休憩中にヴァンとやた子
魔法科終わって図書館へ。
復習も兼ねて魔法関連の本を読み漁る。
やはり魔法は面白い。この道を進めそうなら続けたい。
「ん……なんか飲むか」
そこそこ涼しい場所だが、それでも喉は渇く。
本を返して、図書館の隣に設置された喫茶店っぽい場所へ。
内装も綺麗で飲み物が豊富。糖分をとるためか甘いものも豊富だ。
「はあ……」
ちょっと集中し過ぎたか。軽く目がちかちかするし、頭がふらつく。
冷たい紅茶で体がすっきり。疲れも一緒に取れていく感じだ。
ドーナツも食って、糖分と小腹を満たす。
よしよし回復してきた。
「よっ、いいかい?」
ヴァンだ。でかいパフェ持って向かいに来た。
「いいぞ」
「あいよ」
誰かと同じテーブルで飯を食うってのに慣れてきたかも。
あまり嫌じゃないな。知り合いだからかね。
「図書館で勉強かい?」
「ああ。魔法が面白くてな」
「ほう、今何やってんだ?」
「強化と回復について調べていた」
リベリオントリガーをもっと安定させる方法と、回復魔法についてだ。
「あの青くなるやべえやつか」
「あれ自由に部分展開できりゃ強いかなって」
「そりゃ強えだろあんなもん」
会話しながら上品に、それでいて結構早めのペースでパフェを食っているヴァン。
食い方に下品さは無いのに、なぜそんなに食えるのだ。
まあいい。俺はゆっくりアイスティーを飲むだけさ。
「ここのメニューは甘いもんが揃ってていいんだけどよ、オレだけでパフェ食ってると浮いちまうだろ?」
「男二人ってのも浮くと思うがね」
「そこはあれだよ、共倒れっつうか」
「倒れてどうする」
なーんも中身のない会話が続く。
主にヴァンが喋り続ける形で。
なのになぜパフェが減り続けていますか。
「魔法どうだ? うまくいきそうか?」
「まだわからないことが多いな。新魔法のヒントを探している最中だ」
「リリアに聞けばいいじゃねえか」
「何でも聞くと興味無くすからだめだってさ。自分の好きなもんで、楽に調べられるなら調べる。まず外に出なさいって」
最近は程々に温かい気候なので、そこまで外出も嫌じゃない。
それを見越しての発言だとも思う。
「母親みてえだな」
「最近それっぽくなってきて困惑している」
「将来母親になるんだし、いいんじゃねえの?」
「それは俺の母じゃなく……いやそういうことじゃなくてだな」
「攻略ってやつが順調みてえだな」
「どうだか」
昔の俺なら確実にしないだろうという行動もある。
それに気づくことも増えた。
認めたくはないが、確かに攻略は順調なのだろう。
「そっちはどうなんだ? ソニアとクラリスとか、今やっていることとかさ」
「気になるのか? 意外だな」
「興味が無くても話を振るということを覚えた俺を褒めろ」
「アジュはアジュだな……」
社交性を渋々身につけて、嫌々でも他人と会話するようになった俺は褒められるべき。当然とか言わない。
「こっちは三人で付き合ってるからな。普通に恋人として過ごしてるぜ」
「だろうな」
「で、オレはちょいと今までほっぽり出してたマナーとか勉強方面の復習さ。復讐は終わったからな」
「わかりづらいボケかますな」
どうやら雑談に混ぜるくらいには、復讐は吹っ切れたのだろう。
相手が事情を知っている俺なのも関係あるのかな。
「大変なんだぜ、領主としての勉強なんてやること多くってなあ」
「領主か……まあわかる」
「そういや魔界に領地あるんだったな」
「一応な。マーラにも色々教わったし、今度ちゃんと行ってみようと思う」
「今はどう管理してんだ?」
「魔王……パイモンとアスモさんとアモンさんの精鋭部隊が国境? みたいな場所で封鎖しながら、内部の環境を壊さない程度にパトロールしている」
知り合いの魔王の土地に隣接していて本当に助かっているよ。
学生やりながら管理できるもんじゃないだろう。
「よく引き受けてくれたな」
「あっちから言ってきたよ。領地がめっちゃ増えて、水源や領民の住む場所、畑なんかも増やせたからお礼だってさ」
魔界そのものが三倍に増えたからな。
各魔王の土地もめっちゃ増えた。
そのお礼なんだそうな。
「管理が面倒になったりしないのかね?」
「そりゃアジュからすりゃそうだが、領地が広がるってのは、お偉いさんにはステータスなのさ。それが仕事ってのもある」
「まあ文化の違いがあるだろうから、否定はしないさ……何の話だっけか?」
「わからん」
ノープランで会話なんぞするからこうなるのだ。
別に中身のある会話をしなけりゃいけないってこともないけどさ。
さて紅茶も飲み切ったし、ドーナツも食い終えた。
「ここでやた子ちゃんっすよー。爽やかな風とともに、やた子ちゃんが通り掛かるっすよー」
「そのまま通り過ぎてくれ」
なぜかやた子が来た。お前この状況をさらにややこしくするつもりか。
