遊びにバトルを混ぜないでください

 なんか四人で遊びに行くことになり、知らん施設の前で待ち合わせた。


「というわけでアジュ担当のシルフィ・フルムーンです」


「これでうちらの命が保証されたっす」


「だからなんにもしないっての」


「よっしゃ、じゃあ行こうぜ」


「いいけどここ何する所だよ?」


 入り口がテーマパークくさい。

 遊園地とか動物園とかのあれ。

 あんまり行ったこと無いから雰囲気で連想しただけです。


「ここは遊べてバトルもできる場所だ」


「人工物……まあ建物とかっすね。そういう仮想の街で、訓練とか戦闘する場所っす」


「中には敵の出るエリアと休憩所があるよ。最後まで行くと景品があるから、がんばろうね!」


「俺は確実にバテるぞ。確実にな」


 なぜこいつらは運動する場所を選ぶんだよ。

 俺の体力がもつはずないだろうが。


「へーきへーき。アジュも強くなってるよ」


「もうDランクなんだろ? FやEの依頼は受けらんねえんだ。素の力も高めといて損はないぜ」


 学園のクエストは明確にランク付けされているからな。

 どのランクでもいいから来いってやつが無い。

 そんな雑な仕事はしないんだと。

 つまりこれからきつくなるってことで。


「もうランク上げたくない……」


「大変っすね」


 みんなよくそんなに元気とかあるね。

 分けてくれよ。眠いのに家まで遠い時とかに使うから。


「はい、じゃあ元気出してみようね!」


「しょうがないか……」


「お、やる気っすね」


「ここで帰らない俺って凄くないか?」


「褒めねえぞ」


 褒められないそうです。

 いいや暇だし行ってやるよ。てなわけで入場。


「学園の施設ってよくわからんな」


 石畳と柵と、ちょっと川があって橋がかけられている。そこまではいい。

 よくわからんのは、建物の絵が書いてあるハリボテというか、板が立てられている。

 一応四方向に立てて箱っぽくしているが、これ家のつもりなのかね。


『ようこそ。Dランクコースへ』


 少し離れた位置にある人形が喋っている。

 まあ魔法か何かじゃないかな。


『ここは敵に制圧された街。ゴーレムや刺客が隠れているよ。順路に沿って街を取り返そう! Dランクだから、油断すると怪我するし、接近戦を挑まれることもあるよ! 頑張って!!』


