男ばかりの戦場と罠

 王都へと帰還した俺達は、夜だというのに軍の再編作業をしていた。


「疲れた……次一週間後とかにならんかな?」


「試験期間が伸びるのよ?」


「ちくしょう……ちくしょう……」


「だらしないぞアジュ」


 会議室のソファーに寝転がるくらい許せ。死ぬほど疲れている。


「お前らスタミナ無限か」


「疲れてるけど、やらなきゃしょうがないでしょ」


「部隊長は大変だな」


 俺は部隊など持っていない。国王なんで護衛の三日月さんとイズミだけ。なので再編も訓練もない。把握はするし、最終的な決定もするけれど、やはりみんなに任せている部分が大きいのだ。


「まさか初手であいつらが来るとはなあ……」


「これ勝てるのかしら? フルムーン騎士団が二人いるんでしょう?」


「オレもリクもイーサンも本気は出せません。周囲を巻き込みます。我々が決着をつけるのも望ましくないでしょう」


「本気でやったら地形変わるくらいじゃ済まないだろうし、そこはしょうがないですね。生徒が主役じゃないと試験に響きそうですし」


「それがわからぬリクではありますまい。イーサンはオレが相手をすればよし。リクは前線には出ないでしょう。イガの超人が気になりますが、こちらの超人で対処すれば勝てるはずです」


 超人が余程空気を読まない敵じゃなきゃ問題はない。ある程度は警戒するが、それよりもシルフィだ。間違いなくこっちのメンバーじゃ勝てない。

 なるほど、鎧の俺を相手にする敵ってこういう気持ちなんだな。作戦も人員もクソもない。ただ一人が強すぎてどうしようもない。


「つまり重要なのは生徒。あちらの敵を確認すべき」


「なるほど。とりあえず勇者科のやつらは改めて調べておくよ」


「次の作戦はどうします?」


 会議の結果、今度はこちらが攻めるべきと決まる。

 理由はいくつかあるが、本陣まで攻められるのなら待っていても同じ。防戦一方で勝てるほど甘くもないだろう。軍の疲労が抜けたら出発だ。


「この戦い、スピード勝負かもしれませんね」


「かもなあ……みんな頑張ってくれ。俺が危険だぞ。倒されたら負けだしな。カムイ、リュウ、タイガ、今回はお前らと一緒に行く。守ってくれ」


「お前さん結構強いだろうが」


「頑張ります。危なくなったら僕の影に隠れてください」


「ふっふっふ、俺はカムイの影武者となる」


「国王だろあんた……」


 今回は前線に出て敵の王都まで行けたらいいな大作戦だ。

 俺、三日月さん、カムイ、リュウ、タイガ、アオイの前線部隊である。


「なんか男ばっかりって新鮮だな」


「勇者科は女ばっかなんだったか。お前さんも苦労してるねえ」


「僕もそこに入るわけですよね」


「だな、まあカムイなら問題あるまい」


 女にモテそうだし、社交性があるから平気だろう。王子ってすごい。


「わかっていると思うが、俺と三日月さんとカムイは一般兵に偽装している」


「オレらと一緒に戦って、どさくさで敵の王都に行くんだろ。覚えてるって」


「ならいい。お前らも来てほしいとこだが」


「無理だろうな。その分暴れてやる」


「期待している。派手にいけ。実際に倒した数じゃない。派手さを極めろ」


 これが作戦だ。雑にも程があるが、王都に潜入できればまあよし。普通に前線で勝っていけるならそれもよし。

 戦場を挟んでお互いの王都があるという特殊な環境だからこそ成立する作戦だ。


「進軍開始!!」


 敵も戦場に出てきている。今回は魔法なし。相手もそれに気づいたのか接近戦を仕掛けてくる。前の戦で効果が薄かったからな。


「っしゃあ! 竜虎激烈!」


「大乱舞!!」


 リュウとタイガの闘気が混ざり合い、巨大な竜虎となって突っ込んでいく。かなりの高威力らしく、幻影兵をなぎ倒していく。それをきっかけに前線を切り裂いて全速前進。王都の壁が見えてきた。


