アジュ・サカガミ包囲網
シルフィ陣営への潜入捜査は大失敗だ。出入り口を塞がれたトンネルの中で、敵兵に囲まれている。俺と三日月さんとカムイしかいないので、正直三日月さんの奮闘に期待するっきゃない。
「そっちのイケメンがカムイくん? やっばマジイケメンじゃん。彼女持ちとかマ? アタックできないじゃんウケる」
金髪のロングヘアーと緑色の瞳の、ギャルっぽい口調の女だ。髪飾りが複数で煌めいている。
「ええっと、すみません婚約者がいまして」
この手のタイプとの交流経験が少ないのか、カムイが若干困惑気味だ。
「カロンのことは気にしなくていいよ。ボクはルーミイ。薬のことなら任せてね!」
こっちは鮮やかな水色の髪と緑色の目で、長い髪を左右で縛って前に出す髪型のやつだ。髪型の名前なんぞ知らん。ファッションとか興味ない。
「あーしはカロン! 紹介終わったしもうこれダチっしょ! こっち陣営来ちゃいなよ! イケメン大歓迎だよ!」
あのギャルの名前がカロンだな。話によると軍師タイプらしいが、見た目からしてわかりやすくギャルだとは思わなかったぞ
「すみません、陣営を変えるつもりはありませんよ」
「考えが甘いぜ! カムイなら全員倒して俺を助けてくれる!」
「えぇ!? アジュさんも戦ってくださいよ!!」
「アホかあんなん無理だろ!」
「あはははは! あんたら意味わかんないね! ウケる!」
「サカガミ君のキャラが読めないねえ」
カムイと三日月さんが奮戦激闘してくれれば勝てる。逆に言うとそうじゃないと詰むよね。
「カムイ、どのくらいやれそうだ?」
「正直厳しいですね。三日月さんが頼りです」
「オレか。だがどうやら超人はもう来ているようだ。オレにしかわからないプレッシャーを掛けてきている」
やばいぞ。超人の対処は超人にしかできない。それは実感した。援軍の期待できないトンネル内部だ。取れる作戦も限られる。ここで頭を働かせよう。
「ねえねえ、なんであーしらが攻撃せずにだべってると思う?」
「えっ、ええっと……」
「強化ポーションとやらの効き目が出るまでの時間稼ぎか?」
「はー……しーちゃんとももっちマジリスペクトだわ。あんた評価テンアゲじゃ収まんないっしょ」
「じゃあこっちからも質問だ。そこまで予想した俺達がなんでだべっていると思う?」
「なんか打開策があるから? 言っとくけど逃げらんないよ? 出口完全に物理的に埋めて結界張ってっから」
敵兵の準備ができたようだ。魔力が上がっている。身体強化系の薬とか普通に作れるあたり、あいつも勇者科だな。
「ならばオレが活路を開きましょう。剣神三日月、この名に怖気づかぬ者から来い!」
覇気とでも言うのだろうか、尋常じゃないプレッシャーを掛けている。そりゃ生徒はびびるよ。動けなくなっても仕方がない。
「ではお相手願おうか」
そこで突然変な格好の忍者が出てきて斬りかかる。当然三日月さんは剣で受けるわけだが、受けただけで倒していないところ見るに超人なのか。
「謎の覆面忍者参上。ひょっひょっひょ」
「手練か」
「学生は学生と、超人は超人と、というところさね」
「よかろう。オレもそれなりに相手をしよう」
意外にも切り合いの形になっている。つまりあいつかなり強いぞ。
「さあ超人は封じたよ。みんな! あの二人を倒しちゃって!!」
「うおおおおぉぉぉ!!」
兵士連中がこちらに来る。できる限り近づけずに倒そう。
「撃滅暴風爪!!」
「ライトニングフラッシュ!!」
風邪と雷の広範囲魔法で何人か潰したい。だがトンネルは縦も横も幅が広いので、まとめて薙ぎ払うことができない。何人かはふっ飛ばしても、それだけでは進軍は止まらないのだ。
「ライジングナックル!!」
「激奏風流脚!」
できる限り大技で攻めるが、それだけで勝てるものではないだろう。
「雷分身! 急急如律令!!」
分身を出して雑に突撃させる。同時に近くの敵に長巻を振るう。
「雷光一閃!!」
だが盾役三人がかりで止められる。盾が頑丈なのか砕けない。
「ちっ、なにか魔法対策をしてやがるな!!」
「ふははは-! そんなんじゃ無理くね? 王様対策はきっちりやってんだー」
「サンダードライブ!」
やりかたを変えよう。囲んでくる盾部隊は一旦保留。電撃を地面に走らせて、その後ろにいる魔法部隊から潰す。
「それも知ってっし! 盾発動!」
魔法の盾を地面に突き刺し、魔法部隊への結界が張られる。しょうがない。なら軍師から潰すか。クナイを二本取り出し、勇者科二人に向けて放つ。
「ライトニングジェット!」
「ふっふーん。あーしの超パワー!」
