領地の視察に行ってみよう

 ヒカルより工事の八割が完成したと報告があった。

 そんなわけで四人で魔界の領地に向かってみたわけだが。


「早いなおい。工事ってそんなに簡単か?」


 依頼して二週間経っていないぞ。

 あまりにも早いだろう。


「超一流の職人を惜しみなく使っておる。しかも予算も人数も多い。まあ早いじゃろ」


「学園の建築科とかをイメージすればいいよ。大きな施設が数日で建つでしょ?」


「あぁ……納得。それの一流どころがいるのか」


 そりゃ早いわな。ってなわけで厳重に警備されているゲートを抜け、自分の領地へとやって来た。


「めっちゃ警備硬い」


「それはそうよ。マスターの領地を守るのも私の務めですもの」


「出たわね」


 出やがったなアスモさん。

 来るとは思っていた。こちらが領地を通行すると申請したからな。

 守ってもらっている以上、他人の領地を通る時はこちらが連絡するのが筋というものだ。


「というわけで同行いたしますわ」


「今回に限り断れんな」


「うむ、しょうがないのう」


 ギルメンも渋々了承。そのへんの道理とかしっかりしている子達である。


「はいじゃあ現場へ案内しますわ」


 アスモさんの案内で自然の豊かな場所を抜け、開けた場所に出る。

 草原に仮設住宅と工事に参加している人たちがいた。


「来たかアジュ」


「ヒカル? お前なんでいる?」


 なんか作業服着ていますよ。ヘルメットが似合わんな。


「そもそもクエストを出したのは我だ。ならば報酬はきっちり払い切るまで責任を持つ! これも愛だ!!」


「立派ですぜ若!!」


「あー……やっぱりどっかずれてやがるな。まあそれで満足するならいいさ」


「うむ、助監督は任せるがいい!!」


 かっこつけてから椅子に座り直して弁当食っているヒカル。

 現場の人と普通に弁当食ってんじゃねえよ王子だろ。


「あー……弁当とか手配した方がいいのか? いいもん食っているみたいだが」


「心配するな。それも含めて報酬だ。こちらの自腹で買ってある」


「助かる。そこまでの予算はない」


 一流の皆様は弁当も豪華だ。あれを全員分とかどんな予算組んでいるんだろう。

 なんか怖いので聞きたくないな。


「もう家には行ってみたか?」


「家?」


「別荘を作ったぞ」


「こっちで寝泊まりする場所が必要だって話したあれか? 完成早すぎるだろ」


「工事もほぼ終わっているからな。ついでにパーフェクトハウスを完成させておいた」


 こっちの超人って本当に超人だよな。

 俺の常識の範疇を楽勝で飛び越えやがる。


「家に行くか?」


「うーむ……この先は森と湖だよな?」


「うむ。野生動物や精霊の多い場所だ。山ではなく平坦な地形だが緑が多い。ここが人間の休憩所だ」


「おっとまた動物がこっちに来ちまったようですぜ若」


 なんか茂みからがさがさ音がすると思ったらキアスが来た。

 そういやここに住み着いているんだったな。


「来たか、我が同志よ」


「おう。異常はないか?」


「ああ、また食い物の匂いにつられて寄ってきた動物を追い返しておいた」


「すまないキアス殿。いつも助かっている」


 いくら平原や森の近くとはいえ、工事の音は森まで届いてしまうこともあるだろう。

 なのでキアスが動物に説明してくれた。

 おかげで大きなトラブルはなかったようだ。


「キアス殿、今日の弁当はいけますぜ。食べますかい?」


「ではいただこうか」


 仲良くなってらっしゃる。

 マスターの俺より社交性あるな。


「助かるよキアス。いい召喚獣を持った。俺にゃもったいないぜ」


「アジュ以外の男と群れる気はない。今の環境も気に入っている。苦はないさ」


「俺より人間できてやがるぜ」


「ちょっとは見習うのじゃ」


「できるかねえ……俺だぞ?」


「応援するよー」


 最近はちょっとだけコミュ力上がった気がしないでもない気配がほんのり漂っていると風の噂を感じた気分ですよ。


「ちょっと奥に行ってみたい」


「了解した。人が通るための道も整備した。なるべく生態系を壊さぬようにな」


 土をしっかり整え、魔物よけの街灯が等間隔にある。

 そんなにびっちり置いていないのは事故防止かな。


「街灯は土地の魔力と魔道燃料だ。自動で少量の魔力を吸い、いつでも灯る。魔力を流し込めば即復旧もするタイプだ。魔物が嫌う光も出す」


「いいもん使ってんのね」


「最新技術じゃよ」


「高性能でとにかく頑丈よ。フルムーンの技術が入っているわね」


「ああ、こういう技術じゃあの国に勝てるもんは少ないんでさあ。流石は大国ですなあ」


 なんとなくフルムーンに近いデザインだが、そういうことか。

 センスいいよなあ……お洒落と実用性を兼ねてやがる。


「この道を通れば少しは危険度も下がるさ」


「建てている時とか大丈夫だったか? 敵とか密猟者とか魔物とかさ」


「そこはフウマがいるわ。上忍も参加しているから安心して。仕事の間の警護もしているのよ」


 いつの間にやら忍装束のフウマさんがちらほらいる。

 その中でも体格がよく、強者の風格がある人が話しかけてきた。


「我々が責任持って任務にあたっております。どうかご安心を」


「本当に何から何まで助かります。ええっと……陽炎さん」


「おぉ、覚えておいででしたか! いやあ感激です!」


 上忍の中でも戦闘に特化した根っからの武人だ。

 体が陽炎のように揺らめいたら敵が死んでいるというやばい人。

