先輩と料理と今後の予定

 フリストとアンジェラ先輩を連れて帰ってきた。妙な縁もあったもんだぜ。


「帰ったぞー」


「おかえりー、アンジェラ先輩?」


「フリストもおるのう」


「お邪魔しやす」


「やっほー、じゃまするぜい」


 事情はイロハに話してもらった。

 二人分の晩飯は先輩が材料を追加で買ったので安心である。


「イロハちゃん師匠はお菓子でしょ? 食後でいいよねん。アジュくんなんかないの?」


「俺は別に種類が豊富じゃないんですが……そもそも晩飯きますし、飲み物でも考えますか」


「ふんふむ、どんなもんかねアジュ先生や」


 この人もノリが独特だなあ。さて先輩がいれば完成するかな。


「黒糖を飲み物に入れられないかと」


「こくとーがわかんね」


「これです。結構癖がある砂糖です」


「んー……おいしいけど独特だねい。普通に入れたら味支配しちまうぜい」


「まあそうですね、その結果がこれです」


 紅茶・緑茶・烏龍茶やジャスミン茶の冷えたやつにぶっこんでみた。前に店で飲んだやつを再現したかったのだ。


「昔飲んだ店のやつを、できる限り似せて作りました」


「実験台に使おうとしてるねい?」


「俺の舌は信用できんもんで」


 実際に料理人を目指す人の舌というものをあてにする。学園の天才はマジで天才だし、数少ない知り合いなので頼ってみた。


「んー……これさ、砂糖入れる系じゃないっしょ?」


「紅茶くらいですね」


「抹茶ラテとかあるにはあるのじゃ」


「あれ苦くて渋いんだよなあ」


 あんまり好きなジャンルじゃない。緑茶の渋みとミルクの味と甘味が混ざらず全部くる。普通の緑茶やほうじ茶は好きだけどな。


「普段は砂糖入れるもんじゃないっていう先入観が邪魔するんだねい。ならこっからミルク追加だー!」


「マジかこの人」


「それさっき買っていたお茶ですね」


「そうそう、こっちの方が手間かけてるっていうか、製法が違う高いやつ!」


 俺が普段飲んでいる安いやつでは合わないんだそうだ。高いお茶で淹れ直し、冷やしてから黒糖とミルクを混ぜる。


「俺が飲んだ店も、確かにミルクは入っていた。けど実践したら味が濃かったり薄かったりでおいしくなくて」


「牛乳も安いやつだねい。ちゃんとしたお店のは値段も高いけど、材料も高いんだぜえ」


 黒糖プラス烏龍茶と紅茶が出てきた。両方ミルク入りで、とりあえず烏龍茶からいく。さっきまでとは確実に違う。味がまとまっていて、ミルクのコクと甘みが黒糖により引き立っていた。しかも烏龍茶に合う。


「おー……これだ。細部は違うかもしれないけど、昔店で飲んだやつだ!」


「おいしいね!」


「材料でこうも変わるものなのね」


 みんなにも好評だ。材料とお茶の作り方の違いか……いつものより倍は高いもんなあ。そりゃ買って試すには勇気がいるわ。


「よーし飲み物は完成したし、次はわたし達のお料理だ!」


「今日はデミグラスソースのハンバーグホイル包みじゃ」


「六個あるから選んでね!」


 どうやら微妙に差をつけたらしい。リリアとシルフィならまずいものは出てこない。普通に選んでみよう。


「目玉焼きか」


 でかい目玉焼きが乗っている。先輩のはきのこが何種類も入っていた。


「ほほう、食卓に楽しさを求めるのはいいぜい。シルフィもリリアもやるじゃん」


「わしらの自信作じゃ」


「あっしのは中にたくさんチーズが入ってますな。見事な腕前でございやすな」


 フリストが嬉しそうに食べている。本当に味がいいなあ。中まで火が通っていて柔らかく、目玉焼きもいいアクセントである。


「うんうん、二人ともマジうまいぜい!」


「とっても美味しくできているわ」


 そんなこんなで楽しく食事が終わり、イロハのフウマデザートタイムだ。


「ではこちら、葛饅頭です」


 丸くて透き通ったまんじゅうに具が入っている。あんこと抹茶と、水色はなんだろ?


