眠い時は寝ましょう
「はあ……長いわ……ああもう疲れた……しばらく動きたくない」
昼飯を終えた俺達を待っていたのは学園長からの事情聴取である。
昨日起こったことは完全に運営側の想定外だったらしく、あの場にいた全ギルド、特に俺達とヴァン一行は長いこと説明を求められた。
ちなみに単位は五もらえた。二単位は事件解決と運営のミス・救助のお礼に学園から出たものだ。
「学園長が話の分かる人で助かったね」
「まったくだ。あの人じゃなきゃもっと色々聞かれて目立ったかもしれないしな」
俺達は特別に学園長室へ呼ばれ、こっそりと事情を話した。
「わたしもう今日は帰って寝たいよ」
「わしもじゃ。今日はお休みで良いじゃろ」
「まだ昨日の疲れも取れていないものね」
「ちゃっちゃと帰って寝よう」
ちなみにシルフィの力のことは全部なかったコトにされるようだ。
絶対に面倒なことになるからだ。
謎の女が出てきた、目的は知らないけどみんなで倒しました。それだけだ。
学園長がキッチリ口裏合わせてくれるらしいので、みんなでキッチリお礼を言っておいた。
「もう昼から二度寝するわ。たまには一日ダラダラしようぜ」
「よし、寝るわ。夜になったら更に寝る」
この辺がインドア派の限界である。一日自室でごろごろするのは大切な時間です。
そんなわけで即、自室に帰ってきた。食料とかは買い溜めてあるので問題ない。
買い物も行きたくないくらいめんどい。
「はあ……この生活こそが俺の原点だな。週一回はこういう日があっていいわ」
パジャマに着替えてベッドに入る。相変わらず寝心地最高だな。
「そうね、悪く無いわ」
「んーなんでいる? 鍵かけたぞ」
いつもどこから入ってるんですかイロハさん。
「当然窓から入ったわ」
「当然の使い方おかしい……ふあぁ……眠い。今ボケられても無理。寝る」
人間ってマジで眠い時は他のことが全部どうでも良くなるな。
「ちゃんと体力つけないからだよー」
「そうよ、ベッドの上でも体力をつける運動が……」
「したくない。眠いっつってるだろ。あとシルフィなんでいる?」
「入ってきたからだよ」
「どう入ってきたかを聞いてるんだよ」
シルフィさん忍者にジョブチェンジっすか。
「扉の鍵だけを開いていた時間まで戻したんだよ」
「なにそれ無駄に超すげえ」
「あとは扉に触れる瞬間の時間をふっ飛ばしたりとかできるよ」
「クロノスの力が使えるようになったのか」
「せいかーい。もう自由自在だよ。これでもっとアジュを守れるよー」
単純に戦力アップだな。すげえ使い勝手良さそう。
「便利ね。それはシルフィ以外の人にも適用できるかしら?」
「わたしと一緒なら効果に巻き込むくらいの調整はできるよ」
「そう、なら今度から鍵の掛かったアジュの部屋はシルフィに任せるわ」
「わかった、あとはお風呂にどう入っていくかだね」
「先に入って隠れていればいいわ。力に頼りすぎてはダメ。力も心も両方が備わっていなければダメよ」
「俺に聞こえる場所でする会議じゃねえだろ」
寝ている俺の左右で堂々と話すんじゃない。あと勝手に布団に入るな。
「でも本気で怒っているわけではないでしょう?」
「ちょっとだけわかってきたのさ! チラっとわたし達のパジャマ姿を見たのは、私服や制服でベッドに入られるのが嫌だからとか」
「よくわかるなそんなの」
「貴方は必ずパジャマに着替えるじゃない。いつも見ていれば自然とわかるわ」
「忍者ってすごい。いや結構本気ですごいぞ」
観察眼ってどうやって養うんだろう。これから先も戦っていくなら必要になる気がする。
やはり経験を積むしか無いかな。
「やっぱり『いつも見ている』の部分スルーだよイロハ」
「しかも今は関係ないことを考えているわね」
「この程度のスルーでへこんでいるようでは攻略は遠いのじゃ」
「どっから沸いた」
いつのまにかリリアまでいる。もう眠い。目を開けるのもダルい。
