Fランククエ ドラゴンを討伐せよ

 俺達は屋台の集まる区画で昼飯をとることにした。

 前に食べに行くと約束していたのをすっかり忘れていたよ。


「めっちゃあるな。採算取れてるのかこれ」


「それなりに取れているのでしょう」


「でなくとも実際に店を出すというのは料理人にとって夢と修行の両立じゃからのう」


「量と質を維持して素早く作るって大変だよねー。普段の料理でいっぱいいっぱいだよ」


 昼時だけあって賑わっている。さて何から行くかな?


「どこも人が多いのう。店側に気迫のようなものを感じるのじゃ」


「調理祭が近いからじゃない?」


「なんだそりゃ?」


「簡単に言えば売上を競う、大規模な調理科のお祭りよ」


「一ヶ月後かな? 料理トーナメントとか新作発表会とかいっぱいだよ」


 この学園はとにかくイベントが多い。前回のダンジョンのような生徒向けのものから、調理祭みたく大々的に人を呼ぶものまで様々だ。単純に科が多いことも影響している。


「優勝したりすると学園の一等地でお店出せたりするよー。本場の料理店で修行できたりね」


「ほーそら本気になるわな」


「楽しみだねー。ちゃんと一緒に行くよ?」


「ここで約束してもらおうかしら。逃げ回られると困るもの」


「約束はしない。けど覚えておく。俺は本来約束するの大嫌いなんだ」


 約束はもうどうしようもないほど切羽詰まった状況か、本気で俺がしたい時じゃないとしない。


「なんで? 内容じゃなくて約束が嫌いみたいだね」


「どうせ後ろ向きな理由よ」


「約束ってのは、したら守るために頑張らないといけないだろ? 予定も決めないといけないし。そういう手間が掛かるの嫌いだ。プレッシャーになる」


「ま、アジュらしいといえばらしいのう」


「アジュだもんねー」


 それで納得されるのは喜んでいいのか悪いのか、とりあえず考える余裕が無い。

 腹が減ってるからだ。空腹は思考を鈍らせる。


「人気の屋台は並んでるねー。明日はもっと早く来よっか」


 祭りの屋台だけでなく、フードコートのような場所もある。

 なんちゃらフェスタ的な専門スペースもある。

 ここらは飯を食うためだけに存在するエリアだ。


「あっち空いてるよ。行ってみよ」


「空いてるって大丈夫なのか?」


「穴場的な店かもしれんじゃろ。とりあえず何か腹にいれんと死ぬのじゃ」


「行ってみましょうか」


 肉の焼けるいい匂いがする。よっしゃ肉だ。


「いらっしゃいませー!」


 笑顔で出迎えてくれる緑髪のエルフさん。美人さんだな。

 屋台の殆どが売り切れている。タコスとか売ってるので四人分頼む。


「随分盛況みたいじゃな。ここら一帯が売り切れとはのう」


 メニューの殆どが品切れだ。ステーキ串なんてものが売ってるから期待したのに、特製タレとか書いてあるから楽しみにしてたのに、品切れだよ。

 まあタコスはトマトとちょい辛いソースが肉と合わさって美味いので許す。


「すみません。流通ルートにトラブルがあったみたいで……」


 調理場から出て謝ってくるバンダナ巻いた優しそうな男。

 接客している女も一緒に頭を下げてくる。


「トラブル? なんじゃ橋が壊れでもしたかの?」


「なんでも大雨と山賊とドラゴンが出たとかで……」


「えらい災難だな」


「山賊なんてまだいたんだねー」


「アホね。生徒のエサになるだけなのに」


 生徒の餌になる、というのは理由がある。山賊は討伐依頼が学園に来ることがある。

 そして現れるのがリゾート地の近くだとさあ大変。我先にと生徒がクエストを受領する。

 そして山賊を速攻で殺処分して、目一杯リゾート地を満喫して帰ってくるわけだ。

 交通費が学園から出るというのがデカイ。


「山賊はもう討伐されましたよ。久しぶりの獲物でしたから喜々として狩りに行ったと聞きます」


 やはり討伐されたらしい。金と単位が貰えて移動がタダ。しかもリゾート地で遊び倒せるわけだからな。Bランクギルドには、山賊や盗賊討伐クエを受けまくって各地で遊び倒すギルドが存在する。空腹時の獣のように罪人を探して討伐しては遊びまくるわけだ。

