妙な刺客と今後の方針

 アイドルを送る途中で変な連中が現れた。日が暮れるし、さっさと帰りたいんだけど。


「この件から降りろ」


「依頼を途中で投げ出すことはしない」


「まずおぬしら誰なんじゃ?」


「要求を飲む気はないのだな?」


「会話する気ゼロか」


 妙だな。こいつらの魔力が安定していない。数は七人。強そうには見えん。


「誰だか知りませんけど、カエデたちはこの人たちに依頼したんです」


「ならばその依頼、我々に引き継ぐ気はないか?」


「お断りするわ」


「そうか、ならば護衛できなくなってもらおう」


 武器を取り出すやられ役のみなさま。あんまり強そうじゃないし、ぼちぼち解決していくか。

 モブがそれぞれの武器を振りかぶり、俺たちに向けて走ってきた。


「かかれ!」


「足に影」


 俺の合図で、敵の影から無数の手が伸び、腰まで影の中に引きずり込む。


「うおおぉぉあああ!?」


「肩まで止めろ」


 シルフィに首から下の時間を止めさせたらおしまい。

 リリアはシンフォニックフラワーを守っている。


「うっ、動けん!!」


「楽に死にたければ答えろ。誰の命令で動いている?」


「えっ、もう終わっちゃったんですか?」


「不思議な魔法もあるものね」


「面白いじゃろ。そのままわしの側を離れず固まっておるのじゃぞ」


 さて、アイドルの前で拷問かますのもアレだな。めんどい。だが護衛対象に配慮せねば。


「お前が答えないなら、隣のやつの耳を削ぎ落とす」


 軽い脅しを入れてみる。アイドルの近くではこれが限界だ。


「言ってどうなる」


「お前たちの大切な人が死ななくて済む、かもな」


 屑に大切な人がいるとは思わないし、自分の命より優先もしないだろう。

 だが一応言ってみる。ヒットすれば使えるし。


「わかっていると思うが、学園の調査能力を甘く見るなよ。まず間違いなくバレるぜ」


 フウマのとは言わないでおく。学園に引き渡せばいいだけだ。


「もうすぐ警備の兵が来るわ。どのみち逃げられないわよ」


 こうなった時点で呼びに行かせてある。つまりタイムリミットがあるわけだが。


「返答次第で影の中が針山に変わる。戦闘中の傷ってことで処理することも可能だ。一生寝たきりがいいか?」


「魔王グレモリー様だ」


 こちらを睨みつけつつ、なぜかへらへらと笑っている。めんどいなもう。


「うえええぇぇ!? 嘘です! あの人がそんな事するはずないです!!」


「だが真実さ……」


 警備兵がやってきた。それは質問タイムの終了を意味している。


「これから当日まで、お前らに魔王を止め続けられると思うか? さっさとライブを辞退して逃げるんだな!」


 兵に引き渡し、去ってゆく間際にそんなことを言い放っていた。


「どう思う?」


「ありえんじゃろ。ああいう手合いは、己の実力で潰すことを信条とする。こすいまねなどせんのじゃ」


「だろうな。俺も同意見だ。となるとまずいぜ」


 俺の話にイロハとシルフィが頷く。考えは伝わっているようだな。


「ええ、相手の狙いは両陣営のいがみ合いでしょう」


「そっか、グレモリーさんの所にも、シンフォニックフラワーを名乗って襲撃がかかっているかも!」


「そういうことだ」


「ええええぇぇぇ!? ちょっと! カエデたちはそんなことしません!!」


「それを相手が信じるかは賭けだな」


 誰がこんな真似しやがったのか、とりあえずきっちり吐かせるしかない。面倒な事になってきたぜ。これがパイモンの言う妙な連中か。


「とりあえず学園側からの報告待ちだが……ここで帰るわけにもいかなくなってきたな……」


「でしたら、私たちの家にご招待いたしますわ」


「いいのか?」


 正直それが最適解だが、男がいていいものなのだろうか。

 面倒事が増える気がするぞ。


「狭いとこですけど、大歓迎ですよ!」


 というわけで、シンフォニックフラワーのギルドハウスへとやってきた。

 俺たちの家よりは小さめだが、二階建てで少しだけ庭がある。


「お帰りですか? 少々中で事情をお聞きしたいのですが」


 事件を聞きつけた学園正規兵が門を守っている。仕事が速いな学園よ。

 まあ事情聴取は必要だ。全員で受けておく。


「よろしければ、護衛用の宿泊施設もございます」


「ありがとうございます。ですが、あまり大事にしたくないもので」


「今はお気持ちだけ頂いておきます。危なくなったら連絡しますね」


 学園には、明らかに狙われている人物を、数日匿うための施設がある。

 腕利きのプロや卒業生が集まり、狙撃も侵入も難しい作りになっているのだ。


「では護衛の方々は別室へどうぞ」


 そして起きたことを話し、兵は外を、俺たちは中を守ることになった。

 これは正直助かる。男が一人だと面倒だが、外を固める人間が入れば別だ。護衛ですがちゃんと通る。


「グレモリーさんについてですが」


 それなりに広いリビングで、それぞれソファーなりイスなりに座って会議開始。


「グレモリーさんはそんなことする人じゃありません!」


「お姉さんもそう信じたいわ」


「信じるということは、油断をする、相手の策にはまるということでもあるのじゃ」


「魔王グレモリーの名に恥じることなど……想定できぬ。魔族の間でも悪評は聞かぬのだ」


 評判はいいらしいな。自信たっぷりというだけで、プラスになる行動しかしていないはずだ。俺自身あいつに悪い印象はない。


「可能性はゼロじゃない。なら頭に入れておくくらいは必要さ」


「それでも信じたいです。カエデたちとお話する時のグレモリーさんは、いつも堂々としていて、かっこいい人ですから」


