事後処理報告と料理と温泉
パズズを倒し、財宝や金庫を片っ端から押収して城に帰還した。
事後処理は全部任せる。だって他国だし。そして晩飯の時間である。
「本日は祝勝会といたしまして、最高級食材のみをかき集めました。存分にお楽しみください」
聖地のバルコニーにて、マナとフラン達王族、そしてヒジリさんが参加した会合である。他の人は大ホールでパーティーだ。
「本当にホールにご挨拶とか行かなくていいの? みんな凄い頑張ってくれたよ?」
「いいのよ、アジュくんは人のいる場所嫌いだもの。表向きはヒジリの功績にする約束したでしょ」
「俺の力はおおっぴらにしないの。前に言っただろ、俺は人間の味方でも正義のヒーローでもない。助けてくれると勘違いされるとうざい」
「わしらはそんなんどうでもよいんじゃよ。早く高級肉を出すのじゃ」
目の前に炭火焼の網とシェフが居る。ホテルで焼いてくれた人もいるぞ。これは期待できるぜ。早く出せ。肉とエビを食わせろ。
「希少部位だぞ。普段高くて食えないようなやつを出すんだぞ」
「ここぞとばかりに……希少部位は集めるの大変なんですからね」
「そりゃそうだよねー」
「大変ね。まるで観光に来て国の命運をかけて戦わされた私達のようだわ」
「うぐぅ……ではお願いします」
今回はギルメンも乗り気である。そして一斉に調理が始まった。
「せせりとひうちとロブスターを焼きました。どうぞ」
「ほう、こいつは濃厚で……なのにくどさもしつこさもない」
鶏肉と牛肉とロブスターという贅沢の極みである。シンプルに焼いたものを食うわけだが、シェフが最高レベルだとまるで違う。
「炭火で焼くだけでここまでうまくできるか」
「焼きは一生修行ですから。職人の腕の見せ所ですよ」
「感服した。もっと高くて珍しいのお願いします」
国の費用で食う飯は値段を気にしなくていいね。
「うむ、めっちゃうまいのじゃ」
「わたし一番高いお魚ください!」
「私もそれをお願いします」
「お二人は王族ですよね?」
「無駄遣いは厳禁なのよ」
二人には庶民感覚というものが存在する。学園で生活すればつくし、俺といるからね。節約を身につけるため、高級品なんざ食えないのだ。
「おいしいです!」
「おいすぃ!」
オトノハも順調に食い進めている。シルフィは結構な量を食べるのだが、それと並んで食えるのは凄いな。
「そんな大食いだったか?」
「なんかあの元気を集めるやつやると、めっちゃお腹すきます!」
燃費が悪いらしい。いや神の領域まで行けるのだから、むしろいい方なのか?
「いっぱい食っとけ」
「食っときます!」
そして腹一杯になるまで食う。満足だ。明日は聖地の観光でもしようかな。余裕のある観光は素晴らしいね。デザートのアイスを食っていると、フランが報告に来た。
「ゲオダッカルとの件に結論が出たわ」
「ほう」
あんま興味ない。完全に他国の話だし、戦争とかどうでもいいんじゃい。
「ゲオダッカル軍は完全に撤退。囚人は全員再逮捕か処刑済み。ゲオダッカル王が教祖だったから、今はまともな政権をどう作るかが課題みたいね。ネフェニリタルとは不可侵条約を結ぶことになるわ。お互いに出入り禁止になるでしょうね」
「妥当だな」
「賠償金とか面倒な話は省くわ。聖地への使徒は全滅。とりあえず因縁は消えて平和になりました。改めて本当にありがとう」
「そうか、ならいいエビくれ」
伊勢エビ的な高いやつが絶対ある。そいつを食うまで諦めんぞ。
「はいはい、ちゃんと用意してあるからがっつかないの」
でけえ赤いエビが来た。赤さが鮮明で身が透き通っている。殻を取ると上から皿の模様が見えるほどだ。
「オーロラロブスターよ。熱した串を差し入れると、ほんのり白くなるわ。生か半生が一番おいしいわ」
シェフが透明なロブスターに鉄の串を入れて数秒で抜く。身全体が淡く白く染まり、光を反射して美しさを増していた。
「めったにお目にかかれないのに調理がすんごい難しいんですよ」
「こりゃうめえ」
最高にぷりっとした歯ごたえだ。旨味が一口ごとに変わり、半生とはいうがしっかり温かい。つまりこれ以上焼いていると身が固くなり、熱くなりすぎる。なるほど熟練の腕がいる料理だな。
「オトのやつは渡さないぞぃ!」
