アジュ攻略作戦とドラゴン戦

「いやーなんやかんやあってドラゴン退治のために馬車に乗っとるのう、わしら」


「なんだその説明的なセリフ!?」


「そうだねー調理科のリックさんとエルザさんも同行することになったしね」


「今度は二人の説明も入れてきた!?」


「それはそれとして、そろそろ私を撫でる時間よアジュ」


「お前は自由過ぎるだろ!?」


 なぜ馬車の中でこんなに疲れなければならないんだ。さては俺を暇潰しに使う気だな。

 馬車の片側に俺達四人。向かい側にリックとエルザが座っている。


「本当に良かったのですか? リックはともかく、私までご一緒しても」


「なーに一人増えようが二人増えようが変わらんのじゃ」


「近くにいてくれないと調理方法がわからないからな」


「その場で捌くつもりなんですか?」


「持ち運びに便利だろ? あと金になるパーツあったら傷つけずに倒したいな」


 ドラゴンの牙とか武器に使えそうだろ。ゲーム知識だけどさ。


「どうしてそんなに余裕なんですか? レッドドラゴンはCランク以上がしっかり準備していくものですよ?」


「なんとかなるさ。正直もっと厄介な奴もいたしな」


 ゲルのようなぶっ飛んだ特殊能力さえ無ければゴリ押しで倒せるだろ。

 とか思っていたらリックとエルザが二人で話し始めた。


「料理さえできればこちらとしてはそれで……」


「私もリックも駆け出しだもの。こんな機会は今までないものね」


「そうだね、珍しいこともあるものだね」


「小さい頃から料理人として旅に出るのは夢だったものね。実は嬉しいんでしょう?」


「バレたか……エルザにはかなわないな」


 なんかいちゃついてるっぽい二人。これはイラっとする。


「二人は小さい頃から一緒なんだねー」


「ええ、ずっと幼馴染みというやつでして」


「幼馴染みって実在するのか……しかも女だと……ほぅ……一緒か。一緒に学園で料理か」


 あーあーエルフの女の子とずっと一緒ですか。

 モテるやつとか女の知り合いいる奴ってのは恵まれてやがるな。


「えっ、あのなにか気を悪くするようなことを……」


「別に……そう……女の幼馴染みが居て仲がいいのか。俺にはそんな奴現れる気配もなかったよ」


「嫉妬のオーラがハッキリ見えるのじゃ」


「学園に来るまで女に何一ついいエピソードないままだったわけでさ……それがなんだよ、エルフの幼馴染みって」


「とうとう横になり始めたよ」


 もう座ってんのもダルい。そら横にもなるわな。ちょっと横になるわ。


「俺だってこっちに生まれてればさ……なんかあったかもしんないじゃん……」


「落ち着け、結局モテないままじゃ」


「カップルだけが死ぬ流行病とかねえかな……」


「サカガミさんはどうされたのですか?」


 どうっていうか胃が痛くなってます。なんだよこいつらの人生は。


「まあ病気みたいなものじゃ」


「大丈夫だよー。きっといいことあるよー」


「何か不満でもあるの?」


「不満はない。モテるやつが嫌いなだけだ。なんだよどうせエルザさんも何故かまともな女なんだろ?」


「まとも……ですか?」


 学園にはまともな女が多すぎる。なんだここ。

 入学金がそこそこ高いらしいから、それが関係しているのか?


「アジュのいたところは女の子がひどかったらしいよー。男子は媚びるかイケメンかお金もちじゃないとクズ扱いされるのが常識なんだって」


「それはなんというか大変でしたね」


「まず女なのに俺と話しててキモイの一言も出ないのがおかしいわ。意味わからん」


「その発言の意味がわからないわ」


 どうせわからないさ。わかっちゃいけないことだし。


「僕はモテたりした思い出はないですよ? そんなにいい思いをしたこともありませんし」


「今だって寄り添っているじゃないか。自然と密着してるじゃないか!」


 指摘されて照れながら距離を取るリックとエルザ。そういうやりとりがさらにイラっとくる。


「よくわかんないけど、アジュに寄り添えばいいの?」


「多分違うわ。アジュのことだからもっと面倒なはずよ」


「寄り添うのはトラウマと恥ずかしさと不信感で無理なんじゃろ」


「全部女性から、さりげなくして欲しいということね」


 自分でも気持ちの整理がついてないけどそんなとこだろう。


「自分からは手を握ることも遊びに誘うこともせんからのう」


「リックでも自分から手くらい握ってくるのに」


 それがさらっとできる環境に居たっていうことがまずズルいわ。


「女に触れると最悪金づるになるか無条件で罵倒されるからな」


「どうしよう慰め方がわかんないよ」


「ゆっくり慣れさせるしかないわね」


「そうじゃな、膝枕……はハードル高いのう」


 俺とリックを除く四人がなんか相談を始めたけど知らん。ふて寝してやる。


「抱きついてみるとか?」


「軽くていいからアジュに自分から動いてもらうのが一番じゃないかしら?」


「それがトラウマのせいで無理だから困っとるわけじゃ」


「手を握るくらいでどうですか?」


 さっさとドラゴンのいる山につかないかな。憂さ晴らしに全力で殴ってやる。


「じゃあ手を握ってもらうことを目標とします!」


「そうね、そのあたりから徐々に慣らしましょう」


「うむ、目標は一週間以内じゃ」


「……一週間かかるのですか」


 一週間でどうこうできると思っている浅はかさよ。無理に決まってるじゃないか。


「わしらのアジュ攻略は始まったばかりじゃ」


「俺は攻略される側なんだな」


「はっきり言っておくわ。私達三人が試行錯誤して、互いに励ましあいながら」


「一致団結してアジュを攻略するんだよ!」


「決してアジュがヒロインを攻略するわけではないのじゃ」


 それ聞いてどう反応しろっつうのよ。


「着きましたよ。この先の山にドラゴンが出ます」


 御者の人に言われて全員外に出る。四月の山はちょい寒いな。夜までには帰ろう。


「本当に迎えに来なくてよろしいので?」


「ええ、帰りは別の手段がありますから」


 そして御者は馬車とともに去っていく。

 帰りはシルフィに馬車の記録を再生してもらえばいい。今去っていく馬車でもいいし、ここまで来た馬車の再生でもいい。そうすれば帰りはタダで帰れるからな。再生を止めればテントにもなる。

 もしかしてシルフィの能力は使い手に応用力があれば凄え強いんじゃね?