 あれだ、遊園地のゆっくり進む乗り物みたいなアトラクションだ。

 俺たちは徒歩だけど、進む度に敵が来るやつだよ。


「よし、んじゃいくぜ!」


「ふふーん、負けないよ!」


 ヴァンがいつもの黄金剣を、シルフィが綺麗で細身の剣を抜く。


「ここからうちら四剣士の偉業が始まるっすよ!」


 やた子が羽を一枚抜き、黒く綺麗な剣へと変える。

 そういやそういう武器になるんだったな。


「ん? 四剣士?」


「そういや全員前衛か」


「いやいや俺を前衛に含めるなよ」


 このパーティー接近戦特化か。

 バランス悪いな。個々が強いからどうにかなるだろう。


「たまには剣も使うっすよ」


 会話中だというのに、板の家から敵が出る。

 ちゃんとドアの部分が開くらしい。


「はいじゃあ一人一匹でいくっすよー」


 革の鎧を着た木人形だ。

 より人間っぽい掘られ方で、服を着るとそれっぽくなるなあ。

 全員黒い服だし、敵っぽい。


「完全に剣持ってやがるな」


 数は四。どいつもロングソードだ。


「勝てない相手じゃないよ!」


 右手側は下に川が流れている。

 左手側は板の家。順路はまっすぐ行って右に折れる。

 つまり迎撃するしか無いわけで。


「あーはいはい、やりゃいいんだろ」


 カトラス準備完了。

 遠距離魔法はあんまり使わない方向だな。


「速いなおい」


 思っていたより人形のスピードが速い。

 終始逃げ回るのは無理だろう。

 敵の動きを見て、横に切ってきたらバックステップ。

 縦に切ってくる瞬間を狙おう。


「あんまり離れると順路から外れるっすよー」


「マジか……範囲制限とか聞いていないぞ」


 縦切りに合わせて左にスライド。

 カトラスを横一閃して走り抜ける。


「いいよーもうちょっとだよ!」


「今の勝ちじゃないのかよ!」


 完全に右腕を切り落としたが、左手で剣持ってやがる。


「そこが人間以外の強みさ」


 三人がこっちの見物に移っている。

 そりゃ楽勝だろう。ならちょっとくらい手伝ってくれてもよくないかね。


「しかも学習してないか!」


 さっきから横切り、しかも小刻みに攻撃してくる。

 大振りを避ける動きだ。

 腕が片方ないからか、ちょっと動きがふらついているな。


「狙ってみるか」


 横薙ぎの一撃を少ない動きで避け、その攻撃を加速させるように剣をぶつけてやる。


「よし」


 敵の左腕が大きく外に広がり、バランスを崩す。

 狙い通りだ。このチャンスを逃さず、袈裟斬りに胴体を切断。

 流石に動けなくなったらしい。もうぴくりとも動かない。


「なんとかなるもんだな」


「おー、無傷で倒すとはやるっすね」


「そりゃそうだ。アジュはセンスがある。苦手意識が強いだけでな。克服しちまえば強いんだよ」


「今までの積み重ねがあるからね」


 敵が弱いのもあるだろうが、剣が見えていた。

 ヤルダバオトの攻撃で目が鍛えられたかね。


「このぶんだとステージ1クリアは楽勝っすね」


「1終わってねえのか」


 さっさと行こう。川に架けられた石造りの橋を渡る。

 四人でも問題なく渡れる。明らかに戦闘を考慮して作られたものだ。


「下から来るぜ!」


 さっきの人形よりも小さめのアイスゴーレムだ。

 川の中から氷の手足をスパイクにして登ってくる。


「挟み撃ちっすねー」


 橋の終わりにも増えている。

 とりあえず登ってくるやつだけでも切り落とそう。


「せい!」


 顔を出したやつから首をはねる。

 蹴り落とせば下のやつも巻き込めるし、これは持久戦かね。


「ウオラア!」


 ヴァンが大振りの風圧でぶっ飛ばしている。

 氷がきらきら舞って綺麗だねえ。


「まだまだ来るっすよー」


「次は連携を意識してみよう!」


「連携って……普通実力が同じくらいのやつがやるんじゃないのか?」


「やってみよう!」


 俺にはあまり無い発想だ。

 とりあえずシルフィに乗ってみるか。

 並んで剣を構えるが、こっからどうするんだろう。


「わたしがまず斬っていくから!」


 シルフィの剣により、敵の腕や頭が切り裂かれる。

 それでも生きている切り残しを、復活する前に切り倒す。


「後始末をすりゃいいわけか」


 氷って簡単に切れるイメージだったが、どうも強化されてやがるな。

 いまいち剣が引っかかる。


「サンダーフロウ!」


 電撃で切れ味を増す。熱で溶ける効果も期待しよう。

 これなら接近戦の範疇だろ。


「ふっ! せい!」


 俺が雑に切り、鈍った敵を蹴り飛ばす。


「そこだ!」


 ぶつかって動きの止まった敵を、シルフィがまとめて斬っていく。

 新たな敵がシルフィに向かうので、背後からそっと突き刺して消す。

 あくまで援護に回ろう。


「戻るよ!」


 シルフィがこちらを向いた。戻ってくるのだろう。

 ならその途中の敵は任せる。


「ちょっと試すか」


 右腕に魔力を流し、雷光に変え、肘までで高速循環。

 体と馴染ませて、じわじわ電撃の領域を伸ばし、溶け合わせて。


「俺の後ろ任せる」


「任されました!」


