洞窟には秘密基地があるものだ

 雪山で味方部隊と合流できたので、謎の敵部隊を殲滅しよう。


「うおっしゃあ! いくぜオラア!!」


 リュウは普通に敵を倒していく。敵に大人が混ざっているのに、その戦闘力は少しも引けを取らない。まあ大人側が達人じゃない可能性が高いけれど。


「キヒヒヒヒヒヒ!!」


「こいつも狂ってやがるのか」


 何人かがあの船で見た状態に陥っている。海にも山にもいるらしい。生息範囲が広がっているじゃないか。根本から駆除しないとやばいぞ。


「キヒヒヒヒヒ!」


「ライジングナックル!」


 あんまり近づきたくないので、雷の拳を飛ばして首から上を焼く。


「狂っているみたいだけど、あんまり強くないわね」


「自我がぶっ壊れているんだろう。超人に勝てる兵隊じゃないな」


「斉射開始!」


 特務部隊の六人が攻撃魔法を当てていく。射撃の精度も高いな。ほぼハズレがない。一発一発の威力にもブレが見られないし、優秀すぎないかな。


「最後の一匹だオラア!」


「リュウ殿、そいつは捕まえましょう。情報を聞き出すのですぞ」


「おっ、そっか了解」


 順調に殲滅し、敵軍と魔物はいなくなった。比較的正気っぽい敵兵を一人だけ残してみたが、どうも9ブロックの警備兵らしい。


「オレ達は警備をしていただけだ」


「んな言い訳が通るわけ無いだろ。この山は8か6ブロックの範囲だ。9ブロックの国境越えてんだろ」


「勝手に国境越えて軍が来るとか大問題だぞ」


 国によっちゃ開戦の合図になるわけだが、なんか変だなこいつ。正規兵っぽくない。身なりも悪いし態度も悪い。偽物かも。


「ならお前が来たルートを言え」


「オレは隊長じゃないから覚えてない」


「どの道を来たかでいい」


「隊長の後ろを歩いていただけだ」


 秘密にしているわけじゃないな。こいつ俺達に出会わなかったらどうやって帰るつもりだったんだろう。試すか。


「国王様、どうされます?」


「もういい開放してやれ。こんなやつの食費がもったいない。さっさとどっか行け」


 しっかり魔力の探知機は取り付けた。逃げるように去っていくので、こっそり尾行を開始する。やがて巧妙に木々と雪で隠された洞窟が見えてきた。大人がぞろぞろ入っていっても平気なくらい、入り口が広いな。


「尾行しておいてなんだけど、夜になるから帰るべきだったな」


「それではきっと拠点を変更してしまうでしょう。攻めるなら今ですな」


 そして警戒しながら地図を広げる。


「この地図によると、全員が歩いたルートの情報と敵がいた場所がこう」


 8ブロックには俺達の移動が。6ブロックはジョナサンさんの部隊の調査記録が書き込まれている。山が広いため全域をカバーできてはいないが、どうやら敵の拠点はこの2ブロックにはないのか、でなきゃかなり巧妙に隠されている。


