勇者科はなぜ女ばかりか
順調に進んで講習三番目、今度の相手は熱い地方に出るアルマジロ。
こいつがまた人間サイズにでかい。
しかも丸まって転がってくる時に、外皮にトゲとか出てくるもんだから怖い。
「これ剣で勝てねえだろ!」
「何事も経験じゃ。転がっているうちはこちらを視認できておらん。そこをうまく利用するのじゃ」
「剣が刺さらねえって! リウス、なんとか超パワーでぶっ飛ばしてくれ」
「ちょいときついね。あいつは熱に耐性がある。これじゃ拳が通らない」
詰んでないか? どうすんだこれ。ソードキーと鎧は使えない。
あとはヒーリングとサンダースマッシャーくらいだけど……だめだな。
思いつかん。シンプルに硬い敵ってゲームでもうざいんだよなあ。
「弱点とかパンフにないのか?」
「あるけどどうしようもないね」
「なんじゃそら」
一直線に突進して来るから回避は楽なんだけど、あんまり接近したくない。
「悪い、援護頼む」
「それじゃあ私が行くわ」
「よーっし私も行くー!」
魔法障壁を超えてイロハとももっちが乱入する。さて対策とはいかに。
「あいつらは暑い地方で夜露とかを体内に取り込むために、ものすごーく水分を吸収しやすいんだよ」
「だから過剰に水分を供給するのよ。こんな風に」
イロハが高速で印を結ぶ。それを見たももっちも同じ動きを……同じ動き?
「水遁、水流爆撃」
「水遁、激流裂波~!!」
上から降ってくる水滴に、敵が触れると大量に水が吹き出す。
まさに爆撃って感じに破裂した。そこへ大嵐の時の川みたいな激流が押し寄せ、敵を部屋の端まで押し込んでいく。
いや、それよりもなんでももっちは忍術使えるんだ。
「ももっち忍者だったのか」
「そうだよー」
「なんか忍者の家系らしい。私も詳しくないけどな」
「ま、そーいうこと」
「忍者って結構いるんだな」
「忍者科も含めればまあ、絶対出会わないとは言えないわね」
科があるくらいだし、忍者自体はいるのだろう。
やっぱ勇者科って特殊なやつを集めてんのか。
「それよりあいつどうするんだ? 水浸しにしたはいいが死んでないぞ」
「あいつらは水を吸収してしまう体質よ。動きが遅くなっているでしょう?」
見てみると全身びっちゃびちゃで、のたのた歩いている。丸まってもそのままごろんと横に倒れてしまう。その間にも身体から水が噴き出している。
スポンジみたいな身体に硬い外皮ということらしい。
「なるほど、全身水浸しか。サンダースマッシャー!!」
流石スポンジ体質。バッチリ全身真っ黒焦げだ。
第二関門突破。この調子なら夕方には帰れるんじゃないかな。
「おつかれー。次は休憩地点だよ」
「よし、休憩地点なんだから休憩しないとな」
「ただ休みたいだけじゃろおぬし」
「ま、いいんじゃないか? うちらも一息入れたいし」
「そうね、それじゃあ行きましょうか」
そんでもって次の部屋は売店と屋台のある休憩地点。
壁に南国リゾートっぽい絵が書かれている。
妙にうまいから、おそらくそっち系の科が書いてるんじゃないかな。
「じゃあ、わたしたちでなにか買ってくるね」
「任せる。俺はもう動けない」
「こやつの面倒はわしに任せておくのじゃ」
俺はリリアと席を確保し、四人は飯と飲み物を調達に行く。
この部屋は適度に涼しくていいなあ。眠くなるほど快適だ。
「こんなところで寝るでないぞ」
「ちょっと疲れただけだ。きっと寝ない」
「寝ないように話でもするかの」
「そうだな。じゃあさ、勇者科にはなんで女ばっかりか推理した」
「久々じゃなこの流れ。聞いてやるのじゃ」
なにか話していないと、本当に机に突っ伏して寝そうなんで喋り続けよう。
「まず勇者の素質ってのは特別なもんだよな?」
「うむ、それを持つものが入る科じゃ」
「それ、多分だけどハーレムと関わってるだろ」
「ほほう、しかし男も少数じゃがおる。それはなぜじゃと思う?」
「男女二人呼び出したことがあるか、手違いで女を呼んだ時のための保険じゃねえかと思っている」
「興味深い説じゃな」
「呼び出したのが男なら、特別な連中と、できるだけ子作りすれば、全員同時にガキ作ることもできる。俺は絶対にしねえけどな」
ガキなんてこの年で育てるのは面倒なので絶対に作らない。100%邪魔。
責任なんて取りたくないので、責任が発生することはしない。当然だな。
「でも前に話題に出た通り、女は一人の子を一年かけて生むしかない。それを連続すれば母体に尋常じゃない負担がかかる。だから、勇者科の女十人分くらいか、それに匹敵する力を持っている男数人に力を集中させて、そいつとの子供に集中させる。まあ俺の推理じゃあそんなとこだ」
「おおぉぉ……珍しく頭使っとるのう。いいとこついておるのじゃ」
「いつもそこそこ頭使ってるだろ。まあ一番謎なのはお前だ。そろそろ事情の一つくらい話して欲しいもんだな」
「そうじゃな……頃合いかも知れぬ。しかし、わしは……」
