ボスキャラとのご対面
謎の屋敷で魔法陣を破壊したところ、下へ行く昇降機が現れた。
「どうする? ここもオルインなら簡単に次元の壁いじれるよな?」
「妙な気配が強くなっておる。こちらの居場所を探らせてしまうかもしれんのう。また化け物が出るかもしれんのじゃ」
「ぶっ潰せばいいだろ?」
「もっとキモいのが出たら二人のメンタルが壊れるじゃろ」
なるほど、そりゃめんどい。だがこのままボスに会ったら同じことでは?
「邪魔くっせえなもう……お荷物抱えて戦うのはしんどいんだぞ」
「もー、もっとポジティブに考えましょうって。アイドル志望のかわいい女の子二人にいいとこ見せるチャンスですよ」
「女嫌い」
「八方塞がりですねー」
『ガード』
とりあえず二人にガードキーの結界を張っておく。体に薄く貼り付けるタイプにしたので、動くのに不便はない。
「これでいい。精神的な攻撃もカットされるはずだ」
「なーんだこんな便利なのがあるんじゃないですか」
「連れて行くこと自体を想定していなかったからな。ここからはさらに危険だぞ」
「お邪魔にならないよう、余計な行動は慎みます」
「そうしてくれると助かるのじゃ」
昇降機の中は結構広い。十人以上は楽に入れるだろう。何かでかいものでも運ぶつもりだったのだろうか。
「さて、行き先はどんな化け物がいるのやら」
「化け物確定はやめません?」
「殺せるだけマシじゃろ」
「ごめんなさい。私が巻き込まなかったら、ろーちゃんは無事でいられた」
「ほんとにねー……まあ過ぎたことだし、ネモちゃんのことだから何か考えてたんでしょ? でもどうしてわたしなの? 他にもっと優秀な子はいるでしょ?」
これは少し気になっていたので黙っておこう。悪意じゃないし、何か目的があって誘った気がするのだ。
「いないよ。ろーちゃんは一位になれないから自分は普通だと思い込んでる。けど歌もダンスも服のセンスも、あと実戦の勘? もすごくいい。総合的に見てろーちゃんの上はかなり少ない。だから自信持って欲しかった」
「評価してくれるのは嬉しいんだけど、身に覚えのないことで褒められると喜んでいいのか迷うなあ」
「ろーちゃん本気でやって十位以下に落ちることってほとんどないと思う。だから必要なのは新しい風。もしくは死ぬ気で頑張れる何か」
「死ぬ気っていうかリアルに死の危険が起きてるよね」
「これは完全に予定外。アジュさんとリリアさんに祈る」
祈られても困る。こっちも正体不明の敵はしんどいのだ。この世界って邪神とか未知の敵とか結構いるよね。実は鎧なしだと危険なんじゃね。
「あまり俺に期待はするなよ。後悔するぞ」
「うむ、こやつはアレじゃぞ」
「護衛ですよね?」
「応援しますから全力出してください。結構やれてたと思います」
そんな話をしていたら、目的地へ着いた。昇降機を降りると水の匂いがする。先に伸びる通路も、バカでかい何かが通ることを想定していそうだ。
「水源でもあるのか?」
「鎧の準備じゃ」
リリアの声がマジっぽいので即座に発動する。
『ヒーロー!』
「おおー! かっこいいのに変身した!」
「綺麗……何か曲が浮かびそう」
「あとにしろそんなもん」
「インスピレーションは大切です。アーティストにとって閃きとは命」
「マジで命にかかわるからやめとけ」
少ししょんぼりしているネモフィラ。こいつも独特な感性だな。
「ちょいと危険な予感じゃ。離れるでないぞ」
「わかりました」
「俺が先行する」
一定以上離れないようにしながら進む。普通の家の廊下から、もう少し立派な素材に変わっている気がする。長い通路に水気があるようには見えないが、この匂いはどこから来ているのだろう。
「ここは学園ならどの位置なんだ?」
「どこでもないじゃろ。鎧で次元の相違を探ってみるのじゃ」
軽く探ってみると座標がバグっている。15次元? どこだこれ。独自の空間に無数に枝分かれする並行世界を作って重ねているっぽい。この空間だけ宇宙の外側で別演算されていると思えばいいのだろうか。
「オルインって平行世界とか少ないよな?」
