日常系アニメみたいな感じでよかったのに
引き続きアイドルを見ていこう。今はトレーニング室でシンフォニックフラワーのリハーサルを見ている。やはりクオリティ高いな。
「はい! ありがとうございました!」
「おおー、やっぱり凄いですねー」
「うん、私が入る必要も隙間もない」
「まさかの逆効果ですか!?」
ぶっちゃけ俺もそう思う。相変わらず見事なもんだ。アニメじゃないアイドルってほぼ知らなかった俺でも楽しいぞ。
「四人でやっていけそうに見えますねー」
「四人でいられるのはあと一年だけよ~」
「そっかカトレアさんは卒業だから……」
「アイドルは続けるんでしょう?」
「もちろんよ。けど今までと生活が変わるわね。事務所から声もかかっているけれど、まだまだピンでやっていくのは難しいって自覚があるわ~」
なんでも大手ギルドの成績優秀者は、そのまま芸能事務所に行くことが多いらしい。実績や伝統などがない新設ギルドは実力で存在を示すしかないのだ。
「ルールがよくわからん。一緒に活動できないのか?」
「できるけど授業には出られないし、学生じゃなくなるわね。学生寮も使えなくなるわ。今まで通りとはいかないのよ」
俺達は全員同学年だからな。そういうトラブルとは無縁だが、アイドルやるなら大きな問題だろう。現状維持すらできないわけだ。
「カトレアさんの代わりというわけではないのですか?」
「違いますわ。ネモフィラさんを加えてよりよいグループになると確信したからこそのスカウトですわ。純粋に一緒にやりたいと思いましたの」
「そうですか……お気持ちはわかりました。前向きに検討します」
「よっし! 一歩前進した気がしますよ!」
順調だな。これ俺達いらないんじゃね? 仕事せずに報酬もらうのもなんか嫌だぞ。それっぽいことできないだろうか。
「そうだね。じゃあわたしはもういいよね?」
「ろーちゃんは最後までいてね」
「どうして!?」
「絶対いて」
「念を押された!?」
ただ巻き込みたいわけではなさそうだな。仲がよさそうだから嫌がらせじゃない。一人じゃ心細いというのはあるだろう。だが別の目的がある気がする。
「己を卑下することはない。我らについてくる胆力、そしてアイドルとしてのセンスを感じた」
「いやいや無理ですって。向き不向きってありますよー」
「なら向いているか試しましょう。試し続ければできるようになりますわ」
「なんという力技!?」
「シラユリは結構肉体派だ……ほどほどで断るといい」
平和だな。なんて平和なやり取り。完全に俺いらないやん。だがグレモリーさんが俺達のことを勧めた。つまり何かしらのトラブルが起きると予測したんだが、どうもそうじゃないらしい。
「よしよしこの調子で仲良くなっちゃいますよ! お泊り会しましょう!」
「また唐突な……カエデはこう言っていますが、お二人の都合も聞きましょう」
「私とろーちゃんは寮住まいなので」
「届け出さえあれば平気といえば平気ですねー」
「なら明日! 明日お泊り会しましょう!」
多少強引に感じるがお泊り会の約束を取り付けたのであった。
俺とリリアはネモフィラとローダンセを寮まで送る。シルフィとイロハはシンフォニックフラワーを護衛だ。
「送ってもらっちゃっていいんですか?」
「仮とはいえシンフォニックフラワーのメンバーだ。護衛の必要はある」
「下心などないのじゃ。ちょっと嫌な予感がしただけじゃよ」
「それはそれで怖いんですけどー」
もう夕方だし、さっさと送ってしまおう。俺は女子寮に入れないから、門前まで送ればいい。今日は平和に終わりそうでよかった。
「でも助かります。最近はしつこく誘ってくる人もいて……」
「あいつらも似たようなもんじゃないか?」
「少し違う気がします。他の人は自分のギルドがどれだけ優秀で最新の設備が使えるか、将来の事務所とか、そういうことを話してきます。けれどみなさんは純粋に歌を楽しんでいる。どれだけ楽しいかを伝えてきます」
「わかるわかる。やってみたいフォーメーションとか、好きな歌のジャンルとか合わせようとしてくれて、ネモちゃん本人が欲しいって雰囲気だよねー」
「いい人なのは伝わるね」
穏やかな会話が続くのを眺めながら歩く。こいつら日常系アニメみたいな人生だな。アイドルやって新入生が来て、新キャラ加入か。
「日常系アニメみたいとか思っとるじゃろ」
「まあな」
