アイドルを勧誘してみよう
ネモフィラを説得する計画を立てるため、歩きながら作戦を練る。
「やっぱりライブ見て貰うのが一番よ~」
「アピールはできるかもしれんが、まずどうやって来てもらう?」
「そこはなんとか説得してですねえ、バシッとライブ決めて、私もカエデみたいにかわいくなりたい! って思わせたら勝ちです!」
楽観的だが自分たちがどういう路線のアイドルなのか、どのレベルなのかを理解させるにはライブだろう。来てくれたらの話だが。
「加入の可能性は上がると思います」
「新曲作ってあるのよ」
「今回の曲は追加メンバーのことも考えて作ったんです!」
「気が早いな」
「あらゆる事態を想定して事に当たるのだ」
曲ってそんなほいほいできるもんなのかね。こいつらも学園で人気のアイドル、そういう才能もあるのだろうか。
「うーん……どうにかしてわたしたちに興味を持って欲しいわねえ」
「まず練習見てもらったらどうじゃ。軽い気持ちで見れる環境が必要じゃろ」
「それです!」
「カエデ、きちんと服も用意して、相手の都合も考えるのですよ?」
「わかってる! お昼休みを狙って誘うよ!」
でもって昼休み。都合よく二人で食事中のネモフィラを発見。周囲に人は少なく、誘うにはちょうどいいだろう。会話が途切れた瞬間を狙い、カエデが行動に移る。
「お話中のところすみません! かわいいカエデが失礼します!」
「誘うのへたくそか」
カエデとシラユリに任せたが、失敗だったかもしれない。明らかに戸惑っている。
「あなた達はこの前お会いした……」
「シンフォニックフラワーのカエデと!」
「シラユリでございます。ネモフィラさんのお時間を少々頂きたいのです」
「うわー、シンフォニックフラワーだあ」
もう片方には好感触だな。こいつら着々と知名度上げておる。初期から見ていると感慨深い。
「ご存知でしたか」
「いいですよねー、明るくて楽しくて、ライブ見てますよー」
「ありがとうございます! 次のライブも頑張っちゃいますよー!」
「その時はぜひお二人とも見に来てくださいな」
「そして加入してください!」
「勧誘へたくそにも程がある」
あいつら本気で勧誘する気があるのか。本当に任せていいのか? 失敗したら俺達のミッションも失敗にならない?
「ネモちゃんがアイドルかー……似合うような似合わないような……」
「私にアイドルはできません」
「そんなことはありませんわ。ネモフィラさんの才能は素晴らしいものです」
「そうそう! 絶対かわいいですよー!」
ネモフィラは悩む素振りを見せている。本気で検討してくれてはいるのだろう。やがて事情を語り始めた。
「私は運良く歌の才能に恵まれました。だから立派な歌手になれるようにと、両親が学園に送り出してくれたんです。私は確実に、絶対に歌手にならなきゃいけないんです。そうすることが恩返しです」
「でもでもー、ネモちゃんならアイドルもできるかもしれないよ?」
「できるかもじゃだめなんです。習得できる技術を全部手に入れて、確実に歌手になる必要があります。歌って踊るのも、かわいい服を着るのも、全員で合わせたパフォーマンスも、今までやってこなかったこと。やってできなかったら時間が無駄になります。寄り道して失敗するわけにはいかないんです」
強迫観念のようなものを感じる。家族関係を知らんからなんとも言えんが、そこまで我慢して歌手になって喜ぶもんなのかね。普通の家庭の基準がわからん。
「うぅ、でもでもっ! 歌手でもダンスとか習いますよね?」
「習いますが、本職に勝てるほどだとは思いません。あなた達の歌は好きです。その行動を否定もしません。ですが、私にできるとは思えません」
自分にできるわけがない。やってみないとわからない。やって失敗すれば歌手の夢が遠のくと思っている。全部食い合わせが悪いな。どこから解決すべきかね。
「んー……ねえネモちゃん。やってみたら? 何事も経験だし、表現の方法は一個じゃないかもしれないしさ」
友人がなぜか協力的だ。こいつはピンクと白の混ざったロングヘアーで、瞳にも薄く上品なピンクが混ざっている。顔もかなりいい方だろう。