 火遁の術のエキスパートです。当然の権利のように光速移動できます。


「この件の打ち合わせで何回か会いましたよね。いつも顔下半分は隠されてますけれど」


「拙者はこれが正装故、ご無礼かとは存じますが……」


「いいんです。仕事最優先でいいですよ。本当ならもっと重要な任務とかについているはずなのに、俺のせいでこんな場所にいるんですし」


「いえいえ動物とは……誠に愛らしゅうございますな」


 陽炎さんの目がきらきらしていらっしゃる。

 気持ちは凄くわかりますよ。


「いいですよね。愛嬌というか……」


「おわかりですか」


「ええ」


「おっと、忘れぬうちに皆様に地図をお渡ししておきます」


 最新の地図だ。水飲み場とか整備された場所がきっちり書き込まれている。


「これはありがたい」


「おおー、すっごい進んでるね」


「職人技じゃな」


「お館様、森へ行くならお供いたします」


 これは心強い。ガイドも護衛もしてくれるとは。


「私も一緒に行きますわ。マスターをお守りします」


 これは心配だな。セクハラされないように気をつけよう。


「我らは工事の最終段階がある。同行できんが、この広場は安全だから、何かあれば来てくれ」


「あいよ。そんじゃ行ってみましょうか」


 ギルメンとキアス、カゲロウさんとアスモさんでできたての道を歩く。

 歩きやすくていい感じだ。四人くらいで横になっても歩ける。


「空気が綺麗というか……楽に動けるな」


「自然とはそういう効果があるのじゃ。ここは魔力と生命力で満ちておるから、それも手伝って居心地がよいのじゃろう」


「清らかな空気を感じるわ。こういう明るくて澄んだ場所は素敵ね」


 適度に光が入ってきて、ほんのり温かい。

 いいなここ。気分がリフレッシュされる。


「精霊もおります。動物と共存しつつ、テリトリーは別であるケースもあります」


「いい所だねー。危険な生き物とかはいないんですか?」


「徹底的に調査いたしました。大型の生物はおりますが、自然や生物を根こそぎ潰すようなものや、病原菌を撒き散らす存在はおりません」


「住むにはちょうどいいな」


 そこで近くで何かが落ちる音がした。

 反射的に剣に手がいく。


「何だ?」


「木の実ですな」


 赤い殻に覆われた少し大きめの木の実が落ちている。

 ピンポン玉くらいだな。


「食えるものか?」


「はい。生物や精霊の食べ物ですな」


「精霊って食事が必要なのか?」


 授業で個体別でまちまちとか聞いたような。


「土地の魔力を内部に宿している実です。凝縮されたそれは、精霊が食べると体から魔力が溢れ、それが周囲の木々などを活性化させます。それにより枯れずに木の実をつけるのです」


「おおー、そういう話は好きですね」


 こういう自然の仕組みみたいなのちょっと好き。

 面白いので胸ポケットにしまっていこう。


「後で調べてみるかな」


「楽しみが増えたのう」


「まったくだ」


 暫く歩くと道が終わり、本日のメインイベントである巨大な湖が現れた。


「おー……こいつは……とんでもないな」


 水面が光を反射して輝き、少し涼しくなっていることもあってか、神聖な気がしてくる。

 逆側の森が霞んでいるくらいには広いようだ。


「ここが一番空気が清められているわね」


「きらきらしてて凄い綺麗だよ!」


「いい領地じゃな」


 その美麗さに圧倒される。荒んだ心が清められていきますよ。

 近づいてみよう。何やら一部に緑色の部分があるな。


「これは海藻? 藻みたいなやつか?」


 端っこに群生しているポイントがある。

 といってもわずかな場所だし、理由とかありそうだな。


「こういうの無闇に排除しちゃいけないことくらい俺でも知っているぞ」


 生態系を壊してはいけません。

 意外とこういうのが大切だったりするのだ。


「汚れを食べて、水質を綺麗に保ってくれるものですな」


「予感的中だな」


「賢さを見せおったな」


「ちなみに食えます?」


「よく洗って火を通せば……味はあまり……」


 陽炎さんが苦い顔だ。食用には適さないらしい。


「お腹空いたの?」


「いや、自給自足とかするなら知っておきたいだけ」


「食べていいものと悪いものは区別する必要があるわね」


「短い橋とボートがあります。食用に適した魚もおりますので、取り過ぎなければ問題ないかと」


 釣りや漁を体験しておいてよかったぜ。

 結構暮らしていけそうだな。


「今度ゆっくり釣りするか」


「学園での講座経験が活かせるわけじゃな」


「あとは田畑が作れる場所があれば生活できるか」


「ありますよー。適した土や川もあります。私の領地と近いんです。寄っていってくださいな。自宅に招待いたしますわ」


「……行かねばならんな」


「気をつけようね」


 非常に、非常に残念だが、見ないで終わることはできん。


「よし、今日はリフレッシュできたな。また様子を見に……ん?」


「どうしたの?」


「何かいるよな? あれ生き物か?」


 かなり離れた位置で、白い大きなものが動いている。

 その物体がどういうものか把握することができないほど離れているが、植物の類じゃないはずだ。


「行ってみる?」


「下手に刺激していいもんかね?」


 正直動物は気になる。友好的ならいいが、危険だったら嫌だなあ。

 さてどうするかな。

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