ドラゴン料理実食

 山の中で川を見つけたので、そこで料理を始める。

 調理の準備ができたみたいだ。いよいよドラゴンが食える。

 ちょっとしたキャンプだな。アウトドアっすね。初体験だよこういうの。


「お待たせしました。まずは一品目です」


 あれからソードキーで内蔵取っ払って保存用の箱に詰めた。

 この世界には冷蔵庫のような役割をする魔道具がある。

 結晶で箱の内側に冷気を生み出し続ける仕組みだ。

 魔法という便利な力が有るのだから、生活をより快適に横着できるように、人間というものは全力を出す。自然に多機能で高性能になるものだ。


「おお、来たか。さてどんな料理が出てくるかな?」


「まずは僕から、串焼きです。ドラゴンの硬い皮膚の裏についている、少し固めの肉を一口サイズに四角く切ります。そして串に刺して炭火でくるくる回しながら焼いたら、塩を少々で完成です」


「えらいシンプルなものが出てきたのう」


「まずは素材の味をお楽しみください」


「いただきます。ちょい味が強いというかクセがあるんだなドラゴンって」


 中々の噛み応えだ。硬くはない。噛み切れるけど噛み応えがあるいい肉だ。

 牛や豚とは違う味。鶏肉を濃い目の味にして歯応え強くすると似るかな?