長い得物をぶん回し、俺の魔法を叩き落としやがった。あの槍っぽいけど斧っぽい部分もある薙刀みたいな……ハルバードでいいんだっけ? あれ使えるのね。
「ウェーイ! みんな見ってるー? 超ヤバくない? あーし覚醒!」
マジかよ接近戦できるタイプかよ。お前もうギャルじゃねえよ。周囲の兵士が盛り上がっている。士気高揚に一役買ってしまっているようだ。
「どうする? 投降しちゃう? 友情感じちゃってもいいんだよ?」
「断る」
こうしている間にも、三日月さんは見えない。見えない速度で切り合っている。援軍に期待してはいけない。カムイはなんとか武術で敵をさばきつつ捕まらないようにしているが、俺がやばい。上に逃げるか。
「雷瞬行!!」
「トゲ発動!!」
天井に鉄の棘が生えてきた。空を禁止されては、俺は機動力が足りない。迫ってくる敵兵の剣を避け、なんとか逃げ回るが、魔法を撃ちながらでは速度も鈍い。徐々に俺が自由に動けるスペースが消えていく。これはやばいぞ。接近戦苦手なのがもろに出ている。
「インフィニティヴォイド垂れ流し!!」
「うおぉ!? なんだこれ!?」
「止まれ! あれに触るな!」
ほぼ液状みたいな虚無を垂れ流す。まるで地面が溶けていくような場面を見て、流石の重装歩兵も足が止まる。
「うっわなにそれ聞いてないし。引き出し多すぎ! もうや~だ~!」
「嫌なのはこっちだ」
「サカガミ殿、どうやら敵はかなりの手練のようだ」
三日月さんが俺の隣に戻ってきた。見たところ怪我はないが、表情がいつもより少しだけ険しい。
「やりますなあ。フルムーン最大戦力は正直想像以上。もう少しこちら有利に運べるかと思うたが」
「そうはいかぬ。サカガミ殿、どうやら敵はここに集中している模様。まっすぐ切り開く以外に……道はなし、ですな」
「了解。なんとか敵をくぐりましょう。戦って活路を作ります」
「承知。道はなくとも希望はあるようで。では再び失礼」
そしてまた三日月さんと忍者が消える。もう見ようとすら思わない。まずこっちに集中だ。カムイも頑張って耐えてくれている。
「えいっ! たあぁ!! アジュさん、この人達は頑丈すぎて倒すのに時間がかかります! 見たこともない武術で対処が遅れる! そっちも凌いでください!!」
「カムイくんにはペースを握らせず、知らない武術の戦士を。アジュくんには速度を殺して攻撃が通らないほど硬い敵を。なるほどねー。シルフィちゃんやっぱりセンスあるよ。ボクじゃ判断できないもの」
センスの塊を国王にするとこうなるのな。じりじりと距離を詰めてくるが、全員で一斉に来ない。これは何が狙いだ。
「いーじゃんいーじゃん。そのまま追い詰めてね。スタミナないらしいから、爆発させずに追い込みゃ勝ちっしょ!!」
俺のスタミナを計算に入れたか。シルフィどこまで喋ったんだ。おそらく爆発ってのは鎧のこと。鎧について話すはずがないので、やけくそになると逆転の手段があるとでも伝えたのだろう。
「厄介な……雷爆符!!」
「くっ、囲め! 槍で突け!!」
遠巻きに攻撃してくる。別に伝説の武器でもないらしく、人体を雷化して避けていればいいのだが、これに一点集中で魔力を込められると、透過できる自信がない。
「アジュくんさあ、どっかで自分はぱっとしないから対策とかガチってこないと思ってるっしょ? あまあまなんだっつーの。さあどーんといくよ!」
めんどい。シルフィ陣営との戦闘全部めんどい。槍部隊にちまちま攻撃魔法をあてつつ、たまに来る連中にカトラスで斬撃を加え、雷化した腕や足を増やして打撃で追い払う。この作業がずっと続く。
「さっきから攻撃に無駄なの混ざってるよね? 狙って撃ってないっつーかさ、なんか調べてる?」
しくじったな。こいつ頭の回転が速い。しかも対策バッチリ考えるタイプだ。これにどれだけリクさんがかかわっているか不明だが、カロンは厄介な敵だぞ。
「ももっちが言ってたよ。あじゅにゃんは自分の力じゃなくて、そこにあるもんで使えそうな道具を探すって。その道具は物でも人でも自然でもおかまいなし」
「よく調べているじゃないか。俺にそこまでの価値はないぞ」
「まだ耐えてるくせに。致命傷はないよね。大怪我して動けなくなるようなこともない。安全安心な戦い方だ。ボクは医学も修めているから、君の動きと傷でわかるんだ」
「けどその動きは勝つためじゃないっしょ。狙いはわかんないけど、持久戦するならカムイくん狙うよ」
ぶっちゃけカムイならどうにかできそう。できないかなーと見たら、軽く首を横に振られた。俺の思考が少し読まれているぞ。
