は決して入手困難でもない。っていうか在庫ある気がする。


「私の刀は?」


「いいかいももっち。家宝を学生に直させようとするんじゃない。ちゃんとした鍛冶屋さんに持っていきな」


 ド正論である。イガの家宝の妖刀なんて学生に直せるもんじゃない。


「せっかく借りて来たのに、壊しちゃったって報告するの怖いんだよおぉう……」


「そんなこと言われても、うらにはどうしようもないぞ」


 あっちチームがうんうん頷いている。そりゃそうだ。

 適当に直して壊れたら、それこそ問題になる。


「諦めて鍛冶屋に持っていけ」


「あじゅにゃんは他人事だと思ってー!」


「ああ、完全に他人だからな」


「お友達でしょー! ヘルプ! ヘルプ希望です!」


「できることなんか何もないぞ」


 俺にどうしろというのだ。鍛冶の知識ゼロだぞ。


「ほのちゃんも、みんなも無理?」


「ごめんね。責任取れないわ」


「力にはなってあげたいけど……」


 打開策は有名な鍛冶屋に行くことだな。

 バレずに済ませたいのだろうが、これは難しいだろう。


「そうだ、ホノリの実家行けばいいんじゃないか? フルムーンだろ?」


「それだ!!」


「やめてくれ。オヤジの胃が壊れる」


「ヘファイさんは?」


「あの人……人か? とにかくどこにいるのか知らない」


 これで手段が無くなったな。フウマで直すのも無理。

 国交とかおかしくなる可能性がある。


「あじゅにゃんの知り合いに、そういう人いないの?」


「俺を何だと思ってんだよ。知り合い少ないんだから、いるわけないだろ」


「無理かー……」


「とりあえずカトラスの復活はできそうだな」


「また同じのでいいのかい?」


 ここでちょっと考える。カトラスは確かに使いやすい。

 だが新しい武器もちょっと欲しい。


「別の武器にもできるか?」


「できるよ。刃を形変えて硬くすればいいだけだし」


「アジュはどういうのがいいの?」


「イメージがはっきりしないんだよ……カトラスの前は刀で、両方とも剣って感じだろ? でもって槍は無理。ただ威力と、振り回しでもうちょい工夫したい」


 片手で振る機会が多い。ナックルガードあるしな。

 だがもっと力任せにぶん回すケースも増えてきた。


「薙刀みたいに先端だけじゃダメ。かといって刃が太すぎてもしんどい」


「ナックルガードは?」


「あると安心できるけど、最悪なくてもいい」


「レイピアはどうかしら?」


「細いし型が違いすぎる。突きは主体にはできない。もっとこう……ぶわっと振り回せて、小回りも効くようにしたいんだ」


 食事もデザートまで食べきり、食休みも兼ねて本格的な相談をしてみる。

 昼飯食っている鍛冶チームもちょっと聞いているっぽい。


「斧とか無理じゃろ?」


「無理。刀や剣に近い方がいいな」


「発想を変えましょう。柄はどういうものが好み?」


「刀が握りやすいかも。手のひらが削れないやつがいい」


 ホノリもオムライス食いながら真剣に聞いてくれる。


「おぬし重い武器扱えんじゃろ」


「そこなんだよな。斬馬刀みたいなデカブツは使えない」


「ある程度長くて、重さも控えめでとなると難しいわね」


「スロット三個作れるのは凄い役立ったから、あれは入れたいな」


 あれに何度助けられたことか。無くなったら大幅弱体化である。


「スロット付きで、柄は刀。刃は太すぎず細すぎず。ノコギリみたいな刃にもできるけど」


「ダメだな。威力は高そうだけど、すぱっと切れないだろ。そういう武器は一撃離脱向きじゃない」


「ショーテルっていう剣があるんだけどさ」


 向かいの席のやつが会話に加わってきた。

 そうか全員鍛冶関係か。ちょっと聞いてみるかな。


「こういうぐにゃーって曲がったやつで……」


「刀身がS字カーブかかってんのか。扱いが難しそうだな」


「んーだったらそうねえ……刀は手に馴染んだんでしょ? そっから考えれば?」


 確かにそれもありだ。使いやすいことは確定している。

 問題は速度を落とさずに火力を上げるという部分だ。


「刀は複雑で繊細だからなあ……そうだ。あたし忍者が使ってた、刃と柄が妙な長さの刀を見たぜ」


 詳しく聞いてみる。紙とペン渡して図も書いてもらう。


「長巻ね」


「ながまき?」


 イロハが反応する。忍者知識なら任せよう。


「大太刀より短くて、振りやすい刀よ」


「忍者が使ってるやつって刀じゃないの?」


「フウマの忍刀と刀と長巻は用途が違うの。刀身も形状が違うわ」


「フウマはわかんないわ……製造過程が流れてこないし」


 どうやら里で作っている刀は、コタロウさんの世界の作り方らしいな。

 門外不出というやつか。鍛冶科でも不明だから作らないんだと。


「面白いな。刀関係見てみるか」


「じゃあ色々武器のあるお店に行ってみようよ」


「実際に振ってみるとよいじゃろ」


「私も賛成よ。考えているだけでは行き詰まるわ」


 まずは刀と他の商品を多種多様に扱う店探しだな。

 次の目的が決まっただけ収穫ありだ。


「すまない。アドバイス助かった。これでデザートでも注文してくれ」


 ホノリチームの連中にデザート代を渡す。助言の礼はしておこう。

 貸し借りは残さない。できるだけ早く返すのだ。


「よっしゃありがとう!」


「ホノリ連れてっちゃっていいからね」


「わーい!」


 そんなわけでホノリ加入。

 ギルメンとももっちを連れて、武器屋を探すことになった。

 新武器ってのはこう、楽しいよな。わくわく感がある。


「未知の武器とかあるといいな」


 店を出て、まだ見ぬ武器に期待するのであった。

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