 口の中に広がる味は濃い目だけど不快感はない。一品目としちゃ良いチョイスだ。


「でもおいしいよ!」


「これはいけるわね」


「次は私ですね。ひき肉にして混ぜた後、香草で包み出汁をとってあるスープに入れてじっくり煮込みました」


 ロールキャベツみたいな感じかな。肉も香草もスープも自己主張が強すぎない。

 体を温めるにはちょうどいい。串焼き一色だった口の中がスッとリセットされる。


「ドラゴンをひき肉に使うとは贅沢じゃな」


「香草でしつこさが消えていいわね。スープも主張が強すぎないバランスで素晴らしいわ」


 フォークで突き刺して口の中に放り込む。肉汁がじゅわっと出ていい塩梅だ。

 ヘタな出汁など入れなくとも、ドラゴンの肉は部位によって出汁代わりにもなるらしい。

 シンプルに香草を入れるだけでも味が引き立つ。


「うむ、素晴らしいのじゃ!」


「ありがとうございます」


「さーてそろそろメインかな?」


「ええ、いよいよステーキです」


 リックが待ってましたとばかりに準備を始める。運ばれてくるサラダと白米。

 熱された大きな鉄板に厚めに切った肉が乗る。

 俺がパンじゃなく白米をリクエストしておいた。


「このジュージューいう音がいいよな」


「焼いている間に匂いで我慢できなくなりそうですよね。焼き加減どうします?」


「俺はしっかりめで頼む」


「わたしは普通で」


「私も普通でお願い」


「わしはちょいレアで」


「はーい、少々お待ちを」


 それぞれの皿に取り分けられた肉がなんともうまそうだ。一秒でも早く食いたい。

 そこでリックが取り出したのが秘伝のタレだ。人数分容器に小分けされている。

 勿論かける。鉄板に弾けるような音が響く。


「おっしゃ食うぞ!」


 一口食べる。柔らかくて噛んでいてもパサパサしない。

 マンガとかで舌の上でとろけると言っているのが今まで理解できなかった。

 でもようやくわかった。安物の肉は硬いんだ。


「美味いなあ。来たかいがあったよ」


 弾力があるのに噛み切れる。肉の脂もうまいこと味を引き立ててくれた。


「凄く美味しい!!」


「こうしてみんなで外で食べると一層美味しく感じるわ」


 しょっぱいソースが最高に俺の好みだ。

 熱々の肉を白米にワンバウンドさせて一緒にかっこむ。いいなあ米がすすむ味付けだ。

 ソースがくどくないため飽きが来ない。さっぱりしつつ余計な甘さもないし、砂糖を使ってないんだろう。


「二人のおかげで珍しいものが食べられたわ」


「うんうん、来てよかったねー!」


「たまらんのう。良い腕をしておるのじゃ」


「ありがとうございます。新鮮で傷ついていないドラゴンなんて最高の素材があったからですよ」


「その素材を料理できるんだから二人はすごいのさ」


 資料はあっても最高の素材をここまで美味しくできることこそ、日頃の鍛錬の賜物さ。


「ではみんな凄いということでどうでしょう」


「そいつはいいな。それでいこう!」


 大勢で笑いながらの食事という、俺の中では大変な偉業を達成した。

 当然完食し、大満足だ。出された飯が美味いなら完食する。それが一番嬉しいのは、普段飯を作っていればわかるしな。


「ごっそーさま。はー食ったなー」


「食後のお茶をどうぞ。スッキリしますよ」


「ども、ほーこれはまた」


 烏龍茶に近いな。漂う香りが心を落ち着かせる。


「何から何まで大満足じゃ」


「おう、満足だ。これ売ったらいいんじゃね?」


「そうね、私達は十分堪能したわ」


「牙と角はわしらが売らねばならんぞ」


 そういや金に余裕がある生活じゃなかったな。

 家賃と食費はどうにかなるけど贅沢できるほどじゃない。


「僕たちは料理ができただけで満足です。皆様の喜ぶ顔も見れましたし」


「そうね、皆様が倒したのですから換金してくださいな」


「それじゃあお言葉に甘えましょうか」


「んじゃ肉は腐らせてもいけないし、そっちの店で出してくれ。売上増えそうじゃないか?」


「あ、ちょっとだけわたし達の分残しといて。家で使おうよ。食費浮くし」


 ちゃんと家計のこと考えてくれるお嬢様シルフィ。いい娘だなあ。


「そうだな。角煮にでもしてみるか」


「カクニ、ですか?」


 リックとエルザが首を傾げている。呼び方が違うのかもしれない。


「こっちにはないのか? すき焼きにしても美味いと思うんだけど」


「わたし聞いたこと無い」


「私の里にはスキヤキとカクニはあったわ」


 あるものとないものが区別つかんな。まあ無ければ作ればいい。


「うっし、作り方教えるから興味湧いたら作ってくれ」


「いいですとも! 新たな肉料理が僕を呼んでいる!」


「これで手軽に好物が食べられるようになるわけじゃな」


 俺の考えが読まれている。いいじゃないか好きなもん食いたいんだよ。


「ではお肉を僕達が、肝や牙などの部分は皆様が売ってください」


「ほいきた。もうちょい休んだら帰ろうか……そういやどうやって運ぶ?」


 腹いっぱい食ったけどドラゴン全体の十分の一も食えてない。ガッツリ残っているけど運べるのか?


「わしが魔法で浮かせるか、おぬしが鎧着て運ぶとかかの?」


「目立ちそうだな……台車で運ぶか?」


「私が影の台車を作るから、シルフィが馬車を再生して引っ張ればいいわ」


「街道に出れば業者さんが運んでくれますよ。夕方には戻ると連絡を入れてあります」


 あらかじめ運んでくれる業者と話はつけてあるらしい。

 山の麓までもっていけば学園に届けてくれるとか。


「ここまで一緒だと戦いに巻き込んでしまうと思い麓にしました」


「良い判断じゃ。それでは麓まで出発じゃ」


 そんなこんなでなんとか学園に戻った。護衛も終わり、無事単位も貰えた。

 牙や爪は錬金科や鍛冶科に持って行くか、クエストカウンターで換金するかだけど保管しておく。

 取ってこいというクエストがあったら単位貰えるからだ。

 肝は風邪薬にもなるし滋養強壮やらの効果もあるらしい。

 ナマモノなのでこれは外皮と一緒に即売った。


「うおぅ結構な額になったなこれ」


「これでご飯が豪華になるよー」


「贅沢し過ぎると習慣になるわよ」


「何事も程々が一番じゃ」


 それもそうだ。贅沢が癖になるといけないな。おかず一品増えるくらいならいいだろう。


「そんじゃ、家帰って寝るか。遠出で疲れたしな」


 リックとエルザとは学園について肉をでっかい保冷庫に預けた時点で別れた。

 リックの店だけでは使い切れない余った肉を、周囲の店にも使わせるらしい。

 アレを一つの店で使い切るには一週間以上かかりそうだしな。腐ったら勿体無い。

 帰りの馬車でレシピも教えておいたから、二人の腕ならすぐ角煮もものにするだろう。


「そうだねー遠出はたまにならいいけど、ずっとだと疲れちゃうよね」


「今度からはそういうところにも気をつけましょうか」


「そうじゃな。アジュの体力が持たぬ」


「はいはい体力ないですともさ」


 体力を取り戻すためにも寝る。睡眠と食事は大切です。


「当然隣で寝るわよ」


「シルフィの隣か、仲いいな」


「そういう返しだけうまくなってどうするのじゃ」


「マズイ方向に進化してるね。本格的に手を握ってもらう作戦考えなきゃ」


「俺のいる場所でやるなよ。絶対身構えるぞ」


「一週間あればなんとかなるわ。ならなければ全力でキスするわよ」


 どういう脅しだ。本気でやりそうで怖いぞイロハよ。


「さ、家までダッシュで帰るか!」


 とりあえず家に帰ればなんとかなると思いたい。


「忍者から逃げられると思っているのかしら?」


「加速するわたしから逃げられるかな?」


「そもそも同居しとるんじゃから逃げ場なくなるじゃろ」


 恥ずかしいものは恥ずかしいんだよ。

 家に帰って寝ちまえば朝にはいつも通りの日常のはずだ。

 明日からまたクエスト受けて、座学行って、こんなお馬鹿なやり取りして。

 俺にとっては今のところそれだけでも十分だ。


「今はこれで十分だとか思っとるじゃろ?」


「なんでわかる!?」


「それで満足できないから困っているのよ」


「アジュはそういうところ、もうちょっとがっついてみよう!」


「がっつく男って嫌われるだろ」


「それはこういう状況になる前の男女の話じゃないかしら」


「はい、家についたからこの話おしまいー」


 結局一緒に寝たけど何もなかったさ。俺だからな。

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