リリア本人の話をしようとするとたまーに顔が曇る。なにを隠しているか知らないが、俺にも関係している以上、どっかで話してくれるはず。
「なんであれ俺の味方なんだろ? そこは変わらない。前に聞いたぜ」
「ん……そう……じゃな。そこだけは譲れない、真実じゃ」
「信じてやるよ。疑うのもめんどくせえからな」
「そうか……よかった……」
歳相応、といっても正確に何歳か知らんけど。そんな子供のようにほっとした顔だ。こいつもなんかあるんだろう。でもこの世界に連れて来てくれた恩がある。そこは真実で、俺の案内をしてくれていることも真実だ。
「正直に言えば、わしが案内人になって、ねじ込んだのがおぬしじゃ。そしてわしはその鎧に希望というか願望というか……まあ色々な願いを込めておる。じゃから……」
「あじゅにゃんおまたせー! ご飯の時間だぞー!!」
「またなんちゅうタイミングで戻ってくるかね」
「まあよい、急ぐこともあるまい。ゆっくり、今は講習を無事終えることを考えるのじゃ」
「なになになんの話?」
「飯なに買ってくるのかなーって話さ」
適当にごまかす。リリアが話したくない事情であり、俺も言われると困るので自然と口裏合わせることになる。
「ネタでゲテモノ買って来られると困るなあという話じゃ」
「食べ物であまりふざける気にはなれないな。もったいないだろ」
「そらそーだ。これはパイ?」
多分パイ。肉のにおいがするからミートパイか? 円形のやつじゃなく、ザックリ言えば、でかい春巻きみたいに包んではじっこを閉じたやつ。正式名称なんて俺が知るか。五口くらいで食えるそこそこ腹が満たされるタイプで、他にもアップルパイとかある。
「調理科の焼きたてを売ってるお店あったから買ってみた!」
「俺にミートパイ買ってくるとは、流石だ」
「わたしとイロハにはそのくらい簡単さ!」
「みんなの分も色々買ってきたから食べましょう。前の部屋が暑かったから冷たいお茶にしたわ」
全員でテーブルについて食べ始める。うっわ美味いなこれ。皮がしっとりしていて、中の肉は牛と鶏かな。しっかりと肉の味があり、同時にグラタンのような風味。グラタンやラザニア大好物の俺には最高に嬉しい。
「いいね、こっちなんだ?」
「トマトチーズだってさ」
一口食ってみる。トマト・ニンニク・チーズかな。全部がとろっと口の中で混ざり合って一つの濃厚なソースになる。こっちは生地厚めでソースを楽しむタイプなんだな。
「アジュ好みのやつを選んできたよ!」
「お前ら完璧に把握してるな。どうやって俺の好みとか知ったんだよ」
「毎日の食事を作っているのは私達よ」
「あじゅにゃんギルドは当番制なんだっけ?」
「そうじゃ。食事の味付けを微妙に変えたりして、そこからアジュの好きな味を割り出したりしておる」
「地道な作業だな。サカガミの好きな味がわかってるってことは成果は出てるんだろうけどさ」
気づかなかった。というより味付け変えるのは飽きるからとか、ちょいとした実験なんだと思ってたよ。
「そういう頑張る女の子の気持ちとかまーったくわかっとらんじゃろ?」
「無茶言わんでくれ。あー……なんか悪いな。気を遣わせてるというか」
「好きでやってることだからいいの!」
「そう言ってくれると助かる」
そこまで細かい気配りはできるかどうか確約できないけど、好きな味付けで、いつでも食えるってのは嬉しいもんだ。感謝しよう。
「料理も好きじゃからのう。勉強になって調度良いのじゃ」
「俺もたまには味変えてみるかな」
「期待しているわ」
「いいなーあじゅにゃんは。何種類も料理が食べられて」
「わしらの料理が食べたければハーレム入りするしかないのじゃ」
「悪いサカガミ。私はお前に惚れてるわけじゃない」
「知っとるわ。ハーレムも作ってない」
違うんだ。ハーレムとかじゃなくて、こいつらは大事ではあるんだけど、侍らすとかじゃなく、ちゃんとした仲間だと思ってて…………俺が仲間でいて欲しいとか思える人間が三人もいるんだな。改めて特殊な環境になったもんだと思う。
そんな大切な三人を、ハーレムとかいうわけわからんもんにぶち込みたくねえなあ。
「なーんか難しい顔してるね」
「あんまりこういう顔のアジュって見ないよねー」
「こういう時はなにを考えているのか、まだまだ調査が足りないわね」
「俺は調査なんかせんでも、ゆっくり理解できるようになってくれりゃあそれが一番だ」
「おお、なんかプラスの意見が出たよ!!」
「珍しいこともあるもんじゃ」
俺を理解しようとしてくれて、一緒にいてくれることに感謝している。
けど照れくさいし、イケメンギザ野郎じゃないので口には出さない。
でも俺はこいつらに感謝している。間違いなくだ。
「飯食ったら次行くぞ。今日中にクリアしてやる」
ちょっとだけやる気出てきたぜ。
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