決勝トーナメント一回戦
転送魔法で送られた先は、俺達のいた城の中だった。
「いらっしゃいませ。おやアジュさんが担当だったんですか」
「カムイ?」
ダイナノイエの王子カムイだ。どうしてこんなところにいるのだろう。
「うーわイケメン! 美少年!! 誰なの!?」
最初に反応したのはルナだ。お前イケメンなら何でもいいのか。
「僕はカムイと申します。勇者科への編入が決まりまして、このトーナメントから参加させていただくことになります」
「カムイ様が一緒とは心強いです」
「様はやめてください。カムイとお呼びいただければ」
「礼儀正しい美少年! 可愛い系!!」
「残念だが婚約者持ちだよ」
「うえええぇぇ!?」
ルナがうるさい。カムイはソフィアと婚約しているのだ。くっつけるためにダイナノイエで色々とやったし覚えている。
「がーん! どうして勇者科の男子はみんな彼女持ちなのさー!」
「いいから準備だ。戦闘があるんだぞ」
「そうでした、ガイドも兼ねていますので、ご説明させていただきます」
そんなこんなでカムイの話をまとめてみよう。
・こちらは南側のブロック。
・生徒は希望者が転移してきている。
・他は神の力で作った幻影。命令はできる。
・半日の猶予を与えるので城から軍を再編してください。
・開始の合図があるまで戦闘も調略も禁止。
・勝敗は王様が倒されて捕まる。王様を含む勇者科が全員捕まる。敵の城を占拠。の三種類。
「なるほど、俺が捕まったらアウトだなこれ」
「アジュには私がいる。守る」
「イズミと三日月さんを護衛に付けましょう」
「こっちの王様がやられた瞬間に、あっちの城を占拠した場合は?」
「王様の捕獲が優先されます」
王様を守って決戦というわけか。どうやらマップが縮小しているようで、王都と戦場以外はあんまり再現されていないらしい。戦闘を見るためだろう。だが問題なく今まで通りの量が供給されるらしいのでよし。
「王都にほぼ主要施設が集中しているな」
「北の王都、中央の戦場、南の王都って感じだねこれ」
「遠くの施設は近くにあります。新しいマップを覚えておいてくださいね」
より戦場が密集するというか、正面戦闘と王都での戦闘を経験させたいのだろうか。学園の意図はわからないけれど、やれることはやっておこう。
「あとは対戦相手か……ギルメン来たら詰むぞ」
「相手はシルフィさんのブロックですよ」
「うーわ」
「シルフィちゃんかー,本人とももっちが強いんだよね。要警戒だにゃ」
「残念ですが騎士団長がいるようで……」
想定はしていた。そりゃ来るよな。三日月さんがこちらにいる以上、文句も言えないわけだ。
「メンバーはわかるか?」
「リクさんがいて、イガ忍軍から一人来るとしか」
「リクか。出しゃばるタイプではないが、アドバイスはするだろう。間違いなくフルムーン最優良軍師だ」
あの人普通に強いんだよなあ。神格のあるパンドラやエキドナと戦えていたから、超人の中でも実力者だ。
「急いで軍を作りましょう。アジュさん指示を」
「軍は今までの部隊のまま、ばらけている連中を組み込もう。ゼロからやっている時間はない。8ブロックから続投しているやつを探すぞ」
「オレらを読んだかい?」
リュウ、タイガ、アオイが部屋に入ってくる。
「お前ら残っていたのか」
「強え奴らと戦えるしな」
「報酬もうまいんだぜ」
「こちらとしても勉強になりますので」
よし、これで前線部隊は確保できた。これはでかいぞ。あとは幻影兵士ってのを見ておこう。全員で城の外で待機している兵士を見に行く。
そこには鎧と剣や槍を装備した兵隊や、杖とローブの魔法使いなどが並んでいた。
「これうちの製品ですね」
「確かに。8ブロックで作ったやつだ」
わかりやすいように銘を入れていたため判明した。うちの装備だな。
「原則としてそのブロックで作った装備がある場合、それが適用されます」
「それ以外は学園側が用意するってことか?」
「はい、見た目で最低限なのが丸わかりの装備になります。ちなみに特産品は強化されるため、その装備も強化されているはずです」