地味に確保しようとしているのがばれた。並んで座っているため、自分の陣地にいかにロブスターを置くかが勝負である。
「意地汚いことしないの。ちゃんと全員分あります」
「海産物の汁ものもありますからね。体があったまりますよ」
はいうまい。うまいことがもう匂いから決まっている。あらゆる海の恵みが凝縮されていた。
「こっちもおいしいよ、はい」
シルフィが食わせてくれたのは白身魚だ。淡白な中に深い味わいがある。ソースが辛めだがとてもよく合う。
「食べさせ合う段階に入ったわね」
イロハも肉を食わせてきた。身内だけならまあ止めないでおくか。
「アジュ、アジュもやって」
「それはやだ」
「ならば私達で無限に供給するのよ」
「普通にやれ普通に」
多少は受け入れるが、それメインは違う。俺が食いたいものを食うんだよ。
「まだまだじゃな。ここは冷たい飲み物とかをすっと出す場面じゃぞ」
「いいタイミングだ」
リリアによる食事アシストが光る。熱いものばかり食うと飲み物が欲しくなるな。
「なるほど、じゃあそろそろデザートの時間だから持ってくる! すると!」
「お礼に食わせてやると。ほれ」
持ってきてくれたシルフィに食わせてやる。
「ふへへー」
「うむ、それでよいのじゃ」
「なるほど、なら飲み物のストローを二本にすればいいわね」
「許可を取る前に動きおって……誰かこっちに来ないだろうな……」
こいつらも頑張っていたので、これくらいのご褒美はあっていいだろう。いや死ぬほど恥ずかしいけどな。完全にオトノハが見ているし。
「お姉ちゃん、あれはいいの?」
「見なかったことにしなさい」
微妙に精神をすり減らせる食事が終わり、満足してでっかい風呂に入る。
「露天風呂とはまた……ここも和風だな」
「ご先祖様の趣味じゃなきっと」
横で湯に浸かるリリアによると、王刃の残したものは多いらしい。風呂の内装が完全に温泉旅館なのだ。
「俺には馴染みがあっていいけどな。どうせ効能とか凄いんだろ?」
「聖地の莫大なエネルギーは温泉にも満ちておる。それはもう健康になるわけじゃな。お肌とか内蔵とかとんでもなく生き返るわけじゃな」
「ならしっかり疲れを取っておくぞ。あまりくっつかないように」
そーっと入ってくる二人にも注意しておこう。今日はのんびりすごすのだ。
「はーい」
「ちゃんと確認して入ってきたか?」
「当然よ。アジュとリリアしかいないことを確認して服を脱いでいるわ」
そのへんちゃんとしてくれるのはありがたい。混浴は本来禁止行為なのだ。俺以外など存在してはいけないぞ。
「なんかどこ行っても戦って疲れちゃうよねー」
「神との戦いは避けられないのかしら」
「もう解決した場所ならどうだ? 逆にトラブルが終わっているから起きないんじゃないか?」
「よくわからん思考になっておるのう」
ゲームとかでクリア済みの地方は新しいボスとか出ないじゃん。この世界はゲームに近そうだし、これは結構建設的な案じゃないだろうか。
「それでより大きなイベントになったらどうするんじゃ」
「うーわ、気軽にフルムーンとかフウマ行けないな」
「可能性! あくまで可能性だから! 四人でいればだいじょぶ!」
「どんなトラブルも切り抜けられるわ。それはそれとして面倒だけれど」
「そこはまあ、そうだろう。今回の報酬でしばらく無理しなくて済みそうだし、二年になったら安全にやりたいことを深めていくか」
魔法の研究ラボがもう完成しているはずだ。めっちゃ俺好みの物件になっているため、これからさらに魔法に磨きをかけていきたい。
「学園にも慣れたし、行ってないところに行ってみようよ!」
「四人でもっと行動範囲を広げるのよ」
「いいけどお前らのやりたいこととか、将来見据えた何かとか、そういうのをないがしろにするなよ? ちゃんと成長するようにな」
「一番しそうにないアジュに言われるとはのう。まあ安心するがよい。将来の準備は進めておる」
「ならいい。詳しくは怖いから聞かない。休日ならたまには遊びに付き合ってやるから、これからも俺達のペースで生きるぞ」
「はーい!」
こうして観光を満喫し、俺達は高等部二年へと進級するのであった。
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