ダイナノイエ編 完
カムイとソフィアが高級なレストランへと入っていった。
十階建てくらいの綺麗な建物で、どうやら最上階にいくらしい。
「こってこてだなおい」
「王族貴族じゃからのう」
「俺たちはどうやって入るんですか?」
「ごく普通にSPとして入れますよ。入り口で顔だけは確認しますけど」
本職は手慣れているなあ。おや? 顔見せるんだよな? しかもカムイとソフィアのためにお出迎えが小規模だが並んでいる。つまり。
「フルムーン様、フウマ様、今すぐにお食事をお持ちいたしますので……」
はいバレました。そら王族御用達の場所に来たらバレるよ。
「そういえば何年も前にお父様と一緒に来たかも」
「早く言え」
トップっぽいダンディな人がすげえかしこまっています。申し訳ないからやめろ。
「いえ大丈夫です。というか来ているとバラさないでください。あくまでSPです」
「左様でございますか。では別室にて歓迎のフルーツとお飲み物を」
「いやですから……」
悪気はないのだろう。失礼がないように、怯えが混ざりながら接客されている。
「カムイ様とソフィーティア様が入っていきましたね? 今日はその護衛みたいなものなんです。穏便に、護衛の一人として扱ってください」
「護衛……ですか?」
「ブレ学の試験と言って伝わりますか?」
「なるほど。ではSPの皆様どうぞこちらへ」
通じたよ。学園の影響力すげえな。
そして高級な絨毯やランプに導かれ、最上階へ。
エレベーターというか昇降機があるのは驚き。
「あるところにはあるな」
「別に電力で自動のものが無いだけじゃ。昇降機はずーっと昔から、大抵の世界にはあるのじゃよ」
「ほー……」
大きな歯車を使うものや、水の流れを利用するものなど多彩らしい。
昇降機の歴史を聞いていたら、最上階が見えてきた。
「アジュ的にはこういう場所はどうなの?」
「しんどい。あと高すぎる食い物は好きになれない」
値段が気になるし、マナーとかめんどいのだ。普通に家で食いたい。
「おごりでも嫌なのでしょう?」
「おごりは嫌い。それは相手に貸しを作る行為だからな。なおさら行かない」
「アジュ学は奥深いね」
「何の価値もない学問やめろ」
適当に無駄話をして時間を潰す。周囲に人はいないし、二人は特別な窓際の席にいる。楽しく話しているようだし、アドバイスも不要だな。
「とてもおいしいですわ」
「ああ、ソフィアとの食事はいつもおいしくて幸せだよ」
「まあカムイ様ったら。私だって、カムイ様とご一緒できるだけで幸せですわ」
ああいう会話を自然にできるやつってすごくね?
鎧の力があってもできそうにないわ。
「いい機会じゃ、わしらもあれやってみるのじゃ」
「ぜってえやだ」
「今のアジュならきっとできるよ」
「できたくねえんだよ。逆にシルフィはできるのか?」
「うーん……アジュ様と見る夜景は素敵ですわね」
それっぽい。こいつお姫様ムーブ完璧なんだよなあ。育ちの良さと教育が蓄積されている。
「シルフィ様もそう思いますのね。素晴らしいですわ」
「なんでおぬしがお嬢様口調なんじゃ」
「真似てみた」
「普通に気持ち悪いからやめるのじゃ」
ダメ出しされたので、真面目にお仕事頑張ろう。ハイクオリティなセレブっぽい会話を観察するが、あれはもう物語の一部だな。一般人がやっていいものじゃない。
カムイたちは慣れているのか、自然にテーブルマナーを駆使しつつ会話を続けていた。
「ようやく役目も終わりそうだな」
「本当にようやくね……長かったわ」
「変な観光になっちゃったねー」
離れた位置から見守る俺たちだが、やはり警備が厳重なのかトラブルは起きない。
この国に来て久しぶりの平穏である。
「護衛の皆様もお食事をどうぞ」
お店の人が食事を運んできてくれた。食べやすいタイプの食事なのは、急に動くことを想定してだろうか。軽食とフルーツが多い。軽く礼を言ってから食べ始める。
「これ高いやつだな?」
「高いやつじゃよ」
味が明らかに違う。深みがあってしっかりした味で、フルーツも新鮮だ。
「気を遣ってくれたのでしょう。悪いことをしたわね」
「ちゃんと全部食べておこう」
