王都探索とアリステル

 なんとかトンネルを抜けた先には、広い無人の部屋があった。


「敵が待ち構えていると思ったが……」


「どういうことなんでしょう?」


 塔のような円形の建物の中だろうか。階段を出た外は普通の町並みだった。


「罠があると思ったんだが……」


「普通に出られちゃいましたね」


「意味がわからない場合はリクの作戦だろう。やつは相手の迷いすらも計算に入れます。まずは身を隠しましょう」


 そんなわけで王都の探索が始まったのだが、どこかフルムーンに似た街並みであった。素材というよりはコンセプト? 風景? なんだろう適切な言葉がわからんけど、とにかくフルムーンっぽい。


「姫様が国王であれば、馴染みのあるフルムーンに似るのも当然でしょう」


「きっと学園も似た街を用意したのですね。そして改良を加えて似ていく」


 平和でいい街並みだ。あいつらは優秀だから、きっと内政もいい感じになんかうまいことやったんだろ。ほぼ万能だな。


「城に乗り込むのは危険だし、どこに何があるかちゃんと把握しよう」


 主要施設さえわかれば、後日攻め込むにしても有利になる。結局のところ大将戦になるのはわかりきっているのだから、俺が理解することが大切だ。


「堅実に作られているな。王都での戦いでも想定していたのか、街の防御も硬い。こりゃ攻めてもしんどいぞ」


「守りやすく攻めにくい。基本ですな。ちゃんと教育できているようで何より」


 近くの店に入り、足りなかったものを買い足す。幻影はゲームのNPCみたいに買い物ができる。無駄な会話とかなくて快適だ。店員みんなこれでいいじゃん。


「食料も生活用品もちゃんとある。不自由はしないな」


「そういう教育もされているんですか?」


「無論だ。サクラ様がいらっしゃるとはいえ、シルフィ様も王族。必要な教育はすべて施す方針だ。まあ本人のやる気次第な部分もあるが」


「どこも王族は大変なんですね」


 庶民には理解できん話題だ。王族の教育って何やるんだろうな。礼儀作法とか音楽とかありそう。前に聞いた気もする。


「勇者科は王族コレクションでもする気かねえ。まあそういう血筋のほうがいいやつを生み出しやすいのは納得できるし……うおっと!?」


 突然飛んできた魔法の弾丸を避けた。そして三人とも周囲の警戒に当たる。少し離れた場所で壁を背にして話す。


「今どっから来た?」


「直線的ならあちらかと」


 カムイの言う方向には、普通に住宅街がある。あの中にいるとでも言うのか。


「また来ます!」


 今度はさっきとは逆から飛んできた。さっきより遅いんで見切れない速度じゃなかったが、これはやばいぞ。


「おいおいなんで反対方向から飛んでくるんだよ」


「トラップでしょうか?」


「いや、魔力が同じだ。同じやつが撃っている」


「こんな街中でか? 他人や家に当たるし、住人にどう説明して……しまったそういうことか!」


 再び違う場所から弾丸が来るが、それは三日月さんが切り落とす。


「くっそ、そういう発想できるのかよ! 敵の方が現状認識が上だ!」


「どういうことですか?」


「住人は生徒以外幻影だ。当たっても問題ない。街もコピーだから破壊していい。どの家にも不法侵入し放題だ。っていうか不法じゃないし住人も最初からいない!」


 思い切った作戦だ。普通の戦場や街中でできる攻撃ではない。


「なるほど、住人の幻影は壁にもなるしカモフラージュにもなる。アジュさんみたいな発想しますね」


「人の気配がちらほらある上に殺気がないので、普通の街並みだと思い込む。よい手だ。現状を完全に使いこなしている。成長されましたな姫様」


「シルフィかどうか知らんけど、こっちを狙っていることは確かだ。そろそろトンネルの連中も追って来るぞ」


 挟み撃ちはやばい。あいつらとまともに戦って勝てる気がしないのだ。俺を捕獲するというミッションのおかげで戦えたが、殺し合いであの物量を一斉に使われたらきつい。素の俺では死ぬ。


