第二章 学園で過ごす日々

回復魔法を使ってみよう

 学園の中にある大きめの広場、噴水やら花壇やら売店がある場所に俺達四人はいる。

 学園は広すぎるため、案内板と一緒にこういうスペースが有る。迷子に親切だな。

 自由に使える適度な広さでちょうどいい。

 昼寝している奴や歌の練習している奴等もいる。


「はいじゃあ魔法の練習をするよー」


「よろしく頼む」


 ここでまず回復魔法の練習をする。

 こっそり魔法科の回復魔法初心者講座に出ておいたからな。

 三人には復習の監督と教師をしてもらう。

 みんなで芝生に座り込んで特訓開始だ。


「まず初心者講座で教わったことを話して」


「人数分の水晶球が貸し出されて、魔法と魔力を意識できるようにって」


「おおっ懐かしいやつだね!」


 シルフィもやったらしい。素人は自分の中にある魔力を認識できない。

 魔法として引き出すことも難しい。なので体から魔力を引き出してくれる水晶球を使う。

 使い方は簡単で、水晶球に触れると自分の全身から魔力がじんわり出てきて腕を伝い水晶球が光るというものだ。これで自分も魔力があって魔法が使えるんだ、ということがはっきり理解できる。


「売り物らしいんで一個買っておいた。これに手を添えてっと」


 水晶の中心が白く光る。これが回復魔法に使う魔力が出ている証だ。


「その感覚を忘れないうちに引き出してみるのじゃ」


 水晶から手を離し、集中する。体の内側から右腕を通して放射するイメージだ。


「みんなどういうイメージしてる?」


「わたしは手からこう、必殺技を出す時みたいな」


「体の気の流れに乗せるわ」


「内側で練って打ち出すイメージじゃな。壁を絵の具で塗りつぶすイメージでもよい」


 それぞれ違うらしい。外側に魔力が現れるところまではできる。そっから放射ってのが難しいんだよ。


「まだ恥じらいがあるじゃろ。どこか心にリミッターがある」


「あーわかるわかる。恥ずかしさを捨ててポーズとか決めちゃえばいいんだよ」


「そういや魔法科でもそう言われたな」


「ポーズや掛け声は初心者にはちゃんと意味があるのよ」


 魔法科で自分なりのポーズとか考えたりしてみると、精神統一できていいと教師が言っていた。

 自分が一番開放される手順は自分自身しか知らないとかなんとか。


「勢いがついて、心にストップかけることもなくなるからねー」


「マトが必要ね。これに向けて撃ってみなさい」


 俺の正面に黒い板が出る。イロハが影で作ってくれたみたいだ。


「一番簡単なヒーリングからじゃ。回復はできて損はないのじゃ」


「よーしそれじゃあ、わたしがやってみるよー」


 シルフィが板の前に立ち、両手を天にかざす。全身に魔力が循環しているのがわかる。

 ぼんやり全身が光るシルフィは神秘的な美しさがあるな。


「……必殺っヒーリング!!」


 板に光の玉が撃ち出され、着弾して消える。回復魔法だから板をぶっ壊したりはしないみたいだ。

 必殺はどうかと思うぞ。神秘性台無しじゃないか。


「おーこんな感じか」


「なれれば前にやったみたいにマッサージに使えるよ。覚えておくとお得!」


「うっし、やってみる」


 立ち上がり、板の前で両足を開き、両手を突き出す。突き出した両手を素早く腰の右側に引く。同時に姿勢を低くする。やはり必殺技の発射といえばこの格好だ。

 集中して俺はヒーローだと思い込む。必殺技をかっこ良く敵にぶちかます。一番の見せ場だ。


「はあぁぁぁ…………」


 気分が乗ってくると内側から魔力が溢れ出すのがわかる。

 魔法科の先生よ、ポーズとか恥ずかしくね? とか思ってごめんなさい。マジで効果あるのね。


「ヒー、リン、グっ!!」


 両手を突き出し、板めがけて力を解き放つ。

 白いビームのようなものが出て板に当たる。


「よっしゃできた!」


「おおーやったじゃん!」


「いいセンスじゃ」


「上出来よ。恥じらいなんて捨てるべきということね」


 面白い。これは楽しい。なんだよテンション上がるじゃないか。うわもっとやってみたい。


「これすげえ楽しいな」


「楽しいうちにもう一度じゃ」


「そうね、感覚を忘れない内にやっておきましょう」


「頑張れー! 応援してるよー!」


 今度は手に魔力を集中させてみる。考えてみれば必ず手のひらから出す必要が無いので拳を握る。


「回復拳!」


 拳を前に出し風圧で敵をふっとばすイメージでヒーリングを解き放つ。

 今度は光る玉が出た。


「次は後ろに出すわよ」


 背後に現れる黒い板に向けて、手のひらからヒーリングビームを放つ。

 玉にするよりビームのほうが撃ちながら狙撃ポイントを修正できて便利だ。


