アカシックレコードで遊ぼう
あれことヒメノが家に来ました。
リビングで寛ぐ気満載でお届けされています。
「さーてどうやって帰ってもらうかね」
「これ、つまらないものらしいですが……」
ヒメノがお菓子の箱っぽいものを出してきた。
「らしい?」
「みんなで食べてくださいって、フリストちゃんから」
「貰い物かよ」
そんなもん持ってくるなよ。いいのかそれで。
「中身は普通のクッキーデスね。毒は入ってないデスよ」
あれこが指を箱に入れている。箱を破っているわけではない。
なのに指がするりと入っていく。こいつ人間じゃないからかな。
「何やってんだそれ」
「中身の成分とか記録を分析しているのデス」
「あれこちゃんの特技ですわ」
記録とか歴史とかを検索したり複製したりできるらしい。
便利な能力っぽいですよ。
「今調べて、この世界の記録に残ったデス。こっからおててぽんぽん~ってするデス」
両手を合わせてぽんぽんしている。意味がわからん。
人の家で奇行に走る初対面の人とか対処困るわ。
こっちの気持ち考えてくれ。
「はい同じの出たデス」
いつの間にやら箱が二個に増えている。
手品みたいだな。この世界じゃ手品より魔法の方がメジャーか?
「記録のコピーデス。あれこはやればできる子なのデス!」
あんまりない胸を張っている。
思い出してきた。そうだこれって。
「くれこがやってきたやつか」
「デスデス。アカシックレコードあるあるデス」
「それがまず無いな」
「中身も同じじゃな」
開けてみるとまったく同じクッキー詰め合わせ。
せっかくなんでお茶用意して食べる準備だ。
「紅茶でいいわね」
「もちろんですわ」
「お前が答えるんかい」
「お客さんという立場を強引にもぎ取ろうとしているデスね」
「そんな客はお断りだ」
中身はフリストが選んだだけあって美味い。
上品な味だ。当然の権利のようにヒメノが一番食っている。
「で、何しに来たんだよ?」
「ちょっとお話したかったデス。くれこちゃん倒せる人間とか頭おかしいのデス。しっかり記録するデス」
「するな。強いとばれるのは好きじゃない」
それが原因でくれこ殺したのわかってんのかこいつ。
「では好きな食べ物からデス!」
「聞けや」
「デス!!」
何でこんなぐいぐい来んのこいつ。
ちょっとうざい。目がキラキラしてんのが余計いらっとくる。
答えるしかないか。
「カニクリームコロッケ」
「ほうほうふんふむ。これデスね」
おててぽんぽんからの皿に乗ったコロッケ登場である。
「お前便利だな」
「デスよ。好きなお飲み物は?」
「冷たい紅茶」
「ぽんぽん~」
グラスに氷と紅茶が入っている。
ほほう、体に悪影響さえなければいいな。
「記録とまったく同じものデスから、毒も入ってないのデスよ」
「じゃあわしはあったかいお茶で」
「私もそれでお願いするわ」
「ほいほいー」
マグカップから湯気が出ている。匂いも色もお茶だ。
自分のやつを飲んでみると、ごく普通の味だった。よく冷えている。
コロッケがいまいちクリームの風味に欠けていたので指摘しておく。
俺はそういうところ無駄にうるさいぞ。
「はい次行くデス。得意武器は?」
「一応剣かね?」
それ以外が使えないとも言います。
最近弓使って無理だと悟った。
槍はなんとか使えるようになりたいんだけどねえ。
「お誕生日は?」
「決めていない。どうすっかね? 四人いるときにでも決めようぜ」
「わたくしと同じというのはどうですの?」
「それは却下で」
そろそろ決めないとな。
クリスマスや正月と被るとプレゼントが減って損をするだろう。
こっちにあるか知らんけれど。でも損な気分だし。
「候補としちゃリリアと出会った日か、こっちに来た四月なんだけどな」
「それだとわしだけ贔屓されているっぽいじゃろ」
「そこなんだよな。全員平等がいいし」
「私は気にしないわよ。アジュを連れてきてくれたんですもの。そこは感謝しているわ」
これはシルフィにも確認取りたいな。
四人の誕生日が重ならないことが一番だろうし。
「だとすれば夏休みだったから七月か八月だな」
「四月までに決めておけばよいじゃろ」
「それもそうだな。一年過ごして、一番それっぽい月にしてみるか」
まだこっち来て半年くらいだし、もう少し様子見て決めてもいいかもな。
「一番思い出深い月とかでもいいんじゃないデスか?」
「まあ覚えておこう」
「では次の質問デス! ご趣味は?」
「室内で遊ぶか読書。あと魔法」
「魔法がお気に入りじゃな」
「やってみると楽しくてな」
まだ魔法科通っている。
最近の授業は応用入ってきて、そろそろ中級者っぽいことをやらされそう。
地味に楽しみである。
「雷系統は珍しいデスからね。天性のへんてこな素質があるのデス」
「へんてこ言うな」
「アジュさんの記録をもっと取ってみたいデスねえ」
「めんどくさそう……」
絶対にうるさい。確実にだ。俺の平穏な生活が乱れる。
「四月前のデータがないのは諦めるデス。世界固着後の記録だけでも欲しいデスー!」
