はい怪しい女来ましたー

 戦闘用の部屋に入り、剣も抜いて準備完了。

 部屋が機能し出すまでのミーティング中。


「よーし次わたしね!」


「頼りにしてるぜ」


 俺とホノリと援護にシルフィ。他の三人は応援席でだらーっとしている。

 応援をしろや。なんでマッサージチェアーとかあるんだよ。


「フルムーンは剣か。三人とも近接タイプになるな」


「まあどうにでもなるじゃろ」


 ならないやつとか初級で出ないだろ。出たら鎧で倒すしかないな。


「ふふー。いいとこ見せるよ! ちゃんと見ててね!」


「今更だけど、どうやったらお姫様にここまで好かれるんだ?」


「さあ? 俺もさっぱりだ」


「聞きたい? アジュのかっこよさのすべてを!!」


「やめろやめろ。俺にかっこいいところなどない」


 なぜにこんなはしゃいでるのさシルフィさんや。

 ちょっとテンションおかしいぞ。


「言い切るのもどうなんだ?」


「いいんだよ言い切って。長所なんてないのは身に染みてるからな」


「長所といえばまず体臭があげられるわね」


「まずでそれかい! いいから応援席に戻れ!!」


 イロハを応援席に押し戻す。

 余計な体力使わせないでくれ。これから戦闘なんだぞ。


「そういやフウマもお姫様みたいなもんだろ? フウマの里っていうくらいだしさ。そっちとは関係ないのか?」


「俺は一応名前だけお館様ってことになってるらしい」


 なーんもしてないけどな。むしろしなくていい。経営とかわかんねえのに口出ししたりすると、クソ面倒なことになる。俺はお飾り徹底するのがベストだろう。


「……もうわけわからん。国際問題になったりしないのか? ざっくり二股……三股かけてっけど」


「かけてないかけてない。国際問題とか一切知らんし」


「ほのちゃーん。こっちに栗ようかんあるよー!」


「すまん。栗ようかんがあるなら行ってくる」


「好物なのか……行って来い。敵が来ても食い終わるまで時間稼いでやるよ」


「悪いな」


 ダッシュで応援席に行きやがった。ようかんとは渋い趣味してやがるぜ。


「外交とかめんどくっせえイメージしかないな」


「危害を加えてくるようなら暴力でねじ伏せることも可能じゃ。心配せんでもよい」


 隣になぜかいるリリアが慰めてくれる。

 ほんとに最終手段だけどな。おかげで俺相手に正論でやり込めるとか、善悪を説くという行為はまったくの無価値だ。相手が100%正論で完全に俺を論破してもぶん殴って国ごと滅ぼせる。超効率プレイすれば、全人類皆殺しに二分かからんし。絶対にやらんけど。


「別に相手が問答無用で殺しにかかってこなけりゃ、なーんもする気はないさ。平和にだらだら生きられればそれでよし」


「滅ぼすときは手伝ってやるのじゃ」


「そうか、やりたかねえが皆殺しにして、四人だけの世界で畑を耕したり、釣りしたりして過ごすのも悪くないかもな」


「おぬし体力ないじゃろ」


「そこは自然と鍛えられるといいな。悪くないじゃないか。今のうちに農業の本でも読んでおくか」


 農業関係の科ってあったような……まあなんでもあるし探せばいいか。

 後は釣り竿買っておこう。


「なんの話?」


 ようかんもぐもぐ食いながらシルフィがこっちに来る。

 いつの間に食いに行ってたのさ。更に俺達の分も持ってきてくれたので食う。

 上品な甘さだこと。


「お姫様って大変だろうなーって話さ」


「王位はサクラ姉様が継ぐからへーきへーき。問題ないって!」


 そううまくいくかちょい不安だ。マジでサクラさんはシルフィに王位をなすりつけたい気持ちが二割、いや三割くらいありそうだし。

 邪魔だな王位とか。俺とシルフィの生活には不要なものだ。


「誤解されないように言っておく。王族だとか三股かけようとか思ってお前らに近づいたわけじゃない。女だからどうこうじゃなく、仲間だと思っている」


「わかってるよー。わたし達が攻略しようとして、どうしようもなくアジュがヘタレてるだけだもんね」


「発言にトゲがないかいシルフィさんや」


「そりゃもうちょっといちゃいちゃしたいよ。一緒にいきたい場所もあるし。して欲しいこともいっぱいある。本当にギリギリにならないと気持ちを打ち明けてくれないのはアジュの悪い癖です!」


