雷と虚無

 アトラクションは順調に進み、なんとか無傷でステージ4。

 川上の方向に城があり、どうやらそこを目指すものらしい。

 俺たちはでっかい城の中、玉座の間にいた。


「まーた復活しやがった」


 五メートルはあるでっかい青銅の鎧が二人。

 斧と大剣のコンビだ。

 中身はないので、そういう魔法だろう。

 その後ろに豪華な装飾と彫刻の入った扉がある。あれがゴールらしい。


「同時に倒さないと復活するみたいっすねえ」


 上半身と下半身を、左右を泣き別れにしようとも復活する。

 前に似たような敵と戦った気がするな。

 結構ありがちな発想なのかもしれない。


「ウラア!」


「やってやるっす!!」


 ヴァンとやた子の同時攻撃で崩れ落ちる敵さん。

 だが復活するのだ。


「扉から魔力が放出されているみたいだよ」


「面倒な……サンダースマッシャー!」


 扉に防御魔法がかかっているらしいな。電撃が弾かれた。

 そして青銅鎧がまた攻撃を始める。


「つまり鎧二体を同時に倒すと扉の結界が消えるから」


「そのタイミングで扉ぶっ壊すのか」


「ギミック多いっすね」


「そういう遊び場だからかな?」


 なにかしら攻略法が設定されているものが多い。

 言い換えれば、攻略すりゃ倒せるんだからありがたくもある。


「じゃあアジュさん、ぱぱっと覚醒してくださいっす」


「できねえよ。お前覚醒何だと思ってんだ」


「燃え上がれ! アジュの魔力!」


「そろそろガス欠だぞ」


 このアトラクション長い。

 戦闘抜きにしても一時間くらいは経っている。

 ポーションにも限界があるし、節約していたら魔力なくなるし。

 もうにっちもさっちもいかなくなるのである。


「一度空っぽになるまで撃ってみちゃどうだい?」


「扉の中に隠しボスがいるかもしれんぞ」


「なら中は受け持つっす」


「わたしも協力するから、隠しボスも一緒に倒そうね!」


 どうやらやる方向で決まりかけている。

 行ける気がしない。敵は青銅とはいえ巨人に近い体躯。


「ちょーっと真面目な話をするっすよ」


「やた子が?」


「なぜ疑問を抱いたっす!?」


 やた子だからだよ。

 なんかマジっぽいのでちゃんと聞こう。


「アジュさんの魔法はもう一段階上に行こうとしているっす。魔法を撃っていて、実際にぼんやり魔法名が浮かぶも、使えないものが増えているはずっす」


 心当たりはある。

 戦いの最中に思いつくも、なぜかはっきりした形にならない。

 それが増えてきたから、魔法の本を図書館で読んでいたりもした。


「魔法っていうか、戦闘スタイルは様々っす。その中でも、一気に爆発させてどーんってやる、本能と経験で動く猛獣のようなタイプ」


「オレだな」


「技術もあるから、ちょっちヴァンさんは例外っぽいっすけど。逆に軽やかな風のように、時に激流のように、緩やかで穏やかな中に潜む危険。そんなタイプもいるっす」


「わたしかな? ミナの教えとフルムーン流がそんな感じかも」


 なんとなく理解した。

 俺のスタイルはどっちだろう?

 遠距離戦と一撃離脱だよな。


「属性から考えるっす。雷っていうのは一瞬でばちっと火花を散らす。瞬間的な威力。これは性分と正確両方が出ているっす。普段穏やかで、一気に爆発して跡形もなく焼き切る衝撃。一撃離脱もそういうことっす」


