一階攻略と敵の謎

 爆発音がした方向へ走ると、リリアが化け物と戦闘中だった。


「まったく、妙に硬いのう」


「お前ら無事か?」


 ちょうど廊下でリリアと挟み撃ちの形になった。消えられたらそれまでだが、なんとかここで弱点を掴みたい。


「私達は大丈夫です」


「敵をなんとかしてくださーい!!」


「雷光一閃!」


 長巻で斬りかかると化け物が軽く吹っ飛ぶ。力押しで動かせても、傷が浅い。なんというか手応えが今までの敵と明らかに違う。


「ふむふむ、教材にちょうどよい。そのまま攻撃していくのじゃ」


「どうやって?」


「それを学ぶんじゃよ。鎧と剣は禁止じゃ。こんな弱くて硬いだけの敵は今後おらんかもしれんじゃろ」


「警護を優先してくれません?」


「それはわしがやるのじゃ」


「んじゃ一階と地下の魔法陣を調べろ。日記を渡しておく」


 敵は俺が引き付けておけばいい。最悪鎧でどうとでもなるので、魔法に詳しいリリアが脱出経路を見つけるのだ。


「よし、じゃあ……あいつどこいった?」


 ネモフィラの背後に迫っていた。


「させんと言うとるじゃろ」


 リリアが蹴っ飛ばして廊下の奥へ送る。いやいやおかしいやん。しかも戻って来ねえぞあいつ。


「空気読めや! 俺と戦う場面だろ!」


「意思疎通ができんのじゃな」


「やる気出したらこれだよ。もうさっさと一階行くぞ」


 途中で敵の目的が殺しじゃなく捕獲ではないかと話しておいた。捕獲してどうするのかは不明だが、敵は優先順位があるっぽい。まずネモフィラ。次にローダンセ。リリアときて最後が俺。邪魔をしようとするやつには攻撃する。


「私、何か恨まれるようなことを?」


「女を狙っているのは間違いない。だが理由がわからん。理想の女を作るなら、現実の女を捕まえる意味がない」


「…………ろーちゃん、今の聞こえた?」


「うん……呼ばれ……てる?」


「どうした?」


 二人が何かおかしい。ふらふらと一階へ降りていく。


「あっち、だったよね?」


「うん、たぶん」


「説明しろ」


「誰かに呼ばれた気がします」


「化け物に?」


「いえ、もっと何か、人の声かどうかもわかりませんが、そう感じました」


 いまいち要領を得ない。何かの声が聞こえたらしく、なぜかそれが自分達を呼んでいると感じたらしい。二人ともそんな特技はないらしいので、敵の罠の線が濃いだろう。妙な手段を使うやつだ。