 こいつらは完全に信じ切っているようだ。その純粋さは、ファンからすれば眩しいものなんだろう。ならそのままでいい。


「別にお前らは信じていればいいんだよ」


「はい? どういうことですの?」


「もう護衛の依頼は受けたんだ。無駄なことに頭使っていないで、ライブに集中しろ。普通にしていれば、俺たちで勝手に疑って、護衛して、解決してやる」


 これがベストなんだろう。こいつらのライブは気に入っている。無駄な労力使わせる必要はない。このまま俺たちで解決すればいいのさ。


「要約すると、何があっても守るから、普段通りでいいよってことだよー」


「また遠回りな表現ですわね」


「サカガミさん……」


「いいからさっさと寝ちまえ。明日も練習だろ? 夜ふかししているようじゃ、グレモリーさんには勝てないぞ」


「はい! ありがとうございます!」


 これにて会議は終わり。ギルメン三人を常にくっつけておけばいい。同性なら寝室にも入れる。


「あら? そういえば……寝室で一人になっても大丈夫かしら?」


「なんならギルメンをつけるぞ」


「ですがそうなると、一人余ってしまいますわ」


「ならこうしましょう!」


 そしてリビングに敷かれる大量の布団。いやいや修学旅行じゃないんだぞ。


「みんなでお泊まりです!」


「頑張れ。俺は当然だが外に行く」


「外ってどうするんです?」


「テントの性能を試す」


 いい機会なのでやってみる。既に簡単に組み立てられるやつを買った。


「おおー! それも楽しそうです!」


「やめろ家にいろお前。警戒をしろ」


「えー普通にしてていいんですよね?」


「普通がそれってどうなのよ」


 ギルメンと一緒に、庭にテント作成完了。中にマットを敷いて、ランタンをかければ完成だ。


「じゃあ何かあれば通信機で話せ」


「わかったわ。こっちは任せて」


「ばっちり守るからね!」


 少しテントを見てから、それぞれ家に入っていく。

 最後にシンフォニックフラワーの四人が立ち止まり、カエデが聞いてきた。


「そういえば、ジョークジョーカーはどうしてジョークジョーカーっていうんですか?」


「命名は学園長だ。あまりにもふざけた切り札。だからジョークジョーカー。いいセンスだよ」


「おおー、なんかかっこいいですね!」


「うむ、やはり学園長も我が同志か。なんと美しきセンス」


 そうかお前ら同類か。こっちじゃ珍しくない存在だったりするのかね。


「いいからさっさと寝ろ」


「おやすみなさーい!」


 こうして夜はふけていく。寝袋を開き、上から毛布とかかけてみる。

 性能テストだからな。左右にかばんを置くスペースは確保できるし、これなら二人で寝ることも可能だろう。


「四人用も買ってあるが……別の機会にするか」


 こういうの楽しいな。毎日は困るが、レアイベントとしては悪くない。

 ケトルと本を出して、寝転がりながら眠気が来るのを待った。

 十分に温かい。極寒の大地に行く予定はないから、これで足りている。


「静かだな」


 外には見張りの兵がいる。庭でテント張っている俺に対してどう考えているのだろう。少し面白い。テントから顔だけ出して様子を伺ってみると、こっちに軽く手を振ってきた。なんとなく振り返しておく。


「なんだこの時間は」


 意味わからなくて面白いな。無駄なテンションの上昇を感じる。

 俺も早く寝ないといけないんだ。テントをしっかり締めて、暖かくして眠りについた。

 そしてまた朝っぱらから起こされる。


「ほれほれ、さっさと起きるのじゃ」


 侵入してきたリリアに起こされた。うぅ……護衛任務は朝起きるのが辛い。


「テントはどうじゃった?」


「ちょっと楽しかった」


「よいことじゃな。朝ごはんができておるぞ」


「わかった……うーわ外寒いなおい」


 急いで家に入る。当然だが全員無事だったようで、もう布団は片付けられていた。


「おはようございます! 今日も張り切っていきましょう!」


「頑張れ。俺は眠い」


「朝早くに調査報告書が来たわ。後で見ておいて」


「はいはいご飯食べるよー。アジュはこっち」


 そして朝飯を食って、今後の予定を話し合う。敵が誰なのかを把握したい。

 昨日の連中が誰なのかをしっかり見定めないと。そこで玄関のベルが鳴る。


「はーい! 今出ますー! うえええぇぇ!!」


 カエデがうるさい。だがその原因はすぐに分かった。


「わたくしが直接来てあげたわ!」


 グレモリーさんが来た。マジかよ。正面から来るとは思わなかったぞ。


「そちらにわたくしの名前で刺客が来たんじゃない?」


「来たわ。まさか……」


「ええ、こっちにもシンフォニックフラワーの名前で来たわ。当然叩き潰したけれど」


 魔王だからな。半端な達人では相手にならない。おそらくそれを承知で襲撃をかけているだろう。少なくとも、そういう連中を使えるやつの犯行だ。


「それでここに来たということですか。もう昼ですが」


「襲撃は夜だったもの。夜中に訪ねていくのは失礼でしょう? 早朝も失礼よね? ならこの時間帯こそ最適なのよ! それに早寝早起きは健康の基礎よ! アイドルたるもの、自分の健康管理くらいできて当然!」


「律儀な……」


「こんなことでライブに支障が出てもらっちゃ困るのよ。あくまであなたたちを倒すのはわたくし、グレモリーでなければだめ。さあ情報交換しましょうか!」


 とりあえず犯人だけでも突き止めたい。ここは提案に乗ることにした。

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