フランと焚き火にあたる
冬の雪山ど真ん中。フランと一緒に下着姿で毛布にくるまり、焚き火で暖を取っている。
「アジュくんは恥ずかしくないの?」
「生き様がか?」
「そこは触れないでおいてあげるわ」
「なんて気配りのできるやつ」
なんかこのノリ久しぶり。一瞬自宅っぽかった。懐かしむほどの時間は経っていないはずなんだけどな。
「はいはい、今のちょっとギルドの子達みたいだったわね」
「だな」
女というのは下着とか見られると恥ずかしいんだろう。ごまかしてやったのだが、伝わったかな。
「アジュくんに馴染んできたのね」
「いいことじゃないと思うぞ」
プラスがなんもないから気をつけようね。お姫様が慣れるのは悪影響というのだ。俺の肩に頭を乗せて、楽しそうに話すフランは、あまりお姫様の威厳が感じられない。年相応の女の子みたいだ。
「ふわぁ……ねむ……」
「寝ちゃだめよ? っていうか余裕あるわね」
「まあ寝ても守れるよう、保険はかけてある。内容は聞くな」
「わかってるわよ。わたしも守ってくれるのかしら?」
「ああ、自動的にお前も俺が守る。前も言ったろ、お前が無事であることが大切だって」
ここでフランに怪我でもされたら一大事である。絶対に無事に家に帰そう。国交とかがえらいことになる。南国リゾートの経験も予算もないから、四人で行ってみたいのだ。インドア派の俺からしたら奇跡的な行動原理だけどな。
「そう、そう……なの? わたしはそんなに特別なの?」
「ああ、少し特別すぎるな」
この状況もそうだが、学生が国王と臣下になり、国を運営するという状況が特殊すぎるのだ。アシスタントをしてくれるフランが優秀である。それはとても嬉しいし、めっちゃ運がいいことも理解している。置かれている環境が特別にも程があるねえ。
「うう……ああもう、アジュくんはそういうところがダメよ」
「そうか」
他人に頼り切りなのを見透かされているのだろうか。まあ補佐してもらっていれば気づくだろう。あまり負担をかけすぎないようにしたい。
「急に黙っちゃって、変なこと考えてない?」
「ここから脱出したらどうしようかと思ってな」
「そうね、みんなと合流して、溜まっている雑務を片付けて。やることが山積みね」
「みんなに休みも与えないといけないな。あとバーストフレイムのライブ」
「気に入ってるのね。一緒に行きましょうか?」
「あんまり女向けじゃないぞ?」
「アジュくんがどんな音楽好きか気になるのよ」
知ってどうするんだろうか。別に趣味がいいとも思っていないぞ。あの豪快なロボットアニメのOPみたいなテンション上がる曲は、間違いなく女受けが悪い。俺は好きなんだけどね。途中で必殺技っぽいシャウト入れながら爆発するとことか。
「難しい顔してるわねえ」
「まあな。薬の件と今回の騒動に、9ブロックとの対立。国の運営もあるし、まずこれがどういう試験なのか本質が掴めていない。このままでは……」
「はいはい、アジュくんは偉いわね」
フランが俺の頭を撫でてくる。なんか前もあったなこういうの。
「お前の行動原理がわからん」
「褒めてるのよ。えらいえらい、よくできました。前もしてあげたでしょ」
いやみったらしさがない。手付きが優しいし、妙に慣れているな。
「無駄に姉っぽい」
「中等部に妹がいるのよ」
「納得」
嫌ではないので、そのまま身を任せる。どうせ動けないし。
「わたしは家ではお姉ちゃんだからね。アジュくんも甘えていいのよ」
「なんだそりゃ。フランお姉ちゃんとか言えってか」
「…………悪くないわね」
「マジ顔はやめろ。怖いから」
今日イチで真剣な顔すんのやめろや。寒くなるから距離取れないんだぞ。
「お姉ちゃんは怖くないわよー」
悪ノリはじめやがった。絶対に乗らんぞ。まず目の前の問題を片付けないと、笑いにもならん。いやマジでこの状況どうするんだ。
「難しい顔してるわね。アジュくんはなーんにも考えていないようで、色々大変なのは知ってるわ」
「そこまで大層なものじゃない」
「きっとわたしが知らない危険なことも知ってるんでしょ。それで気にしてる」
「かもな」
何かあることは察しているのだろう。だが深入りしない。それが気遣いか危機察知能力かは知らんが、正直ありがたい。
「本当に困ったら、ちゃんと相談するのよ。わたしでも他の子でもいいから」
「覚えておく」
「そう、ならライブに一緒に行くことも覚えておきなさい」
「わかった」
多少は体力も回復したし、服も乾いたようだ。誰かが来る前に着替えてしまおう。
