二年生編
二年生編開幕
「というわけで進級おめでとう! 今年も担任のシャルロット・ヴァインクライドです! メンバーも増えて嬉しいわ! 今年も成長していきましょうね!」
ネフェニリタルでの休暇も終わり、学園に戻ってなんやかんやあったけど省略。
そして四月。いよいよ高等部二年となった俺達は、勇者科の教室で初授業を受けていた。
「いやー豊作ね。今年の一年なんか八人だったのに……」
どんだけバラつくんだよ。前に十人いれば豊作とか聞いた気がするけども。
「さて今回は特に課題はなし。もう自分が何をすべきか、何をしたいか目標があると思うけど、勇者科の覚醒理由なんて誰にもわからないわ。まったく未知のジャンルに手を出すのもいいわよ。まだまだ遅くないからね。それじゃ、今日はおしまいね! 自由行動頑張って!!」
早めの解散はありがたい。まだ朝だし飯には早いな。何するか迷うところだ。
「あっ、そうだ! 期末試験の景品全部届いてるから、各自今日中に確認すること。これを課題とします! じゃあね!」
こうして魔法ラボを見に行くことになった。場所は前に行った研究棟の並ぶ地区である。
新築の二階建てで、防音特殊素材だ。研究に必要な器具と研究部屋。軽く暴れても平気な実験室がある。二階は居住スペースだ。
「ふむ、かなりよいものじゃな」
リリアの目から見てもいいらしい。寝泊まりも可能なラボというかなり楽しい場所である。なにより新築で綺麗なのが素晴らしい。
「実験器具まである程度揃っておるのう。初心者向けが多いのじゃ」
「そっちの研究はノータッチだったな」
魔法の研究にはいくつかのパターンがある。俺がやっているのは自分で使える魔法の種類を増やし、応用や拡張するようなものだ。別パターンで魔道具の製作がある。マジックアイテムはロマンがあるが、魔法が使えることを優先したため素人レベルなのだ。
「やってみてもいいかもしれんのじゃ」
「テーマが決まらんだろ。暇ができたらだな。ん、いいぞ浴室とトイレが広めだ。暮らしやすいようにして、排水と換気を完璧に……いい仕事だ」
「これは帰ってこなくなるね」
「誰かが交代で入り浸るのよ」
「やめろ研究に使うんだよここは」
とはいえ便利だと家に帰るのが面倒になる。そこまで家から遠くないので多分セーフだ。気をつければ問題なし。
「少し暴れても問題なさそうじゃな」
「耐久度テストでもするか」
実験場は天井が高く、戦闘訓練くらいはできる。魔法の試し撃ちも可能だ。
「壊れたらわたしが時間戻してあげるからね! あんしん!」
「その時は頼む」
シルフィがいれば業者に修理代払う必要がなくなる。とても便利なので頼む機会もあるだろう。ありがたい。
「ではテスト相手をしてやるのじゃ」
「俺が死ぬだろ」
「本気で殺し合いなんぞせんわい。そろそろ自信をつけんかい」
「完全に逆効果だろうに」
「悪くないわね。私達が相手なら無茶しても死なないわ。実験もしやすいわよ」
「リリアはできること多いもん、ちょうどいいよ! やってみよう!」
やる流れだ。知らんやつよりはいいが、利益のない勝負ってのれないよな。
「今回は小道具やアイテムを使って格闘戦じゃ。真面目にやるように」
「はいはい、やりゃいいんだろ」
クナイを構えると、リリアが俺と同じポーズで扇子を構えた
「がんばってー!」
「ふっ!」
逆手に持って首を狙う。合わせるように同じ動きでぶつかり、当然のように力負けした。
「パワーは上がっておるようじゃな」
「結局負けたんだけど」
言いながら煙幕玉を指に挟み、殴る瞬間魔力を込めて握って発動させる。これで肘から先だけ見せなくする小技である。
「気の流れを読めばよいのじゃ。おぬしなら体内を巡る魔力くらい読めるじゃろ」
「それを格闘戦でやれってか」
リリアは的確に最小限の動きで俺の攻撃を避ける。たまにくる反撃は俺が集中すれば避けられる速度だ。
「雷分身!」
分身を二体出し、囲むようにして攻撃開始。片方を大振りに、もう片方を小刻みに攻撃させる。
「ふむ、緩急つけるくらいはできるんじゃな」
「三体まで完璧だ。褒めろ」
「よしよし、よくできておるぞ」
「アジュかっこいいよー!」
「実力がついているわね」
普通に褒めてくると、それはそれで恥ずかしいな。
「照れても精度が下がっておらんのう。やりおるわい」
攻撃を全部弾きながら言われてもねえ。マジで届かないな。ならもっと小細工を試すべきだろう。
「雷蛇招来! 急急如律令!」
左腕の鉤縄を射出して、札を張り巡らせて雷の蛇へと変える。
「物に札を貼り付けて術式にするか」
「ライトニングジェットやサンダーフロウの応用さ。行け!」
口を開けて噛みつこうとする雷蛇を、素早く動いて避けていくリリア。性能テストしてくれているようだ。ならもっと色々やってみよう。
「雷爆符!」
札を蛇の口から雷爆符として飛ばす。怪獣映画とかである火炎弾みたいなやつだ。
「遊び心を加えおって。まあ楽しむのはいい傾向じゃな」
雷玉を蹴り返してくる。やはり電撃は通用していないな。