「やはり人通りの多い中立区画の5ブロックと、質の悪い9ブロックに隙がありますな」


「でもここはまだ8ブロックの範囲内では?」


「新しく基地でも作るつもりですかな。罠の可能性も……まああれが無能でも、上司は有能の可能性はありますな」


 そんなわけでジョナサンさんの部隊が先に入って、俺達が後に続くことになった。入り口を固めておくわけだね。国王様を守る目的もあるだろう。


「では行って参ります」


「お気をつけて」


 そんなわけで学生四人が残された。入り口でぼーっとしているのも危険なので、近くに隠れている。


「どうなると思う?」


「超人が紛れていなければ制圧できるはずだ。むしろ俺達がやばい」


「山に慣れたものがいるはず。制圧の難度はそこで変わる」


「ジョナサンさんは強いし、こんな辺境の地に達人もいねえだろ。オレらでぶっ飛ばせる程度のやつさ。こんなふうにな!」


 リュウが剣を振り抜くと、ギイン! という金属音と火花が起きる。


「なるほど、やはり学園のガキは侮れないか」


 全身を白い服で覆った覆面男が現れた。今のは攻撃だったようだ。


「気をつけろ。こいつマジでつええぞ」


 リュウが殺気を滾らせて俺達の前に出る。声に余裕がない。


「これ以上深入りするなと言っておく。ガキがしゃしゃり出る領分ではない」


「8ブロックの国境に深入りしているやつが言うことか?」


「それも忘れてもらいたい」


「お断りよ!」


「なら記憶がなくなるほど殴られてくれ」


 男の手から何かが煌めき、こちらへ飛んでくる気がした。


「サンダースマッシャー!」


 俺の魔法が何かに切断された。横っ飛びで距離を取りつつ、リュウが敵へと肉薄できるように位置取りを直す。


「ワイヤーブレードを確認。殲滅開始」


 大量の水が渦を巻いて男へ向かう。それも切断しようとしたのか、きらりと光った瞬間に凍結した。


「これでワイヤーは封じた」


「なるほど勉強になる」


 はじめから氷だと切断されるが、水を一瞬で凍らせれば封印できるのか。あらかじめ対応を知っているやつの動きだな。 


「あなたは雑。正規の訓練を終えていないと予想」


「本当に学園のガキは厄介だな」


 敵はロングソードに持ち替えている。リュウとの距離が近すぎるから、こちらが下手に動くのはやめよう。他の敵がいないか探るべきだ。


「一番厄介なのはオレだぜ! オウリャア!!」


 リュウの一撃は敵の足を雪の中へと埋めていく。


「馬鹿力が!」


「そいつが売りなんだよ!!」


「ワイヤーは使わせない」


 イズミのフォローが的確に決まり、敵だけにゆっくりと傷が増えていく。


「がんばれー」


「アジュくんも何かしましょう。援護できてないわたしが言うのもなんだけど」


「こういう感じに?」


 敵の足元から雷の腕を何本も出して、しっかりがっしり掴む。雪が積もっている場所なんかに立っているからだぞ。


「なにぃ!?」


「リュウ、やっておしまい」


「あいよー!!」


 白装束から炎が吹き出した。周囲の雪も俺が作った腕も強引に消しながら動き出す。


「死にな!」


 瞬時にリュウへと詰め寄り剣と剣がぶつかり合う。


「あっぶねえ! さっさとやられろよ!」


「ガキに負けるかよ!」


 突然洞窟の入口が爆発した。離れた位置から火柱が上がっている。中で戦闘が起きているな。


「お前らの基地燃えてんぞ」


「あーあ、こりゃバックレて逃げていいかもなあ」


「逃がすと思うの? フレイムプリズン!」


 フランの炎が牢屋を作る。こいつは早期解決の手がかりだ。逃がすわけにはいかない。


「術者が消えりゃいいんだよ」


 ワイヤーを複数絡めたビームが飛んでくる。檻を貫通してフランを狙う作戦だろうが甘い。雷光一閃ではたき落とす。


「お前の手口は読めている」


「ナイスアジュ!」


「ありがとアジュくん! 檻をもっと強化するわ!」


「いやあ素晴らしいご活躍ですな」


 ジョナサンさんと部隊の人達が戻ってきた。怪我している者もいるようだが、全員いるな。


「証拠品は押収した。おとなしく捕まるなら殺しはしない」


「それで捕まってやるとでも?」


「ではさようなら」


 ジョナサンさんが一礼して駆ける。炎の檻をふっ飛ばし、白装束とすれ違いざまに一撃入れて気絶させた。


「おー……お見事」


 やっぱ強いなあ。拍手を贈りましょう。正直ほぼ動きが見えなかった。戦闘要員がいるっていいなあ。ありがてえ。鎧使わなくてもいいかも。


「中の基地は破壊しました。これより完全に吹き飛ばしますので、全員退避願います」


「よし、事情は後で聞く。退避!」


 そして洞窟は完全に消滅した。下山して8ブロックの基地へと戻る途中、詳しく内部の話を聞いてみる。


「中は薬品工場のようでした。洞窟を少し改造して、仮の拠点に利用するつもりだったのでしょう」


「運搬の中継地点と小規模の薬品工場を混ぜたようなものです」


「なるほど」


「以前にも似たような工場と石膏像の発見例があります」


 あの像は薬に関係しているのか。少なくとも同じ組織であるはずだ。中毒者が混ざっていたことからして、やつらが薬を売りさばいたり実験している規模はかなり広いな。


「あれが材料なのか目印なのかは不明です。ですが、解析ももうすぐできるでしょう。各国と学園の組織は優秀ですからな」


「お願いします。学生で国王までやらされていまして、このうえ薬物組織を潰すのは少し荷が重いです」