「それはどういうことなの? くれこも言っていたわね」
「そういやそうだったな」
「この世界に呼ばれ、案内人がついた時点で完全に元の世界との関係は絶たれ、おぬしの場合は四月からこの世界に生を受けて歴史が始まるのじゃ。それまでの一切の記録は消える。魔道具でもアカシックレコードでも読み取れんよう完全に抹消されるのじゃ」
「そうすることでよりオルインに適合する速度を上げるのですわ」
なんかそういうシステムらしい。
未練とか無いので構わないが、シャルロット先生とかもそうなんだろうか。
あの人も案内人がいるってことは転移者だよな。
「便利なシステムがあるもんだな」
「デスデス。だからこれからのアジュさんを記録していくのデス」
「それは嫌」
「今完全にオッケーしてもらえる流れだったデス……」
「俺にそんなもん通用するわけ無いだろ」
「気難しさマックスデスねえ」
そこでふと思った。アカシックレコードが記録している。
そしてカニクリームコロッケという、この世界じゃ俺オリジナルに近いものが出た。
「もしかしてカレーやラーメンとか、別世界の技術がやたらスムーズに入ってきてんのはお前らが関わってんのか?」
「おおおぉぉぉ…………」
あれことヒメノがめっちゃ驚いている。
イロハは首を傾げているが、リリアは感心したように頷いていた。
「本当に変なところで異常に勘がよいのう」
「凄いデス! デンジャラスデス!!」
「デンジャラスは違うだろ」
「流石ですわ! 流石の洞察力! 流石はわたくしのアジュ様ですわ!」
「お前のものになった覚えはない!」
隙あらば自分のだと主張すること自体が俺の好感度を下げている。
そこがわからないってのがギルメンとの明確な差です。
「全部が全部ではないデス。けれどアカシックレコードが別世界の記録から素材を厳選し、そっと生態系を壊さないようになじませる作業のお手伝いをしていることは事実デス!」
「神とリーディアちゃんも関わっているプロジェクトですわ」
「とはいえそうして持ち込まれるものは少数じゃ。この世界独自の文化や特色が消えてしまう危険があるからのう」
「さてはこの話長くなるな?」
「なぜそう飽きっぽいんじゃ」
世界の仕組みとか絶対長くなるだろうが。
そろそろ夕方だぞ。こいつらが晩飯食っていく可能性が出てくる。
「逆にあれこに聞きたいことはないデスか? 面白かったらまた遊びに来てもいいデスか?」
「わたくしにも何でもお聞きになってくださいまし!」
「お前に興味はない」
「直球は傷つきますわ!?」
質問ねえ……正直他人に興味がわかない。
どうでもよくね? めんどいじゃん。
「別に敵対しないんだろ?」
「デスね」
「じゃあいいよ。勝手に仕事頑張れ。俺たちに極力関わるな」
何か重要な仕事をしているのは理解した。
なら邪魔しないでおこう。知るのがめんどいとも言う。
「こいつは予想外デスね。結構な美少女だと自負しているデスが」
「だからどうした」
「かわいい子に興味とか無いデスか」
「無い」
あるわけねえだろ俺だぞ。
「なにか質問して欲しいデス」
「眠くなってきたので帰ってもらえますか?」
「帰そうとするのはなしデス!」
めんどくっせえ。適当になんか話して帰そう。
少しは社交性というものが身についてきたな。
「自爆ボタンとかある?」
「ロボと勘違いしてるデスか?」
「腕が飛んだりとかさ」
「飛ばそうと思えばできるデスよ」
あれこの手首から先がふわふわ浮いている。
得意げな顔が若干腹立つがまあいい。
「あれこは概念デス。厳密には生物ではないので、このくらいはできるデスよ。ある程度の物はコピーだけじゃなくて改変もできるデス」
「具体的に頼む」
「冷たくて人間以外に一切影響ないマグマとか出せるデス」
「ほー……」
「露骨にテンション下がったデスよこの人」
「私達のデータもあるの?」
「あるデスよ。フェンリルとテュールについてもあるデス」
ついでに聞いておくか。イロハ関係もまだ謎があるし。
「神界でフェンリルさんを捕縛しようとしたのがテュールさんデス。その時に右腕を飲み込まれて逃げられたのデスよ」
「だから右腕だけ使えるってことか」
「デスねー。もう本人は恨んでいないから好きに生きるといいデス。むしろ義手がやばいことになってるデス」
「そしてコタロウさんと出会って恋に落ちると。波乱万丈というやつじゃな」
「ヘルを縛っていたのは、この時に使われた神具を流用したデス」
結構興味深いじゃないか。
そういう話は嫌いじゃない。
「面白い。お前は家への出入りを許可する」
「やったデスー!」
「わたくしも週五くらいで来ますわね。とりあえず今日は泊まっていきますわ!」
「ヒメノは帰れ」
「なぜですの!?」
こうしてあれこがちょくちょく遊びに来ることになった。
暇潰しには最適かもしれない。たまに遊んでやろう。
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