「なんじゃ人を油田みたいに言いおって」
「ん……なんでやねん……」
「もうまともにつっこむ気もないみたいね」
「完全に寝る体勢だよ」
だって暖かいし寝心地いいし無理だよ。
「一緒に寝ているのに何かしてもらおうという下心が出たりしないのかしら?」
「期待するだけ無駄じゃな」
「アジューなにかして欲しいことあるー?」
「眩しくて寝らんねえからカーテン閉めてくれ」
「…………うわぁ」
陽が当たるのが邪魔くさいのさ。太陽光は眠る時の天敵だ。
「やっぱり予想外の答えが返ってきたわね」
「とりあえず閉めとくね」
カーテンが自動的に閉まる。カーテンの時間を戻したんだとさ。超便利だな。
「これで問題は夜起きると眠れないことだな」
「朝まで寝るつもりなの?」
「いや、腹減るだろうし起きたら飯食ってもっかい寝る」
「だらけすぎじゃろ。どんだけ眠いんじゃ」
「んーまあねむいよ……ねむいです」
「私が擦り寄ってももう気づいていないわね」
なんかいいにおいするけどもうどうでもいいや。ゆっくりねようまじで。
「おやすみ」
こうして久々に怠惰な時間を満喫した。
平和っていいなあ……正直有名になったり最強になったりする気がない。
毎日ほのぼのスローライフでいいさ。異世界というだけで楽しいし。
「ま、今日くらいよいじゃろ」
そして起きた時、当然夜である。今は夜の八時。腹が減って起きる。
「んー寝すぎたか? とりあえず飯だ」
左右に寝ているシルフィとイロハ。俺の上で寝ているリリアを横にどかし、三人を起こさないように部屋を出る。
「食うもんねえかな……先に風呂かな」
流石に四人で寝るのは暑かったのか、ちと寝汗かいているので風呂だな。
そこで腹が鳴る。いかん、風呂入ってる間に空腹で死ぬ。
「ハムかなんかないかな」
とりあえず厨房に置いてあるパンをかじりながら探してみる。
「行儀悪いわよもう……夜食作ってあるから食べなさい」
「悪いな。起こしたか?」
イロハがいつのまにか背後に立っている。
「はい、口を開けなさい。食べさせてあげるわ」
「いや普通に食えるから」
「アジュは私が食べさせなければならない。そう決意したのよ」
「すんな。お前の中で俺はどうなってるのさ?」
「私の中で……なんだかいやらしいわね」
「うるさいなんでもそっちに結びつけるな」
貰っておく。三つしかないので二つ食ってイロハに一つ残す。
それをイロハが手に取り、俺に食べさせようとする。
「全部食うのはダメだろ。一個は食べておけ」
「満腹になった貴方を食べるから問題無いわ。そもそも私の分はもう食べたから」
「そのあーん待ったー!」
俺達の間に現れたシルフィが食べてしまう。
「ギリギリ間に合ったようだね。起きたら二人がいないもんだから探したよ」
「起こすのも悪いと思ってな。シルフィもハラ減ったんだろ? いっそちゃんと飯作るか」
「そして出来上がったものがこちらじゃ」
リリアがテーブルに座っている。なんだその料理番組のような用意周到さは。
「ピザか、こういうのって時間かかるんじゃないのか?」
「あらかじめ具材を乗せておいて、焼くときにわたしがその部分だけ時間を加速させたんだよ」
「そっか、ありがとな。冷めない内に食べようぜ」
みんなで席につく。すっかりいつもの光景だ。これでいい。
幸せの形なんて人それぞれだろうが、俺の幸せはこれがいい。
「なにをニヤけておるのじゃ気持ち悪い」
「うっせ、こういうのしあ…………うんまあ、な。ピザは美味いな」
「リリア先生! アジュは今何を言いかけたんですか!」
「それがわかればアジュ初心者は卒業じゃ」
「しあ、まで聞こえたわね。ここから推理しましょう」
「やめろやめろ無駄なことすんな!」
うんまあ幸せだよ。こういうのちょっと照れくさいけどな。
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