新メンバー探しを手伝おう

「新メンバー探しを手伝ってください!」


「できるわけねえだろ」


 授業終わって自宅でうだうだしていたら、シンフォニックフラワーがやってきた。

 今はギルメン全員いるので、もう対処任せてしまおうかな。


「お茶出してあげるから飲んだら帰るのじゃ」


「お菓子もあるよー」


 リリアとシルフィが全員分のお茶とか運んでくる。今日もお茶がうまい。


「ありがとうございます!」


「騙されてはいけませんよカエデ。帰そうとしています」


「はうわ!?」


「どの道依頼は受けられない。俺と女アイドルは真逆の存在だろ」


 何がきっかけで俺と新メンバー探しを結びつけたのか不明で怖い。こいつらの思考回路がわからん。


「みんな人気だし、普通にギルドメンバー入ってこないの?」


「それがねえ~……みんな大手ギルドに行っちゃうし、ぜ~んぜんなのよ~。すこーしだけ来てくれたんだけど、よくない考えの子ばっかりで、おかげで難航するの~」


「有名人にくっついて楽しようとか、アイドルと仲良くなりたいとか、下心のありそうな人はお断りです! カエデたちは一番を目指すアイドルなんです!」


 なるほど、無能や敵を混ぜるわけにはいかないのか。大手なら多少増えようが対処できるだろうが、四人だけのギルドで邪魔者が来れば混乱するだろう。評判にも関わるのですごくうざい。


「キャラかぶりも危険です! まずカエデがかわいさと元気!」


「わたくしが清楚とお嬢様、美しいお姉さんのカトレアさんと、かっこいい路線のアルメリア。ここに加わるほどの個性と上昇志向を併せ持ち、キャラ被りを避けなければなりません」