「そういう力の使い方ってことだね。なのに心にストップがかかっちゃうから」


「結果的に今以上の魔法に踏み切れないっす」


「だからってやけくそで無茶しても違うんだろ?」


「違うっすね」


 この匙加減が難しい。考える時間欲しいわ。


「こっちは気にしなくていいよー」


 解説してくれている間に、ずっと鎧を足止めしているヴァンとシルフィが凄い。

 普通に全能力で敵を上回ってんな。


「アジュさんは魔力量の増え方が半端ないっす。下準備はできているっすね。踏みとどまってしまう心を、リミッターを意図的に、短時間だけ外せばいいっす」


「そうすればいつものアジュと、思い切りのいいアジュの両方ができるんだよ!」


「そうか……そいつは難題だな」


 やた子からの真面目なアドバイスだ。

 シルフィもそれに乗り、的確に説明してくれる。


「さてはお前ら……リリアになんか言われたな?」


 一瞬二人の動きが止まる。やっぱりか。


「い、いやあそうでもないっすよ?」


「そうそう! うん、そうだよ! いつも見てたらわかることだし!」


「ここに俺を連れて来たのも、必要なことっていうか、ここが最適だと判断したんだろう。あいつならやりかねない」


「むうぅ……やっぱりリリアのことはわかるんだね」


 おそらくこうして目的が判明することまで考慮しているだろう。

 リリアに自信を持っておすすめしますと言われれば、ちょっといけそうな気がする。


「はあ……まあやるけどさ。期待には応えられんからな」


「大丈夫。失敗してもアジュから離れたりしないし、できるまで一緒だよ」


「わかった。んじゃ敵の相手変わるよ、ヴァン」


「おっしゃ任せるぜ」


 カトラスの魔力ストックを三個きっちり溜めて、初心者用のカトラスも出す。

 まず限界まで魔法を使う。その先に何かヒントがあるはずだ。


「二刀流か? 初めて見るぜ」


「そりゃやったことないからな」


 言いながらしっかり集中。サンダーフロウを流し込み準備完了。


「いくか。リベリオントリガー!」


 第一段階まで引き金を引く。

 敵の攻撃がスローに感じる。

 やはりこの状態は特別なのだろう。


「見える……ここだ!」


 二体が同時に武器を振り下ろす。

 それに合わせて大きく飛び、二刀を振りかぶる。

 この技は元々アキレウスのもの。

 あいつの動きを思い出し、魔力の流れを記憶から引っ張り出す。

 もっと研ぎ澄ませ。一瞬にすべての煌きを集約させろ。


「こいつが今の精一杯!」


 両のカトラスに染み渡る魔力を確認。

 振り下ろし、閃光が激しく敵を照らす。


「雷光双閃!!」


 青銅の鎧を焼き切り、弾け飛ぶ敵の欠片。

 驚くほど抵抗はない。

 斜めに両断し、雷光が弾け飛んでは敵を飲み込んでいく。


「またか」


 その光景には、何かのヒントがある。

 それが掴めないまま、普通のカトラスが砕け散った。


「ちっ、流石にもたないか」


 粉々だ。これは修復できんな。

 俺用に作られたものではない。

 これは仕方がないのだろう。


「アジュ、扉が!」


 シルフィの声で状況を再確認。

 すぐさま攻撃魔法に移行した。

 だがもう魔力が少ないことは自覚している。


「プラズマイレイザー!!」


 扉がうっすらと消え始める。

 あの扉は完全に魔力の産物なのかだろう。

 半透明になっていることからも伺えた。


「よしよし、魔力が足りなくなってきたぜ」


「いいんすかそれ!?」


「いいんだよ。今アジュは何かやろうとしてる。ならわたしはそれを信じるよ」


「やりたいようにやっちまえ。お前さんは普段も身勝手だろう?」


「言ってくれるぜ」


 魔力を出し続け、電撃が周囲にまで飛び散り燃やし、弾ける。

 その火花にやはり違和感というか……何か現象が混ざっていた。

 雷光が激しく火花を散らす時、そこに何かが見える。


「見えるんじゃない。消えている?」


 火花が散り続ける限り、そこで何かが発生し、敵を消す。

 迸る雷撃は、こうして放つ攻撃魔法と同等に燃え上がる。

 その稲妻は何を焼く。何を得た。