 もっとも、そんな噂が広まったせいで山賊自体が激減してしまい、最近じゃ普通の依頼を受けているとか。


「んじゃもうすぐ食えるようになるな。特製タレに期待しておこう」


「それが、ドラゴンがまだでして」


「倒せてないの?」


「ドラゴンですよ? そんなにほいほい倒せませんよ」


「山賊が死ぬ間際に暴れて寝ているところを起こしたらしく、相当凶暴化しているとか」


「しっかり始末しないからよもう……」


 ちなみに俺は山賊のようなクズを人間にカウントしていない。

 よって人を殺したと葛藤したり、ウジウジ悩んだりしない。

 直接関わったことはないがチンピラやゲームの敵みたいなものだろうし、それをショットキーでガンガン撃ち殺していくのは正直楽しそうだ。


「でももうすぐどこかのギルドが倒してくれるはずです。うまくいけばドラゴンの肉が出回るかも!」


 男が急にはしゃぎだした。肉料理好きか。俺もそうさ。味に興味出てきた。


「ドラゴンの肉って美味いのか?」


「種類によります。今回出たレッドドラゴンは表面が硬く、さばくのに手間がかかりますが。その分中の肉がとても美味しいんですよ! 最近開発したタレと合わせれば極上の美味しさですよ!」


「ちょっともう、お客さんに何話してるのよ。すみません、肉料理のことになるとこうなんです」


「いやいやわかるぜ。漂ってくる匂いからしてしょっぱい系のタレだろ? 米やパンと一緒に食うタイプの」


「わかりますか!? 貴方も肉料理が好きなんですね!! いつか肉料理の店を持ちたいんですよ!!」


 さらにテンション上がる男。呆れ顔で男を止めるエルフさん。


「うーん、そこまで言われると食べてみたいなー。そのドラゴン、わたし達で倒しちゃおうよ」


「ナイスアイデアじゃシルフィ。わしらで倒せばまるごとおいしく頂けるのじゃ」


「勝手に遠出すると面倒だろ? その間クエスト受けられないぞ」


「ならそこの二人にドラゴン討伐のクエストでも出してもらいましょう」


「ちょちょちょっと待ってください!? いや料理はしたいですけどドラゴンですよ? それにドラゴン討伐の依頼料なんて払えませんよ!」


 どうやらドラゴンを倒す依頼となると大金払わないとダメらしい。


「リリア、レッドドラゴンってどのくらい強い?」


「四階で戦ったドクロちゃんの方が百倍強いのじゃ」


「それじゃあ大したことないね。サクっといこうー」


「いやですから報酬がお支払いできませんので……」


「そもそも私達のギルドじゃランクが低くてドラゴン討伐の許可が降りないわ」


 なんでも危険なクエはFランクじゃ許可が出ないとか。


「んじゃこうしよう。ドラゴンが出る場所の近くにある食材を調達するっていう格安のクエ出してくれ。で、偶然俺達はドラゴンに出会っちまうんだ」


「なるほど。そして偶然出会ったんだから倒しちゃってもわたし達のせいじゃない!!」


「流石に悪知恵が働くのう。ではそれで頼むのじゃ」


「いや、頼むって言われても……ドラゴンは上位のギルドが討伐に行くもので……」


「んじゃ近くの街にある食材やらを探しに行くから護衛してくれってクエでいい。調理祭とかが近いんだろ? ならそれで通るんじゃないかな」


 これなら適当な言い訳でなんとかなる。ドクロより弱いなら楽勝だし、未知の料理食ってみたい。


「本当に行くのですか? その……皆様はドラゴンを倒せるほどその……」


「強いわ。だから任せて。もし信用出来ないなら片道の護衛ということにしてくれれば、帰りにでも勝手に倒してこちらに届けるわ」


「報酬なんて単位が貰えればそれでいいさ。できれば二単位以上がいい。あとはうまいもの食わせてくれれば最高だな」


「わかりました。お願いします」


「いいの? お客様を危険な目に合わせるのよ?」


「わかってる。危なかったらすぐ逃げよう。僕は前から一度ドラゴンを料理してみたかったんだ」


 仕方ないわね。と呟いたエルフさんは渋々納得してくれたようだ。


「じゃあ一緒にクエストカウンターに行きましょう」


「一緒に? なんかあるのか?」


「ボードに貼りだされたら他のギルドが受けてしまうかもしれないわ。だから一緒に行って、私達を名指しで依頼してもらうのよ。それで申請が通ればいいわ」


 手続きがあるらしい。全部任せよう。知らないことは素直に仲間を頼るのさ。


「Fランククエに調整せねばならぬからのう」


「え……Fランク? あの本当に……」


「大丈夫だ。問題ない」


 そして二単位のFランククエを隠れ蓑に、ドラゴンを狩りに行くことになった。

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