「どんどんいってみよー!」


 周囲に次々と出る板を様々なポーズで狙撃していく。


「ふっ! はっ! せいっ! そこだ!」


 正面に出た今までより大きい板に連続ヒーリング弾を叩き込み。訓練は終わる。


「お疲れ様。はいタオルよ使いなさい。今すぐに」


 とうとう強要されましたぜ。同じ状況が前にあったけどあれはそういうことだったんだな。


「おつかれー。そこの売店でポーション買ってきたよー」


 ポーションを受け取って飲み干す。なんかちょっと甘い。しかもビンに入った水色の液体だ。駄菓子屋で売ってそう。


「助かる。ふはぁ、なんか体力も減るけど違うものも減ってる気がする」


「それが魔力じゃ。魔力も無限ではないのじゃ。使ったら溜まるまで待つか、回復するかじゃな」


「今のポーションは魔力もちょっと回復するよー」


 そういうチョイスしてくれるとこ好きよシルフィ。口には出さないけど。

 ふと視線を感じる。少し離れた場所にいる人々がなんかこっち見てる?


「なんか見られてないか?」


「そらポーズ取ってたら見られるじゃろ」


 うわあ俺は見世物かい。急に恥ずかしくなってきた。


「懐かしい物を見る目ね」


「魔法使いならみんな通る道だからねー」


「みんなやってるんかい」


 微笑ましい物を見る目ってやつか。なんでも天才的な才能でもない限りほぼ全員が経験する、魔法使いあるあるのようなものらしい。


「これでとりあえず回復魔法の初歩ができたわけだ」


「後は精進あるのみじゃ。攻撃魔法はまた今度じゃな」


「だな。休憩しよう。しんどい」


 芝生に座って一息つく。さっきまで歌ってた連中がまだ歌って踊ってるな。


「アイドル科かしらね」


「イベントが近いからのう。練習にも熱が入っておるのじゃな」


「イベント?」


「お祭りとかでライブあるよ」


「面白そうだな。ちょっと興味あるわ」


 元の世界じゃアイドルに興味はなかった。

 アイドルアニメとかなら見てたけど三次元に興味はないのさ。

 こっちの世界じゃエルフとか羽生えてる奴とかいるし魔法もある。

 どんなパフォーマンスがあるのか純粋に興味が湧いた。


「知らない女の子には興味あるんだね」


「私達には手を出さないというのに」


「そうじゃないっての。こっちのライブって何やるのかなってさ」


「まあそれは見に行けばよいじゃろ。ヒマなら行く程度に覚えておけばよい」


「んじゃそれでいいや。飯食って帰ろう」


「買い出し行かないとね。そろそろストックなくなるよー」


「もうかよ。四人で食うと食料の減りも早いな」


 集団生活ってのは自分でやらなきゃいけないことが多くて大変だな。

 全員で今後の計画を立てながら歩き出す。


「そういや、俺と一緒じゃない時……といってもギルクエやってる時間が多いからほぼ一緒だけど。みんな何やってるんだ?」


「私はヨツバと忍者科に顔を出したり、里の運営の話をしたりかしら」


「魔法の研究と食べ歩きじゃな。他はシルフィかイロハと一緒におる」


「わたしは最近入った騎士科いったりお料理勉強したりかな」


「みんな色々やってんだな。騎士科?」


 俺も何かちゃんとやってみるかな。魔法が楽しいからその路線でいくかな。

 そういや召喚科ってあったな。召喚術とか楽しそう。代わりに戦ってくれれば楽だし。


「アジュの騎士になるために、本格的に剣術やってみようかなと。結構女の子が多いよ。半分くらい」


「ほー女の子多めか」


「そこに反応するのね」


「興味が湧いたのか、行く気が無くなったのか気になるところじゃな」


「騎士はいっぱいいてもアジュの騎士はわたしだけです! 闇雲に増やしちゃダメだよ?」


「安心しろ。俺を守ろうという奇特な奴がシルフィ達しかいない」


 俺と仲良くなろうとする女の子ってなんだよ。希少種だろそんなん。

 俺の腹が鳴る音で全員がこちらを見る。


「腹減ったな」


「どっかで食べて帰ろうよ」


「そうね。ちょうど美味しいパスタのお店があるわ」


「では夕飯はそこで決定じゃな!」


 今日の夕飯も期待できそうだ。調理祭にアイドルライブか。イベント事に積極的に参加するタイプじゃないけれど、見に行くだけならいいかなーとぼんやり考えていた。

 アイドルか、護衛任務とかあるのかね? まあFランクギルドにそんな依頼来るわけ無いか。


「なにぼーっとしとるんじゃ。腹減りすぎて動けんのか?」


「悪い、考え事してた。今行くよ」


 先のことなんて考えてもわからないよな。とりあえずパスタを楽しもうと思った。

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