「うむ、悪癖大爆発じゃな。早急に直すべきじゃ」


「せめて私達にはもう少し積極的になりなさい」


 突然三人に責められる俺。女に自分からなにかすることの難しさを理解できてないんだろう。


「いいから戻れ。流石にもう始まるだろ」


「頑張って。応援しているわ」


「危なくなる前に呼んで。リウスさんもいるんだから一人で無茶しないでね」


「なあにそう簡単に私は死なないさ」


 シルフィ達と入れ替わりにホノリが戻ってくる。


「死ぬような目にあわないでくれ。俺はフォローできねえんだから」


「そいつは気をつけないとな」


「んん? なんじゃこれ?」


 リリアが魔法障壁の前でなんかやってる。

 透明な壁一枚の向こうでシルフィたちも首を傾げているし、なんかあったんか。


「どうした?」


「いやなんというか……壁が開かんのじゃ」


「はあぁ? 通れなくなってるな……なんだこれ?」


「お三方、どうぞこちらへ。講習を始めます」


 部屋の中央に立つ黒髪色黒の女。横には謎の台座。それ以外に何もない。

 熱くも寒くもないし、敵もいない。


「壁にトラブルがあったみたいです。ルーンは援護役なのにここにいます」


「問題ありません。これより、途中援護なし、ここにいる三人だけで私との対人演習を開始いたします」


「応援席の方も、そういうことですので」


「待った、次の援護は決めてたんで。そいつと交代して欲しいんですが」


「戦場は常に揺れ動くもの。認められません」


 壁の向こうでシルフィががっかりしているのがわかる。壁に両手をついて凄く残念そうな顔をしているし。俺にはどうすることも出来ん。後でフォローはするからな。


「それではまず、援護担当はこちらの装置の前へ、この水晶に手を」


「こうかの?」


 台座にはでかい水晶が一つ。この世界の装置とかまだよくわからん。

 これが錬金科あたりのオリジナルだったりすれば、もう絶対に判別できん。


「ふむ、よくわからんのう」


「では、初心者両名はこちらの待機スペースへ」


 ちょいと離れた場所へ連れて行かれる。

 応援席と待機スペース別って意味わからんな。


「では起動します」


 リリアが魔力の壁に包まれ、幾重にも魔法陣が展開する。


「なんじゃ……力が……」


「さあ、お目覚めください。我が夢、今こそ成就いたしましょう」


 女から黒い獣耳としっぽが生える。普通のものじゃない。

 なにか嫌な気分になる魔力で作り出されている気がする。


「うあぁっ……しま……これは……」


 リリアが立っているのもやっとというほど苦しそうな顔になる。


「おい、リリア? リリア! リリアになにをやっている!」


「あれは……あの光と魔法陣……うちらが力を抜かれた時のと似てる」


「なんだと?」


「まずい脱出せねば……」


「しぶといのね。どうぞ、水晶の中へ……始末は我らがつけますゆえ」


 リリアに電撃が走る。バチバチと音をたててはリリアを火花で照らす。


「うああぁぁ!!」


「リリア!!」


『ヒーロー!』


 鍵をさし、鎧に着替えて光速で接近し、魔法陣に触れる。


「邪魔なんだよクソが!!」


 ガラスが割れるような音がして、壁と魔法陣が砕け散る。


「しっかりしろリリア!!」


 ふらつくリリアを抱きとめる俺の横を、水晶球が飛び越えていく。


「わしは無事……でもないかの。これは……封印が開きかけておる? やつの力が吸われた!?」


「ふふふふ……遅かったようね。ようやく……ようやく我らが手に……お久しゅうございます、九尾様」


 奥の壁際まで後退した黒髪女の、腕の中で光る水晶球。

 まるで恋人相手みたいに優しく抱きしめながらうっとりしている。


「てめえは生きて返さねえ。ここで……徹底的に、生まれてきたことを後悔させてから、地獄の底まで叩きこむ」


 シルフィ達のいる壁を指弾で破壊し、こちらへ走ってくるのを確認する。

 同時にリリアへヒーリングをかけておく。


「最後に聞いておく。てめえもヴァルキリーか?」


「ばぁるきりー? ああ、あのような空っぽの木偶と同列に見られるのは不愉快です。お前たち、しばらく相手をしておやり……」


 上空からゆっくりと降り立ったのは、人の形をした真っ白ななにかだ。

 真っ白な全身タイツをイメージすればいい。

 首から上を見てもどちらが前で顔なのかわからない。

 鼻や口に当たる部分が存在しないからだ。

 指や爪先、かかとすらない。真っ白で起伏がないため腹と背中も区別できない真っ白な何か。


「なんだこの気味が悪いのは。知ってるかサカガミ?」


「いんや、初めて見る」


「まず……い……」


「リリア! 無事か?」


「すまぬ、心配かけたのう」


 命に別条はない、か。ヒーリングもかけ終わった。

 魔力がかなり減っているが、時間が経てば回復するだろう。


「ルーンは私が、あの女を頼む。サカガミ」


「言われるまでもねえさ。確実に殺す。逃げ道も与えない」


「無駄というものでございます。九尾様、今しばらくご辛抱ください」


 水晶からリリアが出していたものと同じ、しっぽのようなものが数本生えている。


「なんだあれ……」


「さあ、お前たち……励みなさい。人間など、最早生きるに値せず」


 女を守るように、白い人型達がピシっと乱れることなく整列している。気味が悪いを通り越してどう反応すればいいかわからん。


「リリア、ありゃなんだ?」


「天使じゃ」


「天使ぃ? うちらが本とかで見た天使ってのは羽の生えた人間だったぞ」


「天使は主の命令で動く低級兵じゃ。ただ任務を遂行するだけなら、全方位見えるようにすれば表裏の必要な顔などいらぬ。飛ぶ機能をつければ、かさばる羽も不要。左右の区別も不要じゃ。徹底して効率を重視した、使い捨ての天よりの使い。というわけじゃな」