しばらく普通に飯を食う。あっちもいい雰囲気のままだ。夜景なんぞが見えてきて、そりゃあもうロマンとか溢れているよ。俺は夜景より肉がいいけど。
「ソフィア、そのまま近いうちにまた遊びましょうとか言っておけ。予定は正確に決めなくていい」
「普通に楽しんでおればよいのじゃ」
食後の時間をジュース飲みながらまったり優雅に過ごす。
「カムイ様、頑張って……」
「その調子ですソフィア様……」
それぞれのSPさんたちも影から見守っている。
客観的に見れば変な光景なんだろうが、これはこれで面白い。
「愛されてるわね二人とも」
「それはもう、カムイ様は我々にも優しくて賢くて、とても芯の通ったお人です」
「ソフィア様だって可憐で聡明で、あの歳でもう商才を発揮し始めているんですよ」
両者ともに思い入れがあるらしい。ただ雇われているだけではないのね。
SPの話を適当に聞きながら、ぼーっと夜景を眺めていると眠くなる。
「今寝ちゃったら帰れないよ」
「わかっている」
「一応護衛役なんじゃから、眠くなっても我慢じゃ」
こいつらも人前では過剰にくっつかないし、敵もいなけりゃツッコミの必要もないと、俺は本格的に暇なのだ。
「この後の予定ってどうなっている?」
「普通にそれぞれの護衛と一緒に帰るだけよ」
「そうか。じゃあ城に帰って寝れるな」
「じゃあ夜景見ながらお食事したということにしよう!」
「皇国最後の思い出としてはいい方じゃろ」
思い出を美化していく方向で決まりました。
四人でなんてことはない会話をしながら、最後までカムイたちを見守った。
「カムイ様、素敵な時間をありがとうございました」
「僕の方こそ、ソフィアのおかげで楽しい一日になったよ」
「また今度、別の場所にも行きましょう。学園に帰ってからでも、お誘いお待ちしておりますわ」
「わかった。これから忙しくなるかもしれないけれど。君のことは忘れない。よさそうな場所があったら、君が誘ってくれたらすぐに行くよ」
「はい。沢山調べておきますわ」
流石に送迎がいる場所でキスしたりはしない。二人とも自然に手を握り、見つめ合って離れた。
「さようならカムイ様」
「ああ、またねソフィア」
二人が別々に去っていく。これで俺たちの仕事も終わり。城へと戻った。
「あれが上流階級か」
出た感想はそんなもんだった。
でもって数日後。ダイナノイエを離れる日がやってきた。
玉座の間にて、トールさんザトーさんとカムイに別れを告げる。
「君たちには本当に世話になった。またいつでも来てくれ。歓迎する」
「サカガミさんたちがいなければ、どうなっていたかわかりません。ありがとうございました!!」
「気にするな。あと言いふらすなよ。あくまで解決したのはカムイとその仲間たちとか、軍にしておけ」
「はい。目立たないように、ですね」
「そういうことだ」
カムイも俺たちのノリに慣れてきたな。いい傾向だ。吹っ切れたのかBODで成長したのか知らんが、柔軟さを感じる。
「雷でわからないことがあれば、いつでも来るがよい。学園に出向くこともある。気軽に相談してくれ」
「ありがとうございます。トールさんにはお世話になりました」
雷の師匠だからね。俺の魔法はさらに磨きがかかった。まだまだ伸びしろがあるし、魔法は本当に面白い。
「次に招待する時は、もっと安全な時期にするからさ。ジェクトの大将と一緒に来てもいいぞ」
「はい。お父様も会いたがっていました」
「だろうな。お互い死ぬまでに決着付けたいしねえ。王族ってのは自由に出歩けなくて困るぜ」
そらそうよ。ふらふら出歩く王族なんて、警備する側は怖くてしょうがない。
「今度は普通に観光に来ます」
「おう、気ままにそれぞれの道を往けばいい。試験は合格だって報告入れといたぜ」
期末試験無事クリアである。
ちなみにヴァンは別の国へと旅立った。ルシードは試験クリアらしく、残りの期間はダイナノイエで修行するらしい。
「僕はもう少し里帰りを続けます。また学園でお会いしましょう」
「その時はよろしくな」
「はい!」
こうしてトラブル続きだったダイナノイエ観光も終わりを告げた。
明日からはまた、学園での生活が待っているだろう。
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