女の子に慣れるために

 ドラゴンを倒して数日、俺達はちまちまFランククエをこなしている。

 今日は草刈りしたり石取ったりだ。大調理祭が近いため、大勢が店を出したりできる場所を整地していくわけだな。

 俺とリリア、シルフィとイロハでお互いが見える範囲で作業中だ。


「腰が痛くなってきた……」


「いつまでたっても体力つかんのう」


「三時間もやってりゃキツイわ。レベル上がれば強くなったりしねえの? 今の俺はどんくらいだっけ」


「今15じゃな」


「めっちゃ上がってる!?」


「当然じゃろ。フェンリル倒して、時空神なりかけのゲル倒して、先日ドラゴン倒したじゃろ? むしろ低いくらいじゃな。150くらいいっていてもおかしくはないのじゃ」


「99で打ち止めじゃねえの?」


「誰もそんなこと言うとらんのじゃ。鎧を着たままだとレベルが極端に上がらなくなるみたいじゃな。些細な事じゃ」


 まだまだ先は長いらしい。長いほうがいいな。これからずっと生活していくんだから。


「楽しみは多いほうがいいからな」


「まだまだ行っていない場所や知らない科、食べていない料理など盛り沢山じゃ」


「いいね。一つ一つ一緒にやっていこう」


「案内は任せるのじゃ」


「期待してるぜ。ついでに草刈りで疲れない技術とか無いか?」


 さしあたって腰が痛い。疲れが取れる方法求む。


「もうポーション持ち歩くとか。回復魔法をもっと覚えるのも手じゃな」


「あー魔法いいかもな。教えてくれ」


「魔法科かシルフィに聞くのオススメじゃ。わしの曖昧魔法は参考にするべきではないのじゃ」


 扇子の開け閉めだけで回復も攻撃もできるからな。

 基本を知らずに応用編も難しいだろう。せっかくだし一からゆっくり覚えてみよう。


「アジューこっち終わったよー」


「おお、こっちも終わるぞ」


「じゃ、終わらせて訓練を開始しましょうか」


「訓練てなんだ? 聞いてないぞ」


「おぬしが女の子に慣れる訓練じゃ」


 なるほど。俺に聞かせないわけだ。絶対に逃げるからな。


「はいはい、とりあえず終了報告が先な」


「わかっているわ。話しながら行きましょう。ここからは私が話すわ」


「イロハがっていうのはどういうことだ?」


 なにか重要な話でもあったかな。


「いつも四人でいるでしょう? もっと女の子と二人で話すことに慣れてもらうわ」


「うわあ、地味にしんどいな」


「そうやって苦手意識を持つからダメなんじゃ」


「そうそう、これは訓練が必要だねー。ってことでじゃんけんで勝ったイロハからだよー」


 俺の知らないところで色々動いてるみたいだな。

 気を使ってくれてる部分もあるだろうし無下にはしないでおこう。

 クエスト報告して帰り道。俺とイロハが並んで歩く。

 リリアとシルフィは少し後ろをついて来る。


「よし、観念しようじゃないか。ただ女が喜ぶ話題がわかんねえ。どうやって機嫌とればいいんだよ?」


「別にご機嫌取りをする必要はないわ。日常会話をすればいいわよ」


「それがそもそも苦手だ。一般人の会話なんて特例を除いてつまんないだろ」


 自分は面白いと思って芸人気取りや、デッドコピーでしゃべる一般人ほどクソつまらないものはない。


「なにか拗らせているようね。では軽いところで趣味や性癖トークでもしましょうか」


「めっちゃ重いわ。あと性癖は知ってるからいい」


「いいえ、貴方は本当の意味でにおいフェチを理解できていないわ」


「できてたまるか!」


「それと、こういう話を好きな人以外にはしないわ」


「誰にするのもダメじゃね?」


 語るもんじゃないだろう。隠せ隠せそんなもん。


「直球で言ってもダメ……いえ、今のは私のミスね」


「どうした?」


「なんでもないわ。話を戻すけれど、例えばこの花壇に咲いている花。ふわりときつくない、優しい香りがするでしょう? こういった匂いも好きよ。とても好き。気持ちが落ち着くもの」