「軌道が読めんな。跳弾だとしてもおかしい」


「建物に入ってみます?」


「危険だが出やすいものに入ってみるか。オレが先行する」


 近くの宿屋に入ってみる。大きめの建物だし頑丈そうだ。これで射撃の精度を試してやる。


「いらっしゃいませ。三名様ですね」


「すまない、中で待ち合わせなんだ。奥に行かせてもらう」


 幻影の店員だ。人気がないので安全といえば安全だな。通り過ぎつつ打開策を練っていこう。


「今のうちに作戦会議。方向性決めるぞ」


「狙撃手を倒すか、逃げてどこかへ行くかですね」


 廊下で会議しながらも窓辺からは離れる。そこそこ高級感のある宿だな。あいつらと一緒に旅していたせいか、そういうのが少しわかるようになった。


「ですが逃げ切れますか? 広いとはいえ、土地勘がありませんからね」


「最悪王都の外壁を飛び越えればいいが、超人がいたら厳しいだろう。オレはイーサンかサンダユウ殿の相手で手一杯になる」


「なーるほど、じゃあ……ん? サンダユウ? どっかで聞いたな」


「イガのトップの名前では?」


「サカガミ殿もラグナロクで会っただろう?」


 衝撃の事実判明。あれイガのトップだ。サンダユウ・モモチか。うーわ気づかなかった。


「外見も声も違ったような……」


「幻術の使い手であり忍者。おそらく姿形は毎回違うものかと」


「親バカすぎるだろ! 絶対勝てねえだろうが!」


「どうしましょう……」


「流石に全力で潰しには来ないだろうが、オレかネフェニリタルの魔法剣士に頼むしかあるまい」


 困った。三日月さんが対処するしかないぞ。この人と切り合って無事の時点で上澄みすぎる。


「目下最大の難点は、どうやら誘い込まれたということだが」


 従業員の服を着た連中が、ゆっくりとこちらに近づいている。武器を隠し持っていることくらいは理解できた。


「やはり従業員になりすますため、メイドに着替えるべきだったか」


「絶対に嫌です」


「見つかるほうがましです」


 ホテルマン風の男達が剣を持って突っ込んでくる。だが数が多いわけじゃない。俺達で対処できる。


「時間をかけずにいくぞ。敵は無限に湧く」


「はい!」


 近くの敵に雷光一閃をぶち込み、雷分身で撹乱する。あとは退路だけ確保すればいいだろう。


「よし、これでうおおおおっと!?」


 室内なのに弾丸が飛んできた。窓が割れたわけじゃない。つまりこいつらの中にいるのか?