「もっと取り囲むように蛇を滑らせるんじゃ」
「こうか?」
地を這うように前進させて、俺も同時に突っ込む。
「うむ、いい感じじゃな」
蛇の頭を蹴り飛ばし、分身を殴り飛ばしてこちらに来る。リリアの攻撃は身長差で避けるのが難しいし、素早くて距離感がつかめない。
そして鈎縄の縄が焼け焦げ、爪部分も壊れた。
「やっべ」
「そのアイテムは別に特殊素材ではないじゃろ。負荷をかけすぎじゃ」
「新しいの買わないとな」
「そして気を抜きすぎじゃ」
背後から首に抱きつかれる。絶妙に振りほどけない。力は強くないが、ここからどうするか悩みどころだ。
「リリアずるい!」
「抱きつきたいだけでしょう」
「にゅっふっふ、これも訓練じゃ。すりすり」
動きが素早いのに加えて、妙な動きで振りほどけない。体術の類だろうか。
「ふれあいの少なさをここで挽回するのじゃ」
「戦闘訓練でやるんじゃない」
「わたしもやる!」
シルフィがくっついてくる。地味にじゃまくさいので離れて欲しい。
「ぎゅー」
「訓練じゃないだろこれ」
「振りほどく訓練です!」
「採用じゃな」
「却下だアホ」
とりあえず二人に離れてもらうと、影の中に引っ張り込まれてイロハのもとへ移動させられた。
「しまった! イロハに取られた!」
「やりおる」
「拘束とはこうやるのよ」
影で縛られて匂いをかがれている。影は触れることができないので、魔力を込めてなんとか脱出を試みた。
「服に手を入れるんじゃない!」
「拘束したら武器を持っていないか検査されるものよ」
「その訓練はいらん! ぐだぐだするから終わり。休憩入れるぞ」
「えー」
「えーじゃない終わり」
部屋の耐久テストは完了したし、適度に運動もした。壊れていないことを確認したら、さっさと戻ろう。
「お茶も茶菓子もない……」
「新築なんじゃから当たり前じゃろ」
飲み物も食い物もない。水は出るけどそれだけ。そうかそっちも買わないといけないのか。
「しょうがない買い出し行くぞ」
「おでかけだね!」
四人で買い出しに出かける。こういうゆったりした自由時間なら歓迎しよう。
「なんか懐かしいねー。去年も一緒にお買い物したね」
「ギルドに入って生活用品を買いに行ったわね」
「よく覚えているな」
「大事な思い出だからね!」
俺もまだ思い出せる。一年の密度が濃すぎて忘れそうになるが、意外とこいつらとの生活は記憶から消えないらしい。
「思い出が多すぎて十年くらい一緒な気がするぞ」
「今年はもうちょい平和に生活したいのう」
「観光であんなことになったもんねえ……」
「学園の安全な施設で遊びましょう」
必要なものを四人分買っていく。当然のように私物を置くことはもう深く追求しないことにした。本格的に暮らすわけじゃないので、それほどの量にはならなくて済んだ。配送してくれるらしいので、これならどこか寄るくらいはできるな。
「なんか人が多いな」
「新入生勧誘の時期だからよ」
いつもより人が多い。それに合わせるようにセール中の店ばかりが並ぶ。新入生歓迎セールなどと書いてある店が多いな。
「ギルドに新メンバーを入れたいものは必死なんじゃろ。卒業生で定員割れしそうな場所とかのう」
「じゃあセールが多いのは」
「新入生に自社商品を定着させたいのね」
「去年もあったよ」
「覚えていない。だが安いのはいいことだ」
必須の生活用品が安いのは助かる。新入生が必要なものを揃えるのには最高だろう。なんかそういうのあった気がする。結構記憶ってあやふやだな。
「新歓ライブだって!」
芸能科のアイドルやバンドが集まるライブがあるらしい。無料らしいから行ってみよう。
「それぞれジャンルごとにブースがあるようじゃな」
「シンフォニックフラワーいるよ!」
「いいわね、行ってみましょうか」
既にかなりの客が入っており、遠くにステージに立つ四人が見える。
「大盛況だな」
「順調に人気になっておるのう」
意外にも女の客まで多い。男女両方から受けるのはすごいぞ。
「おやおや! やはり来ましたね同士よ!」
「やはりファンなのね。隠さなくてもいいのに」
勇者科のユミナとイノがいる。グッズまで身につけて応援準備ばっちりだ。
「偶然だよ」
「ふっふっふ、隠さなくてもいいのです。今こそ擬態をやめ、オタ活に全力を尽くす時ですぞ!」
「みーんなー! まだまだ盛り上がっていくよー!!」
「ここから宴の第二幕だ! ついてくるがよい!」
「うおおおおおおー!!」
「うひょおおおぉぉ!!」
ユミナと客の歓声が響く。四人の歌もダンスもさらにクオリティが上がっていて、純粋に楽しめるものとなっていた。
「ありがとうございました!!」
「また会いましょうね~!!」
今回も見事なものだった。きっとこれからもいいパフォーマンスを見せてくれるのだろう。などと思っていたら次の日。
「新メンバーを探しています!!」
よくわからん相談をされた。
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