「アジュさん、僕に全部やらせようとしてます? 無理ですからね?」
「流石に戦力を欠かすような作戦は取らんさ」
「さあ爆発力ってやつを見してみ? どんなんか気になってんだよねー」
「生憎だがそいつは見せられない。見せなくてもいい方法は思いついていた」
ここらが潮時ってやつだ。敵の情報も得たし、あとは城下町に逃げるだけ。
「ほほう、それも見たい! なんかもっとどばーっと抵抗しちゃえよう!」
「んじゃ反則技いってみようか。三日月さん、カムイ、こっち来い」
『ガード』
三人で結界の中に入る。この結界は簡単には破れない。
「え~つまんな~い! 隠れるだけ? ここ敵陣ど真ん中よ? そっから出らんないっしょ」
「こんなのはいかが?」
『エリアル』
空中浮遊の魔法陣を敵兵全体の足元に出す。飛ぶのは俺達じゃない。敵のみなさんだ。魔法陣に寄って持ち上げられどんどん上へと登っていく敵さん。
「うあっちょなにこれ!? 全員クールに対処! 魔法陣から降りればいいんだよ!」
「まあ気づくよな。だが実は結界って俺達に張るもんじゃないのよ」
敵は全員浮いている。俺達の頭よりも2メートルくらい上だ。トンネルが広いからね。そこに目をつけたのさ。
「これで隔絶できたな」
俺達の頭上に透明な結界の天井を作る。それをトンネルの向こうまでずーっと伸ばせば安心安全非常通路の完成さ。
「こうやって下から魚を見たりできる水族館ってありますよね」
「ダイナノイエには大きな水族館がありますよ」
「ほう、それはよい。今度休暇でも貰って団員と行くかな」
もう和やかにお話ムードである。こうしてがんばる敵兵さん達を見ながら歩くのは勝利の快感が合わさって素晴らしいね。
「うがー! この結界なんなの! マジ超硬いんだけど!!」
「下ばかり見ていていいのか? 俺が結界の高さをいじれば」
魔法陣と結界の二重効果で、敵兵がどんどん天井の棘に近づいている。
「うっわ超ずるいじゃん! ムリムリ! きっついって!」
全員で必死にふんばって、でかい棘と魔法陣を支えている。棘がでかいから両手で持つくらいはできるのだ。がんばれ。
「これどこで思いついた! あーしにミスとかなかったはず!!」
「トンネルの時点で考えていた。戦闘で狙ったのはトンネルの調査だよ。どのくらい頑丈で、どのくらい奥行きがあるのか。仕掛けの有無。雷光を流して隠し通路のチェックもな。まあお手柄は三日月さんだよ。よくなんの合図もなしに気づいて知らせてくれましたね」
「合図?」
「言っただろ、道はなしって。あれは隠し通路とかないですよーってこと。それだけが気になって実行できなかった。他の通路があったらこの作戦は半分失敗だからな」
「これでも第一騎士団長。死線や修羅場など、星の数よりくぐっております」
「すごい……すごいですよお二人とも!!」
カムイが感心している。お前が敵を引き付けて戦ってくれていたおかげで、俺とカムイで敵が分散されたのだ。かなり役に立っているぞ。
「まあそういうわけだ。あっちにたどり着いたら解除してやる。がんばれよ」
下から魔法陣を壊そうとしているカロンとルーミイを見る。うむ、悔しそうだなカロンよ。だがギリギリだったよ。かなり焦った。
「正直賭けだったよ。やるもんだな。そこは褒めてやる」
「うっさいこっち見んな! 上見るの禁止だかんね!!」
「ちなみにお前にもミスはある。俺が逃げずに戦うっぽいセリフ言ったろ。戦う覚悟決めるとか、騎士道精神っぽいセリフとか、シルフィなら言動で俺が怪しいと気づいたぜ」
あんな前向きにやる気を見せる発言はおかしいからな。そこが情報と実体験の差だよ。
「詳しく聞いてたけど、実感してなかったってことだねカロンちゃん」
「あーもう! けどこの先はあーししか開け方知らない扉とか結界とかあるし! 内側からあんたらに開けらんないっしょ!!」
「対策はある」
「ではご老人、また試合ましょう」
「うむ、見事でしたぞ。ふっほっほっほ」
三日月さんと老人忍者は打ち解けているっぽい。ここから超人だけで大逆転とか目指すタイプじゃないっぽいな。生徒主役って認識なんだろう。
そしてやたらでかくて分厚そうで硬そうな扉発見。だが問題なし。
『ソード』
切れ味の違う剣を三日月さんに貸す。これでどんな厳重な結界でも扉でも斬ってくれる。
「三日月さん、パース」
「キャッチアンド斬!!」
こうしてトンネルを脱出したのだった。
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