「オラオラオラオラオラオラ!!」


「オレらに勝てるやつはいねえのかあ!!」


 幻影兵に混ざっている生徒も軽く倒している。こいつらいい拾い物だったなマジで。すげえ役に立つよ。終わったらちゃんとお給料増やしてあげよう。


「よっ、はっせいっ!」


 幻影兵は俺でも倒せる。よく動きを見れば単調なのだ。


「リュウ、こっち援護頼む!」


「ほいきた!!」


 俺は一般兵に偽装しているので、雷魔法が使えない。目立ちすぎるのだ。

 つまり戦力大幅減。全力で味方に頼るぜ。


「大将首貰ったぜ!」


 敵の男がタイガに斬りかかる。そうか、一瞬反応しちまったが、リュウもタイガも部隊を任されているもんな。倒せば金星か。


「ぬるいんだよ! その程度でオレが倒せんのか! あぁ!!」


 口調は荒っぽいが、しっかり武術の動きである。正確に的確に迅速に相手をダウンさせていく手並みは見事だ。


「さあさあ! オレを倒せるやつはいるかあー!!」


「うおおおー!! オレと勝負せいやあー!!」


 敵の槍使いが名乗り出た。あいつは上級生なのだろう。兵が二人を囲む。一騎打ちというやつだ。ちょっと見たい。


「オレの槍がかわせるか! 百烈連撃突!!」


 素早い槍の連続突きが迫るが、それを最小限の動きで避けつつ懐へと入る。その動きは俊敏で、虎が獲物を狩るようだった。


「速いだけで雑なんだよ! 猛虎波動脚!!」


 強烈な音と振動が一点に集約され、敵将の槍を破壊した。ついでに威力を殺せなかった敵将は本陣へぶっ飛んでいった。


「おのれえええぇぇ!!」


「オラアァ! 敵将討ち取ったりい!! 次はどいつだあ!!」


 あのぶんだと完全に任せていいな。向かってくる腕自慢を倒すことで注目を浴びてくれている。ナイスだ。


「見ていたら進みませんよ」


「ちくしょう」


 一騎打ちかっこいいから見たいんだけど作戦が優先だ。渋々走り出す。


「ここから先には行かせん!!」


 重装甲部隊だ。こういう明らかな盾役は突破がめんどくさいんだよなあ。


「オレの必殺広範囲!!」


 リュウの広範囲爆撃により敵兵がぐらつく。だが装備が硬いのか、倒すまでには至らない。


「それでも必殺すごい威力!!」


 さらに広範囲爆撃の連発が襲う。もうごり押しだな。そう思っていたら、リュウがこちらを見て、別の場所を見て爆撃に戻る。


「ん? 今のって」


 視線の先はよく見れば部隊が崩れ、そっと通れそうなスペースが空いていた。


「狙ってやったのか? 嘘だろあいつこういう戦争にも対応できるのかよ」


「オレの勘ですが、ああいう男は野生の勘で戦場の空気を読みます。本能と言い換えてもいいでしょう」


「まーじーでー? あいつすげえ優秀じゃん」


 言動がアホそのものなのにしゅごい。いや理由が野生の勘らしいので、賢いかは不明だが、少なくとも助かる。


「オレのかっこいい爆炎パンチ!!」


 重歩兵をぶっ飛ばすパワーは純粋にすごいと思う。


「サカガミ殿、敵の魔法部隊が」


「おいおいこの乱戦で?」


 比較的味方の少ない方へ飛ばすつもりだろうか。全体を見渡せるわけではないので、そこは各部隊の判断になってしまう。


「弓兵上段構え! 斉射!!」


 アオイの弓兵部隊により、魔法兵の頭上に弓の雨が降る。


「撃ち落とせえええええ!!」


 魔法は弓矢を撃ち落とすために使われる。


「すげえかっこいいキック!」


「激烈熱波拳!!」


 つまり二人の攻撃を止められない。あの三人の連携は乱れないなー。俺とギルメンもそういうのできていたらいいな。


「アジュさん、そろそろ」


「ここらでいいか。展開!」


 ここで部隊を左右に分ける。これで完全な乱戦となった。一丸となって突っ込まないのは、兵の損失が多すぎるから。単純に退路がなくなって囲まれたら詰むからね。今回の目的を忘れないようにしよう。