「とりあえずふらふらどっか行くな。俺のそばにいろ」


「おおー、口説かれましたよ」


「意外、そういう人だったんですね」


「違うわボケ」


「考えて発言しろと言うとるじゃろ」


「今の俺が悪いか?」


 結論の出ない会議をしながら一階の大広間につく。そこには部屋の床全体に描かれた魔法陣と、最早見慣れた化け物がいた。


「待機しているとは、余程ここの破壊が嫌と見えるのう」


「人が嫌がることをする。それが俺だ」


「うーん意味が変わってきますねえ」


「気をつけてくださいね」


 俺が敵へと踏み出すと同時に化け物が突進してくる。


「インフィニティヴォイド!」


 敵の体を飲み込むように雑にぶっかけた。よし、これなら効く。わかりやすく皮膚が溶けていた。

 これには驚いたのか大きくバックステップで距離を取る。誰もいない場所に逃げてくれるなら好都合だ。


「プラズマイレイザー!」


 できる限りの必殺技をぶち込んでやる。やつが消える前に決着をつけるんだ。魔法は継続しつつ急接近してカトラスと長巻きでラッシュをかける。


「オラオラオラオラ!!」


 妙だな。今回は傷を与えているのに逃げない。まだ地下に魔法陣はあるはずだが、勝算がなくても守れと言われているのか? まだ一度も消えないのも不思議だ。


「まあいい、殺せるなら殺してやるよ。はああああああ!!」


 指先に虚無を一点集中。雷の腕を複数生やし、敵をがっちりホールドしたら、口の中に虚無の弾丸を撃ち込む。


「インフィニティヴォイド!!」


 化け物の口の中から凄まじい雷光が飛び散っていく。花火のシャワーみたいで綺麗だが、これで死んでくれるだろうか。

 やがて化け物はゆっくりと倒れ、爆散して消えた。


「倒したのか?」


「じゃな。ほほう、これリスポーン地点か」


 リリアは何かに気づいたらしい。魔法陣を手際よく消しながら解説してくれる。


「魔法陣は移動手段じゃ。ここから一階と二階へ移動して、ここに帰ってくる。そのどちらか、もしくは両方が可能なんじゃろ」


「この部屋から逃げなかったのは、ここに戻ってくるしかないからか」


「破壊されたら移動手段が消えるからのう」


 なるほど、なんとなく構造は理解できた。だが地下とは切り離されているのか。そっちが本命臭いぞ。あんまり行きたくないんだけどなあ。


「よし、とりあえずここを探索するぞ」


「あっ、これ日記じゃないですか?」


 ローダンセとネモフィラが日記を見つけて持ってきた。こいつら結構度胸あるな。この環境に慣れたのか、俺達を信用しているのか。俺より行動力あるぞ。


「んー、筆跡が似ている。同じ男の日記だな」


『ほぼ完成した。あとは美しく劣化することのない歌声だ。だが思いの外難しい。ひとまず召喚する存在について考えるべきか。学園なら悪霊が来ることはない。悪しき存在を除外できて神聖な存在を捕獲するにはいい環境だ』


 なるほどな。確かに霊的な存在は学園じゃ厳しいだろう。精霊なり神界の存在なりが召喚しやすい環境なのかもしれない。こいつかなり計算して行動している。


『地下空間が完成してから、まったく同じ夢を見る。何者かに自分を召喚しろと誘われているようだ。だが姿もはっきりとしない。漠然とだがよくないものだろう。だが寮も近いこの場所で、浄化されない悪霊などいるのか?』


「不穏な空気じゃな」


「だが学園だしなあ……幽霊がさっきのやつほど強いか?」


『この何かは私と同じだ。花嫁を欲している。それもかなり焦っているようだ。私の研究と召喚技術をどこから知り得たのかはわからない。だが私の心を狂気が支配してくる。このおぞましい感覚に馴染み始めている。私を利用しようというのか』


 何かが研究者を洗脳しているように取れるな。それに抗っているみたいだが、もう凄まじく嫌な予感がするんですが。


『ただ恐怖に支配される私ではない。私の理想の美少女計画を邪魔するのなら、そちらの計画を暴いて妨害してやる。やつらの情報を可能な限り引き出して記す。ざまあみやがれ。あとは学園が発見してくれれば、お前たちの計画も潰れるのだ』


「ガッツあるのう」


「ちょっと応援したくなってきましたよ」


『やつらは焦っている。理由は親玉の消滅だ。信じがたいことだが、やつらのボスは眠りから覚めれば世界が消滅し、宇宙を含めた全世界を再構築できるはずだった。だが目が覚めたにもかかわらず、何者かによって完全に消滅した。そのためこの世界から撤退するもの、新たにボスになろうとするもの、新派閥を立ち上げるものなどバラバラに行動し始めた。元々の対立もあり統率は取れず、混乱を極めているようだ』


 おいおいやべえのがいるな。完全に神だろそれ。ヒメノ達はちゃんと仕事してくれ。そんなのが学園来たら俺が処理することになるだろうが。とにかく善良な神々はがんばって。外野から応援しているから。


『私を恐怖で支配しようとするものは、この世界で復活するための儀式を急いでいる。それこそ私を頼るほどに。一人でも多くの優れた歌声を持つ花嫁により復活の儀式を行うつもりだろう。私の意識が飲まれていく。一度も手を出したことのない現実の女を捕まえて捧げたくてたまらない。裏をかくには強大すぎる相手だった。だができる限り復活を遅らせる。義憤ではない。個人的な恨みだ。どうかあの不気味で魅惑的なおぞましき存在を討伐するものが現れますように』


「帰るか」


「異議なしです」


「今日のばんごはんはなんでしょうねー」


「現実と向き合うのじゃ」


「だってもう学園が処理する案件だろこれ」


 お荷物二人いて解決できるレベルじゃないだろこれ。鎧必須やん。無理無理アホかボケ。撤収。


「やれやれ大変でしたねー。じゃあ帰る準備しましょうかー……おおっと」


 ローダンセが寄りかかっていた壁の一部がへこみ、魔法陣のあった場所の床が左右に開き始めた。


「うーわ……やっちゃいました?」


「これが地下への道らしいのう」


 試しに雷の弾丸を撃ち込んでみる。相当深くから弾ける音がした。


「おいおい深いぞこれ」


「何か上がってきます!!」


 巨大な昇降機が上がってきた。天井に焦げ跡がある。これで下に行けということだろうか。


「やっべ壊れたか?」


「天井を焼いただけじゃな。まあ不可抗力じゃろ」


 もうちょっと慎重になろうと思いました。

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