 当然だが走ってくるシルフィの背後にも敵は湧く。

 俺の後ろにもな。なのですれ違いざまにお願いする。

 俺の背中の敵を殲滅しろと。

 代わりにお前の後ろは潰すと。


「ライジング……ナックル!!」


 巨大化させた雷光の拳を振り抜く。

 橋の外にいる連中も巻き込んで、盛大に氷をぶち割って殲滅した。


「はあ……ストレス発散できたな」


 接近戦はストレスが貯まります。

 神経使うんだよ。だから発散できる場所が欲しかった。

 一応近接攻撃だし、いいよなこれも。


「いだだだだだ……」


 右腕の復元と回復がまだ完璧じゃないな。

 回復の丸薬を回復ポーションで流し込むという合わせ技で高速回復。

 何度か手を握ったり開いたりで戻り具合を確認。

 よし、大丈夫だ。


「お疲れ様。ちゃんと連携できるね」


「シルフィが合わせてくれるからさ」


「こっちも終わったっすよー」


「知らねえうちに妙な進化してやがるな」


「まだ進化途中だよ」


 部分展開はまだまだ安定しない。

 下手に乱用して腕取れても困るし。

 本の知識だけでは足りないか。


「青くなるやつは使わねえのか?」


「序盤で使ってられるか」


 隠し味というか切り札なんだよ。

 魔力には限りがある。できれば温存しよう。


『おめでとう。君たちは入り口の刺客を倒し、見事街の中へと突入した。橋の先にある家は、君たちのために住民が用意した隠れ家だ。一時の休息を』


「どうやら終わったらしいな」


「じゃあ早く行って休もうぜ」


 四人で休憩所とでっかく書いてある一軒家まで行く。

 柵で覆われており、庭が広い。二階建てかな。

 中も綺麗である。ソファーが無性にありがたい。


「さっきの技、ライジングナックル? 前も鎌にしたりしてたよね」


「ちょっと形にはなってきた。別個の魔法じゃないんだよ」


「ほうほう、興味あるぜ。あんなわけわかんねえ魔法を使うやつ、オレも見たことねえし」


「そんな珍しいのか?」


「万人が使えるものじゃないっす。長い修練の果てに辿り着いたり、特殊な感性があったり、まあセンスと発想力に感性のっけてるんじゃないっすかね」


 かなり無茶して偶然できたもんだからなあ。

 リリアが治してくれるという保証と、どうにでもなれというやけっぱちの合わせ技だったし。


「攻撃魔法とも強化魔法ともちょっと違うよね」


「違うだろうな。俺の魔法はサンダー、ライトニング、プラズマの順に威力が上がる」


 疲れたので水筒からちょっと水を飲む。

 あんまり喋るのは好きじゃないが、何かヒントでもくれることを期待して話す。


「リベリオントリガーは強化魔法。そこからライジングギアっていう雷になる魔法として強化・独立した。あくまでメインはこれで、その場の状況に合わせて形を変えている。切るなら鎌。打撃ならパイルとか。ナックルもそうだけど、なんか叫ぶと精度と威力が上がるだけで、別個の魔法じゃない」


「魔法はノリと勢いと感性が大切っすよ。それで正解っす」


「実感しているよ。だから独立してライジングなんちゃらって魔法はない。簡易略式ライジングギアだ。魔法名じゃなくて技に近い。今はな」


 魔法はまだまだ進化する。そのうちライジング系統もできるかもしれない。

 まあそれはもっと後の話だろう。元の魔法が安定しないからな。


「もっと貪欲にいくべきっすね」


「アジュは保険かけるからね」


「リリアにも言われたよ。小細工と保険がかかるから、勢いが阻害されるんだと」


 これは性分だからな。俺という存在が形成されている根っこ。

 慎重に、危険を避けてゆったり暮らす。そのための力だと思っている。


「思い切りが大切っすよ」


「オレが見る限り、戦闘スタイルと性格が覚醒の壁なんだろ」


「それは変えられるのか?」


「変わる気もねえだろ? それは悪いことじゃねえ。なんかもっと眠ってる力があんのに、それを信じねえで切り捨ててるって感じだぜ。振り切っちまえば本当は強えんだよ。アカシックレコードとかいうのが攻めて来たあれ、あれで覚醒したろ?」


 ヴァンの言うことも一理ある。

 あの時は敵を倒せりゃ何でもよかった。

 その可能性が一番高くて、危険だが一番強いものを無理矢理使って。

 そういうのが俺に足りないものかもな。


「今の戦い方が悪いって言ってるわけじゃねえよ。無理に変える意味はない。新しいこともちょっとやってみるだけさ」


「今回で覚醒できるように頑張ろう。わたしも協力するからさ!」


「お、面白いじゃねえか。オレも知らねえ魔法が見たいしな」


「できる保証はないぞ」


「いいっすよ。また誘えばいいだけっす」


 そんなわけで俺の覚醒を見てみようという方針になった。

 いやできるのかそれ。主人公みたいなパワーアップ方法不向きだろうに。


「できなければ何度でもアジュと遊ぶのさ!」


「何度も戦闘はやめてくれ」


 やるだけやってみよう。できたら得するし、できなきゃクリアして景品貰えばいい。少し頑張ってみるとしようか。

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