三学期末試験最終章

期末試験最終章

 ギルメンが来た夜から三日経ち、朝早くから自分の領地を監督し続ける日々である。この作業も少し慣れてきた。

 今日は学園から全員城にいるようにと指定された日なので、みんなでのんびり政務をやっている。


「病院と温室農園と市街地と街道の整備は完了。運用も問題なし。引き続き兵の練度を上げる」


「ご苦労。警備も厳重にな。特に7ブロックのクレアはそろそろ攻めてくるかもしれない。気をつけろ」


「了解」


「空き地の使用権は、今建造中の工場と食料倉庫が完成間近。これで全部ですね」


「ああ、ボーナスは使い切ってしまおう」


「お届け物っすよー」


 城で打ち合わせをしているとやた子が来た。今回は郵便屋モードだな。


「あらやた子ちゃん、いらっしゃい」


「どーもっすー。今日は学園からの特別なお届け物っすよー。これを全員で見て欲しいっす。はいスイッチオーン! やた子ちゃんパワー!」


 なにやら小型の台座に水晶が乗っている。知らん装置だ。窓に設置された装置は、光を天へと登らせていく。


「何をしているの?」


「最終試験の準備っす」


『はーい私の声が聞こえてる? 聞こえてるわよねこれ?』


 装置から声がする。勇者科一年の担任であるシャルロット先生だろう。


『ひとまず試験お疲れ様! 予想外のトラブルもあったけれど、全員無事で何よりだわ。色々疑問も多かったでしょう。どうして国を運営なんかさせたのか。ポイントはどう計算されているのか。点数は何のためにあるのか』


「確かに意味わからんかったな」


『それもすべてはこの時のため! 最終集計が終わり次第、試験は最終章へと突入します!!』


 どうやらようやく長い試験も終わるらしい。長かった、これが終われば家に帰れる。そう思えば少しはやる気も出るな。


『ちょっと意味分からないと思うけど、よく聞いてね。みんながどんな施設を建てたか、どのくらい民がいるか、武器とか兵の練度、生産品や資源のデータなんかを全部学園側で調べていました。それを利用します!』


「利用? 一番善政を行った人でも決めるのかしら?」


『これより特別空間に全データを転写、ナンバー1ブロックを決めるトーナメントをします!!』


 また意味わからんこと言い出したよこれ。室内のメンバー全員が困惑している。


『勇者科のみんなは待機空間へ移動。連れていける超人は三人まで。二個のブロックごとに専用空間で戦ってもらいます。たとえば1ブロックが北側、9ブロックが南側って感じで転写したブロックが隣接するわ。丸い結界で覆われているから、世界の端っこは通過できないので注意ね』


「何言ってるのかわかんないにゃー」


「わかる生徒がいるのかしら?」


『明日には移動してもらうから、挨拶回りしたい人は今のうちにね。じゃなきゃ連絡係に手紙でも渡して。そこにいる連絡係にマニュアル持たせてあるから、みんなちゃんと読んでおくように。それじゃあ健闘を祈ります』


 そして声はしなくなった。静寂があたりを包むが、黙っていても仕方がない。


「やた子、説明頼む」


「はいっす、とりあえずこちらに建設中の建物と、連れていく超人の記入と……」


「そうじゃなくて、私達はどうなるの? 転写って何?」


「そうっすねえ、ここに九個の四角い積み木があるっす。これを並べたのが今の全ブロックっすね」


「そうだな。領地の奪い合いはあっても、ここから拡張されることはなかった」


「そこから1と9の積み木を持ってきて、くっつける! ただし土地を動かすと面倒なことになるので、実際には積み木の情報だけをまっさらな積み木に移すってイメージっすね」