ありがたいが、それって敵の装備も強くなるってことか。手放しで喜んでいられる状況ではないな。
「こいつら妙なんだよ。たとえばこいつ」
タイガが近くの鎧男に声をかけている。
「命令をどうぞ」
「待機しろ」
「待機します」
「こんな感じでな。命令は聞くが、どうも人間っぽくはねえ」
「なるほど、幻影っていうかNPC感覚なのか」
これもどうせ神の力だろう。原理とか考えても無駄だ。今はどう有効利用するかを考える。
「最初からアジュさんを国王に、勇者科をその一個下に設定されています。あとは部隊長とかを認識できますし、誰の命令で動くかを決められます」
「軍隊として消費するにはいいな。じゃあそれぞれの特性を調べよう。時間がない」
半日くらいしかないのに、やることが多い。まず残っているのは生徒だから、今まで隊長任せていたやつに組み込む。そいつらで上級生や経験者を主力にしつつ幻影の雑兵を盾にして、あとはどうすべきかな。
「ホノリと三日月さん、別室で会議します。他の連中は軍を再編して。病院とか食料倉庫がどうなっているか実際に見てくるのを忘れずに」
「了解」
別室にて防音を確認してから会議に入る。
「ぶっちゃけトークでいこう。俺の鎧はできる限り使わない。だが懸念もある」
「相手の超人ですか?」
「シルフィがどれくらい本気で来るかだ」
「超人よりもシルフィってこと?」
「厄介さで言えばシルフィだ。トゥルーエンゲージはシルフィがやっていると認識できるやつがいない。どんな現象が起きるかわからないんだ」
今の時間と歴史の中で、思い描いたものを真実と結びつける。未来と世界の改変みたいなもんなのだ。何がどう変わるのか想像できない。
「詳細は話せないが、地形とか多分変えられる」
「攻撃魔法でふっとばすのとは違うの?」
「もっと別物だ。この世界でできるかどうかは知らんが、山を海に変えるくらいは多分可能だ」
「たくましく成長されましたな」
そういう問題なのだろうか。三日月さんが嬉しそうなので言及しないでおく。
「無理じゃないかな……それどうするのさ」
「改変された環境で生きられるくらい強いか、個人なら神格や魔力で弾き返せばなんとか」
「それでなんとかなるなら苦労はしないさ。アジュに任せるよ」
「安心しろ。それ以上の力は出さないように言ってある。本格的に力がばれるのは避けたいからな」
ツインドライブとクロノスの鎌は隠し通す。あれはティターンと殺し合いができるのだから、封印しておかなければいけない。絶対に面倒なことになる。
「それでまだ全力じゃないんだね……深入りはしたくないもんだ」
「しなくていいぞ。俺達は四人でひっそり生きていく」
「ではできるだけ環境対策をして、オレかサカガミ殿がシルフィ様のお相手をするということで」
「理由付けは任せます。能力のことは他言無用。シルフィは性根が優しいからな。仲間を犠牲にするタイプの作戦は取らないだろう。そこに攻略の鍵がある」
そんなわけで対策は進み、王都から中央戦場へと軍を進める。
俺と三日月さん、イズミにホノリ、リュウ、タイガ、アオイで軍を編成。フランのエルフ部隊に超人の魔法使いさんを入れて、ミリーとルナは後方支援部隊だ。
「綺麗に分かれていますね」
「ああ、これは見事だ」
戦場の中央に線でも引かれているかのように、雪国と春の陽気が分断されている。一定のラインから雪が積もらない。本当にブロックを分割してくっつけただけみたいだ。神ってのは無茶するねえ。
「敵も数はほぼ同じ。練度が試されますな」
少し高い場所から戦場を見渡すが、シルフィの姿は見えない。警戒し過ぎもよくないだろうが、どうにも手の内が読めん。
「よし、セオリー通りに魔法のぶつけ合いからいくぞ! 魔法部隊準備!」
「了解!」
ほぼ同時に両軍の魔力が高まる。だがこっちにはネフェニリタルの魔法剣士さんがいるのだ。ミリーの魔法で強化魔法をかけつつ全力ぶっぱだ。
「斉射開始!!」
魔法の雨が降り続け、それを結界で防ぎつつ打ち返していく。どうもこちらが少し押しているように見えるな。
