上級者の戦闘を観戦してみよう

 騎士団とベレト・アフロ組が戦うみたいです。

 焼きそばはなくなりました。


「愛染騎士団団長、ジュナイザー参る!」


 ジュナイザーさんの鎧は軽め。

 頭は額を守るタイプの軽い兜。

 剣は西洋風だが、少し曲がって刃が太い。

 左腕にくっつくタイプの盾もある。


「スタンダードに剣士だな」


「修練を積んでいるものの動きでござるな」


「俺はぁ! 愛の魔族ベレト様だぞおぉ!」


 青い馬に乗って突進かけていくベレト。

 常にテンション高くてうざい。


「ジュナイザー様に手出しはさせん!」


「邪魔だコラアァァ!!」


 大剣で騎士団を薙ぎ払い、部隊から落としていく。

 あいつやっぱ強いのか。


「お前たちは王をお守りしろ! こいつは私がやる!」


 ベレトの真正面に立ち、馬上から横薙ぎに振られた剣を、なんと真正面から受けている。


「なんだと!? こんな若造が!!」


「ぬううううぅぅぅああああぁぁ!!」


 両足で踏ん張り、多少後ずさったものの、自力で突進を止めやがった。


「うーわ……凄いなあの人」


「スピードかテクニックタイプじゃと思ったが。やるもんじゃのう」


 見守っていた民からも歓声が湧く。

 いや凄いね。見ごたえあるわ。

 見た目も言動も声すらもイケメンなのに超強い。


「この国を守ることが私の使命。此処から先は一歩も行かせん!」


「甘く見ていたことは認めるぜ。それでも負けるわきゃねえんだよおぉ!!」


 壮絶な打ち合いが始まった。

 剣と剣がぶつかり、激しい金属の衝突音と火花が舞台を彩っていく。 

 っていうか見えません。

 俺は一般人だからね。しょうがないね。


「ベレトというやからは力任せの激情型じゃな。そこをジュナイザーが的確に攻めておる」


「にしちゃあ勢いが落ちないな」


「馬の上で、しかもフルアーマーじゃ。攻めあぐねるのじゃろ」


「馬狙っちゃだめなのか?」


「うまく誘導しているのよ。おそらく直感と経験でしょう。馬を守りつつ攻撃に移行しているわ」


 俺以外は見えているみたいですよ。

 ならば解説は任せよう。腹いっぱいなせいで寝そうだし。

 そこで歓声が広がる。どうやらベレトの左腕装甲を砕いたらしい。


「馬から降りろ。次は腕が飛ぶぞ」


「やってみろや!」


「ならば受けて貰おうか。秘剣ダブルローズスラッシュ!」


 おそらく強化魔法だろう。

 金色に輝いたジュナイザーさんが、ベレトとすれ違い、二人の動きが止まる。


「なんだあ? 御大層な名前の割に、ちょっぴり傷つけただけとは。拍子抜けだぜえ!!」


 左腕に小さい小さい傷があり、少し血が滲んでいる。

 不発か? 必殺技っぽかったし、なんか仕掛けでもあるのだろう。


「いいや、本当の恐ろしさは今から始まるのさ」


「ぬうっ!?」


 ベレトの腕から血が吹き出した。

 一瞬であったが、そこそこの量だな。

 小さな切り傷の量ではないはずだ。


「これは……ええい何をしやがったあ!」


「この技で斬られた箇所は、徐々に丸く傷口が開いていく。そして」


 傷口を、正確には斬られた側の腕そのものを押さえつけて、苦悶の表情を浮かべている。

 まだ何か仕掛けがありそうだ。


「ぐ……ぬあぁぁ!?」


 またベレトの右腕から血が吹き出す。

 だがそれは、斬られた外側ではなく、内側からだ。


「斬れば体内へ魔力が侵入し、斬撃は骨を貫通して反対側へ突き抜ける。そしてもう一輪、血の花を咲かせる。だからダブルローズスラッシュなのさ」


 えっぐい技持ってやがるな。

 まともに相手したくないタイプだ。

 傷口が魔力で開いていくだけでもきっついだろう。


「そしてダブルローズズラッシュは一閃二撃。降りないなら降ろすまでさ」


 ベレトの馬が首から血を吹き出し、断末魔とともに崩れ落ちた。


「なあにぃ!? クッソがあぁ!!」


 動揺しつつも馬から飛び降り、距離を取る。

 戦闘時の判断が的確だ。ちょっと面倒な敵だな。


「苦戦しているようだな。助けが必要か?」


「いらねえ! テメエは黙って見てろ!!」


 アフロとベレトは仲がいいわけではないらしい。

 共倒れでもしてくれませんかね。


「ベレト、我々に次のチャンスなど無い。忘れるな」


「わかってんだよ! あいつぶっ殺しゃあいいんだろうが!!」


 怒ってはいるものの、それで形勢逆転できるわけでもなし。

 むしろより雑になっている。


「はぐれ魔族ではこんなものじゃろ」


「知ってんのか?」


「魔力がそんな感じじゃな」


「はぐれ魔族ベレト。暴れん坊で自分が死を与えることを愛だと思っている。魔界で騒乱を起こし、退治されて封印済み。らしいでござるよ」


 コタロウさんがなんか解説してくれた。


「その情報はどこから?」


「暇なんでシャハリーザ殿に許可貰って、城の文献とか、色々情報網と合わせたのでござる」


「動いてバレなかったんですか?」


「試合に夢中か、こちらに興味が無いか。まあザルでござるな」


 敵の実力がわからんな。コタロウさんなら大抵の包囲網は突破できるだろう。

 そもそも幹部クラスはベレトとアフロだけなのか?