「ここで左右に散ったこと、リクならばすぐに気づくでしょう」


「完全にスピード勝負だな」


 やりたかないが全力疾走だ。当然だが俺が一番遅いので、強化魔法をかけて並走する。しんどい。敵を切りながらなので、それはもうしんどい。


「む、狙撃が来ます」


 三日月さんの声と同時に、兜が目立つ幻影兵が頭を撃たれて消えた。

 魔力による貫通弾のようだ。次々に兜を細工した兵士が消える。


「兜を目立たせれば隊長だと思ってくれると予想したが、当たったな」


 幻影兵には、目立つ兜のやつが消えたら数秒硬直する指示を出してある。

 これで隊長をやられて混乱するように見せかけていた。


「この正確な狙撃、アリステルだろうな」


「お見事ですね」


「三日月さん、敵を浮かせて屋根にしましょう」


「なるほど承知」


 光速を超えた剣技により、ぶわっと敵兵が中を舞う。風圧とか色々で実行しているのだろうが、やはり化け物だなあこの人。


「うおっと!?」


 狙撃がこちらに飛んできた。俺達のすぐ近くだ。


「マジか。何で探知しているんだ?」


 明らかに狙って撃ってきている。幻影兵の上から重ねてこちらを撃ってきているのだが、その手段がわからん。


「やはりスピード勝負ですな」


「急ぐぞ!」


 敵兵を倒しつつ迅速に先へ。リュウとタイガのいる方で爆炎が上がる。


「合図だ、こっちもよろしく」


「はい! 炎殺咆哮!」


 カムイの作り出す火炎の渦がこちらの合図だ。炎と煙に紛れて駆け抜ける。


「さーてばれなきゃいいんだが」


「狙撃は近くの目立つ敵から撃っていますね」


「よーしプランその2発動だ」


 みんなで鎧を外し、敵軍のものに変わる。これはミラージュキーさえあれば簡単だ。念のため前の戦いで本物を奪っておいたのさ。


「あとはあいつらの暴れっぷりに期待だな」


「虎炎脚!!」


「オレの究極乱舞!!」


 とにかく必殺技を使って暴れているのが見えた。めっちゃ目立つなあ。


「よし、敵が撤退していくぞ。混ざるんだ」


 うまいこと撤退の兵士に混ざれた。このまま一緒に帰るふりで、王都に侵入できそうだ。よしよし、みんな助かったぜ。門が開き、そこにシルフィ軍が入っていく。


「うまくいきましたね」


「ああ、だが警戒は続けるぞ」


 中は長いトンネルみたいな場所だった。何もない。ただ頑丈そうな広いトンネルと明かりがあるのみ。


「は~いみんなおつかれ~! 最&高っしょ! 一息入れちゃえ!」


「みんなにおすそ分けだよー。ボクの特性さ!」


 女二人が飲み物を配っている。兵士達が嬉しそうに受け取っているが、あいつら勇者科だな。こっちにも女が歩いてくる。


「いらっしゃ~い。疲れたっしょ? ゆっくりしてけば?」


「ありがとうございます」


「ストップだ」


 女に向かって歩き出すカムイを止める。


「どうしたんです?」


「帰ってきた味方の兵に、いらっしゃいってことはないだろ」


「ちょっと言い間違えただけじゃん。きにしーだね」


「そうか、俺達は自前の飲み物がある。それはあなたが飲んでいいぞ」


「……あーしの失敗だわ。ぱっとしない男だし、罠にかかっててマジウケる~とか思ったのにさあ。反省するわ。これはあーしのミス。あんたの評価テンアゲしとくっしょ」


 周囲の兵士が魔力を高める。回復だけじゃない。何かで強化されたな。


「リクの策か」


「ぜ~んぜん。これはあーしらで考えたよ。あの人あんまヒントくれないっていうか、途中経過全部ブッチしてやることだけ言うから意味わかんない。最終結果は言う通りになるんだけど、参考になんなくてマジ無理っしょ」


「指示通り動けばいいから重宝しているが」


「第一騎士団長様は違うね。けど甘いよ。ボクの強化ポーションより甘みが強いね」


 兵士が俺達を取り囲んで武器を構える。そうか強化ポーションの効果か。


「とりま全力攻撃っしょ。超人さーんヘールプ!!」


 このうえ超人までいるのか。さてどう切り抜けるかね。

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