これを好機と見たのか、シラユリが勧誘に出た。
「学校の授業は大切です。ですが、それだけをこなしても成功するとは限りませんわ。三年あるのですから、色々なことにチャレンジして経験を積む時間くらいはあるはず。その時間を少しだけでもわたくしを信じて貸していただきたいのですわ」
「そうそう、シンフォニックフラワーはちゃんとしたアイドルだよ。悪い噂聞かないしさー。いいんじゃない?」
「……ろーちゃんはアイドルできるの?」
「わたし? 無理無理無理! わたしはネモちゃんと違って普通だし。なんでもこなすのは無理だよ」
「私もなんでもこなせるわけじゃないよ。だから苦労してる。まだまだ歌手になるのは遠いよ」
「ならアイドルやってみましょうよ!」
カエデもう黙ってろ。お前どうやって今のメンバー勧誘したんだ。
「明るい歌とか楽しい歌とかやってみてもいいんじゃない? 課題曲真面目なのが多くて飽きてきてるでしょ? ネモちゃんはもっと楽しそうに歌える場所が似合うよ」
「体験ということで一週間だけでもどうでしょうか?」
「…………ろーちゃんがやるならやる」
「おお! ついにやる気にな……えええぇぇ!? なんで!? なんでわたし!?」
「わっかりました!!」
「わからないでください!!」
そんなわけで放課後からネモフィラとローダンセが練習に加わることになった。
「はいあと一周ファイトー!」
今は公園をランニング中のみんなを眺めながら警護している。
「なっ、なんで……どうして……わた、しま、まで……」
「がんばってろーちゃん」
「がんばらなきゃいけないの誰のせいかなあ!? この辛さの原因はなんだろうねえ! 不思議!」
「はーいおしまい。お水飲んで休憩するわよー」
意外にも儚げなネモフィラは平気そうだ。逆にローダンセは辛そう。そしてシンフォニックフラワーは普通。新人のためにメニューゆるくしたとか言っていたな。
「ぶへー……走るのきらい……アイドルってもっとキラキラしてるものだと思ってましたよー」
「歌って踊るのは体力勝負ですから」
それぞれ休憩しているみたいだ。ネモフィラはカエデとアルメリアに勧誘されているようだし、いい機会だからローダンセに気になったことを聞いておこう。
「なぜネモフィラを推薦した?」
「うわっ、いきなりなんですか護衛の人」
「あいつと友人らしいが、推薦した時に悪意がなかった。何か目的があるんだろ? アイドルとお近づきになりたいわけでもないだろうし、理由が知りたい」
「鋭いですね」
「それが必要なことならネモフィラには言わん」
友人というのは本当だろうし、こいつの目的も知っておかないと思わぬ落とし穴とかありそうだ。
俺の心配をよそに、ローダンセは気楽に話し始めた。
「ネモちゃんはちょーっと行き詰まっているのですよ。本人に自覚があるかはわかりませんが、将来の夢が重圧になるタイプですねー。テストに合格はするけれど、一番人気にはなれないと言いますか」
「なるほど、それで空気を変えようと」
「ええ、アイドルの歌って楽しいじゃないですか。もともとネモちゃんは楽しそうに歌う姿がいいんですよー。お歌が好きだーって気持ちがよく出てて」
友人を気遣ってのことか。こいつも善人よりだな。警戒はしなくていいかもしれない。あとは勧誘がうまくいくように祈ろう。
「声の伸びが違うんですよ。透き通るような歌声の中に、楽しいぜよっしゃーみたいな雰囲気がさらに評価を加速させますね」
「よく見ているな」
「わたしはネモちゃんのファン一号ですからね。学園での話ですけど」
「そうか、巻き込まれたのは同情するが、うまいこと説得してくれ」
「わたしの仕事じゃない気もしますけどねー。ネモちゃんのためにがんばってみますかー。その代わり、ちょっとだけ練習楽になりません? わたしみたいな普通の子には授業以外の筋トレ系はきついです」
「言ってみる。聞くかどうかは知らん」
こうしてローダンセという裏アシストを手に入れた。頼ってもよさそうなので、練習の軽減は提案してやることにしよう。
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