「他に何かあれば注文承るでござるよ」


「さっき食っていたシュウマイみたいなの買ってきてください」


「わしりんごジュースお願いするのじゃ」


「わたしとイロハはお茶でお願いします」


「にんにん」


 さて戻ってくるまでに終わるかな。

 これ全部ジュナイザーさんが倒したら報酬どうなるんだろう。


「アフロディーテ、行け。どちらかを失う意味はない」


「オレはまだいけるつってんだろ!!」


「ならさっさと終わらせろ。本来の目的を忘れるな」


「そういうことだ。愛染騎士団団長よ。愛に染まってくれるかい?」


 真紅に光る帯を伸ばし、ジュナイザーさんを狙うが、そんなものは剣で弾かれる。

 弾き飛ばされても平気なあたり、あの帯も頑丈だな。


「もらった! くたばれや!」


 どう考えても無謀な大振りをかますベレト。

 あんなもん俺でも全力出せば避けられそうだぞ。


「動くな。剣を下ろせ」


「な……うぐあっ!!」


 一瞬金髪になったが、なぜか剣を下ろし、無防備に食らってしまう。

 舞台を盛大に転がり、端の方まで飛ばされる。


「おや、咄嗟に強化魔法を張ったか。一筋縄ではいかないね」


「うぐぐ…………体が……」


 死んではいない。胸の鎧も砕かれたが、それでも回復魔法をかけつつ立ち上がる。


「美と愛の女神であるワタシの願いを拒める男などいない。お前の魂は愛の傀儡として染まっていくのみよ」


 洗脳っぽい戦闘スタイルらしい。

 これはうざい。それは愛なのかという根本的な疑問も出る。

 しかしこれは危険だ。


「押されているな」


「ベレトのパワーが上がっている気がするわ」


「舞台じゃ。あれがどんどん黒くなっておる」


 見ると灰色だった舞台がどす黒く染まっていく。


「仕掛け付きか。盛り上げるにはいいかもな」


「さあ国民よ。ワタシへの愛を募らせ、ワタシに従え」


 さっきまで騒いでいた連中が静かだと思ったら、なんかアフロを見ている。

 客まで効果ありかよ。


「これは俺たちもやばいか?」


「男にしか効いておらんのう」


「アジュは平気なんだね」


「興味ないしな」


 女に興味がございません。

 アフロは美人さんだね。だからどうした。


「本人に興味がなければ無意味じゃ。いきなり現れた敵ということで興味を持った連中こそ効きやすいのじゃろ」


 あの登場にも意味はあったのか。

 ただの目立ちたがりじゃないとは思っていたが。


「それでも……こんなところで負ける訳にはいかない!」


 流石は騎士団長。誘惑にも負けず、ベレトの攻撃をしのいでいる。

 金髪状態は洗脳を打ち消しているのかも。


「騎士団よ。その男を止めなさい」


 ふらふらと舞台に上がる騎士団の皆様。

 俺が言えることじゃないが、結構戦い方がえぐいな。


「団長! 体が言うことを聞きません!!」


「逃げてください団長!!」


 これには民衆も恐怖でざわつく。

 それに応じてか、舞台も黒く染まり続ける。


『この舞台は愛の証だ。貴様らが愛を語り、それを民衆が信じれば白く染まり、そちらの力となる。だが恐怖と不信感に染まれば黒くなり』


「そちらの力となるか。どうしてこんなことをするシリウス。いったい何があった?」


『この期に及んでまだしらを切るか。ベレト、そいつらを潰せ』


「言われなくてもやってやるよおぉ!!」


 いいからさっさと負けろ。

 コタロウさんがもう買い物から帰ってきたぞ。


「そういやコタさんも洗脳効きませんね」


「拙者は妻一筋でござるよ」


 やだ……理由かっこいい。

 そんな理由で洗脳効かないとかしゅごい。


「せめて話してくれないか。どんな経緯があれば、我が兄が国に反旗を翻すのだ」


『何も知らんか……では凶兆の子についてはどうだ?』


 預言者が言っていたという例のやつか。

 ってことはこいつが凶兆とやら……というほど単純でもないのだろう。


「ヒカル家には、時折愛をもってしても制御できぬほど、危険な力を宿すものが現れる。その原因は古き伝承にあるというが」


『問題はそれが双子であった場合だ』


 最早シリウスの言葉を止めるものはいない。

 異常な状況に飲まれているのだろう。

 全員が足を止めて話を聞いている。


『王は計りかねた。どちらが凶兆の子なのか。それともどちらも危険な力を宿しているのか。そして……私に二人分の凶兆を押し付け、封印し、お前を王族として育てることにした。私を闇に葬ってな!』


「違う! 生まれた時、ゲンジは体が弱かった。力には耐えられなかったのだ! そうすることでしか、二人を生かす方法はなかった!」


 王様の否定は、シリウスの発言がほぼ事実であると認めていた。


『黙れ! ならばなぜ私を消そうとした! 取り繕うことなどできぬ!』


「誤解だ! 消そうとしたことなど無い!」


 言っている間に大ピンチだな。

 そこでシャハリーザさんの幻影が俺たちに語りかけてくる。


「これより私も加勢します。もし私たちに何かあれば、お願いします」


「わかりました。そちらもお気をつけて」


「そちらの実力はわかりません。ですが王子が信頼しているのです。私も信じていますよ」


 それだけ言って幻影は消え、代わりにアフロに攻撃魔法が放たれる。


「ここからは私がお相手しましょう。その愛の魔力、私には通じないようですから」


「よかろう。ヤマトの支柱が二柱。ここで焼き払ってくれる」


 お手並み拝見だな。応援していますよ。

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