化け物屋敷を探索しよう

 化け物のいるループする道をなんとかしよう。


「どうする? 攻撃魔法ぶち込んでみるか?」


「下手に刺激するべきではないじゃろ」


「あれが番犬のような存在であるという可能性はありませんか? 敷地から出ていませんし」


「えぇ……召喚獣的な? あんな化け物飼う?」


 多様性にも限界があるだろ。近所の人とかどう思っているんだろ。いや見えているか知らんけども。


「反対側から出られません? あんなのとわざわざ戦わなくてもいいじゃないですかー。こっちは普通の女の子ですよ」


「無理だな」


 背後に石を投げると、逆の道から石が飛んでくる。


「この通路でループするようじゃのう」


「めんどい。次元の壁切って出るか?」


「だめじゃ。ここは女子寮への通学路。つまり脱出しても解決しなければ、わしらがいない時に引きずり込まれた女子が対処できないじゃろ」


「解決するしかないか」


 護衛対象に死なれても困る。すっきりしない終わり方は俺も嫌いだし、さっさと終わらせよう。


「まずあれは敵なのかどうかだ。攻撃されたわけじゃない。倒して解決するかも不明だ。確認がいる」


「どうやって確認します?」


「分身を行かせる。雷分身!」


 これで敵が飛びかかってきたら倒そう。霊障なんて倒せない敵じゃない。


「おおー、すごいことできますね」


「さて釣られてくれるかのう」


 ゆっくりと分身を門まで歩かせる。その瞬間、化け物が門の前まで来た。ワープしたように見えたな。歩いている速度じゃなかった。


「釣れたな」


 門が開き、化け物の腕が伸びて分身を掴む。首を掴んで家に引きずり込もうとしているようだ。すかさず分身を爆裂させる。


「当たったが手応えなし。効いちゃいないな」


 怯ませる程度の威力に抑えたのは失敗だったか。化け物は消えた。


「門は開いたままですね」


「行くしかないじゃろ」


「家に攻撃魔法ぶっぱでいけね?」


「どんな影響出るかわからんじゃろ。わしと二人きりではないのじゃよ」


 ええいめんどい。無事に帰すまでの我慢だ。俺が先頭に立って敷地に踏み込む。警戒しながら進むが、特に何も出ない。


「玄関開けたら飛び出してきそう」


「やめましょうよそういうこと言うの」


「いくぞ」


 慎重に扉を開けるが、誰もいない。何の音もしない。明かりはついているが、人の気配がないな。


「広めの二階建てというだけじゃな。夜までには探索終わるじゃろ」


「脱出の手がかりを探すぞ」


「どうやるんです?」


「片っ端から扉を開けていこう」


「それしかないのう」


 そして一階を探索するのだが、どうやら客室が多いらしく、何もない部屋が続く。やがて食堂とキッチンに辿り着く。


「食い物がないな」


「化け物はテーブルで食事せんのじゃな」


「人が住んでいないのでしょうか」


 食料がまったくない。食器も使われていないし、生活感がない。あの敵は食事が必要ないのだろうか。そもそもこの家の正体がわからん。


「ゴールがわからんのは疲れるな」


「緊張を強いられるからのう。疲れたら休む事も考えるのじゃ」


「ああ、こいつらを休ませることも考えて……危ねえ!!」


 突然化け物が現れてネモフィラに向けて手を伸ばす。咄嗟にカトラスで防ぐが。


「硬い!」


 右腕を斬り飛ばすつもりだったんだが、弾くだけになった。こいつどんな硬さだ。


「飛ぶのじゃ!」


 リリアの風魔法で壁まで吹っ飛ぶ化け物。追撃の魔力弾ラッシュを叩き込む。これで時間稼ぎはできるはずだ。


「今のうちに逃げろ!」


 二人をリリアに任せて化け物に向き合う。いつまでも逃げ回ると思うなよ。


「ちょうどいい、ここで料理してやる。化け物のみじん切りだ」


 リベリオントリガーをかけてカトラスで斬りかかる。だがそれでも決定的な傷はつけられない。


「こいつ硬すぎる。動きが単調なのが救いか」


 敵の攻撃はシンプルに腕を伸ばすか、こちらに飛びかかってくるかだ。知能はそれほどでもないのだろうか。会話だけでもできれば、目的がわかりそうなものだが、叫びすらしない。