「乾いたから着ておけ。敵が来るかもしれないんだぞ」
「そうね、敵に見られるのは嫌よ」
完全に着込めばそこそこ暖かさが戻ってくる。ジョナサンさんが帰ってくる可能性があるので、火からは離れないようにしていよう。となると座って待つことになるわけだが。
「遅いな。そんなに遠くに行くとは思えないが」
「戦闘中なのかしら?」
「こっちに戦闘の音も魔力も流れてこない。俺達が気づかないレベルの雑魚処理だけなら、もう帰ってきてもいいはずだ」
ジョナサンさんは超人かそれに殉ずるレベルの人っぽい。全力戦闘すれば山とか崩れそうだ。じゃあどうして帰ってこないのか。
「アジュくん、また思いつめてるわよ」
「悩みの種が消えないどころか増えるもんでね。あれとか」
離れた位置に虎が見える。紫と黒のやつだ。三匹がこちらを見ている。
「火にびびって逃げたりとかは……」
「無理よ。あれは完全な魔物。見つからなければやり過ごせるけれど」
「完全に見つかったな」
武器を構えて襲撃を待つ。木々の間をすり抜けるように、素早くこちらへと突っ込んできた。
「足元気をつけて。雪で滑るわ」
「わかった。サンダースマッシャー!」
攻撃魔法を避けられる。やはり素早いか。接近戦は避けたいが、フランを前に出すわけにもいかない。カトラスで対処する。
「援護頼む。雷光一閃!」
飛びかかってきた一匹を避けながら、首を切断する。いける。斬り殺せないほど頑丈じゃない。虎は瘴気を放って消えた。純粋な魔物は久しぶりかも。
「少し試すか」
わざと雷化した左腕を食わせてみる。口の中に突っ込んで噛ませた。
「アジュくん!?」
痛みはない。どうやらこの程度のザコならダメージは入らないらしい。左腕を奥まで侵入させて爆裂させた。これで二匹。案外簡単だな。
「なるほど、勉強になった」
「大丈夫なの!? 傷口を見せて!!」
フランが一匹倒してこちらに来る。お互いに心配し過ぎか。フランも強いんだから、もう少し頼るか。
「最初から雷にした腕を食わせた。ダメージあるか試したかっただけだ」
「そういうのやめなさい!」
なんかめっちゃ怒っている。前に雷化について説明した気がするんだけど。
「死にはしないさ。前にも言っただろ」
「それでもよ! 心配する身にもなりなさい!!」
「わかったよ」
次はフランのいない場所でやるか。俺も前線に出たいわけじゃないから、博打はしたくない。だがフランが怪我しそうなら話は変わる。対策は多い方がいいのだ。
「囲まれたわ」
十匹くらいに遠巻きに囲まれている。フランを庇いながらの戦いは厳しい。
「しょうがない。一点突破してここを放棄する。ついてこい」
「お待たせいたしました、国王様」
ジョナサンさんの声がして、周囲をぐるりと回る何かが見えた。そして魔物がその身を散らす。
「いやあご無事なようで何よりです」
「いたぞー! 国王様だ!」
兵隊とイズミも一緒だ。どうやら崖から落ちた連中は全員無事だったらしい。
「よく全員集まりましたね」
「こういった場合の訓練も受けておりますので、集合もできます」
優秀だなあ。考えてみれば、学園からの特務部隊だもんねえ。俺が心配するまでもないか。
「イズミちゃん!」
「フラン、怪我はない?」
「平気よ。イズミちゃんも無事?」
「損傷なし。作戦続行可能」
フランとイズミが抱き合っている。あいつら仲良くなったなあ。なんにせよ無事でよかった。
再会を微笑ましく見ていたら、こっちに攻撃魔法が飛んでくる。俺とジョナサンさんで叩き落としたが、森の奥には敵が見えた。かなりの数だな。潜んでいるやつも含めると、ちと面倒なことになるぞ。
「どうやら見つかってしまったようですな」
「みたいですねえ。どうしたもんかな」
あっちに手練とかいたらタイムロスがきつい。夜まで山の中にいるのは避けようぜ。俺は耐えられる気がしないぞ。
「どうやら心配無用ですな」
敵の背後で爆発が起き、明らかに動揺を見せている。こちらを警戒せずに振り返っているものまでいた。敵陣を切り抜けて、誰かがこちらへ飛び出した。
「見つけたぜアジュ! ちゃんと生きてんな!!」
「リュウ!」
リュウの部隊が背後から急襲したらしい。敵は明らかに浮足立っている。今なら殲滅も可能か。
「一気に終わらせる。全員突撃!」
「了解!!」
さっさと終わらせて、夜の雪山とはおさらばだ。
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