「さーて昼飯抜いたんだ。最高の肉料理頼むぜ」


「任せてください。そのために付いて来たんですから。来てよかったと思ってもらえる一品にしてみせます!」


「私とリックの集大成を披露しますね」


「おおー楽しみだよー!」


 山の奥から今まで聞いたことのない、だがどこかゲームで聞いたような咆哮が響く。


「いるわね。声からしてあっちよ」


「ゆっくり山登り開始じゃな」


「よーし、ドラゴンこーい! お昼ご飯が遠のくぞー!」


 山の中腹にて、やがて見えてくる洞窟。その中に確かに何かいる。あらかじめ鍵使っておこう。


『ヒーロー!』


「あ、俺達の力については誰にも言わないでくれ。正直強いと知られるとめんどい」


「わかりました。料理人はただ料理に打ち込むのみです」


 どすどす地面を揺らしながら出てくるドラゴン。三階建てのマンションくらいの大きさだ。

 前足と後ろ足で四本。二枚の翼に二本の角。硬そうな皮膚としっぽ。洋風の龍だな。

 でかいなー。頭が俺の全身よりでかい。大型バスくらいあるね。


「なるほど、こりゃ赤いな」


「まるで恋する乙女が片思いの相手に出会った時のように赤いのう」


「それ前やったわ!!」


 なんかもう懐かしいな。一ヶ月経ってないはずなのになあ。


「えーそれじゃあここで、どれだけ乙女チックに赤い色を表現できるか大会の第二回を開催……」


「やっとる場合か!!」


 ほーらドラゴンさんが吠えてるよ。すげえ怒ってるじゃん。目の前で大喜利始めようとするからだよ。


「資料によると火炎のブレスが危険らしいわよ」


「んじゃ殴ろう。危険じゃなくてもとりあえず殴ろう」


 ドラゴンの下顎を殴って消し飛ばす。


「えええぇ!? そんな簡単に倒せていいんですか……?」


「あ、やっべえ牙って金になるんだっけ? リリア回復してくれ」


「まったく無計画に倒すでないわ」


 リリアに回復されて心なしか顎が尖って美形になった気がするドラゴンさん。

 ソードキーを使っておく。切れ味は保証する。包丁の代わりに使ってやるさ。


「ちょっとせっかく倒したんですよ!?」


「リック、エルザさん。解説頼む。どこ狙ったらいい?」


「どこと言われましても……僕からは中のお肉はできるだけ傷つけないでくださいとしか」


「じゃあ翼は切っちゃっていいの?」


「はい、根本から切ってください。羽も一応使い道はあるはずですよ」


 戸惑うリックとは真逆に解説してくれるエルザさん。適応能力高いな。

 何かの資料を読んでいるみたいだ。


「なんじゃそれは?」


「ドラゴンのおいしい捌き方、という本です」


「あるのね、そんな本が」


「せいやー!」


「おらあぁ!!」


 俺が左、シルフィが右の翼をバッサリいく。痛そうな叫び声を上げるドラゴン。

 ガアアアァとか言ってるのがうるさい。なんか暴れだしたぞ。


「暴れだした場合は、痺れ薬や落とし穴や……ええっと待ってくださいね」


「殺したらダメか? 首だけ跳ね飛ばすとかさ」


 しっぽを振り回し、鋭そうな爪であちこちひっかきまわって暴れるので、とりあえず腹パンで黙らせる。


「顎の下あたりを切断すると首のお肉を無駄にしないそうです」


「オーケー、シルフィ! ドラゴンの時間止めてくれ! 肉を無駄にしたくない!」


「オッケー! 時よ……ドラゴンだけ止まれ!」


 ピタッと動かなくなるドラゴン。


「始めっからこうすればよかったかもしれんのう」


「それは言いっこ無しだ。おらよっ!!」


 正確に顎の下に一太刀入れて頭だけを首から切り離す。

 ドラゴンは断末魔の声さえ出せず、自分が死んだことに気がつくこともないだろう。


「お見事! アジュかーっこいいよー!」


「そりゃどうも。時間戻してくれ。イロハ、血抜きって言って伝わるか?」


「ええ、問題無いわ」


 地面から伸びる影で作られた巨大な腕が、ドラゴンの後ろ足をがっしり掴み、逆さに釣り上げる。


「こんな感じでどうかしら?」


「いいですね。後はしばらく待ちましょうか」


「あ、ドラゴンの肝は薬になりますから。腹を切るのは待ってくださいね」


「ほーい、了解。血はどうする? 流れてるけどビンにでも詰めるか?」


「血は……流れちゃってますし料理には使えませんし僕はなんとも」


「んじゃパスだ。また狩ればいいしな」


 こうして血抜きは終わる。リックは終始苦笑いだった。

 内蔵とかを丁寧に切る作業があるんだけど、一旦休憩だな。

 せっかく調理科が二人いるんだからお手並み拝見だ。

 俺達のドラゴンとの戦いはむしろこれから始まるんじゃないかと思ったよ。

 これが終われば実食だ。

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