「おおー! すっげ綺麗! ぷるぷるじゃん! やっべー!」


 先輩大はしゃぎである。数が多いので好きに食べていこう。赤いのいくか。


「ぷにぷにじゃん! 透明だから中が見えていいねい!」


「ん、これイチゴだな」


 あんこの中にさらにイチゴである。酸味と甘味がいい感じ。


「なるほどフルーツ入れると面白いねえ。これ透明な部分色つけられる?」


「できますよ。オレンジにして中に剥いたみかんを入れたりできます」


「おもろい! そしてうまい!」


「あとで他のレシピも渡します」


「かたじけねえ!」


 こうして先輩は満足し、お菓子食べながら雑談タイムに入る。


「いやーありがとね。これで試験ばっちりっしょ」


「先輩はこれから試験なんですね」


「勇者科はもう終わったんでしょ? ずっと暇なん?」


「ええ、特に予定はありませんが」


「ふーん、じゃあピンチになったら助けてくれる?」


「料理で勝つのは無理ですよ。ちゃんとした人を頼ってください」


 試験で他の科に頼っていいのだろうか。最後は自力で何とかさせられそう。そもそも俺はプロレベルの料理なんぞできんよ。


「アジュくんに言えばばしっと解決してくれたりしないん?」


「俺を何だと思っているんですか」


「えー、ピンチに颯爽と現れて助けてくれる的なポジション?」


「アジュは正義のヒーローでも人類の味方でもないのじゃ。会話のできる終末装置のようなものと考えるべきじゃな」


「なので俺をあてにするのはやめましょう。最悪全員死にますから」


「はーい、しゃあないね。実力つけないと負けちゃうのはどこも一緒かねえ」


「でしょうね」


 学園でトップ取れる連中ってすごいよな。天才であることは前提で、どれだけ効率よく努力できるかだろう。それは師匠がいたり、家柄ブーストかけたりだろうけど、それでも確実に勝てるわけじゃない。


「じゃあさ、暇ならシルフィ達と遊んであげればいいじゃん」


「そうだそうだー!」


「もっと出かけるべきよ」


 これはまた想定外の話になったな。もっとと言われても、どう遊んでやるべきなのだろうか。そういや学園の新スポットの記事見たっけ。


「長期休暇みたいなもんなんだから、四人で旅行行けばいいっしょ」


「いい案でございやすな」


 旅行か……といってもまだ完全に冬だしなあ。外国は寒そうだぞ。お金どうしよう。手持ちで足りるのか。少しクエスト増やすかね。


「暖かい場所へバカンスに行けばいいのよ」


「なるほど。あったかい国ってあるのか?」


「南国リゾートがあるのじゃ。ちょうどフランの国じゃな」


 そういやエルフのリゾートだって聞いたな。冬でも暖かいなら、少し行ってみたい気がする。


「ネフェニリタルだっけか」


「いいじゃん。果物とエビがうまいんだぜい」


「海の幸も山の幸も豊富でございやすよ」


「悪くないな」


 たまにはどこか連れて行ってやるのもいいだろう。四人全員ならトラブルも回避できそうだし、何かあっても対処できる。単純に南国に興味もある。


「よし決まり! 今決めよう! アジュは絶対うだうだする!」


「決定じゃな」


「わかったよ。ちゃんと準備してからだぞ」


「よかったねえ」


「いい思い出を作ってください」


 期末試験のストレスを解消しつつ、こいつらのガス抜きもできる。そして俺も行ってみたかった。ならば旅行も悪くない。ちょい楽しみだ。


「じゃあ一週間後くらいを目安に、具体的なプランを決めるぞ」


「おー!」


「ちゃんと調べておくわね」


「ホテルもいいやつにするのじゃ」


「金を無限に使うんじゃないぞ。王族であることは隠すように」


「はーい!」


 俺も明日はネフェニリタルについて調べるとするか。

 どうせなら名産のエビ食いたいし、少し高い店でもいいから行ってみたい。

 南国料理とか本場のやつは初めてなのだ。


「よし、ちゃんと調べよう」


 どうせならしっかりした旅にしてやろうじゃないか。

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