シルフィとももっち相手は無理です

 水浸しの雪国という最悪の場所で、シルフィとももっちを相手にしないといけなくなった。なんとか助っ人が来るまで耐えよう。


「いいか、手加減をしろ。俺が死ぬ」


「あじゅにゃんも頑張ろうって。強くなるためだよ」


「なる過程で死んだら意味ないだろうが」


 こんなん無理に決まっている。前に戦ったももっちは手加減していた。試合形式だったから確実に殺せる技は使ってこなかった。何もない闘技場だったのもでかい。つまりこの状況で忍者に勝つのは無理。


「前にちゃんと戦えてたじゃん」


「殺すつもりはなかっただろ?」


「まあねい。でも倒すつもりだったよん。はいお喋りおしまい!」


「時間稼がせろアホ! リベリオントリガー!」


 無駄なトークで時間稼ぐぜ大作戦失敗。ももっちの分身を俺の分身でなんとか止める。だが精度が違うのか、どうにも押され気味だ。どうやって俺の倍くらいの分身を制御しているのだろうか。


「そろそろわたしもやるよー」


「やめろ同時は死ぬ! 煙幕!」


「発動を許可しません」


 ばら撒いた煙幕玉は煙が出るという時間が来ない。その力ずるいだろ。


「プラズマイレイザー!」


 分身を大技で確実に減らす。一体吹っ飛ばせたので、消せることは確認した。

 残りの分身めがけてクナイを投げる。


「ライトニングジェット!」


「土遁、土の壁!」


 土の壁を出すというシンプルな術だが、複数でやられると壁で視界が狭まる。


「そしてわたし!」


「あっぶねえ!?」


 シルフィが突然飛び出してくる。反射的にカトラスでの攻防に持っていくが、壁とか関係なく出てくるので油断できない。一撃が重くて何度も受けていられないぞ。


「さあ真面目でかっこいいアジュになるのだ!」


「いねえんだよそんな俺は! サンダースマシャー!」


「甘い甘い! わたしが捕まえちゃうよ!」


 俺の魔法を剣で撃ち落としながら迫ってくる。足止めすらできんな。


「雷光一閃!」


「それはたくさん見てきたよ!」


 シルフィ相手じゃ普通に弾き返されるだけか。なら物量で押しつつ逃げる。


「ライジングナックル……十五連!!」


 雷の拳を巨大化して連続で撃ち出す。だが一歩も動かずすべてを切り払われた。


「わたしがどれだけアジュを見てきたかわかったかー!」


「よーし、お前らの実力はわかった。そろそろ俺を見逃してもいいぞ」


「命乞いが斬新だよ……」


「追い込みが足りないのかな。ももっち、もっとぐいぐいいってみよう!」


 国王を捕まえると負けだからね。俺を狙うのもしょうがないのさ。どうにも逃げ道を封じられている。勇者科の非戦闘員には多分勝てるけど、戦闘系の連中は無理。絶対に勝てないだろう。さてどう逃げるかねえ。