「そして我らの求める者は下僕ではない。ともに戦い抜く友でなければならぬ」


「めっちゃ無理ゲーじゃな」


 アイドルだからそれなりの容姿も必要とされる。才能と努力がセットだろうし、そりゃメンバーは見つからないだろう。


「なので助けてください!」


「できねえって。なんで俺達なんだよ?」


「我らの事情を知り、悪しき心なく接することができる優秀なるもの。この条件に合致する英傑は極めて稀だ」


「こちらのギルドなら邪心もなく、優秀なのは存じておりますので」


「どうか助けてください!」


 新メンバーなんてこっちの判断で追加するものじゃない。全員同意して加入して、それでも合わないこともある。どこまで責任持てばいいんだよ。


「そもそもどうやったらゴールなんだ?」


「新メンバー候補がいるんです! いるんですけどお……保留にされたといいますか……あんまり芳しくないもので」


「今だって四人で活動できておるじゃろ。わざわざ新メンバーが必要でもないじゃろうに」


「私達もそれでいいかな~って思っていたわ。でもね~、その子はとっても楽しそうに歌っていたの」


「その透き通った歌声、儚げな佇まい。アイドルとして申し分ないのだが、本人にやる気がないのだ」


 どうもアイドルじゃなくて歌手志望の一年らしい。そりゃうまくいかんわな。


「勧誘はしたんだろ?」


「はい、自分は体力がなく、歌って踊るのは無理だと」


「ひらひらした派手な服やパフォーマンスも似合わないと断られた次第で」


「けどお友達と歌っているのを見たんです! とっても楽しそうで、あの才能が埋もれるのはもったいないですよ!」


「ですが上級生が連れ立って何回も行くのは評判が悪いのです。なのでどうしたものかと……」


 本人にやる気がないのにどうしようもないと思うが……こいつらも必死なのだろう。歌は好きだし、解決できる範囲なら悪くないんだが。


「なので手伝ってください! グレモリーさんからもここがいいっておすすめされました!」


「グレモリーさん?」


「あっちは有望な新人がたくさん加入しまして。カエデが悔しそうにしていたら、アジュさんとその召喚獣ならぴったりだと」


 グレモリーさんはキアスと面識あったっけ? あいつも魔王だからそっちのネットワークがあるのかな。ユニコーンならアイドルの審査もできそうだ。


「別にその子じゃなくても、仲間になれる子がいたら一緒にやりたいなーって」


「わたくし達はトップアイドルになりたいという気持ちは同じ。大手の方針が合わず、それでも頂点を諦めない。そんな仲間を探したいのです」


「アジュ、わたしは受けてみたいな」


「私もいいわ。シンフォニックフラワーの歌は好きだもの」


「力になれるかは後じゃ。どうしたいかじゃよ」


 ギルメンは賛成らしい。アイドル探しねえ……どこまでできるかわからんが、俺も暇だし悪くはないか。


「わかった。表向きは護衛を名乗るぞ。アイドルの審査員じゃ身構えるだろ」


「ありがとうございます!!」


「よかったわ~!」


「では早速向かおうか。新たなる友となるアイドルのもとへ。我らの後に続くのだ!!」


 めっちゃはしゃいでいる。加入が決まったわけでもないのに喜ばれると困るんだが……まあ受けたからには真面目にやろう。

 というわけでアイドル候補が練習している音楽棟へとやってきた。


「こっちに来たことないな」


「芸能か音楽関係の人間以外は来ないじゃろ」


「防音のトレーニング室が大量にありますので、歌のレッスンを見学していきましょう! 将来有望な生徒はいっぱいいるはずです!」


 一緒に有望株を探していく。見学可能な部屋も多く、それなりに客もいる。俺達のように誰かをスカウトしようとしているやつも多いな。


「あっ、あの子です! あの銀髪の儚げな眠そうな子です!」


 トレーニングルームに入ろうとしている集団がいる。その中に長くふわりと柔らかそうな銀髪の女がいる。青い目がきれいで、どこか儚い印象のある女の子だ。


「今からレッスンみたいですわ。見学可能なので拝見いたしましょう」


 俺達の他にも見学者がいる。それだけ注目されているということか。


「はじめ!」


 その歌声は完璧だった。透き通るような高音が客席にまで届き、自然と全員が静かに聞き入っていく。明らかに他の生徒よりうまい。

 レッスンが終わるまで聞き終えると、周囲から拍手があがった。

 歌っていた生徒達は一例をして出ていった。観客の中には追いかけてスカウトしているものもいる。


「ありゃ無理だろ」


「諦めないでくださいよー」


「あれはアイドルさせるの難しいじゃろ。完全に歌手じゃった」


 歌って踊るのは普通に歌うのとは違う。歌手とアイドルじゃ別のトレーニングが必要なのだが、あの子は路線変更の必要がない。


「アイドルやったら絶対かわいいですよー! カエデが保証します!」


「何の指標にもなりませんわよ」


「なるもん!」


「で、追うのか?」


「先日誘ったばかりだ。まだ時期尚早。プレッシャーは控えめが好ましい」


 なるほど、ガチっぽい気配りだ。ならどうするかと悩んでいると、女の子の一団が声をかけてきた。


「あの、シンフォニックフラワーの方々ですよね?」


「おっと、ばれちゃいましたか。そうでーす!」


「いつもライブ見てます!」


「わっ、本物だ!」


 女の子が湧き始める。俺達は少し離れよう。念の為イロハとリリアを近くに配置してある。俺は場違いなので静観しようね。


「アジュ、うまくいきそう?」


「難しいな。あいつが明確に歌手の夢でも持っていたら詰みだ」


「うーん、なんかね……歌は好きなんだけど、あんまり楽しそうじゃない気がするの。あれはわたしも覚えがあってね」


 シルフィも歌のレッスンとかしたのか。王族としての嗜みってやつかね。


「もっと楽しく歌いたいんだけど、ちゃんとしなさいーとか、そんな歌じゃないですーとか、きっちり決まった通りに歌うことを要求されるのだ」


「アレンジ禁止なのか」


「そうそう、聖歌隊とかをイメージって言えばわかる?」


「なんとなく」


 なるほど、勝手に自分流でやっちゃいけないのか。合唱とかそんな感じだよなあ……ならまだ勝ち目はあるかもな。などと楽観的になっていたら、カエデたちがこっちに来る。ファンを引き連れてくるんじゃないよ。


「情報収集終わりました!」


「そんな話だったか?」


 あの子の名はネモフィラ。ごく普通の家に偶然生まれた天才で、両親から歌手として成功することを願って送り出された。本人も歌が好きだが、最近少しスランプ気味。どこのギルドにも所属せず、スカウトを保留にしているらしい。


「ワンチャン出てきたのう」


「ですよね!」


 可能性がまったくのゼロじゃないのはありがたい。ここから解決の糸口を探っていこう。


「みんなネモフィラちゃんの歌が好きなのは同じです」


「どこに所属しても応援し続けるから、勧誘がんばってね」


「ありがとー! がんばっちゃうよー!」


 ファンにも応援されているようだ。この雰囲気なら敵対はしないだろう。


「よっし! 偵察再開です!」


 さてこっちも作戦を練らないとな。

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