学園生活アイドル編
学園生活に戻ってアイドルと知り合う
ダイナノイエから帰還して数日後。俺たちはいつもの日常へと戻っていた。
「ドン引きするくらい暇だな」
昼に起きてソファーでだらだらする。横にイロハが寄り添っているが、お互いに寝そうなので変なことはしない。将棋はさっき俺が負けて終わった。
「そう思うなら外に出るのじゃ」
「寒い」
「アジュは怠け者です! もっと遊ぶのだ!」
リリアとシルフィがちょっとだけ呆れ顔だ。しょうがないね。
「はいはい、じゃあ将棋やるか?」
「将棋はいつもやってるから、他のやつにしない?」
「つってもなあ……チェスは似たようなもんだし、ボードゲーム以外だと……意外と少ないな」
「新しいゲーム盤でも買いに行くのじゃ。少しは外に出んと、体がおかしくなるじゃろ」
「しょうがない。少しだけだぞ」
仕方がないので外出することに。外は寒いけれど、まだ昼だしなんとかなる。夜までに帰ればいいはず。
「見覚えのない建物があるな」
いつもの散歩道から外れて暫く歩くと、開けた場所へやってきた。何回かは通っているはずだが、あんなでっかいステージ? みたいなもんは存在しないはず。何かの準備中か、人も多いぞ。
「来週くらいにブレ学ライブがあるからね」
「なんだそれ?」
「アイドルとかバンドの発表会よ。そっち系の科の試験をお祭りにしているの」
「じゃからその時期は、他の試験と日程がずらされたりするのじゃ」
こっちにもあるのか……まあアイドル科があるんだから、発表の場が存在するのは頷ける。
「なるほど。なら邪魔しないようにするか」
ギャラリーとかいるみたいだが、準備の邪魔はしたくない。少し散歩コースを変えようか。
「おや? 隊長とギルメンの皆様ではありませんか」
金髪黒ゴスロリ魔王のパイモンくんだ。どうしてパイモンがいるのだろうか。
「パイモン? ここで何やってんだ?」
「今度のお祭りの衣装チェックです。ボクのブランドが担当している方々がいるので」
「副業デザイナーだったなそういや」
兄妹揃ってそっち関係だった気がする。妹のナスターシャは鎧だったはずだ。
「ですです。ぜひ見に来てくださいなー。ボクが担当したのは、あっちのアイドルの子たちですねー」
指差す先には、練習中の女の子のグループがいる。四人グループだな。全員美形だ。結構多彩に取り揃えているらしい。
「パンフありますよー。男性用の服も取り揃えています。隊長も着てみます?」
「いらん……男物?」
「ボクは男女どっちの衣装も作りますよー」
てっきりゴスロリばっかりだと思ったが、そういや前に普通のも作るとか聞いたような。俺のコートもそうだった。
そんなことを考えながら、アイドルの練習風景と服を見てみる。
「ほー……下品さがないし、派手過ぎず、いいんじゃないか?」
「ダンスも統率が取れているわね」
「かわいくていいね」
「よいセンスじゃな」
白基調で、それぞれのイメージカラーをつけつつ、爽やかにまとまっている。上品とまでは言わないが、着ている人間が引き立つようにデザインされているのだろう。
「そうだ、お暇なら護衛任務とかいかがです? アイドルの護衛できちゃいますよー」
「護衛って……まーた面倒事か」
「またって、そういえばダイナノイエでも敵が出たと聞きましたよー」
どっから知ったんだよそれ。いや機関の情報は魔王クラスなら伝えられるのだろうか。どっちにしろパイモンは知っている側だ。問題なし。
「敵だけならましだったわ」
「あれはちょっと多すぎたね」
「一日五件くらいトラブルあったぞ」
「治安のいい国のはずですが……」
治安の良さについては聞いている。実際に街の雰囲気は悪くなかったし、俺たちの運が悪かったのだと思う。
「おつかれさまでーす!」
歌っていた連中が終わったらしい。それぞれ反省会的なやつに入る流れか。
素人で部外者の俺たちがいるべきではないだろう。
「パイモン先輩ー! どうでしたー!」
アイドルたちがこっちに来る。ダンス練習直後だっていうのに元気だな。
「そちらの方々は?」
「ボクのお友達です。偶然お会いしたのですよー」
軽く俺たちの自己紹介を終える。お姫様だと知って、少しかしこまっているのは仕方がないだろう。
「咲き誇るこのかわいさは最強無敵! わたしがカエデです!」
元気いっぱいといった感じだな。明るい笑顔だ。
「優雅に儚く美しく、私がシラユリですわ。どうかよろしくお願いいたします」
こっちはお嬢様か。カエデと並ぶと対象的である。
「魔性の美貌、カトレアお姉さんを応援してね~」
お姉さんキャラか。大人の柔らかい雰囲気だな。
「我が名はアルメリア! このチームの柱にして、宵闇を束ねる魔族!」
こっちは美少女路線か。ドヤ顔が絶妙にキャラ立ちしている。
「みんな揃ってー! シンフォニックフラワー!!」
びしっとポーズを取っている。なかなか様になっているけれど、俺にはアイドルがわからん。
「戦隊モノみたいだな」
「その感想はどうなんじゃ」
「かわいくていいなー。こういうのできる人ってすごいよね」
綺麗からかわいいまで揃えていて、バランスがいい。別に好みというわけではない。
「というわけで隊長、暇なら護衛しませんか?」
「俺たちが出なきゃやばいほどの敵がいるってのか?」
また神話生物が出るのか……できれば普通の依頼を普通にこなしたい。
「面倒な客だけならいいのですが、何やら妙な動きがあるようで」
「どうするかね……受けるか?」
「わたしは受けていいと思うよ」