「なんとも夢のない存在ね」


「倒しちゃっていいんでしょ?」


 全員集合。それぞれ武器を取り出し構え終わっている。

 リリアも調子を取り戻したようだ。でも後でしっかり診察してもらおう。


「できるとお思いで?」


「できねえと思ってるのか? てめえも前後の区別なんかつかねえくらいボコボコにしてやるよ」


「愚かな……行きなさいお前たち。身の程というものを教えるのです」


 天使とやらがこちらへ駆け出す。だが、こんな雑魚なんてどうでもいいい。

 あの女だ。あの女だけは必ず殺す。


「水晶は壊すでないぞ」


「オーケーそれ以外ならなんでもいいんだな?」


「わたし達は白いのを倒すよ。きっと邪魔になっちゃうし」


「頼む。正直イラついて頭がどうにかなりそうだ。誰かと一緒に戦えないくらい……全力であいつをぶちのめしたい」


「行ってらっしゃい。私達の分までお願いするわ」


「がんばってあじゅにゃん!」


「こっちは任せろ、サカガミ」


 みんなに軽く手を振り、二百メートルほど先の女へ肉薄する。

 水晶は壊さないように、か。


「さて、しっかり持ってろよ。落として割ったりしないようにな」


「スピードに自信があるのですね。いいでしょう。この黒狐、片腕でも人に負けはしませんので」


 普段の俺なら絶対に見切れない速度で、右腕に魔力を携えて突っ込んでくる。


「そうか、なら片腕だけで相手をしてやろう。初回サービスだ」


 左腕で黒狐とかいう女の腕を切断した。さて、水晶を持っている腕以外の場所に、びっしりと数百万の拳をねじ込んでやるとするか。


「ウオオオオオオリャアアアァァァ!!」


「ぶっ!? げばああぁぁ!?」


 吹っ飛んでいく黒狐の頭を掴んで近くへ投げ捨てる。手加減はしておいた。

 この程度で死なれてもすっきりしない。極限まで傷めつけてから殺してやる。


「さて、サービス期間は終了だ。こっからは本気でいくぜ」


「はっ速い……こいつ……人間か? 最後まで一発も見えなかった……いつ攻撃されたかさえ認識できなかった……」


「そうか、安心しな。死ぬ瞬間だけは、しっかりじっくり認識させてやる」


「人間なんぞに……屈するなど……ちっ」


 素早く出口扉まで逃げようとする黒狐。だが逃がす気はない。

 腹への回し蹴りで室内中央までぶっ飛ばす。


「シャラアァァ!!」


 ついでに上から拳を叩き込み、地面へ深く叩き込む。叩きつけた振動と煙、そして破壊音の中で、黒狐が水晶だけは手放していないのを見た。無駄に根性のあるやつだ。


「逃がす気はない。お前はここで終わりだ」


 煙が晴れ、えぐれた地面の中で無残に横たわり、虫の息となった黒狐を見下ろす。


「あれが本気のサカガミか……凄まじいな……」


「あそこまで怒っているのは初めて見るわ」


「わたしもゲルの時くらいかな」


「ちょっと怖いかも……強いんだね、あじゅにゃん」


「好きにさせておけばよい。こっちはこっちで倒すのじゃ」


 天使はそこそこ強いのか。少なくともアヒルやアルマジロより強いらしい、ホノリとももっちが苦戦している。他の三人が援護に入って数を減らしている最中だ。


「ついでに消すか」


『リフレクション』


『ショット』


 超久々にコンボとかやってみる。普段の俺でも一回くらいなら使えそうだけど、魔力切れが怖くて使う気になれんかったからな。


『シュウウウゥゥト・ザ・ミラアアァァー!!』


 リフレクションで作り出した魔力壁、が天使たちを隔離して上空へと移動させる。これで反射の部屋が完成した。


「ほいほいっと」


 散弾を中に撃ちこめば、反射の効果で無限に飛び回る銃弾が、天使にガンガン風穴を開けていく。脱出しようにも、壁への攻撃は全部反射される。死ぬまで脱出不可能な空間のできあがりだ。


「うわあ……えっぐい技使うのう」


「これはちょっと引くよ~」


「相変わらず便利な能力ね」


「アジュはそういう容赦のないところがあるよね」


「人間相手にやればほぼ詰みなんじゃないかこれ?」


「そうでもないさ。うちのメンバーなら脱出できる」


 黒狐が切断したはずの腕を再生してのそりと立ち上がる。

 まだやる気か。目から闘志が消えていない。


「さて、これでお前だけだ。覚悟はいいな?」


 なにをしてこようが全て叩き潰すのみだ。

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