「もちろんもちろん。子供に全部やってもらうなど、我々の名折れです。なあみんな」


「当然であります! 我々は力なき者の剣であり盾! どこまでもお供いたします!」


 めっちゃキリっとされておられる。全員大怪我していないし、心配はしていない。頼りにさせてもらおう。


「さて、無事本拠地に戻ってこられましたな」


「もう夜も遅い。念の為俺達と一緒に過ごしませんか?」


「これはありがたい。こちらからお願いせねばと思っておりましたが、先を越されましたな。ご厚意に甘えさせていただきます」


「ありがとうございます!!」


 全員が敬礼してくれる。ボディガードは多い方がいいと思ったんだけど、まあ喜んでいるし黙っていよう。

 そして暖かい晩飯を食べ、大きな風呂に入った。割り当てられた部屋で、ベッドに寝転がって本を読む。もう夜十時だ。明日がどうなるかわからないし、寝ておこう。


「アジュ、話がある」


 イズミの声だ。イズミなら変な気を起こすことはないだろう。


「入っていいぞ」


「寝ようとしていた?」


「問題ない」


 フリルの付いたパジャマだ。お前かわいい服とか持っていたんだな。セクハラオヤジみたいなセリフだから言わないけど。


「少し、秘密の話がある」


 ベッドに腰掛け、いつもより深刻そうな顔でそう言われた。


「同族と戦うことになるかもしれない」


「同族?」


「白装束は、私と似た流派だった。あれは源流が同じ可能性が高い」


 そういう意味か。どうやら根深い問題っぽいぞ。


「私の暗殺術は源流があって、枝葉のように流派が多い。表に出ているものでも二十近くはあるはず」


「そのどれかだってのか?」


「可能性は高い。私は暗殺術を習った。けどそれは自分を、そして大切な人を守るための術。悪用したいわけじゃない」


「別に術は術だ。道具であって、それそのものが悪じゃないさ」


 体術も剣術もそうだ。極端な話、全部効率よく相手を倒す術だからな。


「……意外。肯定的な意見を聞くことは少ないから……くしっ」


 イズミのくしゃみで会話が止まる。夜も更けてきた。もう少し暖かくするか。


「暖房強くするか?」


「いい。こうすれば暖かい」


 平然と俺のベッドに入ってきた。あまりにも自然に入ってくるもんだから、防御できんかったぞ。


「俺じゃなきゃ危ないぞ」


「暗殺術がある。それに、アジュなら平気」


「そうだな」


 俺が手を出さないと確信しているのだろう。かしこい。いや賢いやつは男のベッドに入らないか? わからん。


「そうだな? それは肯定?」


「どういう意味だ?」


「……半分くらい伝わっていない気配がする」


「よくわからん。流派の話どこ行った」


 俺も寒いので布団を肩までかける。いかん寝そう。ギルメン以外が布団にいるのに眠いのは、疲れがピークなのだろう。あと厳密には俺の部屋じゃないから。仮の宿みたいなものだから、自宅っぽくなくて抵抗感が薄いのだろう。


「同門かは不明。けれど私の手口が知られているかも。知り合いがいたらと考えると怖い。私はこれしかない。破られれば、もうどうにもならない。同門と比べて、特別に優れている自信もない」


 イズミは少し震えている気がした。こうしていると、なんだか小動物のようだな。


「別にそうと決まったわけじゃないだろ」


「同門で邪道に走る者がいたのは知っている。手段を選ばない敵に、不意打ち以外で勝ち切るのは難しい。私はフランを守れない。アジュの仲間として働けない」


「気にするな。イズミはずっと役に立っている。その力はお前の経験で財産だ。使い方次第だし、なくなってもイズミがいてくれれば助かる」


「暗殺術のない私は、みんなの側にいても意味がない」


「意味はある。俺よりずっと強くて色々知っていて、今だって怖いけど頑張っているだろ。なんなら頑張らなくてもいいぞ。できることで助けてくれればいい。万能である必要はない」


 俺なんて壊すか殺すか限定の切り札みたいなもんだからな。しかも大勢にバレてはいけないという制限付き。こんなやつよりよっぽど有益だよ。


「だからもう寝て、明日も一緒にいればいい。それだけで役に立っている」


「いるだけで?」


「ああ、今日学習した。寒い時に誰かがいると、それだけであったかくて死なない。暗殺術なんて使えなくてもいいんだよ。横にいれば安心するしな」


 フランがいなければ、俺は一人で毛布にくるまり焚き火の前で震えていた。

 そこにいるだけでいい、という状況は存在するのだ。


「あったかい」


 イズミが寝たままこちらを向く。隙間ができると寒いから、少しだけ近寄ることを許そう。


「そうか?」


 ギルメンにも言われた気がする。シルフィがよく言うよな。あれ本当なのか。


「アジュは眠くなると体温が上がる。学習した」


「せんでいい寝ろ。起きているから余計なことを考えるんだ」


「わかった。なら明日もアジュの側にいる。暗殺術が通用しなくても、横にいるだけでいいと言ってくれたから」


「好きにしろ。俺にとって有用じゃなくなることはない」


 強いんだから、横に置いておけばそれだけで心強い。雑務の処理もできるし、普通に優秀なんだよ。イズミはもう少し自信持っていいと思うけどな。

 そんな事を考えながら、朝までゆっくり眠った。

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