シンフォニックフラワー結成秘話
シンフォニックフラワーは、自分たちの伝えたいこととルーツを探るため、学園を色々と見て回ることにした。
俺たち四人は護衛として同行している。
「ここがいつも来る商業エリアです!」
「買い食いは控えなさいカエデ。動けなくなりますわよ」
まあ商店街だよ。俺たちもよく来る。一応アイドルなので、帽子とかで変装しているのだが、違和感ないな。演技力とか雰囲気作りがうまいんだろう。
「ここでですねー、授業終わったらコロッケとか買うのです」
「カエデちゃんは、そこでお姉さんと出会ったのよねー」
「ですです! 安売りでもよく会いました!」
「安売りに行くアイドル……まあ庶民派ってやつか」
感覚麻痺しそうだが、この学園は王族貴族以外も大量にいる。
マンモス校とかいう次元じゃない。教師や衛兵とか、街の人まで合わせりゃ国レベルだ。もちろん普通の子が多い。
「ぶっちゃけ普通の家庭生まれですからね。あんまりお小遣いがなくって」
「アイドルとしてのレッスンもあるから、あんまり自由時間はないの。困っちゃうのよね」
どうやら節約術が身についているらしい。なるほど、それはそれでアピールポイントにできそうだな。
「私は家からお金が出ております。一応それなりのエルフの家柄でして」
「我が資金も小遣い制だが、そこまでの不自由はない」
こいつら金持ちの家なんだと。身なりとか佇まいでなんとなく察した。
「サカガミさんたちは……ああいえ、お姫様でしたね」
「一応生活費は稼いでいるぞ」
「わたしもイロハも、あんまり国のお金は使ったことないよ?」
「ギルドに入る前の生活費と、装備品くらいかしら?」
こいつらも100%国の金を自由にできるわけではないのだ。
二人とも遊び呆けるために大金を出そうとするタイプじゃないし。
「はえー……もっと豪華な生活なのかと思ってました」
「節約はさせている。覚えて損はないからな」
「うむ、こやつを養って生きていくには、庶民の生活を理解せねばならぬ」
「サカガミさん……養われる側なのですか」
未来は無限大とか言えば聞こえはいいが、保険もかけないほどアホでもない。できることはやっておこう。
「俺のことはいい。お前らの出会いの話だろ」
「そうでした。ついでにコロッケ買いましょう」
「カエデ。余計な間食は控えるようにと、いつも言っているでしょう」
「今日はいいの。みんなの分も買おう!」
目当ての肉屋に寄って行く。
いかにも惣菜屋のおばちゃんという感じの、人当たりのよさそうな人が出てきた。
優しい笑顔で迎えてくれる。
「おやカエデちゃん。今日は大人数だね」
「はい、お友達が増えました!」
「そうかいそうかい。よかったねえ……いつものでいいかい?」
「はい! お願いします!」
全員分買って、食いながら歩く。ほうほう、これはうまい。
「いけるな」
「いつ食べてもおいしいわ~」
揚げたてというのはやはりうまいのだ。そして風味とサクサク感が素晴らしい。
芋と肉の配分も素晴らしいぞ。
「また腕を上げている……やはり侮れん。どんなものでも日々精進なり」
「シンプルな料理を奥深く、よい腕じゃのう」
「気に入ったらたまに買いに行くのです!」
「覚えておく」
満足しながら歩くと、広い公園に出た。遊歩道というやつだろうか、綺麗に整備されて、芝生もあって草木が揺れている。
「ここで走り込みとかをします」
「ランニングコースとしては、広くて騒がしくなくて、空気も澄んでいますからね」
「マジで体力勝負だな」
「アイドルとは夢と希望と楽しさを与えるもの。ひたすらに鍛錬あるのみ」
俺も軽い柔軟やトレーニングはしているが、走り込みはしんどいんだよなあ。
「リアちゃんとは同じクラスなんだけど、ここで走ってるのをよく見かけまして」
「軽く挨拶する程度だったが、次第に競い合うようになり、盟友としてチームアップの誘いに乗った」
「カエデとリアちゃんで初ユニットです! 名前とか決まってませんでしたけど!」
ほほう、初期メンバーなのか。同級生で同じクラスなら、自然とそうなるのかもしれないな。
「他の子たちはもっと前から知り合いだったり、方向性が合わなかったりで困ってたんですよ」
「方向性の違いは、チーム解散の常套句。我が魔性の魅力は、あまり受け入れられるものではなかった」
このキャラでかわいいアイドルユニットは浮くだろう。無難な道を選ぶ者からは、まず弾かれる。
「みんなとにかく売れようって感じで、なんか違ったんですよねー。リアちゃんはアイドルにも詳しくて、色々教えてもらっちゃいました!」
「一時の安息と活力を、夢の時間を提供する。それこそがアイドル道である!」
「立派な志じゃ」
「とてもいいことだと思うわ」
真剣にやっていることは伝わってくる。本気でアイドル目指しているのだろう。
素人目でもはっきりわかるし、応援したくなる。
「次に加入したのがお姉さんよ」
「ちょうどあそこの会場ですね!」
それなりの規模の野外ライブ会場がある。今はバイオリンの音が響いていた。
あれは音楽ユニットだろう。
「アイドル科の一年は、何曲か課題曲があって、それを発表する場だったんです」
「サポートとして、二年が楽器担当だったのよ。そしたら偶然カエデちゃんたちと一緒になったの。ふふふ、凄い偶然だったわ」