「サカガミさん、そろそろ踏み込む時期かと」
「よし、リュウ、タイガ、行って来い!!」
「よっしゃあ!」
「行くぜてめえら!!」
前線部隊が猛スピードで接近する。速度重視の理由はシルフィだ。乱戦になってしまえば、味方を巻き込む方法は取れないはず。
「敵にも生徒がいるようです。まずは様子見というところでしょう」
「だといいんですがね……ん?」
一瞬だが敵陣の奥に妙な気配を感じた。三日月さんもこちらを見る。
「やばい! 何か来るぞ!」
次の瞬間、戦場のど真ん中に海ができた。
「おいおいマジかよ。全軍後退! 魔法展開!」
「ヒジリ、お願い!」
「準備はできております」
ネフェニリタルのヒジリさんにより、8ブロック軍の足元に魔法陣が展開され、即席の足場ができる。これで海に落ちることはなくなった。
「敵軍だけ沈んだ?」
「いいえ、リクのことです。想定済みでしょう」
「全軍後退だ! 急げ!」
こうして海から離れる。だが敵が浮いてこない。確実に何かある。ここで水没させるタイプじゃないだろう。
「海が渦巻いています」
「津波か! 結界を張れ!」
大津波が本陣に向けて突っ込んでくる。その中には軽装になった敵兵がいた。水中で動くための装備に見える。小さなタンクとウエットスーツみたいだ。
「まとめてくるぞ!」
「撃ち落とせ!」
魔法の攻撃を、光る津波が壁となって弾く。どうやら中にいる生徒の魔力とリンクして強化されているみたいだ。
「ぶち上げろ! 上に行くんだ!」
8ブロック軍の大地を津波より高い位置まで登らせる。土魔法で大地を山のように伸ばすのだ。
「間に合うか……?」
「ギリギリですが届きます。ということは」
「飛んでくるよなあ。プラン2!!」
『ミラージュ』
ちょうどジャンプすれば、俺達の少し上だ。つまり上下から急襲が可能となる。
「下からも来るぞ!」
全部が上から来るとは思っちゃいない。だが波で戦場が水浸しになり、雨のように降ってくる状況では、視界が悪くなる。
「雷光一閃!」
ふと気配を感じ、長巻を振り回す。
「ふふっ、見つかっちゃった」
俺の剣を受け止めたのはシルフィだった。片手で必殺技を止められるのは想定内だが、こいつがいるのは想定外だ。
「シルフィ様!?」
「必殺! 筋肉と激流!!」
驚く三日月さんに向けて、大砲のような衝撃で誰かがぶつかる。
「お前か、イーサン」
「三日月の相手ができるのはオレくらいだろ?」
やばい、シルフィとイーサンさんは止められない。どっちも超人上位だ。
「みんな動かないでね。怪我させたくないから」
魔力の放出量に驚き、こちらの兵士が止まる。さっきの剣とは違う、クリスタルのようなあの剣はやばい。
「しょっぱなから使うかそれ」
「国王様、この場はお逃げください」
こちらに歩いてくる歩兵に対し、カトラスを振り下ろす。
「おおっとお、にゃはは、バレちゃうかー。やるねいあじゅにゃん」
周囲の兵士がももっちに変わる。全部分身の術か。
「兵士は全員撤退させた。この場にいるのは俺と三日月さんだけだ」
こっちの兵士はミラージュキーで作った幻影だ。雨で視界も悪い。つまりある程度力を出せる。
「サカガミ殿、イーサンは手を抜いて勝てる相手ではありませぬ」
「でしょうね、そっち任せます。雷転身、急急如律令!!」
雷と札による分身を三体出す。時間稼ぎにもならないかもしれないが、やれることはやっておこう。
「アジュを捕まえて、あとはずっといちゃいちゃする!」
「理由がしょうもねえ!?」
「鎧は使わないのかなん?」
「あまり見せたくないんでな」
正直ももっちに勝てる気がしない。前に戦ったときは軽い組手感覚だったろうし、戦場で忍者を出し抜くのはきついぜ。
「今日は軽い挨拶のつもりだったけど、連れ帰って一緒にご飯だ!」
さて援軍は間に合うかな。今の俺でどれだけ戦えるのか調べてみよう。
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