「きらきらした日常の背後にいる武器持った男」
「不審者やん。ああいうのって男出しちゃいけないんだぞ」
「神経質なまでに男の存在カットされるからのう」
「プロとは徹底しているものだな」
異世界でアニメ談義などしていると、ふと近くの家から誰かの視線を感じた。
二階の窓から外を見ている人がいるっぽい。影になって見えないが、俺も自意識過剰かね。いや護衛なんだからそれくらいでいいのか? 加減がわからん。
「ん?」
なんか今の変だったな。空気が変わったというか、何かをくぐり抜けた気がする。
「今度新曲やるから歌詞書いてって言われた」
「うわー……新人っていうか仮加入に要求するそれ? やるの?」
「未定。加入すら未定だし。無理ならろーちゃんがやって」
「わたしはどうして巻き込まれてるの?」
「秘めたる才能を開花させて欲しいから」
「ないよ!? あったらこんなしんどくないからね!?」
あいつらは普通だな。俺の気のせいだろうか。神経質になりすぎか。
「んん?」
さっきと似た家があるな。まあそういう居住区なんだろう。一階の窓から誰かが外を見ている。やはり影になって見えないが、仲間の帰りを待っているのだろうか。
「もー……ちゃんと考えてよね。他のスカウトだって待ってるよ?」
「それは悪いことをしてる。けど合いそうなギルドがなくて……厳しそうだし、大手のルールが受け付けなくて」
「ずっと雑用とかやらされそうだもんね。練習できなきゃ夢が遠のくか」
「大手なら事務所に所属できるかもしれないけど、実力がなきゃ将来生活できない。ろーちゃんに養ってもらうしかなくなる」
「やめてね」
「おや?」
また似たような家だ。今度は玄関の扉が開いている。しかも誰かがこっちを覗いているようだ。
「女子寮ってこんなに遠かったっけ?」
「そういえば長く歩いてるね。もうついてもいい頃なのに」
ふと覗いている顔をみると、そいつの顔はくすんだ灰色で、頭髪と口の肉が存在せず、目が全部真っ赤に染まり2メートルくらいの身長で……。
「走れ!!」
「えっ」
「ちょっとなんですか!?」
二人の手を引いて走る。リリアが一緒に来ていることも確認しつつ、一刻も早くこの場を去るのだ。
「またあの家だ……」
見覚えのある家が見えてきた。これはやばい。誰が見てもやばい。立ち止まって二人の手を離す。
「どうしたんですかもう!」
「あの家見覚えあるだろ?」
「そういえば何回も見たような……」
「うむ、完全にループしておるのう」
「あの家から化け物が見ている。最初に気づいたのは二階の窓。次に一回の窓。玄関まで来ていた。次は多分もっと近づいてくる」
完全に信じているわけではないだろうが、状況を理解してくれたようだ。
「いいか、そっと家の玄関を見るんだ。近づいていたらダッシュで駆け抜けるぞ」
「わかりました」
「うぅー……怖がらせないでくださいよー」
「わしらがついておる。逃げることだけ考えるのじゃ」
そして家の門まで行くと、玄関から二歩ほど外に出た化け物がこちらを見ていた。
「うひゃあああぁぁ!!」
「うあっ!?」
「走れ!!」
全員でダッシュすると、また例の家の壁が見えてきた。
「うわっ!? ほんとに戻ってきた!? どうするんですかこれ!?」
「すごい見てた……すごい見てました……変なのが……私を見て笑ってた」
二人の精神へダイレクトアタックされた。そら怖いよな。戦闘とかできない女の子っぽいもんねえ。っていうかさ。
「もおおおおぉぉ!! 日常系で終われよおおお! いい感じできらきらした日々をお届けする雰囲気だったじゃんかあああ!!」
「落ち着くのじゃ。まだ家の中から襲ってくる気配はないじゃろ」
「護衛に期待します。恐怖に怯える美少女二人を無傷でお願いします。未来のトップアイドルの顔が傷つくわけにはいかないのです」
「地味に図々しいな!?」
「がんばってください! もうなんかすごいがんばって! 勇姿は語り継ぎますから! 犠牲は無駄にしません!」
「犠牲って言うなボケエ!!」
現状を把握しよう。家の門には柵があり、化け物と俺達にはあと十歩くらいは余裕がある。どれだけの速度で詰めてくるか知らないが、まさか次で最後ってわけでもないだろう。さあどうするかなこの状況。
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