なんかマカロンっぽいものとお茶持っているけれど、まさか居座る気かいな。
「そいつはできない相談っすね」
「何でだよ。なんか報告か?」
「葛ノ葉久遠の残したデータがあったっす」
真面目に聞かないといけない話だな。
ヴァンがいるけどいいのかしら。
「ちょこっとヴァンさんも関係してるっすよ」
「いいぜ、聞かせてくれよ」
「そうだな。頼む」
「それではえー……まずアジュさんが学院から持ってきた資料の他に、久遠が残したデータが卑弥呼様のおうちのある世界に現れたっす。どうやら自分が死ぬと子孫に託されるシステムだったっぽいっすね。軽い書斎みたいなもんでしたっす」
あいつの術に対する知識はかなりのものだった。
葛ノ葉とその関係者しか入れない場所に保管する。
理に適っているし、できないはずがない。
「それが決め手っすね。アテナとアフロディーテが関わるものがずらっと出てきたっす。学院の事も書いてあったっすよ。機関のことも含めて」
「じゃあ検査に入れるんだな」
「もう神々と達人で調査が始まってるっす」
「迅速だな。まるで始めっから想定してたみてえだ」
「ま、そんなもんすよ。機関との関わりや、ヴァルキリーコピーを作っていたことも書いてあったっすよ。どうやら学院でのみ、それも久遠が頼まれて劣化品を作っていたみたいっすね」
ああ、あれ劣化コピーなのか。
鎧が強いせいでわからなかった。
「製造法は記さず。教えず。ばれないようにって理由で学院でのみ作る。どうもあんまり協力的じゃなかったみたいっすね」
「そりゃアテナがか? 久遠がか?」
「久遠がっすね。葛ノ葉のことしか考えてなくて、アテナ連中を信用してなかったみたいっす」
「親玉は誰なんだ?」
間違いなくアテナはすべての黒幕じゃない。
もっと裏で糸を引いているやつがいる。
それは間違いないだろう。
「わかんないっす。久遠はそれが男性とだけ突き止めたと」
「スクルドも、あと前に倒した敵も男だって言っていたな」
「そいつの目的はわかんねえのかい?」
「さっぱりっすね。学園に来たヴァルキリーは何かの調査目的っぽくて、機関とヴァルキリーを戦力とするのがアテナの計画だとすると、最終目的が見えないっす」
そもそも敵戦力が少ないのだ。
久遠は強かった。けれどヒメノとラーさんとヤルダバオトを同時に相手できるほどではない。
つまりよっぽどの目的がないと、オルインで暴れるメリットはないだろう。
「悪の組織にありがちな世界征服とかじゃねえの?」
「無いっすね。神々はこの世界が好きなんすよ。だから不測の事態なら人間に協力するし、邪神が動けば止めようともする。すべての神々と達人を相手にできるほど強大な存在なんていないっす。主人公補正持ちも複数いますし、アジュさんくらいじゃないっすか? そんなんできるの」
「やらないっての。ルシファーとかトウコツ? だとかの薬も、上級神には絶対勝てんだろ」
「勝てないっすねえ」
「もしかしてその薬も黒幕の目的とは別の副産物だったりすんじゃねえのか?」
「そしたらもうふりだしに戻るしか無いっすね」
何もわからないのも面倒だな。
学園を滅ぼしたいわけでもないだろうし、謎だ。
「そもそも敵なのか? 違法なことやっちゃいるが、生徒や先生個人を狙って殺しに来たりしねえだろ」
「魔星玉の一件も含めて、ボスが部下に目的を話していない気もするな」
「なんにせよ未解決のままか。ならアヌビスの野郎は関係者かい?」
「あーその……」
流石に言葉に詰まっている。
事情が事情だからな。デリケートな問題は静観しよう。
「はっきり言ってくれていいぜ。オレに気を遣わなくていい」
「……機関の装備からして同じ派閥のものかと。ただ、非人道的な研究は、アヌビスが昔っからやっていたものっすね。そこは関係ないと思うっす」
「そうかい。それが聞けりゃいいさ」
「このことはリリアたちには?」
「話してあるっす。アジュさんが単独でふらふらしてるので、個別に解説に来たっす」
「そいつは悪いな」
基本ぼっちエンジョイ勢です。
団体行動などしたくはない。
「おかげで暇っす。うちとちょっと遊ぶっすよ」
「いやどす」
「少しくらい迷ってくれてもいいじゃないっすかー」
「まあやることもないんだけどな」
今日の読書終わり。
あんまり根を詰めても成果は出ない。
なので晩飯まで自由行動だ。
「オレもないぜ」
「んじゃ三人……四人で遊ぶっす!」
「四人?」
「ギルメンがいないと、アジュさんを制御できる人がいないっすよ」
「そいつは危険だぜ。誰か呼んでくれ」
「俺は無害な一般人だ」
そんなわけでギルメンに連絡取ることになり、なし崩しに遊びに行くことになってしまった。
正直ちょっと帰りたいのは秘密だ。
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