「喋る機能がないのか? 悲鳴くらいあげやがれ! ライジングナックル!」


 雷の拳を飛ばすが両腕を広げて受け止められる。たいしたガッツだ。


「さてどこまで耐えられるかな?」


 さらなる連打を加えようと魔力を貯める。そして敵が消えた。


「……なに?」


 周囲を探るも気配がない。倒したわけじゃないのは確信している。


「リリア、敵が消えた。そっちに行く可能性がある」


『了解。こちらは二階じゃ。そっちも気をつけるのじゃぞ』


「了解」


 通信はできるらしいな。急いで二階へ行こう。

 走りながら敵の出現条件を考えるも、手がかりが少なすぎる。家の中ならワープできるのか?


「どうして普通に終われないかね……」


 ついでに閉まっている扉を開けて中を見る。どの部屋も似たりよったりだ。それなりに広い家っぽいし、探索は容易じゃないな。


「よし、この部屋だけ広い」


 家主の部屋だろう。家具もここだけ豪華だ。しばらく家探しすることにする。


「日記か」


 こいつで化け物の正体でもわかれば儲けものだ。とりあえず読んでいく。

 ここは魔法使いの家らしいな。去年まで普通に魔法の研究をしていたっぽい。

 だが三月くらいから怪しくなってきた。


『ついに理想が現実となる日が近づいてきた。女子寮からほんのり近い立地にして観察を続けることで、図面は完成した。あとは慎重に組み立てるだけだろう。学園は希少なマジックアイテムも流通している。考えてみればこれほど最適な環境はない。私はただ完成させればいいのだ』


 この家で何か作っていたようだな。材料は普通に買っているらしく、犯罪っぽさもない。俺の知識では完成品がわからなかった。さらに読み進めていく。


『計画は順調だ。もうすぐ理想の美少女が完成する。今までのモテない人生ではっきりした。女に媚びてはいけない。現実の女は観察して資料にするだけでいい。最高の素材を使って究極の美少女を作り出すのだ』


「はあ?」


 クソしょうもない目的が発覚した。ホラーなのかギャグなのかはっきりして欲しい。この状況と日記のバランスがおかしい。


『ほぼ完成した。だが魂をどうするかはまだ決まっていない。この家では魔法陣に限界があるが、一階と地下室で家全体を魔法陣内に収める。これならより純度の高い精霊か魂を引き寄せられるはずだ。従順なる伴侶には高潔で最適化された精神こそふさわしいだろう』


 もうすぐ最後のページだ。日記は他にもあるのかもしれない。ふと窓を見ると、外にまた化け物がいた。伸びてくる手を避けて距離を取る。


「ちっ、ライトニングビジョン!」


 分身を二体出して牽制してみると、一番近い分身に掴みかかっている。

 そして俺本体には目もくれず、素早く分身と一緒に部屋を出ていこうとした。


「なぬ?」


 とりあえず分身を破裂させると、化け物は廊下へと消えていった。


「俺を殺すんじゃなく……運ぼうとしていた?」


 行動原理がわからん。家に入った人間を殺す怪異じゃないのか。

 とりあえず逃げたのなら探索の余裕はあるだろう。日記を読みながら続きを探すが、ここには魔法の本と人体に関する本や医学書しかない。


「とりあえず手がかりはこの日記だけか」


 魔法陣の制作に取り掛かったことと、それから変な夢を見るようになったと書かれて終わっている。明らかに続きがあるなこれ。


「一階と地下に魔法陣……地下?」


 想像以上にめんどくさいぞ。家主がいないし化け物は硬いし最悪だ。とりあえず敵に男女どっちか区別するためのパーツがない。つまり家主か作られた美少女かも不明。いやあの姿で美少女とか言われたら違うだろと言いたいが。


「完全に護衛の仕事じゃねえ」


 家の反対側から爆発音がした。リリアの魔力が上がっている。化け物があっちに行ったらしいな。思考を中断して現場へと駆け出した。

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