「ええい面倒な……予定変更。脱出プラズマイレイザー!!」


 どうせ敵地だ。天井に大穴開けて屋根に出る。三人で屋根に乗ると、銃弾が飛んでくる方向がわかった。


「行ってみるか。罠なら罠で破るのみ」


 屋根の上を飛び移りながら、銃弾を回避して撃ち込まれる方向へダッシュ。広い場所へ誘導されている気がするが、狙撃手を止めないとどうにもならない、


「忍者が追ってきます!」


 忍者従業員が追ってくる。忍者だろあれ。だって手裏剣とか投げてくるし。


「ライトニングフラッシュ! そして煙幕発動!」


『ミラージュ』


 ミラージュキーで俺達の偽物を作り、四方へと走らせる。あとはこっちに来た分だけ撃破しながら進む。雷光と煙で判別できていない今がチャンスだ。


「本当にこういうの得意ですねえ」


「忍者の素質がありますな」


「ミッション変更。シルフィの手駒を捕獲して連れ帰る」


「捕獲?」


「カロンもアリステルも危険だ。それぞれが優秀すぎる。倒しても次の戦場に出てくるだろう。なら捕獲するしかない。数を減らすなら倒すんじゃなくて連れ帰る」


「なるほど。ではがんばりましょう……ものすごく待ち構えられていますけど」


 遮蔽物のない広場では、盾を構えた重装歩兵の集団とアリステルが待っていた。


「来たねサカガミ! あたしが捕まえて、シルフィちゃんに貢物として献上してやるぜい!」


「やめろ捕虜は大切に扱え」


 アリステルの手にはライフルっぽいものがある。ああいう銃火器はこの世界じゃほぼ見ないんだが。


「こいつはサカガミに貸してもらったのからヒントを得た最新式さ! 性能アップ!!」


 一緒に魔物狩りした時か。ショットガンとかライフルとか使ったな。スナイパーライフル貸したけど、あれショットキーで作ったやつだぞ。参考になるのかよ。


「上げて! 発射!」


 重歩兵が一斉に盾を上げる。同時に魔弾が発射されるが、さっきまでとは威力も速度も段違いだ。温存してやがったな。


「そのまま!」


 嫌な予感がする。弾が飛んでいった方向とは逆に飛ぶと、俺の前を横切っていった。跳弾? にしては正確すぎる。


「カムイ、今の見えたか?」


「はい、兵士の盾に当てて軌道を変えていました」


 そうか、歩兵は壁であり、盾は跳弾のためにあるのか。こいつらのせいで俺達は動きが鈍くなる。少し不利かもな。


「ふっふっふ、よく避けた! じゃあ次は連射だ!!」


「させんよ。ライトニングジェット!」


「水撃掌!!」


「ガードして!!」


 歩兵集団がガードに入り、俺とカムイの魔法が防がれる。こいつら文字通りの盾役だ。かなり不利かもな。


「カロンの時も思ったが、統率が取れていやがる」


「当然! うりゃうりゃうりゃ!!」


 どうやらあの銃は連射できるらしい。跳弾なんて全部は予測できない。避け続けるのは無理だし、短期決戦だな。


「三日月さん!」


「どうやらオレも厳しそうだ。なあリク」


 三日月さんを魔法陣が囲み、天へと光の柱が昇る。膨大な魔力による攻撃魔法だが、多少眩しいだけで周囲に風すら吹いていない。すべての威力があの中に集約されているのだ。恐ろしいまでのコントロールである。


「ごきげんようサカガミ殿、先の戦いではお世話になりました」


 まるで神が降臨するように、背中と両腕に光る輪っかをつけてリクさんが降りてくる。神々しさすらあるぞ。


「しかし悲しいかな。大恩はあれど今回は敵同士。少々手荒に歓迎いたします」


「やれやれ、オレも楽はできんか。久しぶりに相手をしてやる」


 三日月さんは怪我していない。だがいつになく緊張感が漂っているのは、それだけリクさんが強いのだろう。


「せっかくの機会だ、有効活用するとしよう。新魔法の実験台になってくれ。お前くらいしか耐えられる人間がいないのだ」


「面白い。オレに通用すれば大抵の超人は倒せるさ」


 はるか上空でやばいバトルが始まった。誰も加勢しようとも近づこうともしない。危険だからね。


「ふっふっふ! もう逃げられないぞ! おとなしく捕まれば、シルフィちゃんのお部屋まで連れて行ってあげる!」


「その後が怖いので拒否する」


「ならば仕方がない! あたしの弾丸を喰らえ!」


 アリステルの射撃は一発一発が正確無比である。そのため跳弾まで考慮する余裕がない。初撃で撃ち落とすのが最適解だ。


「ちっ、腕が痺れる」


 カトラスで叩き落とすのだが、威力そのものが高いせいで腕に負担が積もる。こりゃ正直やばいぞ。


「だが甘いぜ! カムイなら全部やっつけてくれる!」


「そのくだりはトンネルでやりました」


 突き放すようなひとことがカムイから発せられる。ちくしょう俺の扱いに慣れてきやがったな。


「カムイ殿か、どちらかと言えばサカガミ殿と戦いたかったがまあいい」


 カムイの前に槍を持って現れたのは、勇者科のマオリだった。


「ここで仕留めさせてもらおう」


 さてどう切り抜けるかね。

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