「学園の技術力は凄いですね……」


 まあ裏で神が色々と動いているのだろう。人間じゃこんなもん不可能だし。


「家具とかは部屋をまるごと転写していいなら、そのままあっちに同じものが出るっす。全員の部屋はめっちゃ広いので、入らないことはないっすよ」


「なるほど、なら超人の選別をするべきだな」


「賛成だね。三日月さんは出られるの? あの人がいてくれたら心強いでしょ」


「でもフルムーンの騎士ですよね?」


「オレならば問題はない。シルフィ様よりサカガミ殿を守れと仰せつかっている」


 いいぞ、三日月さん続投はありがたい。超人戦力が足りないからな。


「ネフェニリタルからも一人来るわ」


「んじゃあと一人だねー。今いる人から決める?」


「今日中でお願いするっす。他の書類もじゃんじゃん書くっすよ」


「ミリー頼む。必要なら俺に回してくれ」


「かしこまりました、ではやた子さん、こちらへ」


「はいはーい」


 こういうのはすっかりミリー担当になった。ある程度手伝ってはいるが、もう専門職に近い働きである。


「あと転写世界は生徒と超人だけになるっす。それ以外はこっちで代用されるので、そのつもりでお願いするっす」


「よくわからんが了解。俺達はブロック対策するか」


「ちなみに援軍は無理っすよ。シード以外は全ブロック一斉に開始して、数日はラグがあるはずっす」


 なるほど、完全に領地をどう経営していたかで決まるのか。世界が閉じているから、学園からの援軍も不可能。真面目にやっていてよかった。


「敵戦力をまとめよう。シルフィの1ブロック。正体不明の2ブロック。リリアのいる3ブロック」


「カグラさんがトップの4ブロックに、イノさんの6ブロックと9ブロックよね」


「そして7ブロックがクレアだよー。どことあたってもきっついねー」


 どの陣営も癖が強いな。勇者科って特殊なやつしかいないのだろうか。


「どうしたもんかね……」


「私の部隊に可能な限り情報を集めさせた。直前で変えてくるかもしれないけれど、参考にして」


「ナイスだイズミ」


「いずみんは頼りになるにゃー」


 どんな部隊がいたか、超人の特徴だけでも記憶しておこう。今できるのは情報収集と移動準備だ。


「道具とか申請してくれれば引っ越しさせるっすよー」


「俺の部屋にある私物全部運んじまっていいぞ」


「了解っす。思い切りがいいっすね」


「必要ないものは自宅に置いてあるからな」


「みなさんも急いでくださいっすー」


 そんなこんなで準備は進んで次の日。

 学園が用意した転移装置によって、勇者科だけが別の場所に集められた。

 どこまでも続く真っ白な大地に青い空。

 そして全員が暮らせそうなでかい屋敷がある。


「みんないらっしゃーい。とりあえず説明するから中庭に行くわよー」


 シャルロット先生の後に続いてお屋敷の中へ。中も広くて豪華だ。

 中庭はとても広く、ガラス張りの天井から陽の光が差し込んでいた。

 植えられた草花が手入れされているし、豪華なテーブルと椅子がある。

 ここを拠点にするつもりなのだろうか。


「好きなとこ座ってね。あのおっきな画面が見える範囲でよ」


 言われてギルメンと四人で座れる場所を確保した。こうして暖かい陽気の中でゆったり四人でいるのはいいよな。もうしんどい試験とかしなくていいのに。


「それじゃあまずは各ポイントごとにトップ3をあげてみましょう。農業・内政・軍事・民心・産業なんかを見ていくわ」


 モニターに各種データが出てくる。ちゃんとした授業みたいに進んでいくなあ。

 そしてみんなポイントが高い。優秀な証拠だろう。8ブロックは内政・農業が高い。これは漁業が農業にプラスされているのと、内政重視で不満が起きないように、万が一を想定して病院とか食料庫が多いことが加点されているのだろう。


「ある程度は敵の傾向がわかるのう」


「みんな高いから気をつけないとね」


「ああ、情報は多いに越したことはない」


 リリアは全体的に高い。シルフィとイノは民心と内政が高い。カグラやクレアは産業と軍事。2ブロックは軍事レベルが異常だ。


「ここまではほぼ合格よ。少し勇者っぽくない行動もあったから減点するけれど、今回の勝負で一応みんな合格できるようになるはず。がんばってね!」


 どうやら試合で負けると不合格ということではないようだ。戦いっぷりで判断するということかな。


「先生は嬉しいわ。今回の試験で多くの生徒が、勇者としての適性を伸ばしました。新たな力に目覚めた人もいるわね。それはあなたの財産よ。しっかり伸ばしなさい。きっと頼る時が来るわ」


 そして俺達の椅子から魔法陣が展開される。


「これは転送魔法じゃな」


「また離れ離れね」


「すぐ会えるさ」


「どうせなら勝って会おうね!」


「それじゃあ転送開始! 敵情報は向こうにあるわ! 勇者科として立派に戦いなさいね!」


 そして光に包まれる。最終試験だろうと超えてやる。俺達の日常を取り戻すまでもう少しだ。少しはやる気を出してやるさ。

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