「二年でアイドル科という、我々の先輩でな。カトレアには、カエデともども世話になっているぞ!」
アイドル科は授業の他に、別の学年と自由にユニットを組むことができる。
そのままギルド化するパターンも多いらしい。
「じゃあシラユリさんは?」
「ユリちゃんはお姉さんの後輩よ。中等部に入る頃からのお友達なの」
カトレア経由でシラユリにいったか。こっちは落ち着いた大人組って雰囲気だな。
「あの頃は、歌とダンスのお稽古に追われておりました」
「うんうん、あの時のユリちゃんはつらそうだったよ」
四人の顔が少し暗くなる。心配している顔と懐かしむ顔が混ざっているな。
「ユリちゃんは当時アイドルじゃなくて歌手を目指していてね。歌の発表会があるから、二人を誘って見に行ったのよ」
「もっともっと豪華なホールでしたね。おっと到着です! じゃーん!」
やがて花の咲き乱れる場所へと辿り着く。色とりどりの花が咲き誇り、世界を彩っている。
「おー、こんな場所があるのか」
「綺麗だねー!」
「ふっふっふー、知る人ぞ知る人気スポットです!」
学園には面白い場所がいっぱいあるな。ほんの少しだけ吹いた風で、花が揺れている。人もちらほらいるが、ゆったり静かな時間が流れていた。
「これはよいものじゃ」
「とても素敵な場所ね」
「気に入ってもらえて嬉しいわ」
「ここは四人でユニット結成の誓いをした場所なんですよ!!」
どうやら思い出の場所らしい。
しばらく見ていたが、近くのベンチに座り、さらに話の続きを聞いていく。
「えっと、次はユリちゃんだったよね!」
「私は……幼い頃よりずっと音楽漬けでしたわ。立派な歌手になるための英才教育を受け、遊ぶ時間すらほとんどなかった」
「無理をしているのはわかっていたわ。けれど、お話して気を紛らわせてあげても、遊びに連れ出しても、すぐ現実に連れ戻されてしまうの」
シラユリが根を詰めすぎると、カトレアが息抜きに付き合う、という形だったようだ。
「そして一年の発表会は、わたくしが最優秀賞で終わりましたわ。けれど何も楽しくなかった……両親には、うちの娘はすごい才能だろうって、自慢の道具に使われているようで不愉快でしたわ」
気難しい家庭に育ったのだろう。お嬢様ってのも面倒事がなくなるわけではない。ギルメン見てりゃわかる。
「心配になってね。発表会が終わったら、カエデちゃんとリアちゃんを連れて、ユリちゃんの控室に遊びに行ったの」
「カエデったら、そこでライブ見に来ませんかーって、チラシ渡してきたんですよ」
「お嬢様の発表会見て、ライブのチラシ渡したのか? すげえ根性しているな」
「そこは我々も同意する」
カエデ以外の三人が大きくうなずいている。行動力ありすぎだろこいつ。
「たまにすごーく大胆よねえ。あの時は、それをちょっぴり期待して連れて行ったんだけど」
「うえぇ!? そうだったんですか!?」
場の状況を一変させる、とまでいかなくとも、淀んだ空気を変えてくれそうである。そういうやつだと理解し始めた。
「ユリは楽しそうではなかった。正確にこなすだけで、音楽を楽しむ心を忘れていたのだ」
「あんな辛そうなのにほっとけませんよ! 元気になって欲しかったんです!!」
完全に善意100%なんだろう。そこがカエデの長所かもしれない。
「ライブのカエデとアルメリアはまだ拙くて、でも元気いっぱいで……そこではじめて知ったのです。家のためでも他人にひけらかすためでもない、誰かを楽しませるために歌う、という気持ちを」
「それで四人でユニット組もうって、ついでにギルド申請もしました!」
「その誓いを立てたのが、この場所なのだ」
「シンフォニックフラワーはギルドの名前でもあるのよ」
四人はとても楽しい思い出を語るように、ずっと笑顔で話し続けている。
きっと今が最高の時間なのだろう。それは俺にもなんとなくだがわかるさ。同じようなもんだから。
「みんなの楽しいを繋げて、さらに繋げた楽しさをお届けして」
「そこからまた一緒に楽しくなって、嫌なこととか、辛いこととか、全部吹き飛ばせるようになりたい」
「様々な出会いと協力があって、手を取り合って進んでいく。我々のライブが、世界を楽しく繋げていく」
「そうやってみーんなで繋いだ力が、やがて大輪の花を咲かせるんです!」
心底楽しそうに話されると、実際にそうなっていくのだろうと思えてしまう。
このポジティブさがこいつらの魅力なんだな。
「ライブ、楽しみにしていてくださいね! この花たちにかけて、絶対に優勝してみせます!」
「ああ、きっとできるさ」
「応援してるよ!!」
改めて優勝を誓う四人は、本当に成し遂げそうなオーラが出ていた。
そして日が暮れて、暗くならないうちにアイドルを送る道すがら。
「シンフォニックフラワーの護衛というのはお前たちか?」
よくわからん連中が来た。知らん奴らだ。普段着のように見せかけているが、武器を隠し持っているな。顔をサングラスで隠している。
「その通りじゃ」
「この件から手を引け」
周囲には人が少ない。だがゼロじゃない。ここで仕掛けては来ないだろう。
これが脅しなのか親切心なのかも確かめてやる。
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