「幻惑忍法、紫幻鎖鎌!!」


 紫にうっすら光る鎖鎌が飛んでくる。土の壁の裏側に退避してやり過ごそうとすると、壁を何周も高速回転している鎖が目に入る。


「うおっと!?」


 とっさに雷化して鎖をすり抜ける。背後で絡みつかれた土の壁が粉々に粉砕されていた。威力が高すぎるぞ。


「ほーら本気出さないと怪我するよーん!」


 とりあえず土の壁を利用して隠れるしかない。ももっちは素早いから、ここから迎撃するよりは隠れ……るの中止。なんとなく離れると、壁の向こうから鎖鎌が飛んでくる。


「ちっ、やっぱ罠か!」


 長巻で打ち払って、ももっち方面へダッシュ。


「うっそ避けられた!?」


「なんとなく誘導されている気がした。壁はお前が出したものだし、幻惑の術なんだろ? なら幻の壁を紛れ込ませることもできるはずだ」


「ほーらアジュは勘がいいよって打ち合わせしたのにー」


「よすぎるでしょ!? 初見で避けるもんじゃないよ!!」


 そして鎖鎌を一個しか出せないとも言っていない。剣が届く距離まで行くと、俺達を囲むように複数の鎖鎌が飛び出してきた。


「これで締め上げてあげるよ!」


「お前もな。ライジングチェーン!」


 さっき驚いた瞬間、一瞬だが隙ができたな。ももっちを中心に雷の鎖を潜航させておいた。これで俺とももっちの電流鎖デスマッチゾーンができたわけだ。


「さあどうする? そんな趣味はないが、一緒に締め上げられてみるか?」


「うぐぐぐぐ……けどあじゅにゃんは接近戦で私に勝てるのかにゃん?」


「そこに気づきおったか」


「ももっち喋ってちゃだめ!」


 シルフィが何かに気づく前に速攻を仕掛ける。カトラスでももっちの刀を弾いてさらに迫る。パワーもスピードもテクニックも俺より上だ。仕留めるなら単純なスペック勝負には持ち込まない。


「うりゃりゃりゃりゃ!!」


「ちっ、やはり俺じゃきついな」


 なんとか反射神経を総動員して刀を裂け、可能な限り懐に入り続ける。


「ここらでいくぜ!」


 長巻を振り上げる動作を見せて、全身から細い棘を無数に伸ばす。


「ライジングニードル!」


「うわわわわ!? 退避!!」


 上空の鎖の密度を甘くしておいた。当然そっちへ飛ぶだろう。その跳躍力はたいしたもんだが。


「雷瞬行!」


 上に伸ばした棘に札を持たせておいた。これは札か自分を磁石のように引き寄せる術だ。蓄積した魔力を正確に移動のためだけに使えるため、雷速の倍くらいは出せるのだ。つまり。


「うおりゃあ!!」


 ももっちより先に上へと行ける。上から全身の筋肉を使って長巻を叩きつけた。


「うきゃあああぁぁ!?」


 なんとか地面まで落とすことに成功。だが完全にヒットしたと思ったが、寸前で刀を前に出し、少し身を捻ってクリティカルは免れているようだ。


「今ので倒せないのかよ、スペックおばけめ……」


「おおー、アジュがかっこよくなってきた!」


「いたたた……ちょっときついかも」


 地面に軽く埋まっているももっちは、起き上がっては来ないが印を結んでいる。何か企んでいるのかも。ならば次の手といこう。


「召雷球符!」


 空中に拳より一回り大きい雷の玉を作り出す。これを数個浮かべて撒いていく。こいつは微弱な電磁波を出して、ソナーの役割も果たす機雷だ。中に札を入れることで精度を上げたからこそ可能である。


「まーた変なことしだしたねえ」


「小細工こそ俺よ」


「火遁、バーニング手裏剣乱舞!」


 下から火炎手裏剣の乱舞が来る。動けないのだろうか。なら押し潰す方向だ。


「ライトニングフラッシュ!!」


「やば、しーちゃん止めて!」


「はーい!」


 ライトニングフラッシュは時間を止められてもいい。止めているうちに下降してプレッシャーを掛けに行く。ついでに雷の符をシルフィとももっちに飛ばそう。


「雷爆符! 急急如律令!!」


「それも止めるよ!」


 残念、爆裂するのは足元の札だよ。チェーンの時に張り巡らせておいた。雷光の爆発で地味なダメージを入れてやる。


「んにゃーなんでよー! しーちゃんがいるのに!」


 ももっちは多少の電撃では大ダメージは受けてくれない。全身に魔力で結界を張っていやがるか。頑丈なやつだぜ。


「ごめんももっち!!」


「当然だ。シルフィはこの術を知らん」


「そうなの!?」


「その紙? みたいなのは見たことないよ」


 陰陽術については知らないらしい。おかげでいつどこに時間操作をするかが特定できない。まあ全域にかけられたらきついが、俺自身は腕輪の力で止まった時間に介入できるから平気だ。