「私も問題ないわ」
どうせ暇だし、正式な依頼なら単位にもなるし報酬が出る。
パイモンなら無茶な要求はしないだろうし、割といい話だと思う。
「んじゃ受ける方向でいくか」
「ありがとうございますー! では隊長のギルドに依頼書を送っておきますねー」
「はえー……お姫様がカエデたちの護衛……なんか恐縮です!」
「失礼のないようにいたしましょう」
やはり緊張が解けたわけではないか。こいつらの対人スキルなら、すぐに慣れてくれるだろうから、あまり心配はしていない。
「そこまで気にすることはないわ」
「うむ、依頼を受けた以上、そちらは自由にしてよいのじゃ」
そこでなぜか俺に注目が集まる。まだ目立つ行動は取っていないぞ。
「あのー……サカガミさんは、どこかの王族だったりするのかしら~? 聞いたことがないお名前なのよね~」
「俺は一般人ですよ。ただのギルマスです」
「ほほう、何やら秘密の予感。隠された二つ名がある武人ということね!」
「ないない。肩書はギルマスだけだ」
基本的に鎧を使っての功績は全部隠している。ダイナノイエの推理もカムイに手柄を押し付けた。よって素の俺に派手な肩書はない。
「それがまた謎を呼ぶ。このミステリーは解き明かしてみせるわ。アルメリアの名にかけて!」
「無駄だからやめろ」
「難しく考えなくてもいいのですよー。隊長たちはもしもの時の保険です。大事なライブ前なんですから、慎重なくらいでちょうどいいのです」
「そういうことよパイモン!」
別の方向から女の声が聞こえてきた。見知らぬ集団がこちらに歩いてくる。あれもアイドルだろうか。
「出ましたねグレモリー」
灰色の髪で、髪の毛で片方の目を隠したスタイルのいい女が出てきた。
派手な格好だが、見覚えがない。
「知り合いか」
「ボクと同級生の魔王ですよー」
「お初にお目にかかってあげるわ。わたくしがトップアイドルにして魔王、グレモリーよ!」
威風堂々という感じ。パイモンと対象的なやつだな。
「フッフッフ、さっさとどきなさい。ここからはわたくしのプロデュースしたアイドルの稽古時間なのよ!」
「あいつらは?」
「まあライバルのアイドル……ですかねー」
つまりきな臭いのはあいつらか。
絶対的な自信が態度に現れている。魔王なんだから当然かもしれんが、一応警戒しておこう。
「まあそれでも、どうしてもと言うなら? あなたたちがこちらの軍門に下ることで、合同練習にしてあげなくもないわよ?」
「結構です! 敵の情けは受けません!」
「あらそう。せっかく慈悲をかけてあげたのに。気が変わったらいつでもいらっしゃい。パイモンともども歓迎するわ」
なんか対立しているっぽい。まったく事情がわからないので、俺たちは蚊帳の外だ。こういうの多いよね。
「おぬしが他人に興味を持たんからじゃぞ」
「俺のせいか」
「ここから華麗で、優雅で、すべての人を虜にするパフォーマンスが見られるわよ! 見ていきなさい!」
「敵に手の内を明かすとは、大した自信……これが魔王。我が魔の魅力を凌駕しそうではないか……」
「さあ見ていくなら早くしなさい。最前列は開けておくわ! 寒いから飲み物は温かいものでいいわね? まったくもって行動が遅いわよ!」
なんか見ていくことになった。俺たちも座っている。護衛だけど。あとお茶が暖かくてうまい。みんなでお礼を言っておいた。
「おぉ……これは典雅な」
「むむむむむむ……言うだけありますね」
実際完璧だ。歌も踊りもミスなく……いや最高のクオリティで進んでいく。
「ほう、こっちのアイドルってのは凄いな」
「実力を正しく認識しておるのじゃろ。じゃから大げさな発言もできる。それがキャラ作りに一役買うわけじゃな」
数曲歌って練習が終わる。全員自然と拍手していた。生で見る機会など今まで無かったが、これは楽しいな。グレモリーも普通に歌って踊っている。
「どうかしら? 今ならわたくしのギルドで最高のレッスンが受けられるわよ? 平団員からスタートだけど、いかが?」
「シンフォニックフラワーは、四人でシンフォニックフラワーなんです! 四人なら、どんな困難も超えられます! ご心配なく!」
「あなたたちレベルのパフォーマンスじゃあ、わたくしのユニットは超えられないけれど、まあ応援だけはしてあげるわ。顔を合わせればその時々で、当日は舞台袖でね!」
「そちらも良きライブをなさってください。お客さんを喜ばせたいのは同じです」
「見上げた根性ね。嫌いじゃないわ」
敵っていうかライバル……なんだろうか? 不思議と悪い関係には見えないが。
「むうう~。私たちは負けませんよ~」
「そうですそうです! 本番ではどーんと勝っちゃいますからね!!」
シンフォニックフラワーは、やる気十分だ。ここでくじけないのは強いな。少し応援したくなるぞ。
「そう……精々気をつけなさい。冬も本番なのだから、暖かくして睡眠はしっかり取ることね! 部屋の乾燥にも気を遣うがいいわ! 加湿器を使うようなお金があればだけど!」
「ぐぬぬぬぬ……それくらいありますとも!」
「ならいいわ。また会いましょうパイモン。服の調整はしっかりしておきなさい。不備を言い訳にされたくないもの」
「ええ、当日を楽しみにしていますよー」
そしてグレモリーの一団は去っていった。もしかしてかなり面倒な依頼を受けたかもしれない。だが一度受けちまったからには、なんとかがんばってみますかね。
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