「あれが電気だとすると……火花を集めて……」


「どんどん威力が落ちてるっすよ!」


「がんばってアジュ! わたしはずっと応援してるから!!」


「難しく考えんな。今あるもんを利用しろ。適当にな」


 頭で考えてはいけない。攻撃魔法を俺の常識に当てはめ過ぎた。

 サンダースラッシュの時点で電撃の斬撃だ。

 そんなもんに100%適応できる常識なんて無い。


「やってやるさ」


 より深く高く魔力を上げ、理解する。

 感覚だ。ここで大切なのは理論じゃない。

 もっと純度を高めろ。


「焼いて無に帰すのか。それともこの光が新しい何かを生み出しているのか」


 なぜだろう。周囲がやけに静かに感じる。

 シルフィの声も届いているし、意識すれば音が響くのに。


「雰囲気が変わったっすね」


「いい感じ。真面目でかっこいいアジュだ」


 シルフィの応援もある。なんとか成功させたい。

 前の魔法では……プラズマイレイザーの時はどうしていたっけ。


「そうか。一個で完成させる必要はないのか」


 今までどの魔法も別個独立していたわけじゃない。

 プラズマイレイザーは、俺の使える全攻撃魔法の混ぜ合わせだ。

 なら最後の一撃を決める、その下準備の魔法。

 そんな魔法があったっていい。


『ソード』


 貴重なカトラスが折れないよう、いつもの剣に持ち変えた。

 同時にプラズマイレイザーはおしまい。

 扉に穴が空いているが、それもゆっくりと修復を始めている。


「扉が閉じちゃうっす!」


 理屈は後回し。起きていることを操作して捻じ曲げてでも使え。

 主人公補正が俺に馴染み始めているのなら、ここは傲慢にでも実行すべし。


「はあああぁぁぁぁ!!」


 雷光一閃は魔力を集め、極限まで研ぎ澄ませる。

 今回は別だ。限界まで魔力を密集させて放ち続け、雷が何かを消している状態へ。

 魔力で作り出された火花の熱と効果を抜き出して剣に。


「まだここまでか……だが別の魔法を思いついたぜ!」


 雷の極地は遠い。

 だがその副産物。放電する瞬間を固着する。

 考えれば考えるほど意味がわからん。

 この理屈であっている保証ゼロだ。だが自然と魔力は安定する。


「ならあとは使ってみるだけさ」


 まだ扉に残っている小さな穴。

 修復が間に合っていないそこに、剣を突き刺し唱える。


「インフィニティヴォイド!!」


 剣に触れた対象を含め、放電の届く範囲を無になるまで無限に虚無で焼き続ける。

 無はさらなる虚無を生む。よくわからんけど、そうやって魔法だろうが無へ変換というか、雷光で焼いているような。

 雷光による永続的な虚無化とかそういう雰囲気のそれだろう。


「ま、原理は後回しだ」


 扉が一瞬で消えた。だから今はそれでいい。

 鎧二体も消滅したし、まあなんとかなりましたよ。


「どんどん妙な技覚えやがるな。おもしれえ」


「やったね! また強くなってるよ!」


「おー……そっち方面に行くっすか。まあアジュさんの性格全面に出たらそうなるっすね」


『おめでとう! 君たちは最深部まで到達し、見事城と街に平和を取り戻した! ご褒美に三単位と賞金、クリア証明のメダルと、そしてなんと商店街の特定のお店で使える割引券をプレゼントだ!』


 結構色々貰えんのね。単位はありがたいな。


『お店はこのアトラクションの装備や、ゴーレム生成技術、マジックアイテムも提供してくれているよ!」


 あ、これタイアップってかスポンサーなのかも。


『なお、単位や賞金は同じランクで一回だけ貰えるよ! 欲しかったら、ランクを上げてまた来てね! ばいばーい!!』


 そこきっちりしてんのね。


「はー……ようやく終わった」


「おつかれさま。今日もアジュはかっこよかったです!」


「伸びしろはあるっすから、精進あるのみっすよ」


「だな。またオレと戦えそうだ」


「それだけは絶対に嫌」


 きっちり賞品は貰って帰りました。

 魔法はあとでリリアに詳しく聞いておこう。

 今は帰って寝る。俺にできることはそれだけだ。

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