「うむ、いつもの世界を含めて五個以上にならぬよう、神々とあれこ達が厳重に管理しておる。じゃから世界に重ねる空間を作って偽装しておるんじゃな」
「神にできるか? ヒメノ達を欺くわけだろ?」
「うーむ、大都市に普通の家を建てても違和感がないようなものかのう。他人の夢を介して精神に侵食しておるんじゃろ。夢と精神の世界を現実に塗りたくっとる」
「なんつうはた迷惑な」
やはりここで完全に駆除するしかないか。根絶できないと同じように襲われるやつが出る。それを俺達の不始末にされるのはうざい。
「ろーちゃん、解説して」
「わたしが!? 全然わかんないよ!」
「ろーちゃんは色々できる」
「色々の範囲かなあこれ!?」
「全部忘れろ。知っていても殺し合いの材料にしかならんよ」
そして巨大な神殿……というよりは祭壇のある開けた空間に出た。
各所で水が大量に流れていて、その奥には緑色の巨大な山がある。
「なんでしょう……気味が悪いです」
「敵も出てきませんね」
「日記によると数が少ないらしい。大ボスの消滅で急遽目覚めたやつが、その時連れ出せた数匹と一緒にここに来たんだと」
「ならばあの祭壇に近づくしかないのう」
リリアが扇子を開くと、口元を隠しながら喋り始めた。二人にさとられないようにしながらゆっくりと祭壇に歩いていく。
『おぬしにしか届かぬ声で話しておる。気づいておるか?』
『ああ、あれ山じゃないな。鱗というか……生き物だ。千メートル近いぞ。どんな怪獣だよあいつ』
『あれはきっついのう……おぞましいにも程があるじゃろ。普通の人間が見たら狂うかもしれんぞ』
『ガードキーで守られるはずだが……しばらくは夢に見るかもな』
『夢に出る特性があるやつでは洒落にならんのう』
緑色の鱗に覆われた山に見えたが、よく探ると全然違う。眠っているようだが頭部はタコのようで、ヒゲの代わりに無数の触手が生えている。折り畳まれた巨大な翼が山のように見える原因の一つだろう。
『なんとか気づかれないうちに終わらせよう』
『うむ、誰かいるのじゃ』
「静かに」
柱の陰に隠れると、複数の光の玉が見えた。その中に女の子がいる。玉一個につき一人だ。中に浮かんでいる。何かの装置だろうか。そいつを操作しているのは、緑の鱗を持ち、ヒレがついた半魚人のような化け物だった。
「きっしょ」
「気持ち悪いです……」
半魚人と形容するが、顔も体も完全に魚だ。四肢があり二足歩行しているだけのモンスターだが、それが二匹。知能があるのだろうか。装置っぽいものを動かしている。一階で見た魔法陣もあるな。
「上の化け物とは違うものか?」
「似ていないこともないのう……何か始まるのじゃ」
半魚人が装置を操作すると、一際大きな球体の中に浮いている少女が輝き出す。それに呼応するかのように、他の玉が輝き始め、一番大きな球体へと光が集まっていく。エネルギーのようなものだろうか。
「歌っているな」
中央の玉の女が知らない歌を歌い始めた。それからすぐに他の女も歌い始め、合唱のようになっていく。
「神殿から山に向かって奏でる歌? 再生と復活の儀式にも似ておる」
「つまり?」
「ぶっ壊すのじゃ」
「あの装置の中にいる子、見たことある気がします。音楽関係の子かも」
「ちっ、死なせるのも面倒か」
光速で動いて半魚人を切り刻む。魔力のこもった手刀で魔法陣ごと完全に消せばそれで終わり。生臭くてきもい。装置の止め方でも考えるか。
「供給を絶ってから玉を破壊すればよいじゃろ。そっちは任せるのじゃ」
「つまり俺の役目は……アレだよなあ」
一人の女が歌い続け、浮かびながら化け物の方へ飛んでいく。うっすらと怪獣の両目が開いた。地面が揺れ始める。立ち上がるつもりか。
「起きるぞ! そいつら守れ!」
「へ? うわわわわ! 山が動いてる!?」
「わしの近くから動くでないぞ」
ぶっちゃけキモいから戦いたくないんだよなあ……今日は散々だよまったく。
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