「急転! 雷撃符!」


 ももっちの背後の雷球が、エネルギーの塊となって俺に飛んでくる。


「うおわっと!? 危ないなあもう!!」


「やっぱかわせるのな」


 当然だが俺はあたってもダメージはない。むしろ魔力の補充と札への再装填ができる。だって俺の魔力のみで構成されているんだから当然だろ。


「んじゃ乱れ撃ちだぜ!」


 数え切れないほどの機雷をばら撒き、そこに雷撃符を雑に放つ。機雷が中継地点となり、縦横無尽に飛び回る雷のビームが完成した。


「あうっ!? うばばば!? これめっちゃ痛い!? しーちゃん止めて!」


「ダメ! 止めると逃げ場がなくなる!」


「大正解だ! 行け! 雷爆符!」


 中継地点は機雷で増やせる。そして背後に集中させれば、さっきより威力の高い電流リングが完成する。


「オラアァ!!」


 チャンスは逃さない。一瞬の攻防の中で、俺のキックが直撃する。


「ぬぐっ!? まだまだ! 火遁、フレアドラゴン!!」


 でっかい炎の竜がこちらに牙を剥く。雷撃符はそれぞれが高威力のため、四方からドラゴンを貫いてくれる。これで威力は軽減されたはず。多少は我慢だ。


「お命頂戴!!」


「こっちのセリフだ!」


 全力の刃がぶつかって雷と炎が吹き荒れる。これだけでもお互いに消耗していく。


「ちゃありゃああぁぁ!!」


「えええええい!!」


 避けようにも動ける範囲が狭い。全力を叩き込むしかない。一太刀に集中し、全魔力を解き放った。


「うっぐ……」


「いったー……」


 今回はお互いの武器が壊れなかった。お互いいい武器に恵まれたな。回復魔法を自分にかけつつ、次の策を練る。


「もうきつい! しーちゃん交代!」


「はーい!」


 今度はシルフィが相手をするらしい。俺のスタミナがないのを知って、交代で来ているのだろうか。


「同時には攻めないのか」


「あんまりフェアじゃないというか、追い詰めすぎても鎧使いそうだし」


 なるほど。めんどくさくなって鎧使えば勝っちゃうからな。


「いくよー!」


 そしてシルフィの姿が消える。反射的にバックステップを取ると、シルフィの剣が少しだけ俺の髪をかすめた。やはり雷化しても切られたか。


「うーわ全然見えねえ」


 当たり前だが超人より上の存在だ。まず見えない。こちらの攻撃は軽くても重くても見切られる。雷爆符も全弾見切るか落とされた。


「接近戦をしてみよう!」


「死ぬっつうの」


 攻撃がかすりもしないのは理解している。やってみるぜ新技。指先に虚無を集中。白い雷光の更に奥。紫の核を意識する。


「大技だね。けどそれは当たらないよ!」


「当てる技じゃないんだよ」


 さらに指先から手のひらに移動させ、一回り大きく圧縮する。ここからは心理的な抵抗がある。これマジでやんの? 俺の体どうなるんだろうな。


「はあ……まだ試したくはなかったし、間に合ってくれてよかったよ」


「激奏風流牙!!」


 風と水が敵味方を分断してくれた。


「お待たせしました!」


「カムイ君!? なんで!?」


「勇者科に編入しましたカムイです! よろしくお願いします!!」


 あっちにカムイの情報はなしと。虚無の集中は中断して消す。今じゃなくてもいいだろう。決戦はまだ先だ。


「あっちゃー……これはちょっと厳しいかも」


「ふっふっふ、さあどうする? 今なら逃げてもいいぞ。というか逃げてくれ。初日にガチ決戦はしんどい」


「じゃあわたしの好きなとこ五個言って!」


「アホか!」


「ついでに私のも言ってみ?」


「ねえよ」


「扱いの違い!!」


「姫様、ここは撤退いたしましょう」


 おっとリクさんだ。これはやばい。俺の鎧も知っているし、姿を表してはいるが質量を感じない。魔法で作った映像だなこれ。


「イーサン! さっさと戻れ!」


「わかっとるわい! それじゃあな三日月! 次は決着つけるぞ! 今回は引き分けだからな引き分け!」


 なんか少しぼろぼろのイーサンさんも来た。追うように三日月さんも来た。こっちも少し汚れている。


「そういうことにしておいてやる。姫様を安全にお連れしろ」


「お前敵だろうが!」


「敵だろうとオレはフルムーンの騎士だ。では姫様、風邪などひかれませんように」


「ありがと、じゃあねアジュ。他の女の子といちゃいちゃしないように!!」


 そして光速で消えていった。

 奥の手は決戦までお預けだろう。ここで見せなくてよかった。間違いなく対策取られるだろうからな。


「よし、全軍撤退!」


 急いで撤退の指示を出す。予想以上にきついことを実感したので、ここから作戦会議して、風呂入って、いや風呂が先か。


「体を冷やすなよ! 急げ!」


 とりあえず風呂だな。そして会議だ。俺達もさっさと城へと戻るのであった。

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