 えらい乙女なこと言い出したな。普通にしてれば可愛いんだけどなイロハも。

 帰り道にある花が沢山咲いている場所で優しく微笑むイロハ。

 今日の空より綺麗な青色の髪が風になびいてまともな美少女に見える。

 これで性癖と行動に問題がなければ破壊力が尋常じゃないな。


「男の俺でもイヤじゃない匂いだ。嫌いじゃない」


「でしょう? 逆にアジュが昨日洗濯に出した下着は、ちょっと臭いが強くなるわね」


「待てや」


「そういった臭いも好きよ。とても好き。気持ちが高ぶるもの」


「いいから待て。話を聞け」


「高ぶるし捗るわ」


「聞けや!! お前なんでそんなもん知ってんだよ!!」


「性欲に負けたからよ」


「キリっとした顔で言うことか! そこは頑張って抑えろよ!」


 ああもう台無しだよ。さっきの美少女感が全部台無しなんだよチクショウ。


「私だって抑えたいわ。でも手すら繋いでくれない人が相手ではどうしようもないわね」


「そこに繋がんの!? 下着握りしめてる奴と手なんか繋げるか!」


「これからもお風呂場に放置した下着を嗅がれるか、私と手を繋ぐか、二つに一つよ」


「なんでお前は終始ドヤ顔なんだよ! ちったあ悪びれろや!」


 自由だなこいつ。もっと躊躇とかしろ。

 俺が言っても説得力無いかもしれないけどさ。


「代わりに私の服を嗅げばいいわ。見て見ぬふりをするのも共同生活では大切なことよ」


「いらんいらん。臭い嗅ぐのもやめろ」


「私に死ねというのね? 貴方の影として尽くすと言っているのに」


「影は下着嗅いだりしないと思うよ?」


「ならちゃんと今日の下着と替えておくわ」


「そういう問題じゃねえって。結局盗ってるっていうか悪化してんだろうが」


 最初会った時はこういう娘さんだとは思わなかった。

 もっとクールで冷たい印象だったな。

 いや今もクールだけど好意はちゃんと表すだけか。


「特殊な趣味がある女は嫌いかしら? 貴方も女の子に密着されるといい匂いだなーと思ったりしているでしょう?」


「過剰なスキンシップが無理なだけだ。イロハが嫌いなわけじゃない」


 ちょい変態気味の美少女というのは好みだった。少なくとも二次元では。

 実際遭遇すると好みではあるけど戸惑うな。

 つーか匂い嗅いだのバレてるのか。女の子はいい匂いがします。


「そこで嫌いじゃない以外の言い方はできないのかしら」


「俺にそんな期待はしないでくれ。これでギリだ」


 大切な仲間であることに変わりはない。一緒に暮らしていけるならそれが一番いい。

 それを口に出すことはできないけど伝わっていると助かるな。


「そうね。少し控えるわ。だから貴方もちょっとだけでいいから私達に歩み寄って欲しいの」


「ん、そうだ……な。うん、まあかなり時間がかかるぞ。それでも待てるか?」


「それはずっと一緒にいたいという確認かしら? そういうときは俺の側にいろ、と言ってくれればいいわ。それだけで嬉しいから」


「無茶言ってくれるな。命令して一緒にいさせるのはなんか違う気がするし」


「妙なこだわりね。これだけは覚えておいて。私だけじゃなく、みんな何も無いと不安なの。貴方に事情があるのもわかる。けど無意識だとしても避けられ続けると少し悲しいわ」


「……覚えておくよ。嗅ぐのも取り替えるのもやめろよ?」


 さり気なく釘を差しておくのだ。こういうところで先手を打っておく。これ後手じゃね。


「気付かれるとは……アジュは忍者の素質があるかもしれないわね」


「忍者に謝っとけ。ほら家についたぞ」


「じゃあ私はここまでね。楽しかったわ。ちゃんと話せるじゃない」


「はーい、ここからはシルフィちゃんタイムだ!」


 入れ替わりでシルフィタイムが始まるらしい。


「さあ一緒に遊んだりお料理したりして過ごす時間がはじまるよ!」


 テンション高いな。全力で楽しもうとしているのがわかる。


「よろしくな」


 さて何が出るか楽しみだ。

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